戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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ナツル「会長。俺ちょっとシャワー室行ってくるわ」
雫「…ああ、確かに今のあなたはガソリンの匂いが酷いものね。そのまま見回りすると異臭騒ぎが起きそう」
ナツル「あんたのクラスのせいなんだけどね」


22.5時間目 三回戦の裏側

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

召喚大会のために改築された特設会場。

 

リング上で二組の選手がお互いに召喚獣を使いしのぎを削っている中、観客席でそれを見つめながらも試合に集中していない人物がいた。

 

「………美鶴」

「はい」

 

厳つい顔をした、壮齢期をとうにに過ぎ初老に差し掛かったような年頃の男性が隣にいる少女―――桐条美鶴に話しかける。

 

桐条武治(きりじょうたけはる)。それが彼の名前であり、世界有数の多国籍企業「桐条グループ」の総帥。

そして桐条美鶴の父である。

 

「先ほどの試合の勝者…あの二人が、お前が言っていた生徒会の後輩か」

「はい。そうです」

「少年の方が瀬能ナツル。少女の方が三郷雫だったな」

「はい」

 

質問。というより確認を取った後、備えつけの椅子に座ったまま膝に肘をつき、指を組んで考え込む。

 

当初はVIPとして特別席に招待する…という話が学園側から出ていたが、一般人と同じ目線で観戦することを武治自身が熱望したため、この観客席に付いている。

 

もっとも警護の関係上、最上段の端の席で周りは黒服だらけで、その黒服の隣は一つ席が空いているという、一般とは程遠い異様な空間になってはいるが…(こんなんナツルじゃなくても気づくわ)

 

「三郷雫の方は前から聞いていたな、非常に優秀だと。瀬能ナツルは…最近生徒会に入ったんだったな」

「はい。三郷の推薦です」

「ふむ……影時間、いやペルソナの適性はないのか?」

「それは…ない、です」

 

若干迷いながらも、ハッキリと否定する。

 

「試しに一度、私は物陰に隠れた状態でペンテレシアを彼の目の前に出現させましたが、全く反応しませんでした」

「全くか…」

「はい。数cm目前にまで接近させたりしましたが、見えていないようでした。しかし攻撃スキルを使おうとしたら、直前で逃げるなどの行為はします。おそらく直感で危険を察知しているのでしょう」

「それはそれで興味深いな。存在を認識できなくとも害意は分かるということか…」

 

 

何気なく見つめる視線の先。試合の勝敗が決したのか、立会いの教師を挟んで二人一組みのうち片方がガッツポーズを取って喜び、もう片方が肩を落としてがっかりしている。

 

 

「…文月カヲルが開発した『試験召喚システム』。当初システムの実験のために造られた学園はもっと規模の小さいものだった」

「文月学園…でしたね」

 

美鶴の台詞に無言で頷く武治。

その眼前のステージでは、次の試合が始まろうとしていた。

 

「桐条グループや九鬼財閥、川神院などの有力団体がそれぞれに出資をして、最終的に出来上がったのがこの神月学園だ」

「関東一、いえ日本一と言っていいほどの大規模な学校になりましたね。利権の関係等で相当揉めたと聞いています」

「他の者たちが何を考えて資金や技術を提供したのかは知らないが、我が桐条グループはどうしても捨て置くことができなかった」

 

武治はそこで一旦言葉を切り、当時のことを思い返しているのか目をつむり黙り込む。

 

それに合わせて美鶴も口を閉ざす。

 

試合は盛り上がっているようで歓声はひっきりなしに飛び交うが、そこだけ空白地帯になったかのように静まり返っていた。

 

「科学と偶然とオカルトから生まれたと言われている試験召喚システム。そのシステムの存在を知った時、咄嗟に『あるもの』が頭に浮かんだ」

「……………」

 

 

 

 

「…悪魔召喚プログラム」

 

 

 

 

「その名の通り悪魔を容易に喚び出すプログラム。しかし呼び出すだけで、意のままに操ることはできない」

 

「開発者不明。製作意図も、流出ルートすら誰も突き止めることができなかったそのプログラムは突如世界中にばら撒かれ、世界各地で悪魔が召喚された」

 

