壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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ガチ修行後に、原作突入した後の話の断片……?



プロローグ~勇者~

「クギャァアアーーー!」

「一匹たりとも街へは通すな!」

 

リンガイア戦士団員たちが、ドラゴンの群れに雄叫びを上げて突っ込んでいく。

 

「うぉおおおおお!!!」

「リンガイア戦士を舐めるな!」

 

それは無謀な突撃……ではない。

闘気剣ならば、鋼鉄の硬度を持つ皮膚とも言えども切り裂けるのだ。

 

「このぉおぉぉッッ!!」

「くたばれぇぇーーー!!」

 

戦士達は、頭上から振り下ろされるドラゴンの爪をかわして、闘気の刃をドラゴンの肉体へと次々に振り下ろしていく。

 

だが。

 

「硬すぎる!?」

 

彼らのレベルでは、傷を与えられてもそれはナイフを刺した程度の傷しかつかない。

言うまでもなくドラゴンは巨体である。人間のような小さな生物がまともに斬りかかったところで傷は小さいものでしかない。

 

それこそ『勇者』と呼ばれるような、人間の域を半ばはみ出た実力者でなければ竜殺しは現実的ではないのだ。

 

「ノヴァ様がこの場にいてくれれば……!」

「弱音を吐くな! 死力を尽くせ!!」

 

そう。ノヴァならば。

彼ならばたった一撃でドラゴンに致命傷を与えることができたはずだ。

 

「キシャアアァっー!」

「ぐぎゃあ!」

 

「集まれ! 一匹ずつしとめるんだ!」

「くっ、このォぉ!」

 

虫を払うように振り払われるドラゴンの爪と尻尾の反撃で幾人かの戦士が倒れる中、群れの先頭を走っていたドラゴンの巨体に何人もの戦士が群がり、次々に小さな牙を突き立てていく。

 

「くそがぁッ!!」

「俺達を!」

「舐めるなぁーー!!」

「クキェアアアァーーッ!!」

 

肉食魚の群れに襲われた獲物のような光景が展開され、ようやく一匹のドラゴンが全身から血を流しながら、ゆっくりと倒れ伏した。

 

「いけるぞ!」

「でも数がっ、多過ぎる……!」

 

ドラゴンの群れは多い。

その頭数は軽く数十を超えており、下手をすれば3桁の数かもしれない。

まるで山が動いて押し寄せてきているかのようだった。

 

「か、勝てない……」

 

集中攻撃で倒していくにしても、固まりすぎると敵が街へと侵入してしまう。バラけると各個に倒されるだけ。

 

「それでも……時間くらいかせいでみせる!」

 

その場の戦士たちは皆全滅を覚悟して、それでも王都の民が逃げる時間を稼ごうと悲痛な決意を固める。

 

「ぎゃあああぁ!」

 

あるものは爪で細切れに引き裂かれ、

 

「ぐゃぃっ!?」

 

あるものは巨体に踏み潰されて、

 

「ぎっ!?」

 

あるものは上半身を噛み千切られて、

 

「ぅぁぢ……ッ」

 

あるものは猛烈な炎を瞬く間に灰と化した。

 

ドラゴンに立ち向かっていった勇敢なリンガイア戦士達が、次々に無残な屍を晒す。

地獄のような光景がそこにはあった。

 

「ちくしょうがあぁーーっ!」

「やらせるものか!」

 

しかし、彼らは一歩も退かない。

 

彼らの背後の街には、守るべき恋人が、家族が、友人がいる。

ドラゴンの侵入を許せば彼らは皆、無残に殺し尽くされてしまう。

かけがえない人達を失う恐怖から、彼らは絶対に、退く事は出来ないのだ。

 

「たとえこの身が砕けようが!」

「魂だけに成り果てようと!」

「お前達を、いかせるものかァッ!!」

 

「クキャアアアアァーーー!!」

 

必死に抗う戦士達をあざ笑うように、跳躍した一匹のドラゴンが、その場で指揮を取っていた古参の団員たちの頭上へとその巨体を落とす。

 

「「「うおぉおおおおおおッッッ!!!!」」」

 

目前に迫る死。

だが、彼らの眼に絶望はない。

己の死を悟った彼らは、生命力を絞り出して作り上げた生命の剣を竜へと向けて突き出した。

 

「ただでは死なん!」

「我らの意地を見ろぉおッ!!」

 

どうせ死ぬのならば、少しでもドラゴンに傷を与えてやると、竜を睨みつける。

 

「ギャォオオオオオーーー!!」

「みな。あとは任せた……」

 

彼らが潰れた果実のように成り果てるかと思われた、その時――

 

 

「ゲギャッ!?」

 

まるで血の詰まった風船が破裂したように、彼らの頭上にいたドラゴンは内からはじけて、バラバラに吹き飛んだ。

 

「な、なんだぁ?」

 

 

血煙が晴れるとそこに佇んでいたのは、返り血で真っ赤に染まった小柄な少女!

