善くん・玲ちゃんと共に、二年校舎を出て外へ行く。
カフェとかもあるけど基本的に建物内は展示やアトラクションしかない。学年棟は特に。
色々と食べ歩きしたいなら、正門通りだな。部活や同好会なんかの団体が屋台出してるから。
という訳で正門に向かいつつ、途中で買い物をする。具体的には
①善くんが無言で店先に立ち続け、
②玲ちゃんが片っ端から注文し、
③最後に俺が支払う。
なんだこのかまいたち。
「そういえば二人のクラスはどんな出し物やってんだ?」
屋台で買ったものの中で、気に入ったものをさらに追加で購入したのをイベントリに仕舞いながら、ふと気になって聞いてみる。
「むぐむぐ…ふぁひぃふぃほーふぁー!」
「なんて?」
玲ちゃんお願いだから食べながら喋るのやめて?
「私たちのクラスは貸し衣装屋をやっている。店名は『アナタ、不思議な国へ』」
「本の帯コメントみたいだな」誰の発案なんだ。
しかし貸し衣装屋か…たしか1-Bの企画だったな。見回りは順路外れてて行かなかったけど。
「普段は着られない服を着れるとなかなか評判がいいようだ」
「ナツルくんもお着替えしてみる?」
「遠慮しとく」
初日の大半を執事服で過ごしたからもうお腹いっぱいだよ。学生は制服が一番さ。
取り留めない会話を続けながら歩き回り、正門前の通りに到着。
そこは模擬店の呼び込みやら外部からの客の話し声やらで大いに賑わっていた。
つい数時間前にいつもと同じくこの道を通って登校したが、人がいるだけで全く違う場所に思えるな。
「すごい
善くんが人波にさらわれそうになりそうな玲ちゃんの手を握りしめる。
「学園の玄関口だからな。ただでさえ外から次々と入ってくるのに店とか立ててるから渋滞が起きてやがる」
店の配置に問題あったんじゃないか?
道幅が広いっつっても限度があるからな。そこに屋台を置くのは…すぐに受け取ってその場を離れるんならともかく、そこまで要領よく客を捌いてる店は見たところそんなに多くはない。
しかも食い物だけじゃなくて射的や小物売ったりと、バザーやフリーマーケット紛いなことしてる奴もいるから余計に人の流れが滞って行き来がし辛くなってやがる。
個人出店は禁止にすべきだと思うだったな…もしくはもうちょっと学園の奥にフリマスペースとか作って、そこでまとめといた方が管理もしやすく
「瀬能?どうした急に考えこんで」
「はっ!?」
いかん、つい本気で対策練ってしまった。最終日で無意味なのに。
つーか俺なんでこんなマジになってんだろう。謎だ。
気持ち切り替えて――
「いらっしゃいいらっしゃい!弓道部の射的!一度やってみてー!!」
おうっ、
深呼吸しようと息を吐いた瞬間にデカイ呼び込みの声がぶっかけられた。
息の吸いどころ逃したじゃねーか。どこのどいつだ。
声の出所を探してみれば、ちょっと離れたとこの屋台の内側に、両手でメガホン作ってる袴姿の女子生徒が一人。
犯人はお前かバーロー。
「あ、そこの人ー!射的いかがですかー!一回五百円ですよー!?」
じっと見つめてたら興味あると勘違いされたようで、客としてロックオンされてしまった。
「射的!面白そう!ナツルくんやってみよ?」
「えー?」
テンション高いな玲ちゃん…反対に俺はだだ下がりだ。
「弓矢って扱ったことねぇんだよな…」
遠くのやつ攻撃するの大概『投げる』か『撃つ』だからな。
"気"を放出できると弓や銃の必要まるでないから、興味もないし。
あと椎名と被る。
「というわけでやるのは無しで」
「私もやめておこう」
「えー」
なんで不満げなんだよ。一人でやりゃあいいじゃん。後ろで見ててやるから。
「ひとりでやってもつまんないよ…」
「後ろの方は友達じゃないんですか?」
後ろ?おいおい、何を言っとるんだキミわ。
俺たちの背後は無関係で各々好きな場所に移動中の一般大衆しかいませんよ?そんなの友人知人だなんてとてもとても…
「…………」
てホントにいたーーーーーーーーーー!!!!
