今日は異常なくらい文章がうまく出てこなくて苦戦しました。
「ぎゃああ!」
「イアンがやられた!」
「くそっ、怪物どもめ!! くらえ!」
「そこだ囲め! みなでかかるぞ!」
村では激戦が繰り広げられていた。
村に攻め寄せている魔物の群れは、リカントの集団だった。
襲われている村人達は、農具や木こり斧を振り回して必死に抵抗をしている。
「グル、グガァ!!」
「ぐああ!」
「ダ、ダメだ! もう持たない……」
リカントの集団は本能のままに暴れているので統率が取れていないがその身体能力は高く、村人達を圧倒していた。
このまま放っておくと1時間もしないうちに全員が皆殺しになるだろう。
「ヒャダルコ!」
「バギ!」
だがその時、リカント達の背後から呪文の嵐が襲う。
「ガァァッ!?」
不意打ちをうけたリカント達は無防備に呪文を受け、4体が凍りつくと同時に、真空の刃で砕かれた。
「おおーすごい威力だなミリア! さすが中級呪文!」
「へへーん。すごいでしょ」
「お見逸れしたよ。初めて使えたにしちゃ上出来だ。ジャンジャンいくぞ」
リカント達は一斉に振り返ると、ミリアに向かって襲い掛かってくる。
「ヒャダルコ!」
「バギ!」
だがその途中、さらに3体が氷漬けとなり、残りの8体も動きが鈍った。
「オラオラ! 俺も新呪文を見せてやるぜ」
すかさず影夫はミリアの肩から両手を伸ばし、リカント達へと向ける。
「バギマ!」
バギよりも数段大きく力強い真空の渦がリカントの群れに襲いかかった。
その結果、リカントのうち2体が頚動脈と喉笛を切り裂かれ絶命し、残るは6体。
「わあ! お兄ちゃんすごいね!」
「そうだろうそうだろう! 切り裂かれる場所は運しだいだから、あてにするとやばいけどな」
バギ系は折角放っても運が悪いと頬が切れるだけで終わったりする事もあるダメージ幅の大きな呪文なのだ。
「グギャッォォーーー!!!」
そうこうするうちに、残る6体のリカントが怒りの形相でミリアの目前に迫っていた。
「後はミリアに任せる。これも修行のひとつだな。できるか?」
そういって影夫は自分の身体の主導権をミリアに渡す。
「お兄ちゃんは過保護すぎ! こんなやつら余裕だもん」
ミリアはまず、正面から突撃してくるリカントの懐に飛び込み、おおはさみでその胴体を両断した。
「グエアアア!?」
「つぅ……」
断末魔の叫びを漏らしたリカント。
だが、彼は絶命間際にミリアの左腕を爪で浅く引き裂くことに成功していた。
「ミリア、残りが一斉に来るぞ」
「むぅー」
その隙を見逃さず、5体のリカントが腕を押さえてよろめくミリアに、一斉に襲い掛かってくる。
「くっ、このぉ!」
ミリアはどうにか、顔と腹と首を狙ってきた3体の攻撃を、影夫の身体を操作して作り出した凶手を伸ばして、受け流すことが出来た。
しかし、残る2体には手が回らず、間合いに飛び込まれてしまう。
「まずっ」
左半身を狙ってふり下ろされた爪はミリアへの直撃コースにのって迫ってきていた。
無理な体勢から攻撃を受け流した所為でミリアの足はもつれており、バックステップもサイドステップも封じられた格好である。
このままでは危ないと影夫が助太刀をしようと思った瞬間。
ミリアは天性の勘の良さのなせる業か、はたまた闘争本能によるものなのか。
上半身を前のめりに傾けて、そのまま正面のリカントに向けて倒れこんでいた。
「やゃああっ!」
「ガッ!?」
予想もしないミリアの動きに、リカント達の爪は空を切る。
それと同時に、勢いをつけて倒れこんだミリアの頭が、リカントの鳩尾へとぶち当たり、その動きを止めた。
咄嗟に頭部に暗黒闘気を込めたことでその一撃は想像以上に重く、リカントは悶絶する。
「あはっ」
ミリアは無防備になったその腹に、右手を突いてニタリと笑みを浮かべた。
「イオ!」
悲鳴を上げる暇もなく、リカントは爆殺死体と化したが、近距離でイオを使ったことにより、ミリア自身もダメージを受けて後ろに吹き飛ばされた。
「あぐっ……いたぁ……」
