戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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小悪党の末路①。

時系列的には召喚大会準決勝終了直後、「54時間目」と「55時間目」の中間あたりの話ですね。


57時間目 黄金三角

 

……………

 

………

 

 

 

 

〜ナツルSide〜

 

 

召喚大会準決勝終了直後の特設リングに続く渡り廊下。

 

熱狂冷めやまぬ会場を会長と二人で並んであとにする。

 

「…………」

「………」

 

お互いに一言も発さずに歩き続ける。

 

きまずい。

 

目線も向けないけどさっきの試合で相手チームとの会話していた内容について聞きたいのは明らかだ。ここまで質問してこなかったのは周りの目があったからこそだろう。

 

無人になった今、すぐにでも話しかけてくるだろう。さてどうしよう。

 

別に事情を全て話してしまってもいいんだろうよ。いいんだろうけどさ…

 

 

 

 

 会長、姫路(クラスメイト)が転校させられたり、学園存亡の危機が迫ってるんだ

 だから次の試合わざと負けて、Fクラスの二人を優勝させてくださいっ

 

 

 

 

"イエス"の返事をもらえる自信がない。

 

ていうかそもそも、この人の協力いるか?

 

試合開始直後に点数が表示される。学年一位の学力の持ち主だ。どの教科でも千点近いだろう。

 

そんな絶対強者がザコ二人に負けたら不自然でしょうがない。

姫路の父親も納得しないだろう。

 

……いっそ次の試合退場してもらうかな。

しかし万が一決勝に坂本たちが上がってこなかった場合俺だけで戦う羽目に…

 

 

ム"ー

 

 

『Fクラス2名、召喚大会決勝進出』

 

大丈夫みたいです。

 

じゃあ…うん。

 

 

「瀬能君、さっきの試合中でのことなんだけど――」

「あ」

 

突如、全身がびくんと一度大きく震えて、そのまま動きが止まる。

 

「あ、あ、ああ、あああっ」

「瀬能君?」

 

会長が問い掛けるように名前を呼ぶが、ろくに返事を返す余裕もなく、ガクガクと身体が小刻みに震える。

それを押さえるよう、抱きしめるように身体に腕を巻きつける。

 

「あああああやばいやばいヤバいヤバいヤバイ、あ…飴が…飴が切れたっ」

「………は?」

 

なんとも言えない声が会長から漏れる。

 

それを意に介さず、力無い足取りでよろよろと廊下の壁に近づいて、そのまま体を押し付け倒れ込む。

 

全身の震えは大きくなり、もはや痙攣と言ってもいいほどで壁を伝って建物も揺らしそうな勢いだ。

 

「あめ、あめほしい、あめがっ、あめあめあめあめあめめめめあめめめめ」

 

カニのように口から泡をこぼしながら、おぼつかない手でポケットを探る。

悪戦苦闘しながら取り出したのは掌サイズの四角形の缶。

 

しかし俺は知っている。中身は空だと。

 

さっき吉井たちと会話してる時に全部食べてしまった。

 

それでも、取らずにはいられなかった。あめがひつようだったから

 

 

「…私はいつまでその寸劇を見てればいいのかしら?」

 

寸劇いうのヤメテ。

 

「ようは飴が無くなったから買って来てほしいんでしょ。それぐらい行ってあげるわよ、銘柄はそれと同じでいい?」

 

会長は呆れた様子でため息を吐いて、足早に去っていった。

 

…なんだろう。浅い思惑を見透かされたあげく察せられた感がハンパない…いやそもそも本当に買い物に行ったのか?この飴この辺のコンビニじゃ売ってねえぞ。

 

まあいいや。ひとまず置いておこう。それより…

 

「オイそこで隠れてる奴、バレてるからとっとと出てこい」

 

何事もなかったかのように(実際問題ないんだけど)立ち上がり、口を拭って近くの茂みに向かって話しかける。

 

ここの渡り廊下は、ドラマとかでよく見る体育館と本校舎を結んでいるタイプ――土の地面がある外へ直で行き来できる構造――なので、死角は多い。

 

まさに待ち伏せにもってこいのポイントだ。まるで狙ったかのようにな。

 

しかしただのハッタリだと思っているのか、声をかけても動く気配はない。

 

「はぁ……」めんどくせぇ。

 

 

ゴッ!!

