戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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今回初めてハーメルンのフォント機能使ってみました。
中々しっくりきたからこれからも機会があれば使ってみようかな。


46時間目 Month

 

 

「…ウップ………食い過ぎた……」

 

胸焼けのする腹を押さえながら人通りの多い廊下をふらふらと弱々しく徘徊する。

 

 

つい先程の農耕部の出店での食事。ステーキの代わりに頼んだチーズケーキは数はそのままと判断されたのか、ふた皿来た。それを完食したらこのざまさ。

 

許容量見誤ったぜ…丸一日ぶりのまともな食事だったからな…

しかも新鮮なミルクから作られてるらしいからすげえ美味かったし、調子に乗ってペロっと食べてしまった。反省はしない。

 

だけどちょっと後悔はしてる。

もう肉を入れるスペースが無い。この調子だと昼飯は抜きだな。

 

 

ム"ー

 

 

意気消沈ながらも歩み続けていると、いきなり左腕に振動が走る。

 

メールか?もはや自分の携帯じゃなくこのデバイスが主な連絡手段になってる気がする。借り物なのに。

 

…………借りパク、という言葉が不意に頭に浮かんだ。

 

「まあ無理だけどね」

 

軽口を叩きながら端末を操作して、メールを開く。

なになに…

 

 

ステイ(待て)

 

 

…………ぬうがうりぃや((なんだこれ))

 

えー……っと…?なんなんだ一体。訳がわからない。

 

宛先も件名もない。スパムメールか?それにしたって意味不明過ぎる。

無視だな。

 

 

ム"ー

 

ステイ(待て)

 

 

…また来た。

何これ。なんなんだホント。ちょっと怖くなってきたんだけどマジで。マシンでも入ってんの?

 

従うべきか否か……ゲームとかだとこういうの言う事聞いた場合ロクなことないよな。

 

やっぱり無視しよう。

 

 

 

こ こ に い ろ

 

 

 

「怖ッ!!」深●廻!?

 

なんなんだよさっきから!?マジで意味わかんないよ!

てかこれ確実に俺の行動逐一把握してるよね!どうやってんの!?

 

……メールの送り主美鶴先輩なのかな。それなら宛名とかなしに直接メッセージ送れるのも説明がつく。

 

しかしこんな事してどんな意味が…?この場所に何があるっていうんだ?

 

 

 

ピンポンパンポンっ♪

 

 

 

『2年Fクラス瀬能ナツル、2年Fクラス瀬能ナツル。至急学園長室に来なさい。繰り返します。2年Fクラス瀬能ナツル、至急学園長室に来なさい』

 

 

 

ピンポンパンポンっ♪

 

 

 

突然響いた館内放送に人波の流れが止まった。

 

しかしすぐに自分とは無関係と分かって、滞りなく流れだす。俺がいるところを除いて。

 

一部の人間(制服を着てる奴)がこっちを見てるな…まぁ気にしなくていいだろう。

 

それより……このタイミングで呼び出しか。正直昨日の件があるから嫌な予感しかしない。

部屋行ったら警官がいて即任意同行の流れになったりして…バックレようかな。

 

 

い け

 

 

ダメだ、逃げられない。

心なしかさっきより文字の圧が強い。

 

「仕方ない腹を括るか…」

 

幸か不幸か今いる位置から近いしな。

だからここで待機させてたのか?掌の上で転がされてる感がハンパねぇな…

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

・学園長室前廊下

 

外部から大量の一般人が入ってきてはいるが、この辺りは店が無いので割と静かだ。それでもちらほらと人影が見えるが。

 

「失礼しまーすよっ、と」

 

ガチャっとドアノブを回し中へ入る。

 

 

「おや、意外だね。素直に来るなんて」

「む、随分早いの」

「………」

 

 

嘲笑・驚き・黙認。三者三様のリアクションが俺を出迎える。

 

 

イヤイヤイヤ、なんで三人いんの?