攻撃と後退を同時に実現したファインプレーで、ミリアに不利だった超接近戦から再び、数メートル離れて対峙しあう戦闘距離へと戻すことが出来た。
「乱暴だけど凄いな。でも大丈夫か?」
「ぜんっぜん平気!」
残る4体は、無傷で健在。
イオの衝撃の影響ですぐに立ち上がることができないミリアに向け、彼らはいっせいに突進してきていた。
「回復は?」
「いらない。1人でたおすもん!」
ミリアは意地になっているようだ。
苦笑しつつも影夫は本当に危なくなった際の助勢にそなえて押し黙った。
「足が動かなくたって!」
ミリアは影夫の凶手を操作して地面を勢いよく叩き、数メートル上空へと身体を躍らせた。
「暗黒魔弾!」
ミリアは上空から暗黒魔弾を撃ち下ろすことで、リカント1体の頭部を吹き飛ばして仕留めつつ、反動を利用して落下位置を調整する。
「死ねぇ!」
自由落下の勢いのまま、側にいた1体の肩の上に着地して、その首をおおばさみの刃で挟みこみ、その首を斬り落とした。
「ギャオオオ!!!」
「ガアアッ!!」
「あぐっ!?」
首を失って地面に崩れ落ちるリカントとともに、ミリアは地面にへたり込んで膝をつく。
そこに残る2体が、仇討ちとばかりに大きく腕を振り上げ、必殺の爪撃を繰り出した。
「「ォグッ!?」」
今度こそ攻撃が直撃すると思われたが、間一髪。
ミリアはリカント達の懐に向け、凶手の刃を伸ばしてその心臓を串刺しにしていた。
「はぁッはぁッ……!」
「ホイミ、ホイミ、ホイミ、ホイミ!」
身体中に傷を作ったミリアに影夫は慌ててホイミ連発をかけて彼女の傷を癒していった。
「ああっ、滅茶苦茶ハラハラした。最後の攻撃なんて間に合わないかと思って心臓が止まるかと思ったぞ」
「ふぅ、はぁ……う、ん……でも何とか、いけたぁ」
「すごいよミリア。本当に一人で勝っちゃったな」
「えへへ、ちょっと疲れたけど、このくらいとーぜんだよ」
「よくがんばったよえらいな」
「えへへ!」
影夫に褒められたミリアは、無邪気な笑みを浮かべて照れくさそうに喜んだ。
「な、なんだぁあの子……一気にリカントどもをかたづけちまいやがった」
「シスターが呼んだ救援か?」
「それにしちゃくるのが早すぎだろ!」
「あんな子供なのに、異常じゃないか?」
「黒くて物騒な腕みたいなものとか、でっかいはさみ……ちょっとおっかないよな」
ミリアと影夫をよそに、村人達は顔を見合わせひそひそ話をしていた。
助かったのはありがたいが得体の知れないのが出てきて困惑しているのだ。
「おいアンタ! いったい何者だ!!」
「…………」
村人達が走り寄ってきて話しかけてくると、ミリアはビクリと震える。
疑わしい表情で警戒をしながら見つめられて上手く声が出せないようだ。
「あ……う……」
「あ? なんだって?」
「おい、やっぱり怪しいぞ」
「ああ、なんか変な感じがする……油断するなよみんな! 囲め!」
「く、くる、な……!」
複数人に囲まれてあびせかけられる敵意に身を震わせるミリア。
このままではまずい、と影夫は焦る。またいつかのフラッシュバックが起こればトラウマを思い出して、暴れてしまうだろう。
あわてて影夫がミリアの身体を操ろうとした次の瞬間。
ミリアが不意に何か柔らかいものに抱きつかれた。
「ミリアさん! クロスさん! 大丈夫ですか!?」
「なんだぁっ!? ってさっきの姉ちゃんじゃないか!」
「黒いのが、しゃ、しゃべったーーーー!!!」
「さては魔物か!?」
「シスター離れろ!」
「違いますッ!!」
村人が影夫に武器を向けたのをシスターが即座に怒って止めてくれた。
影夫は心底ほっとする。ミリアの心は不安定であり、感情の沸点が低いから刺激をすることはやめて欲しい。
「このお方はガーナの勇者ミリアさんです! そしてこちらの黒い方は、勇者さまと共に戦う伝説の武具さまなんです!」
「ええー!?」
「本当かよ?」
「いや、俺は行商人が話してたのを聞いたぞ!」
「ってことは、本物……?」
(ナイスだシスター!)
