戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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29時間目 召喚大会⑪

 

迫り来る拳。

 

「うわっ!!」

 

飛んでくる短剣。

 

『…!』

 

情け・容赦のない、"気"で生み出された炎や氷が襲いかかる。

 

「あぶねっ!?」『!!』

 

 

瀬能ナツル1×歳。本気で泣きそうです。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「てかこれ反則じゃね!?」

 

実に楽しそうに振るわれる拳を、頭痛を堪えながら丁寧にいなして(さば)いてる途中で気づいた。

 

なにクソ真面目に対応してんだよ。自分のことながらバカじゃねーの?

 

 

「………」

 

立会人である高橋先生を見てみれば、眉をひそめて思案顔を作っていた。

 

「……どうなんでしょうこの場合」

ぅぇっ…ぅえええっ?

 

「大会のルールでは『召喚者同士の直接戦闘の禁止』等はありませんから…」

「そりゃねーよな普通!」

 

まともな神経してりゃあ、ロボコンの最中に操縦者襲うとか考えねーもん!スポーツマンシップ(?)あるもんな!

 

「つまり川神、テメーはダメだ!」

「なんだ。いきなり?」

 

 

ガッチリとモモさんと両腕を絡めて組み合い、全身全霊を込めて動きを封じる。

 

チラッと召喚獣を見てみれば…両耳を塞いだ状態で攻撃から逃げ回っていた。

 

半ばオートで動いてくれるのは助かるな…思うとこがないとは言わんが、今は置いておこう。

 

つーかモモさんすげえな。俺とやり合いながら召喚獣を的確に動かし――いやあれか、京極先輩が操ってるのか。

 

ファック!!

 

 

「せめて多少は手加減しろよ…!」

「だが断る!」

 

ロックアップ状態のまま、引っこ抜くように持ち上げられる。

 

「っ、バカ(ぢから)がっ!!」

 

 

――順逆自在の術!

 

 

一瞬で掛け手と受け手が入れ替わる技で、逆にモモさんを持ち上げる。

 

そのまま地面に叩きつける(ぶったたく)

 

「ふっ!」

 

ブチブチッ!と音がしそうな勢いで、掴んでる腕を身体を横に回転させることで外される。

 

回転しながら後方に宙返りして距離を取られる。やっぱり最近のザコどもと違って一筋縄じゃいかんな。

 

「…ふ…ふひっ…フハハ、ハーッハッハッハッ!楽しいなぁナッチ、やっぱりお前は最高だ!!」

 

いきなり壊れたように笑いだしたかと思えば、そんな事を言い出した。

 

こういうところを見ると、あらためてこの人は戦闘狂なんだなと思う。少し自分の攻防に付き合ってもらっただけで笑い袋みたいにはしゃぐとか…頭おかしいだろ。

 

(※ 四月 23時間目 Grim reaper)

 

「でもなぁナッチ、私はスカートなんだぞ?いやそれ以前にこんな美少女を逆さまに持ち上げるのは男としてどうなんだ?」

 

………びしょうじょ?

 

「その美少女ってのはちゃんと存在して万人(ばんにん)の目に見えるんだろうな。少なくとも今俺の目の前にいるのは慇懃無礼な戦闘民族メスゴリラだぞ。だいたい」

 

 

「ぷぁッッ!!」

 

 

喋ってる途中で眉間に衝撃が走った。

 

しかもいきなりフラッシュでも浴びせられたように視界が効かなくなる。

そして後から遅れて痛みがやってくる。ジワジワズキズキと。

 

どうやら俺は殴られたようだ。攻撃が全く見えなかった…

 

 

――スパァッ!!

 

「ぢュおっ!?」

 

 

悶える暇もなく、間髪入れずに今度は左内脛に強い衝撃と鋭い痛みが。

 

硬質で尚且つしなるような一撃…多分ローキックだな。

 

その威力の強さに思わず脚が払われた方へ持ってかれる…ていうか強すぎて足ピーンってなる。お股裂けちゃう!

