「ったく、あの糞冒険者め! 何がいっかくうさぎやおおありくいくらいしか出ないだ! とんでもねえのがいただろうが!!」
影夫はミリアとともに街への帰途につきながら、心底怒っていた。
適当な情報のせいで死に掛けたのだから、その怒りは強く根深い。
ガラの悪そうな自称冒険者の言う事だったので、話半分だと思って聞いていたが、それにしても無茶苦茶だ。
予想外に強いのが出てくるとしてもキャタピラーとかその程度だと影夫は思ってたのだ。
(まぁごうけつ熊とかじゃなくてよかった、のか?)
「すっごく、つよかったよね……はぁ……あんなに苦戦しちゃうなんて、私って弱いんだ……」
ミリアはがっくりと肩を落としているがとんでもない。
敵が悪すぎただけだ。それで勝てたということのほうがすごい。暗黒闘気の力があったはいえすさまじいことだ。
「ミリアは充分すごいよ。アイツはもっと強くなってから戦うのが普通なんだよ。なんで初陣があんな化けモンなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ! ったく最初はスライムとかおおがらすだろうが! おおなめくじでもいいけどさ!」
「なんだあばれザルって! ここはアッサラーム周辺かっての! ロマリア直後の悪夢再びってか。ハハッ!!!」
「いやそれ以上だよな! アリアハンからあばれザルがでるようなもんだ!! なんだその糞ゲー!!」
「???」
恐怖の反動で、テンションが上がりすぎてミリアには通じないことを喚きだす影夫。
「はぁ~~~~ホンっとやばかった、心臓があったら怖すぎて止まってるぞ」
「うん、私もすごい怖くてどうしていいかわからなかったよ……」
「いやあミリアはそれでもちゃんと戦えてたから凄いよ。俺なんかもう必死なばっかりで、なんかもう全然ダメ」
「ううん、お兄ちゃんの指示のおかげだよ」
ホントなさけないなあ。と影夫はしょんぼりする。
ミリアは少女とは思えないほど奮戦して必死に戦っていたのに、自分は防御は任せろ! と言ったくせにミリアの足を引っ張ってしまった。
最後に結局使わないでおこうと思った暗黒闘気を使わせてしまったし。
(しかし、暗黒闘気については、使わせないようにするより扱いを制御できるように練習するべきかもしれない……)
この世界は弱者に厳しい。今は平和な世だが、のちのち大魔王軍の侵攻もある。ミリアとともに力をつけて万が一の時にもどうにかできるようになっておかないといけない。
影夫の前世の世界と違い、力がモノをいう世界だ。手遅れになってから力不足を嘆いても遅いのだ。
「くそー! 頑張るぞ!」
「わたしもがんばる!!」
「よし! そうと決まったら飯を食おう!! しこたま食うんだ! 明日からのために!!」
「うん! 安心しちゃったらなんかおなかすごいペコペコだよ!!」
意識すると我慢しがたいほどにお腹がすいている。
影夫はミリアの体を補助してまで、街へと急いで戻るのだった。
☆☆☆☆☆☆
「んがもぐごがんぐっ!」
「ぐしゃもぐぺろりっ、ごくごくごくっ」
なじみの店のいつもの個室。
そこには魔人がふたりいた。
食欲という名の。
ふたりは会話もせずに一心不乱に肉を貪りパンをかじっては呑み込む。
食事のバランスも考えて野菜もバリバリと食べていく……
そして1時間後。
「がははは!! 食いも食ったな御代はなんと129ゴールドだ!」
「お、おいし、かった……」
「そうだろうそうだろう! ほれ、これでいい」
指を一本立ててニカっと笑うマスター。
この人はミリアが相当気に入っているのかくるたびに割引してくる。
まぁ毎日通っているし、毎回こんなに食べるわけではないとはいえ、50ゴールド分は最低でも食べるから上客であるとは思う。
ありがたく好意は頂戴し、ミリアは100ゴールド金貨で支払いを済まして店を出た。
「またこいよ!」
「う、うん」
ミリアはぎこちなくもオヤジさんと話せるようになってきていて、影夫はとても嬉しい。
この調子で少しずつ誰に対しても慣れていってもらえれば……。すぐには難しいだろうけど……
「食った食った」
「たべたねぇ~お兄ちゃんの体も重くなってるもん」
「あ、やっぱわかるか? でも時間が経つと消えてるみたいなんだけどどこいってるんだろうなあ、暗黒闘気になってんのかなぁ?」
「さあ。よくわかんないー」
「ま、出さなくていいのはいいよな。屁もでないし下痢にもならない」
「もう、お兄ちゃん下品だよ」
しかしと影夫は思う。
謎生物である自分はともかくミリアはどうなっているのだろうか。大食いの大人5人分くらいは食っているはずだ。どこにそんなに入っているのか。そして太らないのか。運動もいっぱいしてるし成長期だからいいのかもしれないが。
「よしあとは宿にもどって」
「もどって?」
「寝る!!」
電灯はないし、安宿にあるような照明は暗いので基本的に夜になると薄暗い部屋で駄弁るか、寝るしかない。
夜更かしすることが難しいので健康的ともいえるが、元現代人としては微妙に退屈でもある。
とはいえ、今日はくたくただし、極度の緊張から解放された後なので、そんなことも関係なく深く眠れそうだ。
「そうふぁね、わたふぃもねむひ……」
「わ、まだ寝るなよ」
「んー……すぅ……むにゃ……」
影夫はミリアの体を動かして、宿に帰り着くと洗顔と歯磨きを済ませ、ベッドに倒れこむなり、ミリアと一緒に寝入るのだった。
DB的栄養補給の回。
よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。
じっちゃんの教えは偉大ですね。