影夫は内心喝采を送りつつも口を開く。
ふてぶてしくも不機嫌に言葉を並び立てていった。
「やいやいやいてめえら!! ひでえ誤解をしやがって! このインテリジェンスアームズたるクロスさんを魔物扱いとはふてえやつらだぜ! 俺はなぁ、神が作りし伝説の逸品なんだぞ!!」
「そうです! 助けてもらったのに武器を向けるなんてひどいですよ! 反省してください!」
「それにみろよ! ミリアはよぉ、傷だらけになってでも皆を助けようとした女の子の勇者さまだぞ! 人が勇者を信じられないとは世も末だなぁおい!」
「う……す、すまない……おふたりさん」
「俺たち疑り深くなっちまってたようだ……」
シスターの尻馬に乗って、罪悪感を煽る言い方で反論を封じる。
これですっかり信じてもらえただろう。
村人から信頼されているらしいシスターの口添えとそれを裏付ける噂もある。これでもう疑われることはなさそうだ。
「ところでよぉ、リカントはあれで最後か? まだいるならこの勇者ミリア様と伝説の武具クロスさんに、どーんと頼ってくれよ!」
「あ、ああ。襲ってきたのはあいつらだけだ」
とそこに、一人の男が駆け込んできた。
「シスター来てくれ! イアンのやつが死にそうなんだ!!」
「いまいきます!!」
「俺達も行くぞミリア! 役に立てるかもしれねえ!」
「…………」
影夫の言葉にコクン。と首を振ったミリアはシスターの後を付いていった。
「ぅ……」
「ホイミ……」
シスターの手に淡い光が出て、地面に横たわるイアン青年を回復させる。
しかし、傷口がかなり深くて内臓までを傷つけているため、回復しきれなかった。
ベテランの僧侶や賢者でもなければ、傷口と体力を同時に回復させることは出来ない。
傷が深すぎるために、ホイミで少しずつ治している余裕もなさそうだ。ほとんど呼吸が止まっていて心臓も今にも止まりそうなのだ。
「っ……ぁ」
「しっかりして! ホイミ」
シスターは懸命にホイミを掛け続けるが状況は変わらず悪化していっている。
「勇者さま、どうかお力を……私一人では」
「おっと。俺がやるよ。ミリアは回復呪文は扱えねぇんだ」
ミリアにすがるシスターにそう答えた影夫が、ミリアの肩から黒い影手を生やして伸ばし、イアン青年にかざす。
「お願いします、クロスさん……」
その光景に村人はぎょっとするが、シスターが信頼しきっている様子を見て、何も言わず治療を見守った。
(こりゃやばいな。ふたりがかりのホイミでもたぶん……)
「ああ。とっておきを使ってみるぜ」
未だ成功はしたことがない呪文ではあるが影夫には今の自分の力量では出来そうだと感じていた。それを使う。
「地にあまねく偉大なる癒しの精霊たちよ。その大いなる癒しの力を我に分け与えたまえ……べホイミ!!」
まばゆい光が影夫の手から放たれ、イアン青年の傷を急速にふさぎ、治していく。
「ぐ……やべ」
「クロスさん!?」
多少ではあるが影夫の力量は及んでいなかった。
力量を超える高度な呪文は反動をもたらす。ホイミ数発分あったはずの魔法力が急速に枯渇していき、強い疲労感が蓄積していく。
「ぁ……ぐ……」
だが、呪文の失敗は目の前の人間の死を意味する。影夫は苦しくともやめるわけにはいかない。
「残りの魔法力全部もっていけぇ!」
身体の中から搾り出すように魔法力を出し切り、どうにか詠唱を終える。
それと同時にべホイミは無事成功し、イアン青年は穏やかな呼吸をし始めた。
「あ~~もうからっぽ。なんにもでねえ」
「すげえ! イアンが助かった!!」
「勇者様と伝説の武具様万歳!」
「良かった。本当によかったです!」
村人たちは抱き合って喜びあっており、シスターはうれし涙を浮かべてミリアに抱きつきながら、影夫の手に頬ずりしている。
「あ、あんたたち本当にありがとう! さっきのお詫びも兼ねてぜひ歓迎させてくれ!」
そんな中。イアン青年にすがりついて喜んでいたおっさんが、地に頭をこすり付けんばかりの勢いで感謝を伝え、歓迎の宴に誘ってきた。
(お兄ちゃん、どうするの?)
(まぁちょうど夜も近いし今日はここで泊まっていこうぜ。うまい飯もくえるかもしれないしな)
(もう……お兄ちゃんはちょっと何にでも首をつっこみすぎだよ)
(う……まぁしょうがないだろ。ほっとけないんだから)
「じゃぁお世話になるぜ、よろしくな」
「聞いたかみんな! 村をあげて勇者さまを歓迎するぞ!!」
「オーー!!」