 

「みんなの覚悟は!」

 

彼女は、竜の血に塗れた禍々しい剣を地面に突き立て、仁王立ちをしていた。

 

「みんなの決意は!」

 

彼女は、戦士団に向けて、叫んでいた。

 

「みんなの想いは!」

 

そして、小さなその手で禍々しい邪気を放つ剣を地面から抜き放って掲げ――

 

「わたしが受け取ったァ!!」

 

血に塗れた顔で決然と思いの丈を叫びきった。

 

「ひっ……」

「敵の新手か!?」

「あれはミリアどのだ! 勇者ミリアが来てくれた!」

 

「みんなぁ……っ」

 

ミリアは地獄の様相を見せる戦場を睥睨する。

肉片と化したもの、血の染みしか残っていないもの。

焦げ跡しか、痕跡がないものすらいる。

 

「いいひとだったのに……!」

 

ごく短い間であったが、顔を知り声を知っている戦士達が半数以上も死してしまった。

食事を共にして笑いあったこともある。

 

「絶対に、ゆるさない……ッ!」

 

彼らが最後まで守り抜こうとしたのは大事な人達。

ミリアは死んでしまった家族を思い起こし、彼らの姿に重ねあわせた。

 

「みんなの無念をこの胸にッ! 憎悪と怒りをこの剣にッ!!」

 

ミリアの中で、暴虐の限りを尽くす敵への負の感情が爆発する。

吹き上がる暗黒闘気が天を突く勢いで噴出する。

ミリアの全身に黒い紋様が浮き上がり、彼女の肩からは影夫の両腕が伸びて刃を形づくった。

 

「命を捧げたみんなに代わって……!」

 

殺戮の準備は整った。

その手に握られたみなごろしの剣が歓喜の明滅を見せる。

 

「鏖だぁぁぁッ!」

 

獣が吼えるように、怒鳴り散らしたミリアは殺意をこめた瞳でドラゴンの群れに飛び込んでいき――

 

「はぁああぁああぁッッ!」

 

横薙ぎに一閃。

 

「ギャゥ!?」

「ンクキュェッ!?」

「ギョエォ!?」

 

たったそれだけでドラゴン数頭が、真っ二つになって絶命する。

 

「ギャオオオオッーー!!」

 

仲間を殺戮されて、怒り狂ったヒドラが突進しながら5つの頭が一斉に噛み付いてくる。

攻撃を終えていたミリアは仁王立ちをしたままで回避は間に合わない――!

 

「クキャァーー!!」

 

ミリアの、頭が、右腕が、左肩が、胴が、足が噛みつかれてしまう。

ヒドラは小さな獲物を噛み殺したことに歓喜の雄叫びを上げた。

 

「勇者さま!?」

「あれでは……!」

 

戦いを見守っていた戦士たちが悲鳴を上げる。

 

「ギャッ!?」

 

否。

避ける必要がなかっただけだ。

噛み付いた5つの頭が苦しげに声を上げると牙が砕けて、顎からおびただしく流血していた。

 

「避けるまでもないッ!」

 

戦士たちの無残な最期への怒りを糧に吹き上がる暗黒闘気と、影夫の守りが彼女の身体を鋼鉄以上の強度と化していたのだ。

 

「暗黒破砕撃!」

 

一点の突き。

それだけでヒドラには致命傷だった。

猛烈な暗黒闘気が切り裂かれた皮膚から爆発的な勢いで入り込んできて、彼の体内で暴れ狂った。

 

「ぁぁあああああッッ! 砕け散れェェェ!!」

「ゴュッ!?」

 

数秒後。

体内に注ぎ込まれる暗黒闘気の圧力が肉体の限界を超えた瞬間に、ヒドラは内側から弾けて爆発四散した。

肉片が周囲に飛び散り、激しい血飛沫が周囲を真っ赤に染める。

 

「殺し尽くすッ!」

 

ミリアはもう止まらない。

街へと向けて突進を始めたキースドラゴンの群れに向かって猛烈な勢いで駆け出していった。

 

 

「おぉ……なんとものすごい!」

「リンガイアの戦神が降り立ったかのようだ!」

 

平時に見ていれば恐ろしく感じかねないミリアの姿だが、リンガイア戦士団には、この上なく頼もしくて好ましく見えた。

彼女は、散っていった同胞達に応えて猛り狂ってくれているのだ。

そんな彼女を恐れるものは誇りある戦士達の中には居なかった。

 