「呂布ちゃんいつの間に…!?」
俺を超える身長に脚まで伸びる真紅の長い髪。ウチの学生服に身を包んだ無表情で褐色肌をした女の子が、一言も喋らずにじっと真後ろに佇んでいた。
「さっきからずっといたよ?」
「気づかなかったのか?」
「ぜんぜん気づかんかった…」
地味にショック。
ていうか知ってたら言えよ。スリとかだったらどうすんだ。
呂布ちゃんも気配殺すのやめてってゆってんじゃん。いつも。
「つーかどうやって俺の居場所が分かったんだ?」
自由行動許可されたのついさっきだし、お互い連絡先も知らない。そもそもどこに行くか誰にも言ってないし。
それに呂布ちゃん携帯持ってんのか?
「……
「うわ厨二くせえ台詞」
"気"を辿って来たなんて言葉、たとえ本当に出来ても使わないぞ。
脳天チョップ食らった。
痛…くはないけどちょっとグラっときた。
「…クラスの方はいいのか?」
「………休憩」
今午前中なんだけど。まあ善くんたちもそうだろうし珍しくはないか。
「……主、一緒…」
呂布ちゃんは俯きながら俺の制服の裾を指先で掴む。照れてんのか?
思えばこいつ、変則で学園に来たばっかだから友達はいないんだよな多分。自分から話しかけるようなタイプにも見えないし。
与一たちはいるけど…どうなんだ?あいつら仲良いのか?
他クラスだからどんな日常送ってるのか――って普段からFクラスに入り浸ってるか。
もうちょいS組の奴らと交友深めろよ。俺はごめんだけど。
「そうだな…呂布ちゃん、そんなに暇なら――」
「………!」
「一人で好きに過ごせよ」
やべえ、呂布ちゃん泣きそう。
「ナツルくんひどい!!」
「瀬能、いくらなんでもその言い方は…」
「うわー…さいってーですね」
「あーあー悪かった悪かった、俺が悪かったよチクショー!!」
無関係な店員まで非難しやがって!
「呂布ちゃん冗談、冗談だよ今の、意地悪言ってごめんね?」慌てて頭を撫でて慰める。
「…………(ぐすっ)」
マジ泣きじゃねーか。ダメージ受けたぞ。ないはずの良心が痛い…!
茜だったらここで鉄拳ぶち込んで無理矢理引きずり回すんだけどなぁ…直江や吉井とかでも「なんで!?」って突っ込むとこだぞ。調子狂うわぁ…
「よかったら休憩終わるまで一緒に回ろうぜ?奢るからさ」
「………(コクリ)」
よかった。挽回できたみたいだ。
この
「はーい、うちの射的は一回につき五本、矢を射ることができますよー」
なんか的屋の店員がグイグイくる。
「やるって言ってないんだけど」
「一つでも的に中てれたら飴玉をあげちゃいます。さらにパーフェクトなら豪華景品をプレゼント!」
「聞けよ」
玲ちゃんに弓矢渡すな。
「えっと…」
「弓の弦に矢尻をかけて…」
流されるままにレクチャーされて結局やる羽目に。
弓矢っつってもこれどう見てもオモチャだろ。いや本物渡されても困るんだけどさ。
絵本のキューピットが持ってそうなこれで数十メートル離れた的に果たして命中させらるんだろうか。どう贔屓目に見ても数メートルも飛ばなそうな形状してるんだが。
「ん〜〜〜…!やあっ!」
玲ちゃんが気合を入れて矢を撃ち出すが、案の定2・3メートルほど横向きに宙を舞って地面に落ちた。
力弱っ。
「飛ばないよあんなの…全国大会に出場した部の先輩でも弦切って終わりなんだから…」
店の内側で椅子に座っていた(居るの気づかなかった…)別の袴姿の女子生徒がぼそっと呟いた。
詐欺じゃねーか。
見つめてたのに気づいたのか、女子生徒がこっちを向いて気まずそうに顔を背ける。
弓道部ってこんなだったっけ?前に生徒会の視察に行った時は、普通な感じはしたけれどもこんな詐欺まがいなことするようには見えなかったぞ。
