ついカッとなってやった。でも後悔はしていない。
〜???Side〜
あーあ、拍子抜け。
『また一人挑戦者が倒されたーーーーーーー!!強い!!強すぎるぞチャンピオン!!!その華奢な身体のどこにそれほどの強さを秘めているのか見当もつかない!!誰がこの女を止められるのかぁーーーーーーーー!!!?』
野外に設置された特設リング。そのコーナーポストに背中を預けて、叫びに近い実況を聞き流す。
そして今倒した挑んできた男の人が担架で運び出されるのをボーっと見つめる。
私の倍はありそうなムキムキとしたマッチョな肉体。でも正直、見掛け倒しで全く興味がそそられなかった。
っていけないいけない。筋肉に貴賎なし!
うーんでも、やっぱり……あーもう!やんなっちゃう!
私は筋肉が好き。
男の人でも女の人でも、必ず初めは筋肉の付き方を見てしまう。
考えるのも大概筋肉について。肉が付きにくい体質なのか私自身はマッチョって訳じゃないけど…
そんな事ばかりしていたせいで、両親や昔の友達からは気味悪がられている。
はぁ……この学園に転校する予定だったけどやめようかなぁ……噂の川神百代って人も見たけどイマイチピンとこなかったし。実力・筋肉・見た目全部高水準だけど性格がちょっと…見つけたとき人に食べ物たかってたし。
ここは色々な人がいるから退屈はしなさそうだけども…勧められてる秀尽学園の方に行こうかなぁ…
変な人が多い神月学園なら私の趣味もあんまり気にならないかもって思って来てみたけども、敷地が広い以外は他とあまり変わりなさそう。
武道や格闘技なんかと全く関係ないところに行って、普通な性格に改善した方がいいのかな………
『え?…おぉ、な、なんとここでビッグサプライズ!!強いチャンピオンの快進撃を止めるため、学園最強が挑戦者に名乗りを上げたぁっっ!!!』
ぇー、まだやるの?
興奮した様子の実況の台詞に思わずため息が零れる。
確か2・3人くらい前に対戦した相手(シマズ、だったかな?)が去り際に「この学校1番の奴を連れてきてやる!」とか言ってだけど、あれって本気だったんだ。
1番ってさっき言ってた川神百代って人かな?確かに見た感じ私じゃ勝てないだろうけど…
そんな人と戦っても楽しくもなんともないわね。試合開始と同時にギブアップして帰ろっかな。
リングの赤コーナーで待っていると、対角線上から一人の人間?が歩いてくる。
人間?て思ったのは、その格好があまりにも不自然だったから。顔は狐のお面を付けてて見えないし、それ以外は大きな黒い布ですっぽり覆われていて体型すら分からない。
あれがこの学園で1番強い人?
『ある者は言う、彼女こそが現代の戦神だと。またある者はこう言った、自らの未熟さを性根に合わせて教え導いてくれると。それの証拠に武力に物を言わせて我を通してきた者には苛烈に、それ以外の相手には怪我をさせずに勝利を収めています!』
『学園で姿を見ることは稀で決闘は予約制ですが、挑戦する者は後を絶たず試合は毎回満員御礼!最近では学園の生徒以外でも試合を申し込む人間がいるとかもっぱらの噂です』
『彼女の人気は義経ちゃんを軽く上回りますからねー。私もぜひお相手して頂きたい』
いたんだ解説の人。
マイク越しに聞こえてくる声が急に変わったからびっくりしたよ。さっきまで実況席に一人しかいなかった筈なのに、いったいいつの間に現れたんだろう。
それにしても1番の人遅くない?姿見せてから1分くらい経ったけどまだ花道の途中だし。もしかしてリングに上がるの嫌なの?
『挑戦者リングインに時間がかかってますね。どうかしたんでしょうか?まさか体調が…』
『焦らしプレイですね。嫌いじゃないです』
急に1番の人の歩くスピードが上がった。
『ご褒美ですね、ありがとうございますっ!』
…「あの実況●してやる…」ってなんか物騒なつぶやきが聞こえたけど……怖いから気のせいだったってことにしよう。
そうこうしてるうちに相手が青コーナーのすぐ側までやって来た。
そしてロープに触れる事なく、文字通りひとっ飛びでリング内に入る。
飛び上がる瞬間も着地のときも、音が全くしなかった。この人凄く強い…!
『
実況のアナウンスに合わせて、相手の人が身に纏っていたマントを豪快に脱ぎ捨てる。
「はぅわっ!」その全貌を一目見た瞬間、思わず変な声が出た。
けどしょうがない、だって、
強靭かつしなやかそうな筋繊維!鍛錬を積み重ねながらもそれを否定するかのような脂肪のつき方!!
これは幻なの?1番の人―――冴島さんの身体、皮膚が透けてその下が輝いて見える!!
き…極め付けは…自分には無駄な部分など一切無いと言わんばかりの堂々とした態度!
こんな…こんなの……!
