戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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1時間目 なんかビームっぽいのが飛んだ。

試召戦争――。それは、神月学園でもっとも過酷な戦いなのだ。

 

 

『南 慎吾、戦死!』

『ダメだっ!五十嵐先生側は相手が強すぎる!!』

『い…嫌だぁっ!死にたくないぃぃ!!』

『も…森岡あぁぁっ!!』

 

混沌とする戦場。そしてまた一人、哀れな被害者が。

「ひ…秀吉!」

倒れ込む秀吉を慌てて抱き起こす。呼吸音が小さい、まさに虫の息だ。

 

「あ…明久よ…わしはもう…駄目じゃ……」

「そんなっ、何言ってるんだよ!」

 

ふるふると震えながらも手を目の前に出され、明久は咄嗟に強く握る。

「後を…頼む…!!」

 

そう言った途端に糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「秀吉…?そんな…嘘だよね…?秀吉…秀吉ー!!」

 

明久は事切れた秀吉の体をぎゅっと抱きしめ、空に向かい力の限り叫んだ。

その頬には一筋、水滴が流れいった―――。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「吉井っ!いい加減目を覚ましなさい!」

 

ブスリ

 

「ぎゃああぁ!目がっ、僕の目がぁー!?」

「オイオイ、今根元近くまでいかなかったか?」

「文字通りブッスリといったな」

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜明久Side〜

 

 

 

「まったく、部隊長なんだからいつまでもぼーっとしてないでよね!」

 

目からとめどなく涙が流れ出てるせいで分からないが、声からして多分島田さんだろう。に怒鳴られた。

 

僕らは今、Dクラスとの試験召喚戦争の真っ最中だ。

僕は小部隊の部隊長を言いつけられ、前線のすぐ近くまで来ている。

 

 

「木下が戦死したっつっただけでえらい取り乱しようだな…、そんなにショックだったのか?」

 

すぐ側からナツルの声が、そうだ…彼も同じ部隊だったっけ。

 

「うう…だって……」

「運が悪かったんだよ。撤退中に武器が飛んできて、それが召喚獣に当たったってんだから」

「そうね…、ウチらも戦死にだけは気をつけないと」

 

点数が無くなる=戦死だ、そうなった場合地獄の補習室行きになる。それだけは避けたい。

「ここは気持ちを切り替えて、木下の分まで頑張らないと。ウチらが負けたら木下の死は無駄になるのよ?」

 

そうだ、島田さんの言う通り、僕らは散っていったクラスメイトの分まで戦わないといけない!僕よりも先にそんな台詞が出せるだなんて、島田さんはなんて男らしいんだ!

この場に一緒にいるナツルも感動したのかパチパチと拍手をしている。

 

「…って瀬能、あんた携帯で何やってんのよ」

「吉井の顔があまりにも面白いから記念に撮っとこうと思って」

 

このパチパチって音カメラのシャッター音だったんだ。というか面白い顔ってなにさ。

 

 

「ねーねータイガー」

「あ?んだよワン子。つーか俺の名前は瀬能だって何回言わせんだ」

「アタシたちっていつまで待機してればいいの?前線の戦況を考えたらそろそろ行った方がよくない?」

 

 

川上さんの言う通り、僕らの部隊の役目は消耗した前線が補給を終わらすまで持ちこたえさすこと。所謂『殿』というやつだ。

無理に相手を倒す必要がない分、楽って言えば楽なんだけど…突撃するタイミングを間違えるとちょっとマズイ。

 

 

「機を待ってるんですよ…。一番ベストな条件で戦うための機を」

 

ようやく痛みと涙が引いてきて、ちょっと見えるようになった目でナツルを見ると、どこかさわやかな様子で窓の外を眺めていた。

 

 

君そんなキャラだったっけ。

 

 

「それならなおさら早く前線に行った方がよくない?偵察とか」

「そういう裏方仕事は他の奴がやってくれてるからな。今は連絡待ち」

 

 

ピロリロリ~ン

急にナツルの身体から電子音が響いた。

 

「お、来たか」

すぐに彼はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。

 

 

なんかあきらかに育成ゲーム専用の小型機械が携帯につながれてるのが見えたけど、とりあえず気にしないでおこう。

 

 

「どれどれ…お、写真つきとはなかなか気がきいてんじゃ――ってストリートビュー風!?無駄に凝ってんなオイ!」

「なにが書いてあるのよ」

「前線の状況…。お前らも見るか?」

 

そう言ってナツルは持っている携帯を僕らに突き出してくる。

その画面には一枚の画像が映っていた。……いたんだけど…

 

「ナツルこれ…ものすごい荒いんだけど」

人の判別や教師・生徒の判別はできるけど、顔とかはまったく見えない。

 

 

「俺の携帯の解像度ではこれが精一杯だ」

「………一応聞くけど、コレで状況わかるの?」

「フッ、愚問を」

 

島田さんの問いかけに不敵な笑みを浮かべるナツル。

そして一呼吸間をおいてから

 

 

「分かるわけねーだろ」

 

 

「ダメじゃん!」なに今の笑み!