ちょっと気になってデバイスでこの射的屋について調べる。………出た。
部としてじゃなく、個人で出店してるのか。申請者は…2年Bクラス。呼び込みしてた目の前の女だな。
Bクラスってセコいやり方で他人から利益をかすめ取る奴らの集まりってイメージあるんだよな。なんでだろう。
少なくとも目の前の光景を見た限り、その印象に間違いはないだろう。
「あーん、全部外れちゃった…」
「あらー残念」
しょんぼりとしている玲ちゃんとは対照的に隠しもしないニッコニコの笑顔で料金を受け取る名も知らぬBクラス女子。
自分が金盗られた訳じゃないのになんか腹立つ。
さて…どうしよう。
強権で取り潰すのは簡単だが曲がりなりにも生徒会の方で出店を認めた店舗だ。摘発したら後々面倒なことになりそうな気がする。
それに最終日まで営業してるからなぁ、会長や美鶴先輩も分かってて何も言わないんなら俺が勝手に口出すわけにも……でもこのまま玲ちゃん泣き寝入りさせるわけには…
「主困ってる?」
考え悩んでいたら呂布ちゃんが顔を覗き込んできた。
「ん?ああ…まーそう、だな」
困ってるっつーか悩んでるっつーか。
いや困ってるから悩んでるのか。どうすればいいか分からない。
「…………」
俺の返事を聞いて呂布ちゃんは無言で射的の屋台に向かう。
……まさかこいつ店をぶっ壊すんじゃないだろうな…
突如浮かんだ考えにハラハラする。
普段から言葉数が少なくて、表情に変化がないから次に何をするのかさっぱり分からん。
そんな俺の心のうちを他所に、呂布ちゃんは屋台のカウンターに置いてある弓を手に取る。
「おや〜?挑戦ですかー?」
「…………」
店員を無視して矢を掴み――
ドガガガッッ!!
「…………え?」
女子生徒が間の抜けた声を出す。
一瞬呂布ちゃんの腕が消えた――かと思えるスピードで動いて、次の瞬間には壁にかかっている的全てに矢が突き刺さっていた。
恐ろしく速いスピードで矢をつがえては放ち、台の上の矢を掴んではまたつがえて放つを一工程で行う。
俺のワンフレームキルを弓術でやりやがった。
しかも全て的の中心に中てている。
あんなオモチャで真っ直ぐに飛ばすだけでも難しいってのに、皆中を文字通り瞬く間にやってのけるとは…
アホっぽい雰囲気出してて忘れがちだけど、中華最強の呂布奉先のクローンなんだよなこの
まあそんなことより、
「的全部に中てたら豪華景品が貰えるんだったな?」
放心状態のBクラス女はその一言でハッと我に帰る。
「え?ぇぇっとぉ…」
「そうね。今渡しますからちょっと待ってください」
もう一人の女子生徒が外から見えない所に置いてある何かを取り出した。
「ちょっと岳羽さん!?」
「なに?あなたが言ったんでしょプレゼントって」
何やら揉めている様子…しかし俺(たち)には関係ねえ。
バンっ。
スイッチを受け取って速攻でイベントリから一万円札を取り出し、カウンターに叩きつける。
「一回五百円だからこれで二十回だな」
「え?な、なにを…」
店側をほっといて呂布ちゃんに顔を向ける。
「オーダーだ呂布ちゃん、ここの景品狩り尽くせ」
「…!了解…!」
弓を持ったまま立ち尽くしていた彼女の顔はいつもの無表情ながらも、どこか嬉しそうだった。
その直後、一人の二年女子生徒の悲鳴が正門通りに響き渡った。
そしてその数分後、ムンクの叫びのような格好で固まる少女を尻目に、少し早い店じまいを行う袴姿の女子生徒がいたそうな…
真の英雄は(涙)眼で(主人公の精神を)コロ(が)す。
呂布ちゃんのナツルの呼び方は主(あるじ)。こんな可愛い子にこんな呼ばれ方するなんて…もげろ!
似たようなやり取りした雄二はアイアンクロー食らったのに…