戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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この小説において、R-15は保険。



50時間目 Executioner

〜ナツルSide〜

 

 

「えーっと、以上の理由により…プロレス研究部を…廃部とします……よし、送信っ」

 

自分の腕に着いているデバイスを使って宣言通り、プロ研を潰す手続きをたった今済ませた。

 

メール一通で簡単に部活を廃部に出来るだなんて、楽な時代だな。ちょっと怖くもあるが。

生徒の活動を簡単にどうにかできる権限持ってしまった自分はもっと怖い。権力使うことに慣れてきたのも。

 

 

サークルに属している人間を全員(多分)リングに沈めた後、川神草の効果が切れそうになった。

 

その為急いで人気の無い物陰に逃げ込んだ。

 

とても都合のいいことに、やって来た場所は廃墟と言っていいほどにボロボロに荒れ朽ちた一般立ち入り禁止区域、通称"霊たちの学び舎"と呼ばれる所だ。

嘘か真か実際にここで幽霊が目撃されたとか…雰囲気あるからいてもおかしくはないけど。

 

しかし割と最近出来たはずの学園になぜこんな廃校舎があるのだろうか。謎である。

 

閑話休題。

 

M-1会場はフォローゼロだったから大騒ぎだろう。まあどうせ今日を持って終わる団体の企画だからどうなろうと構いはしない。

 

それよりいい感じに時間が潰れたな。召喚大会まであとどれくらいだ?そろそろ行くか。

 

……待てよ?

 

よく考えたら行く必要なくね?どうせ負けようと思ってたし、このままバックれても問題ない…だろ。

 

強いて言うなら雫会長サマに睨まれるが、言うてもその程度だ。数日もすれば忘れる。

 

あとの懸念は…もしも会長が勝っちゃったら超気まずい状況で決勝に引き摺られて行くだろうって事だが、流石に準決勝まで勝ち残ってきた相手に一対二で戦えば向こうに軍配が上がる筈だ。

 

よーし、そうとなったら思いっきり祭りを堪能するかー!食い物とか片っ端から大量買いして、イベントリに入れて食べ比べしよう!

 

 

「あっ、いたっ!ナツル――」

 

 

―――瞬間、俺は駆け出した。

 

 

「うぉい!ちょっと待てよ!!」

 

しかし突如進行方向にガタイのいい男が現れ、行く道を塞ぐ。

 

見敵必殺!スピードを緩めることなく拳を固めっ腕を大きく引いて――!

 

「いやお前マジで待っ」

「グレイテストコーション!!」

 

――勢いよく突き出した拳から、まるでドラゴンのブレスのように"気"が放たれ男を襲った。

 

「ごぶぇっ!!?」

 

へっ、汚ねぇ悲鳴だ。

 

トラックに跳ねられたかのように吹っ飛んだ男を無視して、その横を通り過ぎる。

 

ところを弓矢が突然飛来し強制的に足を止められた。

 

「はいストーップ。私たちだよ」

「……椎名か…」

 

ごく普通な感じで、先ほど別れた少女が弓を構えたまま校舎の窓(一階)から姿を現す。

一瞬幽霊が出たのかと思った。場所が場所だしこいつ無表情だから…

 

そしてよく見たら今倒したのは島津だった。

一応加減はしたつもりだけどピクリとも動かない。大丈夫かな?

 

 

まぁ、そんなことより。

 

 

「お前今こめかみ狙わなかった?」

 

俺の頭と同じ高さの真横の壁に突き刺さっている矢を指差しながら椎名に問いかける。

 

「信頼してるんだよ。瀬能なら当たるはずないって」

「都合のいい言葉だよな信頼って」ちょっと嬉しいのが悔しい。

 

 

でも矢を三本も射る必要は無いんじゃないかね?

 

 

いくら先端を潰してあるからって一発でも当たれば致命傷だぞ。やっぱり怖いよこの子。

 

「で、今度はどんな用かねみこやん」

「用があるのは大和だよ(みこやん…)」

 

直江〜?何アイツまたなんか厄介ごと運んできたの?

