戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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28時間目 召喚大会⑩

「それでは召喚大会第四回戦…始め!」

 

高橋先生の掛け声とともに、試合が始まる。

 

同時に俺を含めた選手全員が気を引き締めた真剣な表情になる。

さっきまでちゃらんぽらんな感じだったモモさんまでキリッとしてる。この辺は流石だな。

 

「ふっ!!」

 

まず最初に動いたのはそのモモさん。

召喚獣が猛スピード…というかワープに近い速度で接近し、ナッツ目掛けて拳を振るう。

 

「ムダァッ!」

即座にパリングで払いおとす。

 

そしてお返しと言わんばかりに、正拳突きをイン・ザ胴体(ボディ)。道着よ紅く染まれ。

 

 

説明してなかったが、相手の召喚獣。モモさんのは柔道着姿で手にはなにも持っておらず、その相方の男(京極?)のは本体とお揃いで着物を着ていて、手には扇子を持っている。

 

俺が言うのもなんだが舐めてんのか?会長一人がフルプレートアーマーで浮いてるじゃねーか。

まあいいけどさ。

 

 

「……」

 

会長の召喚獣が鎖付きの短剣をモモさんの召喚獣目掛けて投擲する。

 

「甘いっ!」

 

空気を切り裂いて飛んできたソレも、ナッツのボディブローも、背後に跳び退くことで回避。

流石に一筋縄ではいかないか。

 

しかし…なんか妙だな。

 

「動かないわね、京極先輩」

 

会長の言う通り、モモさんが速攻で仕掛けてきたのに対して、その相方は試合開始位置から全く動こうとしない。

 

開始直後だからってこれはおかしい。なぜだ?

 

 

『………』

 

 

京極先輩の召喚獣が、手に持った扇子を閉じたままで切っ先を口元に当てる。

 

 

『……〜〜〜』

 

 

そしてそのままゆっくりと…言葉を紡ぎ出す。

 

「ってえぇっ!?喋れんの!?」

 

『ヤッ!』とか『ハッ!』とか、ゲームのキャラみたいに掛け声上げるのは知ってるし見たことあるが、ここまで流暢に話せるのは見たことがない。

 

隣の会長も驚いた表情をしている。

つまりそれだけすごいことだということだ。

 

でもそれがどうした?

 

 

『〜〜〜〜』

 

 

呆然とする周囲をよそに、ミニ京極は言葉を発し続ける。

 

「――ッ”!!?」

 

唐突に、脈絡なく俺の頭に痛みが走る。

 

「ぐ…おぁっ…!?」

「瀬能君!?」

 

思わず頭を抱える。

なんだいったい!?

 

見ればナッツも同じように両手で自分の耳を塞いでいる。(耳ないけど)

 

 

まさかあの般若心経もどきか?怪音波の類いで聞いた奴にダメージってやつだったのか?

 

でもその割にはモモさんや会長に被害があるように――

 

 

「っ、避けろ!!」

 

大声を出すと同時に、ナッツに回避行動を取らせる。

強烈な頭痛のせいで、横に転がるような無様な逃げ方しかできなかった。

 

進化モルモットがボールのように…

 

そのすぐ隣。ついさっきまで召喚獣がいた場所を、背後から鎖付きの短剣が(・・・・・・・)猛スピードで通り過ぎていく。

 

しかも後頭部直撃コース。当たったらフィードバックだけで意識飛びそうだ。

 

「会長てめぇ!こんなときにふざけんな!!」

「ちがっ、勝手に動いたのよ!」

 

頭を押さえながら怒鳴ると、本体が怒鳴り返してくる。

 

勝手にだぁ?もうちょいマシな言い訳を…ってこんな場面で嘘言う理由も俺を攻撃する理由もないよな。

となると…

 

「…ソレがあんたの召喚獣の能力か」

 

思わず殺気の込もった目で京極先輩を睨む。

 

 

普段と勝手が違うと言っても、総合科目じゃあない。一定以上の点数を取れば召喚獣に特殊能力使用可能を示すアクセサリーが装着される。

そしてこの場にいる召喚獣全てが、腕輪のようなもの(オプション)付きだ。

 