 

勢いに任せて横っ跳び。…元いた場所から3mくらい移動したぞ。

 

「なにしやがる!」

数秒ほどで問題なく目が見えるようになった。

 

なので攻撃してきたモモさんを睨みつければ――修羅がいた。

 

「…ナッチ」

 

全く目が笑っていない笑顔のままで、修羅が口を開く。

 

「はい」

「いくら私が可憐で温厚な美少女だといっても、我慢の限界はある。…分かるな?」

 

 

わかんねーよ。

 

 

俺が知ってる『可憐』や『温厚』と、この人がやっている行動がどうしても結びつかない。教わった意味が違うのかな。

 

目に見えるほど濃密な"気"を全身から立ち昇らせ、今にも飛びかかって来そうな人の形をした獣を前に、自然と汗が吹き出てくる。サウナに入ってるみたいだ。

 

右手は開き、左手は軽く握って拳を作る。そして全神経を集中させ、いつでもどんな攻撃にも対応できるように臨戦体勢を取る。

 

 

……ここが俺の正念場か。

 

 

「瀬能君、大変よ」

「見りゃ分かんだろそんなの」

「そうじゃなくて」

なんだよ煮え切らねぇな。

 

 

少し離れたところで、どこか一点を指差している会長。

その指の先にいるのは俺の召喚獣。あいつがどうかしたのか?

 

と、一瞬思ったが、よくよく見ておかしな点があることに気づいた。進化モルモット(ナッツ)の口が、数字の3の口が……

 

 

 

 

 

 

減ってた。

 

…口が減らないって、ウソだったんだー。

 

 

「ってちっげーよ!なんだよアレなんなんだよあれ!?」

 

三回戦でも腕が伸びるとか変な事やってたけど、なんで本体ができないとんでも現象おこせんだ?

 

 

 

 

また数字減った!?

 

カウントダウン?地獄のカウントダウンなのか!?

 

「ゼロになったらどうなるんだ!?」

「召喚者であるあなたが分からないのなら、私が分かるわけないでしょ」

 

そりゃそうだけど!

 

 

なんて話してる間にナッツの口の形が0になった。

 

 

カッ!

 

 

……カットイン?

 

突然目が光り輝いたと思えば、肌が全体的に紫色に染まる。

続いてコメカミあたりから二本の角が生えてきて――羊のソレのようにくるんと捻れる。

 

最後に背中から、コウモリのような二対の羽根が広がる。

 

 

――地獄乱舞!!

 

 

変化が終わるとすぐに、モモさんの召喚獣に猛攻撃。胴着の襟を掴んで、逆の手で顔面ラッシュ。

 

「っていきなりすぎるだろ!?」

 

 

 

Fクラス 瀬能ナツル 音楽 1003点

        VS

Sクラス 川神百代 武道 639点

 

 

 

しかも威力高っ。

 

よく見ればナッツの額に青筋が浮かんでいる。

相当お怒りのようだ。格闘スタイル故に一番しつこく追い回してたからなぁ。

 

本体としては程々で止めといてほしいんだが…。召喚獣だからか腫れや出血がないとは言え、ファンシーな動物(?)が女の顔を殴る姿はシュールを通り越してホラーだ。

 

…いや、モモさんの召喚獣。殴られる度にその箇所が光ってるな。

なんか瞬間回復を彷彿とさせるような…攻撃される端から修復してるのか?

 

あれが彼女の召喚獣の特殊能力かもしれん。すごいものなんだろうけどぶっちゃけ、技の欠陥知ってる俺からすれば無駄な能力だぞ。




副題:進化ぁ〜…


〜召喚獣の特殊能力〜

京極:お経のようなものを用いて他の召喚獣を操る。
三郷:鎖付きの短剣を自在操作。
百代:ダメージを受けると即座に修復。手足がもげたりしても亜人のようにすぐに回復する。
ナツル:一定時間を過ぎると進化。全ステータスUP。



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