壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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修行話が少しずつ何度も続くとだれると思ったので、2話分統合して投下します。



成果

「えっと、この訳はこういうことでいいのかな?」

「いや、違うぞ。ここは特殊な活用形の一種で……こう読むんじゃないかの。ほれ、ここに意味がつながっているじゃろう」

「あ! ほんとだ。うーんそことのつながりは盲点だったな。いやあさすがお師匠だ」

「ほっほっほ。ま、たまたまじゃよ。それでのここの解釈はワシはこうじゃと思うのじゃが……」

「あ、ここかぁ。ここはたしか……この本に注釈があったと……えーと、あっそれで正解」

 

影夫はまぞっほと共に古文書の解読に挑んでいた。

覚えたての語彙を駆使して、解読メモやノートを見ながら、少しずつ読み解いていく。

難解な表現や擦れたり破れて読めない部分を推測したりで四苦八苦しつつも一定の成果をあげていた。

 

「しかしお主は一体何なんじゃ。あっという間に魔術言語も古代言語も身につけるとは」

「いやあ自分でもびっくり。本来努力は苦手だけど命が掛かってるし、今は守るものもあるからなぁ。必死にならざるをえないんだよ。っと。ここの意味はと……えーとたしかこの本の……あ、ここか。ふむふむ」

「しかしこの付箋というやつは便利じゃのぅ。本がベタつくのがたまに傷じゃが、よくこんなのをおもいつくわい。すごいのぅ」

 

解読を効率的に進めるにあたって影夫は手作りの付箋を作り、活用していた。

とはいえ、前世世界にあったものほどの機能性や便利さはない。

この世界の糊をつけると張り付いてはがれないか、べっとりと糊が残って汚れてしまうからだ。薄めた糊で代用しているが、本にダメージを与えてしまっている。

それでも便利なので目をつぶっているが。

 

「いや、知ってたものを再現しただけだって。まぞっほ師匠の解読のほうが凄いって。表現も分かりやすいし、意訳にしても今風にしつつ元の意味も損なっていない。才能ってやつだなあ」

「腐ってもお師匠じゃからのぅ。もっとも、実技はもうミリアに負けておるがな……」

 

そう、呪文の威力においてすでに現時点でミリアはまぞっほを上回っている。

これは集中力もあるが、精神面も大きく影響していた。心から強くなりたいと思って必死に頑張っているから伸びるのも早かったのだ。

あとは資質と適正の差だろうか。ミリアは戦闘……それも攻撃に関してはやたらと勘がよかったり異様に上達が早いところがある。

 

「まぁそれはひとそれぞれでしょ。ミリアは逆に座学が大の苦手で古文書の解読なんか絶対に無理だろうし。得手不得手ってやつ。師匠は座学に、ミリアは実践に秀でてるってことですなー」

 

影夫が羽ペンを口にくわえ、うーんと解読作業を続けながら、かるーいノリでしゃべくる。

 

まぞっほは師匠として複雑な気持ちのようだが……影夫は前世で誰かに負けるなんてことは山のように経験したし、年下や後輩に負けることも普通に何度も体験してるので慣れたものだ。

 

それとは逆に、どんなに努力しても、所詮は器用貧乏でしかないはずの影夫に勝てない人も見てきているので、彼はもうどこか達観していた。

羨みや嫉妬はあるが、ある意味しょうがないと諦めて他のことにめをむけることを覚えている。

 

それに、反則ぞろいの大魔王軍の侵略が数年後に迫った切羽詰った状態におかれていると、嫉妬や苦悩で時間を浪費する贅沢はできなかった。

ミリアのためにも才能ががどうたらとウジウジするよりは自分には何が出来るか、どうやって先を目指すかを考えたほうが建設的だ。

 

「まぁ世の中にはどっちも出来るすごい奴もいるがの……」

「いや、そんなのは一握りの超天才でしょ。んなのと比べるだけ無駄だよ」

 

でろりんもそうだが、偽勇者PTは皆一様に自己評価が低い。

影夫も前世でそうだったから気持は分かる。自分の事が信じられないのだ。

辛いことから逃げ出している後ろめたさと自覚からどうしても自信が持てない、自信が持てないから逃げ出してしまう、この悪循環だろう。

 

