「そういや吉井は？」
「明久？それなら
坂本が振り返った時、そこには誰もいなかった。
つい先ほどまで、木のマスクを被されて寝っ転がっていた吉井明久。その姿は影も形もない。
「いないみたいだけど」
「あれ？おかしいな。確かにさっきまでそこに…」
「人は策を弄すれば弄するほど、予期せぬ事態で策が崩れる」
『！？』
突然背後から声がして、振り返る二人。
そこには奇妙な木製の仮面をつけた、少年が立っていた。
「人間の能力には限界がある…それが僕の短い人生で学んだことだ」
「明久…？」
「お前何言って――」
ドゴンッッ！！
ナツルが口を開いている途中で、一陣の風がその脇を駆け抜ける。
それとほぼ同時に、隣に立っていた坂本が猛スピードで壁に叩きつけられた。
「…は？」
振り向くとそこに、殴った後の体勢で停止している吉井の姿。
「だが僕は手に入れた…ナツル、キミがくれたこの仮面から！こんな素晴らしい力を！」
彼はゆっくりと体勢を戻し、愉快そうに雄叫びを上げる。
「僕は今、人間を超越したゾーーーー！！ナツルーーーーーーーー！！！」
…顔に装着しているもののデザイン故に、いまいち危機感を覚えづらい。
しかし黒板にめり込んでいる坂本の姿を見ると、凄まじい力を得たのは間違いないだろう。
時折かすかに震えはするので死んではいないようだが、普段の吉井では考えられない威力である。
「そんな…！俺が、俺の作品がっ、こんな魔物を作り出してしまったなんてっ！」
「魔物？おいおい魔物は酷いなぁ、超越した人間なんだ。超人と呼んでよ」
笑っているのか、肩を小刻みに揺らしながらも拳を構える吉井。
「雄二を瞬殺したこの力で…次はお前だ！ナツル！！」
「あの吉井がこんなになるなんて……」
苦しげな表情を浮かべ、対峙するようにファイティングポーズを取るナツル。
「俺の責任だ…俺がパトスの赴くままに作った物が原因なら、俺が戦わなければ！」
「ただ異常なだけのキミに、この僕をどうにかできるか、バカめ！！」
るヴォッ！！と風を巻いて、自分より頭一つ分身長が高い男を殴り飛ばした拳が勢いよく振るわれる。それも二つ。
左右から迫り来る攻撃にナツルは、
ガシッ
一歩
「………え？」
「舐められたものだな。たかだか少し、人間を外れた程度で俺を倒せると本気で思ってるのか？」
先ほどとは違い、厳つい雰囲気で目尻を釣り上げるナツル。
腕を捕まえたまま、上体をゆっくり逸らしていき――
「ツァー！！」
「へべッ！？」
ブリッジで吉井を上空に弾き飛ばす。
「ツァー！！ツァァァッーー！！」
さらに自分も飛び上がり、追撃するようにブリッジで何度も跳ね上げる。
「なっ、なにを！？」
「教えてやる、怪物たる俺と人間であるお前の差を！！」
一定の高さに達したところで、吉井の身体のあらゆる部位を荒々しい
「パギャァ！！」
「喰らえ、パーフェクト・セカンド奥義――」
降下とともに、拘束を解除。
即座に背中合わせになって、相手の両手を自分の両手で掴み、相手の両足に自分の両足を絡ませた状態となる。
そう、それは文字通り"必殺"を前提とした、非常に高いテクニックを要求される幻の技。
「アロガント・スパァァァァクッッッ！！！」
ガガァァンッッ！！
「ニャダバァッ！！」
「…これで今夜も安心して熟睡できる」
〜〜〜〜
ナツル「なんか吉井がビクンビクン痙攣してるぞ」
雄二「悪夢でも見てるんだろ」
4/1ということで何か特別な番外編とか書いてみたかった。しかし時間がなかったので昔タワムレに書いた話をＵＰしてみました。
『戦士』は『ｔ！』がひと段落しないと書けないかなー多分。
構想自体忘れたから完全に真っ白ですわ…