戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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36時間目 キレる男

「ロビィンってお前…カぁビィ関係無いじゃないか」

「オプション付けるとレスラーに進化するんだ」

「オプションってそのマスクか?」

 

ナツルがどこからか取り出した鉄兜(素材は木)には、キチンと採寸したようでビィ人形の頭に合うような形をしている。

 

でも柔軟さがある生物ならともかく、完全固形の木彫りに装着できるのか?耳とか絶対引っかかるだろ。

 

「ナツル。試しに被せて見せてよ」

吉井がリクエストを出してくる。いつの間に目覚めたんだ?

 

「おお、いいぞ。変身!ロビィンマス…マス……くっ…変だな。入らなっ、いっ、」

「当たり前だろ」

 

苦戦するナツルを前に、坂本が冷ややかに答える。俺も同意見だ。

 

「…これって人間でも無理なんじゃないか?」

「材質が木だからなぁ。よほど頭が小さいか、子供じゃない限り入らないと思うぞ」

 

試しに被ろうとしてみたが、どんなに押し込んでもこめかみを超えることができなかった。

 

これうまく入ったとしても、壊さなきゃ外せないパターンじゃない?

 

「じゃあナツルは余裕だねっ!」

「…どういう意味だ?吉井」

「そりゃあもちろん子供並みの頭を持ってるからさ!心も小さいしね!」

 

 

 

「弁解の機会を与えてやったのになんでそのまま言うかな」

 

高速で木のマスク(バカ殿筋肉マンVer.)を叩きつけるように被された吉井は、教室の床にうつ伏せになって(させられて)気絶した。

 

せっかく起きたのにまた夢の中か、同意見ではあるけどやりすぎだよ。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ああ!?んだとコラ!!」

「っ?」

 

いきなり、教室の入り口付近から聞き覚えのない男の怒号が響いた。

 

そちらを見れば、いかにもガラの悪そうな風貌の男が委員長に食ってかかっていた。

 

「すっ、すみません!」

「すみませんじゃねーだろ!!ナメてんのかアア!?」

「そんなことないですっ!ですけど…今日はもう…出せるものがないんですよぅ!」

 

 

「…なにかあったのか?」

 

駆け寄ってきた女子…じゃない、木下か。彼に話しかける。

女物のチャイナ服なんて着てるから間違えちゃったよ。

 

「直江、問題発生じゃ」

「内容は?」

「客が来店してきたのじゃが、料理が出せないと言ってるのに納得して帰ってくれないのじゃ」

 

…なんだって?

 

「閉店してなかったのか?」

「張り紙は出してあったんじゃが…中に客がおるせいで、勘違いして入ってきたようじゃ」

「あきらかに店員じゃない奴らが20人はいるからな…」

 

納得だ。

 

納得だが…マズい状況になった。

 

あの格好や態度からして、素直に説得に応じて帰ってくれるようには見えない。

かと言ってこのままにしておく訳にはいかない。明日以降も店は開くから、変な噂でも立ったら客が寄り付かなくなる。どうしよう。

 

 

「客一人の要望も叶えられないなんて、大した店だな!」

「アニキー、腹へったよー」

「おうおう弟よ可哀想に。オイ聞いたかコラ、今すぐ食いもん用意しねえとどうするかわかんねえぞ!!」

 

 

最初に委員長に噛みついてきた奴に続いて、チンピラ風の男が当然のように入ってきた。

全部で5人。いずれもスキンヘッドでサングラスをかけていたり、小太り・細身の兄弟(全く似てない)といった物語に出てくる名前のない小悪党のような人物だ。

 

絶対口より先に手が飛んでくるだろ。

勘弁してくれ…!ウチは血気盛んな奴が多いんだから。

 

 

「ですからっ、今日はもう閉店で…!」

「あぁっ!?なんだとテメ、騙しやがったのか!?許さねえ!!」

 

チンピラの一人が近くにあった木彫り人形(トロ子とか呼ばれてた奴?)を片手で掴み、振りかぶって委員長に襲いかかる。

 

「っ、ちょっ!」それはシャレにならない!