「大体お師匠は充分に天才だって。座学は抜群に出来るし、実技も人並みの魔法使い以上にはこなせるじゃないですか。世の人間なんて大抵は人並みかそれ以下ばっかりなんだから」

 

克服するためには、どこかできっかけを作り成功体験を積んで少しずつ自信をつけねばならないだろうが挑戦することに臆病になっているとそれもままならなかった。

影夫は少しでも彼らを後押しする意味もあって、多少大げさにまぞっほを持ち上げる。

 

「そんなもんかのぅ」

「そんなものなんです。以上、雑談終わり。解読を続けましょう。いやぁ今度はどんなすごい呪文なのかなぁ。楽しみだ」

 

これまでに影夫とまぞっほは、高度な呪文書や古文書を読みあさって多数の呪文の契約と使いかたを発見していた。

 

この時点でメラゾーマ、ヒャダイン、マヒャド、イオナズン、ラリホーマ、シャナク、フバーハ、マホキテ、マホステ、アストロン、モシャス、レムオル、アバカムを見つけていた。

 

原作でアバンやマトリフや三賢者が教えたり使ったりしていたから普通にあると思ってた呪文が失われた古代の呪文であったりして、新鮮な発見があった。

いくつかの呪文は、学者や大魔道士や国に仕える重鎮だからこそ知りえたわけだったとは……

 

「しかし、名のある魔法使いは呪文大全とか纏めて出版しないのかよ? 古文書を漁ることでしか見つけられない古代呪文がいっぱいあるとかほんとに一体どうなってんの?」

 

影夫の大きな疑問にして不満がそれである。高度または珍しい呪文の知識が共有されていない。

だから知りたいと思った人間は全員が1から古文書を漁って調べる必要が出る。こんなに馬鹿らしいことはない。当然入手困難な古文書にある呪文は失伝寸前か、細々と弟子に伝授される程度だ。

 

古文書は経年劣化や災害で失われる一方で増えることはなく減る一方だ。

こんな状態で集合知もなにもあったものじゃない。数と連携という人類の利点を完全に無駄にしている。そのことが影夫は実に腹立たしかった。

 

「いや、それで普通じゃろう。俗人なら苦労して得た知識を簡単には他人に渡さんじゃろうし、善人なら力をむやみに広めるのは争いを生むとして公開を控えるじゃろうからな」

 

「いやだねぇそういうの。こういう知識は共有して広めるべきだよ絶対。それをしてれば絶対前の魔王戦も何割か楽になったはずなのにな。そりゃ悪用はされるかもしれないが収支は絶対プラスだよ。可能性を恐れるよりも発展を望むべきだ」

 

前世の影響もあって、現代的な視点で心底影夫はそう思う。

 

「そもそも知識や研究とかってのはある程度情報公開をして有能な連中が相争わないと発展しないぞ。特許とか著作権とかがないからかもしれないけど……後で俺が絶対に纏め本を出してやる!」

 

「それも口語文で記述して図案も入れまくった超分かりやすい実用書としてだ! 字が読めない子供でも理解できるのが理想だな。呪文という素晴らしいものをお高く止まった連中の遊び道具ではおわらせん!」

 

影夫は気炎を吐いて暗い情熱を燃やす。既得権益もリスクもしったことか。進歩と発展のために犠牲はつき物なのだ。

 

「変わった奴じゃのぅ……そんなものを作ったら、世界中から敵視されるというのに……ワシの名前は絶対に入れるんじゃないぞ」

「ま、実際に未熟な子供にイオナズンを教えても使えないんで意味ないんだけど。最初は入門レベルの呪文書をさらにわかりやすくしたものかな?」

 

「やれやれ、ワシは本当に一切協力せんから勝手にやるがいいわい。それで、解読の方はやめるのかの?」

「いや!解読が優先! 失伝呪文や秘呪文を見つけ出し、身につけ操る! それが男の浪漫ですから! お師匠も胸躍るでしょ? 自分だけの秘呪文を数多操り、敵を翻弄する大魔法使いになるんだぞ!」

「ほっほっほ。たしかに年甲斐もなく燃えてくるのぅ。よし、ワシも本腰をいれてみるとするかの」

 

「さすがぁ! いよっ、スペルマスターまぞっほ!」

 