「ずるい…」
「?」
ぱたっ…
『オーットこれはどうしたことだーーー!!?チャンピオンいきなりのダウーーーーン!!?』
実況を始めとした周りの音が急速に遠のき、意識が薄れていく。
でもそんなことはどうでもいい。
私、絶対にこの学園に転校する。
あんなすごいの見たらもう他のとこなんて考えられない…
〜〜〜〜
これから先二年間卒業するまで、あるいはそれ以上の間。冴島として瀬能としてこの少女と長い付き合い―――付きまとわれるとも言う―――になることを、この時のナツルはまだ知らない。
☆ ★ ☆
〜ナツルSide〜
これから闘おうとしていた相手がいきなり前のめりに倒れた。
『放送席――いや観ている全員が、冴島選手がどうやってチャンピオンを倒したのか見ることができなかったーーーーーー!!!これが学園最強の実力なのかーーーー!!?』
何もしてないんだけど。
使われてない空き教室から拝借した黒カーテンをマント代わりにして、それをパージしたらいきなり気絶しやがった。意味がわからない。
つーかチャンピオンって女?プロ研の出し物っていうから無意識に男だと思ってたわ。
今まさに担架で運ばれていくけど格好がすごい。体操とかで使うレオタードに目元を隠すアイマスク姿ってホントに外部の人間?アレ全部私物?あんなの持って学園祭に来たの?なんで?
島津とかが負けたのって別の理由なんじゃなかろうか……
『その辺りも混じえて、勝利した冴島選手にインタビューをしたいと思います!冴島選手、今のお気持ちは!?』
なんかいきなり実況が自分勝手なこと言いながら近づいてきた。
『近くで見ると本当、拝みたくなるほど素晴らしい肢体ですねー。私もお相手していただきたい』
ちょっと、聞きようによってはセクハラとも取れる発言しながら
『冴島選手!新チャンピオンとなりましたが今のお気持ちは!?先程は一体何をされたんですか!?』
『お面で隠されているから妄想が止まりませんね。悶々とイメージするのも悪くはないですがやはりお顔を拝見させていただきたい』
『今日はなぜ急に出場を!?我がプロレス研究部へ入部を決めてくれたのでしょうか!?』
『香水とか使ってます?…いえ、コレは違いますね。女性特有の香りといいますか…ああ!顔を見ていないにもかかわらず私っ、あなたの匂いだけで一目惚れしてしまいました!どうかお近づきの印にお手合わせ願いたい。寝技や関節技多めで』
…………………
無言のまま今もマシンガントークを続ける二人組に手を伸ばす。
『おっ?』『え?』
右と左で別々の頭を、親指と小指をこめかみに引っ掛けるように掴み―――
「『フンッッ!!』」
剛力の極み ×2 !!
ドゴッッッ
『『ゼボッ!!??』』
思い切り地面に叩きつける。
勢いが強すぎて海老反りでリングに生える不気味なオブジェが出来た。(ふたつも)
「『何故ここに来たのか、か…』」
声色を使って喋りながら、床の穴から両手を引っこ抜いてゆっくりと立ち上がる。
「『知りたいなら教えてやろう、プロレス研究部なるこの学園に相応しくない集団を潰しに来たのだ!!』」
「なっ、」
「えぇっ!?」
「『抗いたければ今すぐリングに上がれ!!一人二人などとの遠慮はいらんッ、文句がある奴全員かかって来い!』」
突然の物言いに観戦していた連中は唖然とした様子を見せる。
しばらくして状況を理解したのか、明らかに関係者と思われる屈強な男たちの顔が険しくなっていく。
ぐるりと辺りを見回すと殺気立つ奴らが何人も…意外と多いな。プロ研って大型サークルだったのか?
視線を動かした際に電光掲示板が目に入る。
そこには先程戦った(戦った?)チャンピオンの女の名前が表示されていたが――俺の背後から早速一人リングに上がってきたので無視した。
「隙ありィ!!」
「『無いわ馬鹿が!』」
喜べ、貴様が(犠牲者)一人目だ!
〜〜〜〜
狐のお面を付けた人間が4メートル四方のリング上で大勢の人間を相手に大立ち回りを演じていて、それを遠巻きに見て熱狂に酔いしれる観客たち。
その喧騒から離れた場所でひっそりと、電光掲示板に文字が記されている。
プロレス研究部主催 M-1 グランプリ 現チャンピオン 芳澤かすみ
ただ今 21 人抜き!!
発売前なら性格改変してもいいかと思って。P5リメイク版より登場する新ヒロインは病的筋肉フェチ。アト◯スさんごめんなさい。
もともと主人公に絡む筋肉マニアの構想はあったけど、キャラが思いつかなかったからお蔵入りしてました。埃かぶって忘れさられてたほうがかすみちゃん的にはよかったかも。
ちなみに彼女の眼はとても優れていて、まるでサバイバーに攻撃されたジョリーンのように相手の身体の長所が輝いて見えます。(例えがよくわからん…)
ナツル(冴島)の肉体は世界でもトップクラス。だからモモさんに勝ち越せるんだね!