 

 

 

「キャ――」

「お客さん、お触りはご遠慮願いますよ」

 

 

 

木像が振り下ろされる瞬間、チンピラの男の動きが止まった。

 

いつの間に移動したのか、青い髪のエセ執事が男の腕を背後から掴んで前に進まないようにしている。

 

ナツルナイス! でも正直お前以外の奴に止めてほしかった。

血の気の多い奴の中でもダントツじゃないか。

 

 

「っ、んだテメエ!?」

「せっ、瀬能ちゃん…!」

「困りますよお客さん。スタッフを傷つけるのも、スタッフの私物傷つけるのも」

 

 

そこで木彫りに囲まれて身動き取れなくなってる人、散々スタッフの私物傷つけてたぞ。

 

 

「ウチはもう閉店してるんスから、なにか食いたいなら別のとこ行ってください。肉出してる農産部とかオススメです」

「肉…アニキ」

「…オレは今食いてえ気分なんだよ!」

 

 

ナツルに掴まれていた男が、怒鳴りながら力づくで腕を振り解く。

 

なんだ?あいつ今、ナツルを確認してから怒ったように見えたぞ。

それに他のチンピラ達もなにかおかしい。小太りの男が釣られ掛かったのに、周りが無理矢理黙らせた。

 

Fクラス(ここ)の近く、1教室ほどしか離れていないところにも食べ物を扱ってる店はあるのに、なんでウチに拘るんだ?

 

 

「だから閉店してるんスよ。表に張り紙してませんでした?」

「知らねーよ馬鹿、そっちの落ち度だろが」

「どう落とし前つけてくれるんだ あぁ?」

 

 

いけない、ナツルが囲まれた。

注意が逸れたからか委員長は相手にされなくなったけど、もっとヤバい事態に陥った。

 

 

「…皆さん相当気が立っているようで。ではここはひとつ、小粋な手品でもお目にかけましょう」

「ああ?手品だぁ?」

 

男の疑問の返事をよそに、なんでもない自然な様子でその手から人形を取り返すナツル。

 

「……はぁぁぁぁぁ…!」

 

それを片手で持ったまま、いきなり静かに気合いを溜め始めた。

 

なんだ。なにをするつもりだ一体。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

「分身」

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

タレ耳像が、一瞬でビィくんに変わった。

 

しかも両手に1体づつ。人形は頭に鏡の装飾付きの二股の帽子を被っており、手には先端がひし形のステッキを持っている。

 

ミラーカぁビィか。

 

「…おかしいな。普通に考えたらもの凄い事をしてる筈なのに、ショボいって思っちまった」

「うむ?雄二もか?」

 

坂本のつぶやきに木下が同意の言葉をかける。

周りで騒動の様子を伺っていたクラスメイト達も、皆似たような感想を抱いたのようで頷いたりしている。

 

よかった。俺だけじゃなかったんだ。

ナツルが何かやるってだけで自然とハードル上がるな。

 

 

 

「お気に召しましたか?」

「召すわけねーだろバカが!」

 

バシャ!

 

 

 

「!!」

 

チンピラがテーブルの上に置いてあった花瓶を掴み、中の水を思い切りナツルにぶち撒けた!

 

勿論中身は学校の蛇口から汲んだ普通の水道水。おかしなものはなにも入ってない。

しかしだからと言って安心はできない。それを顔面にもろに受けたのはクラス1怒りの沸点が低いナツルだ。

 

角度の関係でどんな表情をしてるのかは分からないけど、この後の展開はよく分かる。

数日前に、スクリューボール当てられた時と同じ雰囲気だ。

 

「……お客さん…」

 

ポタポタと水滴が滴り落ちる中、ナツルが徐に口を開く。

 

ダメだ、キレる!営業停止になる!でも止められない!

どうしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっ…勘弁…してくんないスかね……」

 

 

 

 

 

 

 

キレ…ない…!?

 

 

 

 




!?Σ(゚д゚)…!?Σ(゚д゚)

まさかの…まさかの事態…!!タイトル詐欺が起きちゃった…!


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