戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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35時間目 ネメシスっ

「ビィくん、ビィくぅぅぅんっっ!!」

 

騎士風の女性が勢いを増して、人形を抱きしめて粉砕していく。

そろそろやめてくれないかな。幸い店内には彼女(と仲間?)以外の客の姿はないが、あんまり騒ぎすぎると明日の営業に支障がでる。(というか営業停止になりそうだ)

 

「ビィくっ!」

 

順調…と言ったらおかしいが、淀みなく動いていた女性の手が急に止まる。

 

その手の先には。頭頂部に角があり、本来はコウモリのような羽がある背中に外骨格つきの翅がついている…カブト虫を彷彿とさせるビィ人形が。

 

…?なんか困ったような顔をしてるな。

 

「もしかして虫系がダメなのか?」

「ホントか!?」

 

今まで失意のどん底にいたナツルが、俺の一言を聞いてガバッと起き上がる。

 

そして女性の様子を見ると――

 

「勝機!」

 

猛スピードで頭程の大きさの丸太を削り出す。

 

「追い討ち・工作の極み!!」

「そんな技はない」

思わずツッコんだが無視された。

 

 

数回ノミを振るっただけで、カブト虫の角と外骨を付けたヘンテコなトカゲが出来上がる。

 

それを次々と繰り返し――30秒も経たずに10体の人形が女性を囲うように設置された。

結界?

 

「完成だ、ビートルカァビィの陣!!」

 

満足げに額を拭う人間離れの悪友。いい仕事した風の笑顔ヤメロ。

 

対して女性の方は…困ったような表情で、人形に手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す。

 

そんな迷うようなことか?頭と背中以外は他のやつとあんまり変わらないように見えるけど。

 

……いや、よく見たら結構アレだな。気持ち悪いな。

角も翅も妙にリアルで…マスコットみたいな見た目と反したカブト虫感がむちゃくちゃキモい。

瞳も複眼で手足は附節(昆虫の脚)…凝りすぎだよナツル。

 

 

「…今度、ヤドンとカリンの人形も作ってくんない?」

「面倒だからヤダ」

 

ケチ。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ようやく人心地ついたな」

 

追加でいくつかの木彫りを女性の周りに設置して、服についた木屑を払う似非執事。

 

「なんだこの芋虫の出来損ないみたいな人形」

「それはビィドルだ」

「…ポケモンの?」

 

作業時間1分そこらなのにすごい凝ってるな。

顔は例のトカゲなのに身体は芋虫で…うん、すごい気持ち悪い。リアルに作るな。

 

「客はそこそこいるのに、なんか食事してる奴が少なくねえか?」

 

ナツルが周りを軽く見回して呟く。

いきなり話題変えるなよ。ついていけないだろ。

 

「みんな知り合い同士みたいよ?」

「…人数いるけど実質ひと組だけかよ。料理を出してないのは?」

「食材全部無くなっちゃったの」

「………この集団以外に客は来たのか?」

「誰も来てないわ!」

「威張って言うなや」

 

正論だ。

 

でもこの人たち朝一で入って来て、今までずっと居座ってるんだよ。

 

人数が多いから他の客を入れるスペースもない。(たまに仲間と思われる人は入室してくるけど)

 

「それよりタイガ、なんで執事服着てるの?」

「色々あったんだよ。詳しくは聞くな」

 

むっちゃ気になる。

 

「つまり今できることはなにもないってことか…なら壊された人形の補充でもするか」

「まだ作るのかよ」

 

もはや原型を留めていない木屑を拾いながら、教室のあちこちに新しく人形を設置していく。

その様子を女騎士の人が困り顔のまま羨ましそうに見てる。少しは自重してください。

 

イベントリとかいうのに仕舞ってたのを出してるのか?加工技術を知ってるから回収して高速で木彫りに戻してるみたいだ。

 

「さっきまでのとデザインが違いますね?」

「まあ色々作ったからな」

 

クラスメイトの姫路さんの言葉に返事をしながら、木彫りやらぬいぐるみやら様々な小物をどこからか出していく。

 

「…おい、なんだこの鳩サブレかひよこ饅頭かよくわからない木彫りは」

「ハンサだ」

「なんでこんな大量に…」10体ぐらいあるぞ。

「複数作って『エンハンサー!』とかネタにしたかったんだが、宙に浮かないからただの不安定な置物にしかならなかった」

 

 

 

君はホントバカだなぁ。←吉井

…ネメシスっ。←ナツル

 

 

 

「ぐぼぁッ!!?」

「よっ、吉井くん!?」

 

気がついたら吉井が大きな音を立てて壁に激突した。

 

その彼の腹部には先ほど話題に出た木の鳥が。飛ぶ瞬間が見えなかった…!

 

「貴様のようなただのバカと一緒にするな。この俺様は…熱血バカだ」

「バカであることは否定しないのか…」

「熱血バカだ」(バシュッ!)←ネメシス発射

 

ぐぶぉッ!!?

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

目が覚めたら、京が俺の上に馬乗りになっていた。

 

「…なにしてるんだ?」

「…おはよう大和。昨夜は激しかったね」

「なにもしてないだろ」

 

誤解を招くデマを言うな。クラスメイトの男子が次々にカッターを取り出し始めたじゃないか。

 

 

いつものように「結婚して」とにじり寄ってくる京に「お友達で」と返して引き剥がす。

 

そのまま立ち上がって周りを見回すと、何事もなかったかのようにナツルが自作人形の説明をしていた。ほってかないでくれよ。

 

教室の壁際には横たわって気絶している吉井の姿が。ほっといていいのか?

 

 

「この消防士の格好をした子はなんて名前なんですか?」

「それは火消しカぁビィだな。(まとい)と消化器が武器だ」

「冴島殿、こっちの鎧を着ている子はどのような名をしているのだ?」

「そっちのは足軽カぁビィだな。基本は刀装備だが弓や火縄銃とかバリエーションに富んでいる」

 

「それじゃあ……この筋肉質で大型のものは…」

「アイドルカぁビィだ」

 

 

2mはある上に鎧とブーメランパンツ姿のどこにアイドル要素が。

 

「リングネームはロビィン、趣味はラグビーだ」

 

超人じゃないか。アイドルってそっち?

 




■ハンサ
 4コマのバハムートに出てくる自称聖獣。よく食材にされてるけど美味いのかアイツ?

■ネメシス
 洞窟物語。とてつもない威力の武器だがレベルが上がるにつれて弱くなる。現実であったらすげえ恐ろしい武器だと作者は思う。

■ロビィン
 アイドル超人。パートナーにケビィンマスクという似たような格好のムキムキマンがいる。
 ビィくん界屈指の実力者だがカタリナには瞬殺される。

■ビートルカぁビィ
 トリプルデラックス。話中には出てこなかったが、原作通りのカブト虫タイプの他にクワガタやトンボタイプもいる。

■ビィドル
 けむしポケモン。森や草地に多く生息。頭の先に5センチぐらいの小さく鋭い毒針を持つ。


来週は投稿できないかもしれない…

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