影夫はまぞっほをのせて、ふたりはその日の遅くまで古文書解読にいそしむのだった。

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「べホイミ……」

 

影夫が手で抱いている大きい野良猫にべホイミをかける。折れていた両足が治り、擦り傷切り傷なども綺麗に治っていく。

その様子をよこでじっとみていたずるぼんだが、回復呪文が終わるなり、満足げにうなずいた。

 

「うん、問題はないわね。今日の授業はこれで終わりよ、ご苦労様」

「痛いところはないかい、猫ちゃん?」

 

腕の中の猫を撫でさすりモフりながら、影夫は姿勢を崩してだらりとだらける。

 

「うーんやっぱり猫はいいなぁ。そういえば前も怪我猫だったけどどうなってるんだ?」

「ベンガーナは栄えた街だから馬車もよく走ってるの。犬は避けたり、馬車が通らないところを抜けたりするんだけど、猫はなんでかよく轢かれちゃうのよね」

「あー猫は後ろに下がれないとかいうやつか。可哀想な習性だよな」

 

ニャーニャーと影夫の手の中で鳴いている猫をさらにモフモフなでさすり頬ずりしながら影夫がごちる。こう見えて影夫は猫派だった。

 

「フシャー!」

「いででっ」

 

過剰なスキンシップに怒った猫に引っかかれ、悲鳴を上げた影夫が地面にべたんと横たわった。

魔物形態なので、力を抜いて寝転がると影夫の体はびろーんと伸びて、本当に影みたいになる。

試したことはないが影に擬態したり、影から影へワープしたりできるかもしれない。前世での創作物のネタ的に。

 

「なにやってるのよ……」

「失敗失敗。しっかし、回復呪文って、気疲れが凄いよな……危なくないように手早く回復呪文をかけるのって超しんどい」

 

「そりゃあそうよ。でもパプニカで習ったりしたらもっと大変なんだから。動きに全部型があってね、何年も練習させられたりするのよ?」

「なんでそんなことを? 別に動きがどんなでも効果は同じだろう? あ。もしかして何か効率的な動きがあるとか、深い教えなのかな?」

「違うわよ。あそこは歴史も深いし格式高い国だから儀礼や儀式に呪文をつかうの。だから見た目がとても大事なのよね」

 

「うへえ。そういうの絶対やだなあ。見栄えのためだけに型の練習って」

 

パプニカで呪文習わなくてよかったとしみじみする影夫。

もっとも、さらに補足してくれたずるぼんによると、民間は実用重視な使い手もいっぱいいるらしいから一概には決め付けられないみたいだけど。

 

「あ、ところでさ、レベルってあるのか? ほら、なんていうか、強さを表すやつ」

「はあ? んなのあるに決まってるでしょ、あんた教会行ったことないの?」

 

何を当たり前のことを、と怪訝そうな顔で影夫は見つめられる。

そんな顔をされても影夫にはどうしようもない。教会にいくわけにはいかないがそれを認めてしまうのも問題だろう。

 

「きょ、教会はちょっとまずいんだよ……」

「あんた、何やったのよ? シスターに痴漢でもした?」

「うぐっ」

「したんだ? ふぅーん」

 

へーほーふーん、と軽蔑のまなざしが飛んできて影夫は針の筵だ。

ミリアがこの場にいなくてよかった。もし一緒になってやってきたら罪悪感で死んでしまうかもしれない。

 

「ち、違うってそれとは違う理由でいけないんだよ。そうだ、ずるぼんは俺のレベルは見れないのか? 神のおつげでレベルが分かるんだろ?」

「んなの無理に決まってるでしょ。長年修行するか、よほどの素質がないとあんなの出来ないわよ。大体私は僧侶であって、シスターじゃないの! やり方だってわかんないし」

 

「じゃあ試したことないってわけか。よし、じゃあやってみようぜ。出来るかもしれないし。ほら、教会で使うおつげの書もあるから、試してみようぜ!」

 

ジャジャーンと効果音をつけながら、一冊の本をずるぼんの前に叩き置く。

 

「やってみるのは別にいいけど。ってなんでそんなものを持ってるのよ……」

 

「闇市ってすげーよな?」

「盗品じゃないの!」

 

「馬鹿、人聞きが悪いことをいうなよ。俺はちゃんと確かめたけど正規の放出品だって言ってたぞ。この出会いを神に感謝だな」

「そんなわけ……はぁもういいわ」

 

