壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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好色

そして夜。返り血で汚れた服や身体を小綺麗にして、影夫とミリアは村の宴に出席していた。

 

キャンプファイヤーのような巨大な焚き火を囲んで村人達が輪になり、最上位の上座にミリアが座っており、その横にはいかにも肉体派といった感じのマッチョで渋い村長が座っていた。

 

影夫はというとミリアの首元に顔を覗かせていた。さすがに魔物そのものにしか見えない真の姿はさらせないので装備品っぽくミリアにくっついているのだ。

 

ちなみに、ミリアの横には侍女のようにシスターがついており、世話係ということになっていた。

仮にも聖職者を使用人扱いにしてもいいのかとは影夫は思ったが、シスター自身が望んだことらしい。

 

「勇者ミリア様と伝説の武具クロス殿。今回は本当に世話になった。心ばかりのお礼ですまないが、楽しんでほしい」

「んー、出来ることをやっただけだから、そんな大げさに言われるほどじゃねえって。なぁミリア」

「…………ん」

 

影夫の言葉に合わせてミリアがコクンと首を縦に振る。

 

「いや、息子イアンを助けてもらったのだ。感謝に堪えない。そもそも村が襲われたのはイアンが彼らの縄張りに入り込んだのが原因なのだ。もし死んだとて自業自得だ」

 

「そうか……イアン君が」

「うむ。だが、目の前であいつが死に掛けているのをみると涙が止まらなかったし、助かった時には心から嬉しかった。あの馬鹿の所為で村人全員が死ぬところだったというのに」

「まぁ親っていうか家族ってのはそういうもんだと思うぜ。もっとも、罰はきっちり与えないとダメだとは思うがな」

 

「それよりさっさと宴を始めようぜ! 村の皆もそのほうがいいよな!?」

 

演技口調で影夫はしんみりムードを吹き飛ばすように、周囲を煽る。

すると、『そうだそうだ』『早く食わせろ』『勇者様を餓死させるつもりかー!』などと村人達がはやし立てる声が返ってきて俄かに盛り上がり始めた。

 

「おほん。歳をとると話がながくなっていけませんな。それでは……勇者ミリア様と、クロス殿に乾杯!」

「かんぱ~い!」

 

 

村の代表として、村長が乾杯の音頭を取り、宴が始まった。

 

「さぁさぁ! 勇者どのお飲みください! 果実の搾り汁です!」

「う、うん……」

「リカントの丸焼きもそろそろ食べ時ですよ!」

「あ、ありがと……」

 

ミリアは次々に食べ物や飲み物を持ってくる村人相手に気圧されつつも、それらを受け取り、食べ始めた。

 

なお、仕留めたリカントの死体はすべて村に寄付した。宴の負担もあるだろうし、今回のことで被害も出たであろうから。

その代わり、ここに来るまでに倒したモンスター達の皮や素材を村の物資や金と交換してもらったから、お互いに損はない。winwinの関係のうちだろう。

 

「むぐ……おいしい」

 

人見知りで人間不信状態であるミリアも、食べ始めるととたんにエンジンが掛かる。

鬱憤や疲労を吹き飛ばすかのように猛然とした勢いで肉にかぶりついてはスープを飲み干していった。

 

「んがごくぱくむしゃんぐごくっ……!!」

「おお! すごい食べっぷりだ!」

「さすが勇者さま! 豪快ですなあ」

「おい! いっぱいあるんだどんどん焼けよ、果実汁もあるだけもってこい! 勇者さまにひもじい思いをさせるな!」

「はい! 村の名誉にかけて!」

 

ドッワハハハと村人たちは笑い騒いでいる。

ミリアはその食べっぷりと飲みっぷりで、何度も皆を沸かせ盛り上げていた。

どこの世界、いつの時代も大食いや早食いの類は盛り上がるらしい。ミリアはフードファイターとしても一流の実力者だ。

 

「クロスさん……は食べないんですか?」

「んあ? ああそうだったな。ぼちぼち俺も食っていくか……ってこらミリア、頭を揺らすな! これじゃあ食えないだろ!」

 