「しかたねえ、実際に前線に行って確認すんぞ」

 

言うが早いか、彼はさっさと携帯をポケットにしまい込んですたすたと歩いていく。

切り替えはやっ。

 

 

「タイガもしかしてさっきのメール届くのずっと待ってたの?」

「まーな。情報が入るまで待てって指示あったし」

「でも分からなかったんでしょ?今の。 アタシたちが待ってた意味ってなに?」

「文句なら直江に言え。俺の携帯が不良品だっての知ってて言ったんだから」

 

いや変えなよそれ。不便じゃないの?

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

『Dクラス八島、いきます!』

試獣召喚(サモン)!!』

『そこだ!食らえ――!!』

 

「きちゃったなぁ………」

 

D・Eクラスの面々が戦う階段近く。なるべく他の人たちに気づかれないようにしながらその様子を探る。

戦況はどうもFクラス(うち)のほうが不利みたいだ。弱ったなぁ

 

あまり戦いたくはないんだよね…召喚獣が傷つくと僕も痛いし。

 

立ち会いの先生は…学年主任の高橋先生のほかに化学の五十嵐先生と布施先生が。

 

本当なら高橋先生だけのはずなのに二人も引っ張ってくるなんて、Dクラス側は一気に片をつけるつもりみたいだ。

 

 

「とりあえずどうすんだ?」

 

筋骨隆々の島津君がたずねてくる。そういえば君同じ部隊だったね。

 

初めはちょっと怖い人かと思っていたけど、話してみると彼はなかなかいい奴だ。

無駄にマッチョなポーズを決めて筋肉をアピールしてくるけど、その辺はナツルの知り合いだし気にしなくていっか。

 

 

「そうだね…僕は科学の点数ちょっと自信ないから、五十嵐先生たちに近づかないように」

試獸召喚(サモン)!」

 

 

 Fクラス 川神一子 

 科学 43点

 

 

川神さんの呼びかけに答えるように、彼女をそのまま小さくデフォルメしたような召喚獸が魔法陣から出てくる。

手には長刀のようなものを持っていて、ちょっとした戦国武将に見えないこともない。

 

『Fクラスの新手だ!』

『慌てるな!一人ずつ確実に潰せ!!』

 

「って川神さん!?なんでいきなり召喚してるの!?」

 

他の人に気づかれずに高橋先生の所まで行こうとしてたのに、もうすっかり注目の的だよ!

 

「え?だってアタシたちの目的って前線で戦ってる人たちの援護でしょ?」

「そうだけど!」もっとこう…作戦ってものがあるでしょ!?

その辺を言おうとしたら、後ろから肩を叩かれる。

 

「…あきらめろ吉井。ワン子は基本的に一つのことしかできねー脳みそしてんだ」

 

振り返ると、ナツルが疲れた顔して頭に手を当てていた。

 

君、もしかして苦労してる?

 

 

「ところでタイガ。召喚獣ってどう動かせばいいの?」

「前にやっただろ、二年に上がる前。あんな感じでやりゃいいんだよ」

「忘れちゃった♪」

「君は実にバカだな」

 

 

二人とも戦場なのを自覚してほしいんだけど

 

 

「とりあえずあれだ。気を放つみたいに気合をもって――」

「わかった、こうね!せりゃあっ!!」

 

 

ヴォオンッッ

 

ズガァンッ!!

 

 

川神さんが元気よく掛け声を出すと同時に彼女の召喚獣が武器を振るうと、そこから三日月の形をしたなんかビームっぽいのが飛んだ。

 

『うおぉ!?なんだ!?』『なにが起こった!?』

『おっ俺の召喚獣がーー!?』

 

それはちょうど人(?)が密集しているところに飛来していき、そのまま着弾。

 

一気にみんなパニックにおちいった。

 

 

ていうか今のなに?