 

学園長のババアがいるのはいいよ?腐っても部屋の主だから。

 

でもあと二人は…川神のジーさんと美鶴先輩の親父さんじゃねーか。なんでこんなとこにいるんだよ。

 

「こんなとことは随分な物言いだね。アタシは結構気に入ってんだよ」

「おのれ妖怪ババア。人の心を読むとは」

「口に出ておったぞい」

 

治んねえなぁこの癖。

 

「で、なんの用すか学祭中に」

 

両隣に二人侍らせて、エヴァの司令みたいに机に腰掛けているババアに担当直入に問いかける。

 

「見当はついてるんだろ。昨日の件さね」

 

昨日…昨日か。

 

 

執事服(コスプレ)は俺の趣味じゃねーっす」

「それじゃ無いよ」

 

「じゃアレっすか、衆人環視の中モモ先輩にギロチンチョークで落としたことっすか。アレは不可抗力」

「その件でもないわい」

思い返してみると結構多くって逆に分かんねーや。

 

 

「いつまでもとぼけるんじゃないよ。夜に起こしたことって言えば分かるだろ」

あーそれかー(棒読み)

 

「なんのことやら」

「…隠したい気持ちは分かる。が、娘の美鶴が物事の大まかな事情を聞いているのだ」

 

そう言って眼帯をしたおっさんが足元から何かを持ち上げる。

デカイ透明な袋に詰められた俺のカバンだ。

 

「昨夜火災現場で警察に押収された物だ。桐条グループの方で手を回しておいたから君に捜査の手がいくことはない」

「はあ」そりゃよかった。

 

どうすっとぼけようか考えてたんだ。これで悩まずに済む。

 

「なんか、すいませんね。お手数かけちゃったみたいで」

「いや、元はと言えば私たちの考えが至らなかったせいだ。…申し訳ない」

 

隻眼の人に深々と頭を下げられた。

…桐条先輩の父親にこんなことさせたってバレたらヤバいんじゃなかろか。あの人のファンクラブとかあったよな確か。

 

「気にしてないっすよ、えーっと…」

「そういえば自己紹介がまだだったな。桐条グループ総帥の桐条武治だ」

「アタシは神月学園学園長の藤堂カヲルだよ」

「そしてワシがラブ☆テッツンこと川神鉄心じゃ」

 

 

ジジイが(ピー)したいほどうぜえ。

 

 

「なんで二人も自己紹介したんだよ…」

「主張したい年頃なんじゃもん」

 

 

明治以前から生きてる奴がほざいてんじゃねーよ。納骨すんぞ。

 

 

「川神のジイさんがどうしてもやりたいって言うからね。ま、アンタみたいな頭の悪いクソガキは顔を合わす度に教えとかないとすぐに忘れるからちょうどいいさね」

「あなたしつれいですよ」

誰が頭の悪いガキだ。

覚える必要を感じないだけだ!

 

「つーか用事ってそんだけすか?ならなんで学園長とジーさん居るのよ」

要件の内容的に必要なくない?

 

「それだけ……?殺されかけたんじゃないのか!?」

 

日常茶飯事です。今朝も死にかけたし。

 

「秘密裏に素早く解決したと言っても、生徒が拉致されたんだ。アタシがいるのはおかしくないだろう」

「ワシも、最高責任者の一人としてこの場にいる義務があるのじゃ」

 

最高責任者の一人って…そういえばこの神月学園は複数の有力財閥が共同で出資して設立された結果。学長というか理事長というか、とにかく本来一人だけの役職に複数の人間がついてるって前に会長から聞かされたような気がする。

 

ババアが学園長でジーさんが学長で…あと何人トップがいるんだよ。円卓の騎士か。紛らわしい。

 

 

「アタシらは役職的には対等だけど、立場で見れば雲泥の差がある。研究者、武流派の師範、多国籍企業の総帥」

「なんすか突然」

「アンタが新型機械のテスターに選ばれたって知ったのは今朝さ。拉致の被害者にも、一歩間違えたら殺人の犯罪者になってたってことも一緒にね」

「情報伝わるの遅くなーい?」

 

報告・連絡・相談(ほうれんそう)は素早くって組織の基本だろ?少なくとも俺は会長にそう叩きこまれたぞ。

いやもう…万年筆でがっつりと。

 

 

「耳が痛いのう…」

「………」

「アンタの言う通りさね…大人ってのは、問題がどうしようも無い所の一歩手前にまで迫っているのに、見栄を張って自分だけで解決しようとするのさ。他の陣営の奴に弱味を見せまいとしてね」

 

沢山の超大手が関わってるからバランスが崩れたら学園の気風がガラッと変わっちまうから、しょうがないっちゃしょうがないんだろうけどな。

嫌いじゃないよ?今の学園。

 

 