夢中で食物を口に放り込んでは食べているミリアの首ではとても落ち着いて食事はとれない。

 

「んぐんぐあむっ!」

「やれやれ聞いちゃいねえなぁ」

「あの、クロスさん、よければ一時的に私に移ってくればいかがでしょうか? そうしたら食べられるかと思います」

「え?いいのか? お、俺みたいなのとその、肌が触れ合うことになっちゃうけど。い、いい、嫌じゃない、かなぁ?」

 

実はこのシスター。大変な美少女である。

 

艶やかなロングの黒髪を清楚に束ねた地味だけど清潔感のある髪型。

整った顔立ちだが、ふわっとした柔和な表情をいつも浮かべている。

ゆったりとしたシスターローブのおかげでわかりづらいが、女性として出るべきところはしっかりと出ており、清楚系アイドルにでもなれてしまいそうな魅力的な美少女である。

 

そんなシスターからの思いがけない提案に、影夫は途端にしどろもどろになってしまった。

若くてピチピチな女の子と肌を触れ合う! そう意識して影夫はすっかり舞い上がってしまった。

 

「ふふふ、嫌などとんでもない。私と村の恩人のお方ですから」

「そ、そそうかぁ? じゃ、じゃあ……」

 

影夫はしゅるしゅると姿を変えてシスターの首元へとぴったりと身体を這わせる。

 

「ん……あん……」

 

ひんやりとして肌に染みるような独特の感覚にシスターが吐息を漏らして身体を震わせた。

 

「だだ、大丈夫? い、嫌ならすぐっ、退きます……」

「ありがとうございます。でも少しつめたくて声が出ただけですよ」

 

影夫はすっかり前世のヘタレぶりを発揮していた。

 

シスターは若い。前世でいうところの女子高生くらいの歳に見える。

年上趣味である影夫だが、充分に守備範囲内の女性だ。恋愛対象としても、などと意識をしてしまい、彼はガチガチに緊張していた。

 

今までの反応から、好感度は高そうだ。

 

しかもだ。

今の影夫は、ちょっと痩せ気味のオークみたいだった前世の醜い身体じゃない。

今までミリアと一緒に過ごす中で、ミリアが影夫の容姿に引いたり嫌がることはなかったし、小言を言われることもなかった。

まぁ、家族のような関係という補正があるので割り引く必要があるだろうが悪くなさそうだ。

 

生まれ変わって得たこの身体は意外と女受けがいいのかもしれない。

ということはだ。今まで諦めきっていたことも、もしかしたら、もしかするのだろうか?

 

 

そのことが脳裏によぎった影夫はもう止まることができなかった。

次々に都合のいい空想やIFを考えてしまう。

 

上手くいけばお付き合いから結婚したりしちゃうかもしれない。

あの、夢にまで見た彼女や嫁がこの手に!?

 

告白は、人気のない大きな木の下でして……その場で実は私もなんてOKしてもらえてはじめてのキスしちゃったり。

 

その後付き合い始めたふたりだけど距離感が掴めなくてでも離れられなくて手を握るところから先に進めなくて……でも夏の夜に勇気出した彼女から夜のお誘いを受けて……!!

 

ひとつになった後で、責任はとるよなんてプロポーズして、結婚して子供は3人で……いつまでも仲がよくて……。

 

きゃっきゃうふふな空想から人生の展望まで際限なく影夫の脳裏を駆け巡りつづける。さながら妄想ビックバンだった。

 

30過ぎた童貞中年の気持ち悪さが大爆発。

中学生レベルで停滞したままの恋愛感を、15年以上も煮詰め続けるとどうなるかといういい例だった。

 

「そそそそうかい? そ、その、痛かったりしたら言ってね?」

「はい……ん、ふぅ……」

 

そうするうちに影夫は移動を終えてシスターに貼りついた状態になった。

 

(う、おおおおお、おおおお、こ、これが若い女の子の肌のかんしょくぅぅぅぅぅぅ!!!)