「急いで生き残りを集めろ! 勇者さまにだけ戦わせてはいかん!」

「おうよ!」

「みなでリンガイアを守り抜くぞ!」

 

生き残りの戦士団達は、再び戦場へ戻っていくのだった。

 

★★★

 

「じゃま!」

「ギャゥ!?」

 

ミリアは炎のブレスを吐きかけんとしたキースドラゴンの頭を踏みつけて、その炎を体内逆流させる。

 

「いっけぇー!」

「ガフォァァ!!」

 

鼻と口から炎を漏らして苦悶した彼は、次の瞬間、暗黒闘気をまとった剣によって脳天を串刺しにされて絶命した。

 

「「キシャァッッ!」」

 

死体となった仲間の上にいるミリアめがけて、キースドラゴン2体が死角である左右から鋭い牙を突き立てんと大口をあけて噛み付いた。

 

「バレバレなんだよ!」

 

だが、彼らの牙は届かない。

掻き消えるようにミリアの姿が消えて、キースドラゴンは鼻先をぶつけ合ってしまう。

 

「「クキャァッーー!」」

 

怒り狂って、消えた獲物を探して首を振り回すキースドラゴン達。

彼らは、影夫の飛翔呪文によって上空に浮かんでいたミリアを見つけて……驚愕した。

 

「極大閃熱呪文<ベギラゴン>!!」

 

ミリアは両腕に作り上げた閃熱のアーチを撃ち放つ。

熱に耐性を持つ彼らといえど、極大の閃熱には耐え切れず、焼け焦げた死体と化すしかなかった。

 

「ミリア、スカイドラゴンの群れだ!」

「避けるのは任せるよ!」

「任された!」

 

影夫は羽状に広げた暗黒闘気の手から飛翔呪文で推進力を生み出して、極大呪文を撃ち終えて息を荒げるミリアを、スカイドラゴンの群れから後退させる。

 

「キシャアアアアー!!」

 

そのことで空を支配する竜として矜持を傷つけられたのだろう。

5匹のスカイドラゴン達は、猛烈に速度を上げて一斉にミリアに迫ってくる。

 

「もうすぐいけるよ!」

「ぶっ放してやれ!」

 

対するミリアは全身に高めた魔法力を両手に集めて両腕を天に掲げる。

 

「むぅううううう……!」

 

スカイドラゴン達の距離はみるみるうちに縮んでいき、彼ら達は鋭い牙の並ぶ大口を開けて、ミリアを噛み砕かんとする。

対するミリアはいまだ攻撃には移れず、なすすべがない。

 

「ふふっ」

 

このままでは無防備に攻撃を受けてしまう――というのにミリアは不適に笑みを浮かべる。

彼女は一片の疑いもなく信じている。必ず兄が守ってくれると。

 

「させるかぁ! バギマッ!」

 

信頼に応えた影夫が竜達に目掛けて真空呪文を放ち、推進力を一気に稼いで距離を取った。

同時に発生した真空の突風が、スカイドラゴンの顔面に直撃する。

 

「クキャアッ!?」

 

口内を切られた者、眼をきられたもの、鼻を切られたもの。突風に煽られてバランスを崩したもの。

いずれの竜も、その動きが止まってしまった。

 

「消し飛べ!」

 

そうするうちにミリアは準備を終えた。

彼女が両手にまとった魔法力は、爆発エネルギーへと変換されて、爆裂呪文へと変貌していく。

素早く両手をぶつけるように打ち合わせた彼女はそのまま両掌をスカイドラゴンの群れに目掛けて突き出した!

 

「極大爆裂呪文<イオナズン>!」

 

群れの只中に飛び込んで着弾した極大爆裂呪文は、激烈な爆発を発生させ、その熱と衝撃と音で彼らを悉く殺しつくした。

彼らもまた、ミリアにわずかなダメージすら与えられなかった。

 

「ふぅ……」

「気を抜くなよ! 大物が来るぞ!」

 

さすがは新生魔王軍最強の軍団である超竜軍団。

選りすぐりの竜達が集められているのは伊達ではない。

 

もっとも強力な個体の1つであり、頭一つ抜けた強靭な体躯と強さを持つキングヒドラがミリア達の前に立ちはだかる。

少し前にミリアが倒したヒドラの上位種であり、影夫世界のゲームではボス格の扱いを受けていたほどの強力な敵である。

 

「グギャオオオ゛オ゛オ゛ッッー!!」

 

小山のような紫の邪竜が唸りを上げると周囲の空気が激しく震えて、それだけで砂埃が舞い上がるほど。

弱い生物ならば雄叫びを聞いた死を迎えるであろうほどの殺気を撒き散らしている。

 

「やばいな……」

「うん」

 

