〜ナツルSide〜
散々だ。
来た途端に制服を剥かれてメイド服を着せられ、変態と戦わされる。
それが終わったかと思ったら、不当に乏しめられた挙句に吐血させらた。
ついでに顔に無いこと無いこと書かれたし。最悪だよ
清涼祭後の人気投票で絶対悪票入れてやる。
(※悪票:通常なら加点の対象になるが、これを入れられると減点される。一票でマイナス3ポイント)
「そろそろ三回戦が始まるみたいよ。急ぎましょう」
「へーいよ」
会長の台詞に適当な返事をしながら、手鏡できちんと顔の文字が消えているかを確認する。
手で頰肉を引っ張って隅々まで…。クソッ、ベンジンで字を消したからガソリン臭え。なんでサラダ油やハンドクリームが無くて、原油から分留精製した
引火性が非常に高いからしばらく火の側に寄れないだろうが。三回戦終わったら速攻シャワー室行こう。
「…おい、どうするよ」
「ああ…完っ全に当てが外れたな。テーブルも教室も…出す料理も立派なもんだった」
「あれじゃ、下手にケチつけたら逆効果だぞ。作戦がパァだ」
「噂の問題児も居なかったみたいだしな…チッ上手く行かねえもんだ」
「どうする?危ない橋渡るのはごめんだぜ」
「そうだな…とりあえず報告だけして、俺たちは召喚大会に専念するか。他にも協力者はいるらしいし」
「それが妥当っぽいな。人数増えて試合数も増えちまったし…」
「?」
近くのテーブルに座っている二人組の男が、人目を憚るように、頭を屈めてひそひそと話し合いをしている。
なんだこいつら。大会の出場選手か?それにしちゃおかしな会話してるな。
「瀬能君、行くわよ」
「分かってるよ」
少々気にはなったが、時間もないので無視して鏡を仕舞い席を立つ。
………そういえば結局俺オムライス食ってねえや。
気がついたら下げられてたらしく影も形もなくなってたから。
…昼飯は、どっか他所で一人で食おう。
☆ ★ ☆
『只今より、召喚大会、三回戦を始めます!』
――ワァァァァァァァァァァ…!!
急遽用意された特設会場。
そこに設置された全ての席が人で埋まっており、足の踏み場もないと言っていいほど溢れ返っている。
百 二百の数じゃねーな。千人くらいいるんじゃねえの?
「すごい数ね」隣に立つ会長が感慨深く呟く。
その表情に緊張の色は見えない。肝が太くて頼もしいというか、いつも通りすぎて可愛げがないというか…
「学生服着てる奴もちらほらといるな…あ、桐条先輩だ」
「この距離から見えるの?」
大自然の島産まれだからな。視力はそこそこ自信あるんだよ。
しかしあの人も観戦とか…暇なのか?生徒会長のくせに…
ああいや、そういや父親の付き添いするとかなんとか言ってたっけ…じゃあ隣にいるのが親父さんか?
厳つい顔な上に、眼帯までしてるぞ。全然似てねえ。
『一回戦・二回戦と勝ち上がってきた両チーム!お互いに申し分ない
俺Fクラスだから学力に申し分あると思うんだけど。
あとなんでこの先生、いちいちプロレス張りの実況するんだ?
相手チームも疑問に思っているのか、苦笑いを浮かべながらも口には出さない。
まあ…いっか。
『それでは召喚…お願いします!』
「「「「
おなじみの掛け声をかけると、それに合わせて出現する魔法陣。
その輝きと共に登場するのは当然召喚獣。さて、毎回姿が変わる俺の召喚獣は、今回どんな奴になるやら…
「っておお、案外まともだったな」
幾何学模様の陣から出てきたのは全身を和風の鎧兜で武装した真っ黒い猫。前立が三日月で伊達政宗みたい。
背中には二本の旗を背負い、手には
人型じゃない時点でもうアレだが、一・二回戦よりかはだいぶマシだ。
大勢の客の前だからシステムも空気を読んだのか?
Sクラス 三郷雫 古文 569点
&
Fクラス 瀬能ナツル 古文 170点
VS
Cクラス 竹田甚太 古文 98点
&
Aクラス 下杉賢治 古文 238点
一般公開される三回戦からは、事前に点数が表示される。
教科が古文だからか?謎だ。
「ただ俺らしさ皆無だな…」
前の二体は身体の色を髪の色と合わせるとか、ギリギリで
毛色は黒だし、鎧なんか着たことないからな。
それともまさか背中の旗がそうなんだろうか。『売ります買います喧嘩上等』とか『大サービス50%増減』とか書いてある。
買取はしてるけど売ったことあんまりないよ?
「ムラマサー、こっち向いてー」
腕に付けられたデバイスで写真撮影を始める。
普通携帯電話のカメラは、レンズが背面についてるがこの機体は横についてる。コ◯ン君の時計型麻酔銃みたいで少しカッコイイ。
こういう男心をくすぐる機能の付け方…嫌いじゃないぜ!
ビシッと軍配を高く掲げたポーズでパシャリ。うん、よく撮れた。勇ましいぞ!