(あ、あああ温かくて柔らかくて吸いつくようでぇ、すべすべしててぇ、ふおおおおおおっ!!)

 

「わ、わが生涯に一片の悔いなし……」

「ク、クロスさん……?」

 

「あ!? な、なんでもないよ。えっとそのあの……あぅ」

「くすくすくす。そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。さあどうぞ……」

 

「ど、どどどどどどうぞ!? え? ええ? わ、わわわたしををた、たべべべべべべ!?」

 

完全に乗り移った目的を忘れた影夫が、あらぬ勘違いでパニクりまくっていた。

 

「? あ、すみません。私がお取りしたほうがいいですよね」

「へ? あ。ああっ、そ、そうです。お願いしますっ」

「えっと……はい、アーンしてください」

 

シスターはキモくキョドる影夫の様子を天使の天然ぶりでスルーして、彼の食事の世話をし始めた。

 

(お、おおおおおおおおおおおおあぁ。あーん。あーんですか。女性からのあーん! これがキモ男には決して許されないという伝説のあーーーん!!)

 

「あ、ああああああーーーん」

 

「もぐ……う、美味い、うぅ……せ、世界一美味いです……生きててよかったぁ。でも、今死んでもいいです……この幸せが永遠になるなら……」

「おおげさなクロスさん……」

 

口に手をあてて、柔和に微笑むシスターの笑顔は影夫をさらに魅了してしまう。

30代の影夫は心の隅で自分なんかじゃダメだと思いつつも青い果実の甘い匂いと感触にデレデレのスケベオヤジ状態だった。

 

「クロスさんって普段は女性にお優しいしゃべり方をするんですね」

「え? なにがですか?」

「ほら。今話してるみたいにですよ。紳士なんですね!」

 

非モテを極めてきた影夫は、女性に優しくされながら好意のそぶりを見せられるとほんとうにもう、ダメだった。

 

イッパツで好きになってしまう。コノ人だったら自分を受け入れてくれるんじゃないかってすごく期待して甘えたくなってしまう。

 

「そ、そうですか? でも当然のことです、女性を守るのが男の役目ですから!(キリッ)」

 

JKという言葉が影夫の脳内にリフレインして、天使のようなJKという奇跡的な存在に出会えたことを感謝した。

そして下心丸出しの気持ち悪いことをドヤ顔で言い放つ。

 

現代なら嫌悪か嘲笑の的であろうが、素朴な時代の純朴な女性には真面目な紳士としてうつったようだ。

命の恩人であるということも大いに関係しているのであろうが。

 

「クロスさんは本当に素晴らしい方ですね。はい、もうひとつどうぞ……あーん」

「あーーーん、でへへへへ。も、もっと食べたいかなぁ……あ、あーーん」

「はい、たくさんどうぞ」

 

影夫はもう調子に乗り出してシスターに甘えていた。

じぶんからアーンを要求し、口に運ばれるお肉をもきゅもきゅと頬張る。

 

女性の肌を感じながらの食事。生まれて初めて味わう夢のような体験に、これ以上ないくらい完全に舞い上がっていた。

 

「も、もっとぉ、もっとくださいぃ……あーーーん」

「はい……あっ、そんなに一度にたべては……」

 

「あーーーんっ、ぐへへ、んぐ!? んんんーーっ!?」

 

涎も垂れんばかりの蕩け顔で肉の塊を一度に口に入れてしまい、中で痞えてしまう。

 

影夫の口は、某猫型ロボットの四次元ポケットのように入り口が狭くても中の空間にすっと入っていってしまう謎の構造になっているが、本人が半分寝ぼけていたので、詰まってしまったのだ。

 

「たいへん! 早くお飲み物を……んっ……ぁん」

 

シスターはあわててワイングラスを首に当て、傾けてくれる。

口からコクコクと影夫は飲んだが、シスターも慌てるあまり液体を零してそれは胸元へと垂れおちてしまう。

 

「おっと。いけない……っ」

「あ、クロスさん……そこは……はぁん」

 