ちなみに会長のは剣と魔法の世界に出てきそうな金属製、京極先輩のは紐に勾玉がいくつもつけられた古風なもの。

 

モモさんと俺のは幾何学模様が入ってるリストバンド。

…ショボいのか特別なのかよくわからん。モルモットなんて手と手首が一体化してるからアームカバーみたいだし。

 

 

「そうだ。私の召喚獣は他の召喚獣を操ることが出来る」

「けったいな能力だな…」

 

こみ上げてくる不快感を乗せて吐き捨てるように言葉を返す。

 

 

………冗談抜きで頭が痛い…!二日酔い&船酔い状態のところに、黒板を発泡スチロールで擦る音をステレオで延々と聞かされているような気分だ。経験ないけど。

 

抵抗(レジスト)してる分がダメージとしてフィードバックされてるのか、脳に干渉して操ってるせいで頭痛が発生するのか。どっちだろう。

 

 

「アンタこれまでもこんな方法で勝ち上がってきたのか?」

「いや、この特殊能力はあまり使ってはいない。今回は特別だ。点数が千を超える物が相手だからな」

 

うわーい。俺のせいだったー。VIP待遇だー(違う)。

嬉しくねぇんだよクソが。

 

「会長、操作権を奪い返せないか?」

「さっきからやってるけど…無理そうね」

 

ファック。眉間に軽くシワを寄せてるけど、基本いつも通りの無表情だから本気でやってるかわかんねーや。使えねえ。

 

「まあいい、周りが敵だらけというのも一興だぜぇぇぇ!?」

台詞の途中で顔面目掛けて右ストレートが飛んできた。

 

咄嗟にダッキングで回避――するとスラリとした綺麗な脚の、綺麗な膝がアッパーするように迫ってくる。

 

「ガッっ!!」

 

(てのひら)を重ねて攻撃を防ごうとしたが、そんなのお構いなしに掌を巻き込んで膝蹴りが顎に決まった。

 

あまりの衝撃に視界が揺れる脳が揺れる。ブロックしてコレなんだから、ノーガードで食らってたら意識飛ぶぞ。

 

思わず数歩後退。ふらつく頭を二・三左右に振って正常に戻すと、突然の強行…いや凶行に及んだ人物をキッと睨む。

 

「川神ィ…、テメエこんなときにふざけんな!!」

「ずーるーいーぞーー!!ナッチばっかりーーー!!!」

 

なにがだよ。サイヤ人みたいに叫びやがって。

お願いだから会話をしてください。言葉のキャッチボールを。

 

返投で元気玉使うな。

 

 

「俺のなにがズルイんスか」

「私の(死合の)誘いは散々断るくせに、自分は目新しい強者と戦ったり可愛い子とキャッキャウフフしたり!美少女的にも我慢の限界だ!!」

 

今どきの美少女って、キャッキャウフフとかいう死語使わないと思うんだ。

 

「というわけで今すぐヤルぞ!ナッチ!!」

「俺以外の他の誰かで発散してください」

 

と、一応言ってみたが聞く耳は全く持っていなかった。

 

瞳は爛々と闘志三、狂気七くらい割合で輝いていて、口は裂けそうなほど三日月型に笑みを浮かべている。

 

………………………………

 

召喚大会の真っ最中。相手方の特殊能力によって、こっちのパートナーの召喚獣は操られて敵対するようになった。

 

その相手方の能力の副次的な効果により、俺の召喚獣は常時脳をかき回されるような痛みを与えられ、ダメージのフィードバックで本体の俺も頭痛に苛まれる。気になってどうしても集中力に欠ける。

 

 

そんな最中にモモさん参戦。もう集中力に欠けるとかいう次元じゃない。

 

片手間で相手できるレベルじゃないし…。かといってモモさんと対戦してたら召喚獣が疎かになり、召喚獣の操作に意識を割けば俺は一方的に攻撃を食らうだろう。

 

あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たず。八方ふさがりだ。

 

 

………うん。

 

帰りてぇ…

 

 

 




副題:異種混合スペシャルマッチ

ストックが尽きた。

年内に四回戦が終わるか不安になってきた。

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