 

 

バゴンッ!「うぐえッ!!」

「夏川!?」

 

持っていた飴の空き缶をノーモーションで投げつければ、茂みから二人の男の声が返ってきた。

どっかで聞いたような声だ。

 

そして転がるように飛び出してきたのも、またどっかでみたような姿の二人組だった。

 

「これはこれは()先輩がた、こんなところでいったい何を?」

「てめえふざけやがって!」

 

坊主頭の方が頭を押さえて立ち上がる。

投げた缶はコイツの額に当たったようだ。ちょっと腫れてる?

 

「先輩に対する敬意ってのが感じられねえな」

 

モヒカンも坊主の後ろについて歩きだす。

 

「敬意?敬意ってのは尊敬を集められる奴のところに勝手に払われるもんですよ」美鶴先輩みたいに。

 

「アンタら誰かに尊敬されたこと、ある?」

「てんめぇ…!!」

「ずいぶん調子こいてんじゃねーか…!」

 

二人ともに青筋を浮かべて睨んでくる。

どうやら禁句だったようだ。尊敬されたことねーなコイツら。

 

「で?もう一回聞くけど何用ですかな?」大体予想つくけど。

 

「テメーのせいでこっちの計画がパァになっちまったからなぁ、その落とし前をつけに来たんだよ」

 

坊主が嫌らしい笑みを浮かべながら、ブレザーの内ポケットからなにかを取り出す。

 

機械的で黒っぽいあの形状は…

 

「スタンガンか」

「当たりだ」

 

モヒカンの方もブレザーから何かを取り出し、軽く振り上げてから勢いよく振り下ろす。

 

するとジャキンッ!という音と共に、杖みたいな長さの鉄の棒が出現した。

こっちは警棒か。

 

「武器があって、二人がかりだったら俺に勝てるとでも?」

舐められたもんだな。

 

「戦力だけが勝敗の決め手じゃねーんだぜ?」

 

ニヤニヤと笑いながらモヒカンが警棒を持つ方とは逆の手でスマホを操作する。

 

「これからお前をボコボコにする。もちろん反撃するのは自由だ。その映像を素材に100%お前が悪い動画を作るがな」

「それをネットにばら撒きゃあ大問題間違いなしってわけだ」

 

…………

 

「おおっと、逃げようなんて考えんなよ?その場合は他の奴が犠牲になるからな」

「吉井や坂本…いっそ女でもいいな。クラス委員とかよ」

 

恐怖を煽っているつもりか、スタンガンのスイッチを小刻みに入れたり切ったりを繰り返しながら坊主頭がゆっくりと近寄ってくる。

 

それを見ながらスマホを横にしてカメラのレンズ部分をこちらに向けるモヒカン。同時にかかってくるわけじゃないようだ。

 

攻め込み役と撮影役役。役割分担はしっかり分かれているが、完全に一致している部分がある。

それは今から行う行為を心の底から楽しんでいるってことだ。俺をボコるか陥れるか、あるいはその両方を。

 

 

「先輩がたよう、こんなことわざ知ってるか?」

「ああ?なんだいきなり」

「命乞いか?土下座して今までのこと謝罪するなら考えてやってもいい」

 

 

「"悪銭身につかず"」

 

 

「不当な手段で得た金銭はすぐに無くなって残らないって意味だ」

 

「教頭の甘言に乗って楽に大学入ろうと思ってたんだろうけど、入学したところですぐに勉強についていけなくて辞める事になるだろうよ。実力が伴ってないもん」

「なっ、」

「っんだとテメェ!!」

「教頭もそれが分かっててお前らに声かけたんだろうな」

 

うだつが上がらないくせに高望みばかりする阿呆ども。

捨て駒に使うには持ってこいだ。

 

「カワイソーな先輩二人に最初で最後のチャンスをやろう。回れ右して二度と俺に関わるな。そうしたら今回のことは不問にしといてやる」

「……状況が分かってねえようだな…?」

 