影夫はもったいない精神と、女性の肌を汚してはいけないという思いから咄嗟に身体を這わせて垂れ落ちた液体を舐め取りに服の下にもぐらせてしまった。

 

「へ……? あ!?」

 

あっ。と気付くと彼は桃源郷に到達していた。

 

ぷるぷるとして柔らかでなだらかなふたつの山。

その山を半ばまで登頂しかけてしまっていた。

 

(あたためた? こんにゃくゼリー? いや、それよりもぷるんとなめらかで少し弾力は弱い? でもすごく、ここちいい……)

 

「お、おぉぉぉ……っ!」

 

(やわらかくてあったかくていいにおいで、あまくとろけてこのままとけてしまいそうだ……)

 

「あ、あんっ」

 

思わず力をこめると、ぷるんたゆんと豊かな乙女の肌はゆれて形を崩す。

そこで影夫は正気を取り戻した。

 

「あ、あわわわわわ、ちちちち、ちがちがちが、こ、こここここれは誤解なんです、決していやらしい意図ではなくてあのその!」

「い、いえ……大丈夫です……」

「あああああっ、ご、ごめんなさい! 嫌わないで、なっ、なんでもしますからぁ!!」

 

キョドリまくって、土下座の勢いで謝りまくる影夫。

と、その時。横から声が掛かった。

 

「おーー兄ーーちゃーーん?」

「ひぃ!?」

 

その声の方をみた影夫はすくみ上がる。

髪の毛を逆立たせた鬼がそこにはいた。

 

「な、に、を、し、て、る、の、かなぁ?」

「ミ、ミリア!? こ、こここれはだな、た、ただご飯を食べていただけだ!」

 

「ふぅ、ん……お兄ちゃんのごはんって、おっぱいなんだぁ? お兄ちゃんって、赤ちゃんだったんだね?」

「うぐっ!?」

 

オッパイをまさぐったことは見事に見られてしまっていたらしい。

 

「か、勝手にわたしからはなれて、他の女の人のおっぱいでデレデレして!」

「あわわ」

 

「わ、わたしのことは子ども扱いするくせに! シスターさんならいいんだぁ。へぇぇ」

「ちが」

 

「お、おっきなおっぱいが好きなんだ? そうだよねぇ、わ、わたしのちっちゃいおっぱいよりおっきいほうがいいよねぇ!」

「ひぃっ」

 

プルプルと震え、底冷えするような声でブツブツと言葉を発する。

その表情はおだやかな微笑だが攻撃的な笑顔だった。

 

「すこし、あたま冷やそうか?」

「ぎゃああああーーーーーーーーーー!!!!」

 

影夫は自らが教えた白い魔王の名台詞と共にぐわしっとわしづかみにされて、シスターから引き剥がされた。

 

そのまま力を込めて物質化した身体をミシミシと握られる。

 

「お!? なんだなんだ! 喧嘩か!?」

「シスターを手篭めにしちまおうとした武具さんをこらしめるんだとよ!!」

「おお、あの武具様はそんなこともするのか! すげえさすが伝説だな!!」

「いいぞヤレヤレ! 伝説の武具さま頑張れ!! シスターも勇者さまもまとめて手篭めにしちまえ! それが男だ!!」

「黙りなさい男ども! 勇者さま! 女の敵をやっつけてー!!」

 

村人達はヤンヤヤンヤと盛り上がる。

 

「あ、あの皆さん止めないと……」

 

真っ青な顔のシスターをよそに村人達は火に油を注ぐ。

 

「大丈夫だって、可愛らしい嫉妬じゃないか、お兄ちゃんをとられそうな妹ちゃんみたいで微笑ましいぜ」

「うふふ、あはは。はははははは! オニイチャーン!」

「ぎゃああああぁ!?」

 

次の瞬間、悲鳴を上げながら空を舞い、地面に這い蹲って影夫は意識を失った。

 

 




コメディっぽいのに初挑戦。

当初は、北斗の雑魚やられネタ台詞でシバかれオチだったんですが、ちょっとひねりもなにもなかったので普通のものにしました。

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