 

清涼祭始まってから何度目だよ……よくよく思い返してみれば俺、奴から厄介ごとしか頼まれごとされた覚えない。

 

頗る腹が立ってきた。いつか復讐するリストの上位に載せておこう。

 

 

「おーい、ナツル!」

 

 

先ほどかけられたのと同じ声で再び名前を呼ばれる。

そうかこれ直江の声か。通りで聞いたことあるなと思う訳だ。

 

声のした方へ顔を向けると、小走りに近寄ってくる男が一人。

 

無防備に手の届く範囲にまで来たところでとりあえず腹パン。

 

 

「なぜっ!?」

「いやなんとなく」

 

 

強いて言うならちょっとイラッとしたから。

 

「で?なんの用なんだよ。俺これから召喚大会で忙しいんだけど」

 

どうせ行かない用事を堂々と言い訳に使う。最近理解したがコイツの相手はちょっと嘘つくぐらいがちょうどいいんだよな。

 

「ぇほっ……その召喚大会に関連することだよ…ごほっ」

「…………」

 

選んだ言い訳はハズレだったようだ。

 

直江は打たれた箇所(腹部)をさすりながら尚も言葉を続ける。

 

「ふー…詳しくは後からやって来る吉井と坂本の二人に聞いてくれ」

「? お前が説明するんじゃねーのかよ」

「長時間クラスの方を空ける訳にはいかないからな。それに…気絶してるガクト運ばなきゃいけないし」

そう言って地面に転がっている男を指差す。軟弱者めがっ、

 

………って言うかー。

 

「暇じゃねえっつってる人間への説明を後陣に託すってどうなの?大丈夫?俺おつかいクエストみたいにたらい回しにされない?」

「もともと相談したがってたのが吉井たちだから、他の人の所に話を振られることはないだろ」

ならもっと早くに来いよ。今までいくらでもチャンスはあっただろ。

 

「おーい、ナツルー!」

 

俺の心の文句をよそに島津を担いで立ち去っていく直江と椎名(俺を射るためだけに再登場したのか?)を見送っていると、さっきと同じようなセリフで背後から呼びかけられる。

 

振り返ると吉井が手を振りながら小走りに近寄ってきていた。その後ろには坂本。

警戒心のかけらもない無防備な姿。その胴体にとりあえず貫手。

 

「はごっ!?…かっ、ひゅ、…ゲホッ!」

「…なんで攻撃したんだ?」

「いやなんとなく」お約束かと思って

 

しばし無意味に坂本と無言で見つめ合う。

先の二人とは違って中々手の届く範囲にやって来ない。多分こちらから近づいたら即座に逃げるだろう。

 

チッ隙がねえ。あと数歩踏み込めばコイツも被害者四号にしてやれるのに…

仕方ない、本題に入ろう。

 

「それで?俺に用ってなんだよ」

「それを話す前にまず明久を起こそう」

 

言うが早いか、いつの間にか気を失っていた吉井を文字通り叩き起こし蘇生(※死んでません)させる。

 

坂本君ヒドい!友達に対してそんな乱暴な…良心は痛まないの!?

 

え?お前が言うな?ハハっ、何をおっしゃるウサギさん。ぼかぁこの学園において友達と思ってる奴は一人もいない。

 

 

「ヘボッ!?はっ!…あ、あれ?おじいちゃん?おじいちゃんは?僕が小さいころに死んじゃったおじいちゃんは?」

「何言ってんだお前は(臨死体験か…)」

「いつまでも寝ぼけてんなよ(死んだって自分で言ってんだから気付けよ。自分が死にかけてたことに)」

 

 

 

知り合いが死にかけたのに酷くて薄情なクラスメイトたちである。by作者

 

 

 

「で、要件はなんだ」

 

またなんか話がわき道に逸れそうになってきたので、無理やり本題に戻す。いい加減尺の無駄だ。

 

「そうだな、時間もないし。明久、言ってやれ」

「あ、うん。えっとねナツル、ちょっとお願いがあるんだけど…」

 

今までとは打って変わって真剣な表情を見せる吉井。

なんだ、一体何を言うつもりだ?