ぬけぬけと影夫が言うと、盛大なためいきをついてずるぼんはおつげの書を受け取った。

 

 

……数分後。

どよよん、といった空気があたりを支配していた。

 

「はぁーやっぱりあたしには無理だったわね」

「いやぁそうでもないって。レベル数は分かったし。レベル15かあ。まぁーまだまだだな」

「充分だと思うけど。熟練兵士でも2桁になってる人は少ないわよ?」

「逆にそれは低すぎるだろう……しっかし成長についてはよくわからねえよなぁ」

 

前々からの疑問を口に出す。

今までずっと影夫は余裕で倒せる相手と戦っても殆ど成長していない気がしていた。

逆に苦戦した場合は力量が伸びている。その因果関係が気になってついこの世界について訊ねてしまう。

 

「何がよ?」

「いやぁさ、スライムばっかり倒しても成長できないのがなあ」

「別に不思議でもないでしょ。レベルが上がるかどうかはその戦いが経験と成長の糧になるかどうかってことなんだから」

「うーん。」

「何の苦労も努力もせずにスライムを倒しても、それはもはや戦いじゃなくて作業なのよ」

 

まったくもってその通りで反論のしようもないその影夫は沈黙するしかない。

 

「……まぁ言われてみりゃその通りだよな」

「楽してレベルアップなんて考えるなって私の先生も言ってたわよ。イケすかない先生だったけどそれは同意見だわ」

「そうかぁ……」

 

「苦労すればするほど、苦戦すればするほど、敵が強ければ強いほどレベルはあがるのよ。現実ってホントいやよね」

「まったくだ。楽しいゲームも現実になったとたんこれだよ」

「レベルアップっていうのはね、魂の成長らしいわよ。魂を成長させるんだから苦労も当然よね」

「楽に成長なしか。耳が痛いぜ。前世的に」

 

影夫は前世で楽なほうに流れてしまい、その結果潰れそうな中小企業の平社員に甘んじてしまっている過去がある。

この心の痛みはよく心に刻んでおこうと思った。

 

☆☆☆☆☆☆

 

そして1ヶ月後。

驚異的な速度で成長した影夫とミリアは早くも卒業の時を迎えていた。

 

「お前ら本当に無茶苦茶だな!」

「あきれてものがいえんわい」

「どういう身体と才能してんのよ」

「化物じゃないのか?」

 

「ひ、ひでえなオイ!」

「むぅぅー、何よみんな!」

 

影夫とミリアが怒りながら失礼な言葉を呆れ顔で放ったでろりん達をバシバシとはたく。

 

「ったく、みんな素直じゃねえな!」

「クロス達が非常識だから呆れてるだけよ」

「1ヶ月で教えることがなくなるどころか追い抜かれるとかどうなってんだよお前ら」

「ほっほっほ。まぁワシは専門が座学じゃから追い抜くも追い越すもないがのぅ。解読はワシのほうが得意じゃし」

 

「ずりーなまぞっほは。やれやれ。今日で師匠はお役御免か。今からは俺らが弟子かな」

 

まぞっほをのぞく3人が嬉しそうな悔しそうな複雑な表情を浮かべる。

が、その言葉には同意できない影夫であった。

 

「いや、そりゃ違うだろう。師匠は師匠だよ。力が上回ろうが何年経とうがね。それにそんだけ早く強くなったってことは、師匠が教えるのが上手だったことだし、胸をはってくれよ」

「そうだよ! みんなのおかげで強くなれたんだよ。ありがとう!」

「俺達は絶対敬意と恩は忘れない。師匠たちのおかげで俺らは素人から脱却できたんだ。だから感謝してるよ。お師匠さん達」

 

そういって、ミリアとともに深く頭を下げる。

普段の馬鹿騒ぎはどこへやら。しんみりとした空気が流れる。卒業の日というのはどの世界でもこんな雰囲気であった。

 

その日一日は卒業の祝いということで、全員で町へ繰り出して飲み食いをしたり、まったりと過ごしたのだった。

 

無論影夫はミリアの身体に隠れての外出だったのだが。

 




すみませんが余裕がなくなったので、次の更新はキャラ紹介および強さ設定か幕間的なものになるかもしれません。

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