さすがに彼は格が違った。

ミリアに先制攻撃の隙も与えずに、野太い脚で強烈な爪の一撃を放ってくる。

さらに5つの首が同時に燃え盛る火炎をミリアに吹き掛ける。

 

「くっ!」

 

ミリアは剣で爪を受け止めるが、炎には対応できない。

5つの火炎がミリアを焼き尽くさんと迫る。

 

「フバーハ!」

 

すかさず影夫が光の粒子のバリアで炎のブレスを防ぎきる。

 

「次はこっちの」

「キシャアァッッッ!」

「ぁぐ!? 連続攻撃ぃっ!?」

 

ミリアが反撃に動作に入るが、キングヒドラは5つの首をヘビのようにうねらせながら5方向からミリアに迫っていた。

 

「このぉ!」

「やらせるか!」

 

どうにかミリアが正面から噛み付きにきた1つの首を暗黒闘気剣で叩き斬る。

影夫も、腕を変形させて暗黒闘気の刃を作り上げ、左右から迫っていた2つの首の瞳を斬りつけてどうにか攻撃を封じる。

 

しかし。

 

「きゃあああああ!」

 

残った2つの首が右下と左上からミリアの身体に巻きついて絡みついて、ギチギチとミリアの身体を締め上げていく。

 

「け、剣が……」

 

肩を締め上げられ、苦悶のあまりミリアはみなごろしの剣を手放してしまう。

常人ならば瞬時にバラバラになるような圧倒的な力で締め上げられて

 

「あがぁッ!?」

 

暗黒闘気で強化されているミリアといえども、ろくに身動きすら取れない。

圧迫で肺の空気が押し出されて、ミリアは目を見開き、口をあけてパクパクと酸欠の魚のように苦しみもがくが、どうにもできない。

 

「はなせぇっ……このぉぉ……っ!!」

「「キシャャアアアアッッーーーー!」」

 

苦しむミリアをさらに甚振るように、さらに巻きつきを強めた2つの首は、大口を開いて歓喜の声を周囲に響かせる。

 

「ぁあああああッッー!?」

 

ミリアは、絞り出すように悲鳴を上げて、締め付け攻撃を受け続け、肉が潰され骨が軋む嫌な音が少しずつ大きくなっていく。

このままでは限界を超えて潰されてしまうことになるのは明白だった。

 

「くそっ! ミリアを離しやがれェ!」

 

ミリアと一緒に首に巻きつかれていた影夫はあわてて、ミリアの体内へ入り込むと、ミリアの額から暗黒闘気の手を生やし、彼女に巻きついている2つ首の大口の中に暗黒闘気の右手と左手を突っ込む。

 

「「ギャウッ!?」」

「バギマッ!」

 

そして、両手から同時に真空呪文を叩き込んだ。

 

「「グォオォ……!」」

 

邪竜は、繊細で柔らかい口内から喉にかけてをズタズタに切り裂かれ、己の血で溺れるような状態となった。

ミリアに巻きつけていた2つ首を解いて、胴体をその場に倒れこませて、悶え苦しむ。

 

「ベホイミ、ベホイミ」

「はぁはぁ……暗黒処刑術奥義!」

 

地面に落ちたみなごろしの剣を素早く拾ったミリアは、両手で握ったその剣を大きく振り上げ、邪竜に向けて飛び掛った。

 

「暗黒ッ、渾身撃ィィッ!」

「ギャォオンン……ッ!!」

「死んじゃえぇぇぇーーーっっ!!」

 

最大出力の暗黒闘気剣をキングヒドラの胴体に突き立てる。

 

「極大真空呪文<バギクロス>!」

 

胴体に大穴をぶち空けられて、断末魔を上げる邪竜に影夫がダメ押しの極大真空呪文を撃ちはなって2つ首を胴体から切り離し、トドメを指した。

 

「やっぱり強いね……キングヒドラは」

「破邪の洞窟で戦ったときよりはマシに戦えたけどなぁ」

「うん! これで雑魚はあらかた片付いたかな?」

「ああ、後は戦士団に任せて大丈夫だろう」

 

「残るは竜騎将バランだね……トベルーラ!」

 

超竜軍団のリンガイア王都への侵攻を防ぎきったミリアは、超竜軍団長であるバランを探すために上空高くへと舞い上がるのだった。

 




原作知識を活かした上に、年単位であらゆる面をみっちり修行し尽くしたスーパーチートな闇の勇者ミリアが大暴れ!

その力は竜の騎士をも倒すのか!?

これの続きを書けるのはいつになるかなぁ。

でも、もしかすると話の展開上、という夢をエイプリルフールの日に見たのさとなってしまうかも……そうなったらすみません。

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