モヒカン頭がそれまでのゲスい笑みを引っ込めて、怒りに染まった険しい表情を表に出す。

 

「いいのか?流石にここまで行き過ぎた小細工をされたら、俺も手加減はできないぞ」

「どんなことができるかやって貰おうじゃねえか…!」

 

坊主の方も同じく、今にも人を殺しそうな顔で歩みを再開する。

両方とも止まる気はないようだ。

 

じゃあ、しょうがない。

 

 

「しぃねぇオラぁ――っっ!!?」

「どうした夏かわ…なっ!?」

 

 

坊主が『歩く』から『走る』に移行しようと足に力を込めた瞬間、辺りが急に黒く染まる。

 

しかしそれは布や壁で光を遮って作った暗闇ではなく、宇宙そのもののような"黒"の空間が広がっていた。

まあ俺がやったんだけどね。

 

「漫画やゲームの技を再現するのが趣味なんすよ。現実では実現不可能なものなんて特に習得したくなる」

「なんだよこれ!!なんなんだよこれえぇぇっ!?」

 

話聞いてほしーなー。

 

「でもさ、覚えたはいいけど使い道がないってのが結構多くてね。せっかくだから練習台になってもらうぜ」

「なっ、てめ、ふざけんな!!」

 

なんか言われたけど無視。きちんとチャンスはあげたよ?

 

それを蹴ったのはそっち。ケンカを売ったのもそっち。

ならもう、俺の好きにさせて貰う。

 

 

左手の掌を二人に向けた状態で胸の高さに持っていき、そこから斜め左下にスライド。

 

ある程度のところまで動かしたら、今度は地面と水平に右へ空中をなぞる。

最後に起点の場所へ指先を戻せば…指でなぞった軌跡が光の筋となって残り、綺麗な三角形が形作られた。

 

 

「ダミー人形で何度か試しはしたけど、食らったらどうなるのかは俺自身分からん。消えたっきり一度も戻ってきてないから」

「は…?」

「オイそれどういう――」

「帰還できたら感想よろしく」

 

宙に浮かぶ三角形を押し出すと、怪音波のように幾重にも残像を描いて飛んでいく。

前に進むたびにその三角は大きくなっていき、やがて坊主とモヒカン二人共を簡単に飲み込む。

 

「ゴールデントライアングル」

「「うわぁっ!?」」

 

辛うじて普通に立っていた二人は、光が通過するとまるで落とし穴に嵌ったかのように急降下する。

 

 

「うあ、うああああああああああああ!!」

「ど、どこにっ、俺たちはどこに落ちていくんだぁぁーーーーーーーー!?」

 

「さぁな」さっきも言ったが俺もどうなるのかは知らん。

 

だが、

 

 

「今までみたいな自分勝手は決してできないと思え」

 

 

「いやだたすけ」「こんなはずじゃ」

 

遠のく言葉を切り捨てるように技を解く。

 

すると数十秒前と変わりない学園の一角の光景が瞬時に戻る。

ただ一つ、俺が対峙していた人間がいないことを除いて。

 

「おっと、」

 

何事もなく立ち去ろうとしたが、近くにモヒカンのスマホが落ちているのに気がついた。

 

ダメだなぁ、高校生にもなって落し物なんて…仕方ない、きちんと持ち主のところに送っておいてやろう。

 

再び光の三角形を飛ばし、スマホを異次元へと送る。

…果たして時間差で異次元に飛ばしたものが同じところにたどり着くのだろうか?

 

「まあ、いいや」

 

今度こそ足を進めてその場を立ち去る。

 

……そういえば今回のこれって1kill(ワンキル)にカウントしていいのか?

 

 

 




■ゴールデントライアングル
 セイントセイヤ。カノンというキャラの技。
 本家は現実空間で三角形を放ち異次元に飛ばすらしいけど、ナツルのは最初から異次元空間を展開して逃げ道を塞ぎ、三角形を放って対象を飛ばす…アナザーディメンションと混じってる?感じ?
 一撃必殺技だけどある程度の実力者にはもちろん効かない。


そんな感じで常夏コンビ退場。ホントは前の話と合わせて一話だったけど長くなったので分割しました。

 

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