「村正って妖刀…」
黙れモブ。刀剣マニアが。
「その機械借り物じゃなかった?」
そうなんだよね〜、写真データだけでも貰えないかな。欲を言えばこのデバイスごと欲しいんだけど。
客席からもシャッター音っぽいのが聞こえるし、無理だったら同じ学生から貰えるか打診してみよう。人形作りの参考にしたい。
『…そろそろ始めてもいいですか?』
立会いの教師が若干イラついたような雰囲気で尋ねてくる。
もう少し観察したいんだが…言う前に他の三人が頷いたので、仕方なく俺も了承する。
相手チーム瞬殺して時間を貰えばいいか。
『それでは試合、開始!!』
ボキッ!
合図と同時にムラマサが軍配へし折った!
「ちょ、えええ!?ムラマサくん一体なにを!」
(くわっ)武器にゃど、いらニュ!
気のせいかなんか今変なテロップ見えた!
呑気にニャーとか鳴きそうな面してるのに、なんて漢らしい!
突撃ニャー。
「あ、オイ!」
一瞬固まった隙に、ムラマサが敵召喚獣目掛けて走り出す。腕(前足?)を後ろに向けるア◯レちゃん走りで。
なんかあいつ自分の意思みたいなの持ってない?
………前の試合で出たぴくみもそうだったな。じゃあおかしくないか。
「てか速っ!!」
フィードバックで風を感じる。
その勢いに見合った速度で相手に―――狙ったのかは知らんが点数が高い方―――瞬く間に接近する。
しかしあと少しで間合いに入るというところで、手にした武器(ちなみに槍)を突き出され、相手から逆に先制攻撃をかけられた。
「もらった!」
「ヤバ――」こいつただのモブじゃねえ!有段者か!?
いきなり突っ込まれたら多少は動揺するはずなのに、その様子がまるでない。
こっちの武器(武器か?)は開始早々折って捨てちまって、とてもじゃないがあんなコミカル猫が無手で槍を止められるとは思えない。
槍の先が文字通り目前にまで迫り、当たった!と思った次の瞬間。
ガキィン!
「なにぃ!?」槍持ち召喚獣の本体が驚愕の声を上げる。
それもそのはず。うちの子は刃が接触する直前で首を捻り、槍の穂先を自らの兜で弾いたのだ。
そのまま後ろに回した腕の片方を
ズドッ
相手の喉に、
そしてもう片方、左手(前足?もう面倒だから手でいいや)で相手の腰帯(※召喚獣は道着袴スタイル)を掴んで―――
念心流・
肩越しに担ぎ上げ、一直線に頭から地面に叩き付けた。
グシャリ、とリアルな音がした。
Fクラス 瀬能ナツル 古文 170点
VS
Aクラス 下杉賢治 古文 87点
……今の一撃で倒しきれなかったことを嘆くべきか、一発で自分と同程度の体力を削ったことに驚くべきか…
そもそもなんのぎこちなさもなく滑らかに流派の技を行えたのかを疑問に思えばいいのか…ダル◯ムみたいに腕が伸びたこともアレだな。冷静に考えればおかしい。
俺は伸びないぞ。腕。
人間だもの。
ダメだ。あまりに色んなことが起こりすぎて逆に冷静になっちゃったよ。
ん?ムラマサが首と腰帯を掴んだまま相手を引き起こして…?
追撃にゃー。
――奈落咲き!
バーベル上げみたいに頭上に持っていき、勢いをつけて尻餅をついた。
兜が召喚獣の胸に突き刺さる!
「この猫容赦ねえ!!」流派にない展開技をなんで使えるんだ!?
大地に咲く一輪の
「しかも追い討ちまで!」
ムラマサくんは相手の召喚獣を投げ捨てると、トドメと言わんばかりにローキックをかます。
マジで容赦ねえ!間違いない。こいつぁ紛れもなく俺の召喚獣だ!
「白々しい…あなたが操作してるんでしょ」
「イヤそうなんだけどさ」
軽くアタックを命じたのに、ジェノサイドしてみせたんだぜ?信じられねえよ。
初めて呼び出したときからそうだったから気にしなかったけど、俺の召喚獣おかしくない!?学園キチンと調整しろよ!
それとも深層意識下で蹂躙を望んでたんだろうか。それはそれはとてもいやだな。
『勝者、生徒会チーム!』
会長の方も敵召喚獣を危なげなく倒し、勝利コールが告げられる。
そのまますぐに、承認を解かれて召喚獣を強制的に還された。
会長の召喚獣と共にムラマサも消たんだが…去る間際にあいつ、こっちに向けて手を振ってたぞ。
………一度責任者に確認取った方がいいかな…
・念心流・奈落谷(ならくだに)
柔道での肩車。プロレスでのデスバレーボム。相手の喉と腰を掴み担ぎ上げて頭から落とす。とても危険な技。
よい子は真似をしないこと。
・奈落咲き(ならくざき)
念心流・奈落谷から繋ぐ追い討ち技(別に奈落谷やらなくてもいいけど)。
相手の喉と腰を掴んで持ち上げ、アルゼンチンバックブリーカーのような体勢で思い切り尻もちをつく。相手がうつ伏せか仰向けかでダメージ受ける箇所が変わる。かも(←オイ)
ナツルオリジナルだが、開発したものの使う機会がなくてお蔵入りしていた。なぜムラマサが使えるのかは不明。
副題:にゃんこ無双