 

 

 

「召喚大会で準決勝を勝ち上がって、決勝で僕たちに負けて欲しいんだ」

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

「ワンモア」

「召喚大会で準決勝を勝ち上がって、決勝で僕たちに負けて欲しいんだ」

 

本当に一言一句違えずに言いやがった。

 

「あのな吉井…知らないかもしれないから教えるけど、俺は八百長が だいっ嫌いなんだ」

「ん?そうなのか?」

 

そうなんです。

 

 

この前も体育の授業で、なぜか合同という形で尚且つ模範試合で対戦することになったにょわにょわ(※不死川 心)が『金をやるからわざと負けろ』とか尊大な態度で交渉を持ちかけてきやがった。

 

始めはやる気もなく女子相手(しかも見た目が幼女)ということもあって言われるまでもなく負けようと思っていたのだ が、その一言で頭に血が上ってしまった。もともと体温高い上に沸点低いからな俺。

 

結果。畳に思い切り叩きつけ(きちんと背中から落としたよ?それぐらいの理性はあった)、終いに瓦割りの要領で直下突きを放ち、相手の顔面すぐ横の地面に穴を開けて反則負けになった。

そしてにょわ子は尿子になった。

 

 

「不死川が不登校になったの絶対お前のせいだよな」

「むしゃくしゃしてやった、はんせいしてないこともない」

「棒読みじゃねえか」

だってあの日から暗殺紛いなことばっか起きるんだもん。

 

学園内ではやらないみたいだけどそろそろ実家も巻き込むくらいされそうな気がする。対策考えなきゃ。

 

「さて、ここまで説明した上で尋ねよう。吉井、今なんつった?」

 

返答次第ではタダじゃおかねーぞ、と睨みつけるように視線を鋭く尖らせて次の言葉を待つ。

 

それに対して吉井はキッと覚悟を決めたような真剣な表情を作り、再び口を開いた。

 

 

「ナツル、準決勝で勝って決勝で僕たちに負けてよっ!」

 

 

「長々と撤回の機会を与えてやったのになんでそのまま言うんだテメーは!!!」

「ぐぇぇっ!!?」

 

意図して行った訳ではないが、1フレームキル並みのスピードで吉井の胸ぐらを掴んでそのまま持ち上げる。

 

「そんなに死にたいなら望み通り殺してやらぁっ!このままキサマを頭から回ってるファンに突っ込んで血祭りに上げてやる!辞世の句を読め!!」

「ぎゃー!殺戮鬼!?」

喜べ、お前が一人目だ!

 

周りを見回して処刑に適した物を探すと、勢いよく回転しているエアコンの室外機らしきものが目に入る。

 

この辺は電力が来ていないのになんで作動しているのか――なんてことは勿論考えない。おあつらえ向きに外枠が外れててファンがむき出しだ。

 

「落ち着けナツル、明久がバカなのは覆しようのない事実だがバカな頼みごとをしたのには理由があるんだ」

「そうかよ!」

 

あえてゆっくりと室外機に吉井を近づける。恐怖を煽るために。

 

天井から吊るすようにぶら下がっているっていう配置も悪くない。処刑のシチュエーションにはもってこいだ。

 

「だから待てって、訳を聞け!」

「聞いてやるよ。真っ赤な花を咲かせた後にな!」

「咲くと同時に散るだろ!それじゃ遅いんだよ!」

 

お前今うまいこと言った!覚えてたらいつか使おう。

 

 

「ぃやぁぁーーーー!!待ってまってお願い待って!!」

 

室外機に後頭部が近づき、巻き起こる風でバサバサと髪が乱れる。

自分の末期を悟ったのか、顔が真っ青だ。

 

「そのような情けない遺言を残すのはお前ぐらいだろうよ」

「まってぇーーーーーー!!じ・事情がっ、事情あるんだよー!」

どうせ優勝商品のチケット目当てだろ。

 

 

「このままだとっ、姫路さんが陰謀で学園の転校がお父さんをスキャンダルしてババア長を無くなっちゃうかもしれないんだよーー!!」

「明久…焦ってるのは分かるがそれじゃ意味が分からんぞ」

「何っ!?姫路が転校させられる上に学園が無くなる!?おいどういう意味だ、詳しく話せ!!」

「なんで今の台詞でそこまで正確に理解できるんだ!?」

 

 

パトス…かな。

 




■グレイテストコーション
 セイントセイヤ。ワイバーンのスペクター必殺技。この作品では変形かわかみ波みたいな扱いかも。
 前にナツルが言っていた使い所が難しい技その二。


ふぅ、保険が無かったら死んでたぜ…!
原作一巻での坂本との似たようなやり取りも、ウチのさわやかなゲスがやるとあわや大惨事。やだこの子怖すぎ。

次回は説明回。ギリッギリで現状の説明とか遅すぎる。

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