「よーしそれじゃあ、剥ぎ剥ぎタイムといくかー」
「おーー」
ゲームやアニメと違い、モンスターを倒してもゴールドや宝石は落ちない。
ゴールドを稼ごうと思えば、死体から魔法素材や皮や肉を剥ぎ取るしかない。
だが、解体作業というのはグロいし、とても重労働だ。
日本では野生動物を狩る機会も解体することも殆どない。それどころか死体すら見ないくらいだ。
見るのは切り分けられてパック詰めにされた肉なのだから。
いっぱいいっぱいだった初戦の日はともかく、以後モンスターを倒すたびに彼はもったいない精神とグロいのは嫌だという気持ちの間で激しく葛藤しつつもモンスターの死体はその場に捨ておいてきた。
ミリアは、戦いを終える度に葛藤している影夫の様子を不思議そうに見ていたが、ある時、解体なら私がやるよと言い出した。
影夫は子供にグロいことをさせるのは、と反対したのだがそれは完全に彼のお門違いだった。
ウサギや鳥などを狩って捌くのは普通のことであり、ミリアも母から教わりこなせるらしい。
力が必要な猪や熊のような解体は大人がやっているところを見ただけで手伝いはさせてもらえなかったらしいが。
そういう世界なので当然といえば当然であったが、ミリアにとって忌避感も気持ち悪さもない。
むしろ生き物としてはミリアのほうが健全であるともいえた。
「ふんふん~♪」
ミリアが鼻歌交じりに、皮を剥ぎ、肉をパーツ別に切り分けていく。
その際、内臓部分も捨てずに取っておく。薬に使ったりするらしいので売れるのだ。
「あはは。ぐちゃぐちゃ。赤くてきれい~♪」
ミリアは毒蛾のナイフに暗黒闘気を纏わせて切れ味を高めながら解体に勤しんでいるので、いい訓練にもなっていそうだ。
しかし、暗黒闘気を出すと、昂ぶるからなのか言動や微妙に物騒になるのはどうにかならないのだろうか。
「く……この……」
その横で影夫も黙々と作業をしていたが、ミリアほど手先が器用ではないので苦戦している。
彼は暗黒闘気を右手に集め、圧縮硬化させてナイフ状の刃を作って解体を行っていた。
しかし、ミリアと違ってその手元は大変危なっかしい。
何度も切り損ねたり自分の体を切ったりしながら、どうにか作業を進めていた。
前世で手先が微妙に不器用だった性質は転生しても受け継がれるようだ。
「んしょ……これで、おわりっと。お兄ちゃんもそれで最後?」
「あぁ。でも……こりゃあひでえや」
影夫は自分が解体した皮や肉を見る。
酷い出来だ。皮は傷がついていていくつも寸断されていて、肉も繊維に逆らってきって切り口がズタズタであったり、骨に身が多く残ってしまっていたりした。
こんな状態では売値も低いものになってしまうだろう。
「えっと……ど、どんまい?」
惨めに打ちひしがれているとポンポンと生暖かい表情でミリアが軽く叩いてなぐさめてきてくれる。
「なぐさめてくれてありがとよ、じゃあいつものようにたのむよ」
「うん。ヒャド、ヒャド、ヒャド!」
ミリアが肉の山を冷凍した上で保存用に氷をいくつも作り出す。溶け始める前に影夫が急いで馬車へと肉を積み込んでいく。
「こっちはやっとくから、ミリアは汚れを落としてきていいよ」
「はーい」
血まみれで街へ帰る訳にはいかないので、刃物や体や服をきれいにする必要がある。
馬車の中にはきれいな水が入った樽も持ってきてあるのでそれできれいに洗うのだ。
「ごめんお兄ちゃーん、手が届かないから背中拭いてー!」
「あいよ」
積み込み作業をしていると、ミリアからお呼びがかかり、影夫はミリアの元へと向かうのだった。
☆☆☆☆☆☆
「ふいーしかし、いつまでも馬車移動ってのはなあ」
積み込みが終わり、肉や毛皮でずっしりと重たくなった馬車を眺めて影夫はごちる。
何せ大きいし、ゴムタイヤもスプリングもないので、悪路を通るとすぐに調子が悪くなってしまう。振動も凄いので乗り心地は大変微妙である。
ゲームみたいに森や山中をガンガン踏破できるようなものではないのだ。
「といっても、馬車以外にちょうどいい乗り物がないからなあ」
「小回りの効く4輪駆動の軽トラでもあれば最高なのに」
「よんりんくどうのけいとらぁ?」
「ああ。俺はあれが好きなんだよ。実家においてる愛車がここにあればなぁ。あ、でも燃料がないからすぐにガス欠か」
「ふぅん。それって、前に言ってたぜんせのおはなしなの?」
「そうだよ」
「ねぇまたいっぱい聞かせて! お兄ちゃんのいた世界のこともっと知りたいの!」
「ああ、いいよ」
夕暮れがふたりを照らす中、興味津々なミリアに色々な前世の話を聞かせながら、帰路につくのだった。