「でも無関係な人間を巻き込んでまでプライドを優先させる訳にゃいかないよ。だから信用できそうな人間には事情を話すことにしたんだ。ここに居るのは秘密を共有してる仲さ」

「三人しかいねえのか?生徒会でももうちょい多いぞ」

「時間の都合と秘密の内容上これが精一杯だったのだ」

 

秘密の内容がちょっと気になるけど、教えてくれないんだろうな。

 

「情報が漏れている以上、これからも狙われることがあるだろう。可能な限り君や周囲の人間に危険が行かないようにするつもりだが、それもゼロではない。なので一旦君のデバイスを外そうと思ったのだが…何故かロックが掛かっていて遠隔操作ができなくなっていた」

「は?」

 

今なんつったこの眼帯。

 

ソウサガデキナイ?えっなに、じゃあコレ外せないの?

重さも感じないし違和感もないんだけど、美鶴先輩にリアルタイムで監視されてんだよね。無茶苦茶気分悪いんですけど。

 

「不便を強いるのは心苦しいし申し訳ないが…電子ロックを採用してるから鍵はない。さらに色々な素材を使っているせいで強度が計り知れず、装着者に被害無く外すこともできないのだ」

 

モモさんの一撃も充電に変えちゃうくらいだしな…

 

「まぁお主なら問題ないじゃろ」

「否定はしないけどあんたが言うなよ」残ってる頭の毛を毟り取るぞ。

 

「アンタがデバイスを持ってるって情報がどこから流れたのか、大体予想はつくよ。瀬能、お前さん昨日色んな奴に絡まれただろう」

「あぁ?まあそうだな。人混みでスリに絡まれたりクラスメイトといる時にバットとか持ってる奴らに絡まれたり一つ年上の先輩に試合中絡まれたり教室でチンピラに絡まれたり」

「そんなに絡まれてたのかい…」

 

がたんとババアが椅子から立ち上がる。

そして改めて俺に向き直り――深々と頭を下げた。

 

「アンタなら力づくでもっと楽に解決できただろうに、穏便に済ましてくれて感謝するよ」

「穏便…」衆人環視の中プロレス技で女を失神させるのは穏便なのかな。

「それと、迷惑かけて本当にすまなかったね。目立つ見た目に短絡的って噂の性格、おまけにそのデバイス。狙う理由が揃いすぎててアンタに全て集中しちまったみたいだ。…これからはもう、アンタの手を煩わせないことを誓うよ」

「? それってどういう…?」

「藤堂の、しかしそれでは――」

「黙んなじいさん。それ以上口を開くんじゃないよ」

 

学園長は下げていた頭を上げて、川神のジイさんを鋭い目で睨みつける。

 

「コイツは無関係なんだ。こっちの都合で巻き込んだってのに、これ以上巻き込めるわけないだろう。我慢して耐えて貰っただけで充分だよ」

「藤堂……」

「心配しなくてもアンタらに迷惑はかけないよ。たとえ最悪な結果になっても、責任は全部アタシが取るさね」

 

 

なにやら複雑な事情があるご様子ですね。シリアスで居心地悪いや。

ま、俺にゃあ関係ないだろうけど。

 

しかしこのままいくと流れ的に川神のジイさんも俺に謝罪するのかね。

いやむしろ真っ先に詫びるべきなんじゃなかろうか。主にモモさん関連で。

 

大体週に一・二回のペースでいつも迷惑被ってるんだけど。ストレス発散みたいな理由で試合させられて。

それで毎回身体のどこかしらに怪我をさせられるが、そのことについてただの一度も謝罪されたことがないんだ。孫の方にも。

 

おかしいよね?

 

この前なんか胸骨を亀裂骨折させられたんだけど治療費のひとつも渡されなかったよ。学祭の準備期間中だったんだけど。

 

おかしいよね、絶対におかしいよね?なんか思い出せば思い出すだけ腹が立ってきた。

このジジイ、孫共々いつか酷い復讐してやる。

 




■マシン
 パーソンオブインタレストって名前(うろ覚え)の海外ドラマに出てくる万能機械。ナツルも見てたのかな。

■深●廻
 日本一を自称するソフトウェアから発売されているホラーゲーム。アレのプレイ動画見て夜歩きに興味を持った自分がいる。


学園長による謝罪回。だけどなんだろう、川神祖父&孫のせいで他の人間が空気になってるような…まあいいや。

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