「中には使役できた者もいたそうだが…大半は呼び出した悪魔に襲われ命を落とした。そして」

「呼び出された悪魔はそのまま。…甚大な被害が出たと聞いています」

「そんな生易しいものではない。悪魔を使役した人間ができなかった人間を奴隷のように扱い、悪魔自体も好き勝手に振る舞い暴れ回る。人類の暗黒時代だ」

 

記録の少ない当時のことを思ってか、険しい顔をする二人。

心なしか周りの黒服たちの表情も芳しくない。

 

「ある時を境に事態は収束し、平和が戻ったらしいが…原因は今だに不明だ。誰が収めたのかも含めてな」

「召喚システムにプログラムの技術が使われているとお考えで?」

「そうは言ってはいない。本当に偶然という可能性もある…。が、そう思わないものも研究員の中にはいる。プログラムを改造して、外部装置として使いペルソナを覚醒させているとな」

 

また一つ、試合が終了したステージ上を見つめながら、二人は会話を続ける。

 

「荒唐無稽な話ですね。人為的にペルソナを喚び出すなど…」

「私もそう言った。それにペルソナにしては制限が多いとな」

当時を思い出し、遠い目をする。

 

「しかしそれで納得していないのだ。とくに幾月などなにを考えているか分からん。…先ほどの瀬能を研究の対象にしようと言い出すかもしれん」

「…まさか」

「そう思わせることを彼はしたのだ。試合で喚び出して見せた召喚獣。あれは確かネコショウグンと呼ばれるものではなかったか?」

 

 

ネコショウグン。

二頭身ほどの体躯。中華圏の甲冑と猫型の軍配を装備し、背中に二本の幟を背負った黒い猫。

 

 

「…そうですね。有里・汐見・鳴上が召喚するペルソナとよく似ていました」

 

そこまで言って、美鶴は黒服の一人に声をかけ、タブレットを受け取る。

 

それを素早く手慣れた様子で操作する。

 

「先ほど瀬能が撮った写真です。ご覧ください」

 

画面の中には、軍配を片手で高く掲げる二足歩行の猫が写っている。

 

「鎧兜に身を包み、黒猫で二本の幟と軍配など類似する点はありますが…前に見たペルソナとは違います」

 

美鶴はまたタブレットを操作して、新たに一枚の映像を写し出す。

 

「右が瀬能の召喚獣、左が有里達のペルソナです」

「ふむ…左側のは中国古代の甲冑だが、右側のは日本のものだな」

 

武治の言う通り。画面上にはよく似た、しかし微妙に違う二体の猫がまるで間違い探しのように並べて表示されている。

 

「比べてみると似て非なる別なものだろうと思うな…しかしこれだけでは判断がつかん」

「観察処分者として一年生の時から何度も召喚獣を使っていますが、全て人型だったそうです」

「となると召喚したのは今回が初めてか…なぜ今このタイミングで……まさか試作の特殊デバイスが原因か?」

「っ、!」

 

武治の一言に、美鶴が思わず息を飲む。

 

「あれには黄昏の羽根が…!すぐに、回収をっ」

「待て、まだそうと決まったわけではない」

 

立ち上がろうとした美鶴を武治が諌める。

 

「しかしっ」

「と言うより、原因であって欲しくないというのが本音だな。…瀬能の戦力データを知り、彼を試作モニターにすることを決定したのは私だ。それがこんなことになるとはな」

「お父様……」

 

沈痛な表情を浮かべる父親を見て、娘も思わず上げた腰を下ろす。

 

武治はすぐに周りの黒服に指示を出す。

 

「モニタリングを続行しつつ、同時に送られてくるデータを急いで解析。なにか分かったらすぐに知らせろ」

『はっ』

「どんな些細な変化も見逃すな。異常があればすぐに報告するんだっ」

『了解しました!』

 

携帯電話を取り出したりどこかへ走り出したりと、数人が慌ただしく行動を開始する。

 

「すまんな美鶴。せっかくの学園祭だというのに…」

「いえ、大丈夫です。…生徒会長ですから」

「瀬能の試合は継続して観戦するとしよう。直に見なければ分からないこともあるかもしれんからな。それまでは自由にしてかまわん」

「ありがとうございます」

 

武治が立ち上がり、それに続くようにして美鶴も立ち上がる。

 

 

「…なにかが…起ころうとしている。……それなのに後手に回ることしかできぬとは。…私は、無力だ」

 





この作品はフィクションであり、他作品の団体・設定・歴史とは一切関係ありません。全て作者の勝手な妄想です。

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