 

 

 

「てめーなにいきなり斬撃飛ばしてんだよ!?」

「タイガがそうするって言ったんじゃない!」

「俺が言ったのはあくまでも心構えであって、実際にやるって意味じゃねーよ!!」

 

撃った本人は周りを気にせず、ナツルと喚き合っている。

僕が知らないだけでそんなに珍しいものじゃないのかな

 

 

「それでほんとはどうやれば動かせるのよ!」

「強く念じりゃいいんだよ。歩かせたきゃ『歩け』みたいな感じで。ただ動かす前に自分の点数確認しといた方が――」

「せりゃあッ!!」「聞けよ人の話!」

 

川神さんの召喚獣はさっきとは別の集団の中に飛び込んでいき――

 

 

ざくん

 

 

あっさり真っ二つにされた。

 

 

ちなみに切られる前にちらっと見えた彼女の点数は

 

 

 科学 4点

 

 

だった。

さっきのあれって、点数削って撃ってたんだね。

 

 

「戦死者は補習ーー!!」

『『『ぎゃああぁぁぁぁぁ!!』』』

 

どこからか現れた鉄人が召喚獣を倒された生徒たちを次々に捕まえていく。

その中には当然、川神さんの姿もあるわけで、

 

「タイガーー!」

 

ちょっとした荷物のように運ばれていく。

 

 

「アオやー!達者でなー!!」

 

ナツルはそれを地面にひれ伏すというすごい芝居がかった仕種で見送った。

 

オイオイと泣いてる様子は、心から別れを悲しんでるように見えるけど、ナツルがやると途端にうさん臭くなるのはなんでだろう。

っていうかアオってだれ?

 

 

川神さんの姿が見えなくなると、彼はすぐに起き上がる。

 

「…あいつに必要なのは武力よりも知能だと俺は思うな」

 

 

なにげに酷い。

 

 

 

ミシッ……ギギギ…

 

 

 

「ん?なんの音だ?」

島津君が急にキョロキョロしだした。

 

なにかあったのかな?

 

 

 

ミシミシミシッバキッ!!

 

 

「うぉあ!?」

突然島津君が視界から消えた。

 

『うわっ!』

『こっ、こんどはなんだ!?』

 

 

いや、消えたんじゃない。床に穴が開いて下に落ちたんだ。

 

その証拠にあちこちにひびが拡がって、次々に人が落ちていく。

 

 

「ちょっ、ちょっと!なに、どうしたの!?」

「ただでさえボロいのにこんだけの大人数がばたばたして、揚句にさっきの一撃だ。そりゃ崩れもするわな」

 

あわてふためく島田さんとは対象的に、ずいぶんと冷静だねナツル。

 

 

「みなさん!急いで避難してください!」

 

高橋先生が大きな声で叫んだけど、それはちょっと遅かった。

その指示が出たときには本格的に床が崩れ、僕らは落下する。

 

「うわぁっ!!」

 

そんななかで僕が見たのは―――

 

 

 

「はーーー!!」

 

 

 

―――床の破片を蹴ってもといた階に戻ろうとするナツル。

 

 

「君ホントに人間!?」少なくとも同じ高校生とは思えないんだけど!

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

~瀬能Side~

 

 

「秘儀、岩石なだれわたりの術」

 

スタっと無事に3階に戻り、しばらくその場に片膝をついてうずくまる。

 

立ち上がりながら少しだけ付着したブレザーの埃をかるく叩いて落とし、後ろを振り返る。

 

 

落ちたっつっても下の階なんてすぐそこなんだから、とくに心配する必要はねえだろ

 

「心配なのはむしろ……」

再び後ろを振り返る。

 

 

『オイあいつ…崩れた床から這い上がってきたぞ』

『でたらめな奴だな…』

 

好き勝手言いまくっている奴らをざっと見渡すと、その全員にDクラスのバッチ(見分けるために全校生徒は胸にクラスバッチをつけてる)が

 

軽く見積もっても15人くらいはいるかな

 

 

「………いっしょに落ちた方が楽だったかなぁ…」

 

味方いねーし




川神一子 2年Fクラス

2月26日生まれ 魚座

血液型:B型
身長:160cm
体重:秘密

属性:勇

攻撃力:56(武器使用で77)
守備力:68
走力:81
瞬発力:82
体力:73
知力:38

総合武力ランク:B+

以上の者、我が校の生徒であることを認める。

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