新章突入。
作者はリアル野球盤対決とか結構好きなので毎回見てます。
1時間目 Sorcerer
〜直江Side〜
春のうららかな陽射しもだんだんきつくなり、初夏の兆しが近づいてきたある日。
俺たちの通う神月学園に『清涼祭』という、新学期最初の行事の季節がやってきた。俗にいう文化祭だ。
開催日までもう何週間も無く、校舎の方ではお化け屋敷や屋台、発表会の準備で連日大忙しだ。
そんな中、我らがFクラスはというと―――
「秘技!ナイスガイ・ホームランスイングー!!」
カキーン「うわっ打たれた!」「まかせろー!!」
野球をしていた。
☆ ★ ☆
「はっはっはー、俺様華麗に三塁打!」
「ホームランじゃないんだ…」
両腕を空高くに広げて堂々とサードベースを踏むガクトに、モロが小さくツッコんだ。
「仕方ねーだろ。キャップが取っちまったんだから」
「ランニングじゃなくて場外ホームラン狙えよ」
不満気に言い訳すると、今度はナツルがツッコミを入れる。
「あの程度の球高く打ち上げるなんて当たり前なんだよ。校舎越えれないなんてだっせーヤツ」
「言ったなナツル!意地でも三振にしてやる!」
バッターボックスに入ったナツルに、ピッチャーマウンドにいる吉井が伊勢よく啖呵を切る。
今までの投球を見る限り、とてもナツルからストライクを奪える技術があるとは思えないんだが…なにか秘策でもあるのか?
「フジサンまでカッとばしてヤるぜ…。ぐわらきーん!!花は桜木漢は瀬能。松井秀樹が国民栄誉賞なら…俺はテレ朝栄誉賞だ!」
「とんねるずか」
「秩父名物、天狗打法!」
「ゴルゴか」
バッターボックスでいちいちネタをするナツルに、キャッチャー役の坂本が律儀にツッコミを入れる。
反応返してやらないと不機嫌になるからなあいつ…その点を考えればありがたいんだが、つい数週間前に病院送りにさせられた奴の相手をよくできるな。
しかし…どうしたものかな。
負けたチームが勝った方にジュースを奢る約束を交わしてるから、なるべくこの回は無失点で抑えたい。時間の関係で一人一打席までだから。
吉井はちょっと頼りないが、坂本は結構知恵が回るっぽいからなにかいい策を出してくれるといいんだけど…。
すると坂本がおもむろに手を動かし出す。試合前に予め決めていたサインだ。なになに…
スクリューを
バッターの
眉間に
「それやったらかなり危険だよね!?」「難易度高えっ!」
思わず吉井と被った。
スクリューって、シュートしながら落ちる変化球のあれ!?球がネジみたいに回転する!
なんて指示出してんだ…(そもそも投げれるのか?)しかも眉間って…!
やっぱり病院送りにされたこと根に持ってるのか?当然だけど。
知り合いを使って復讐しようとするあたり、ナツルの危険性をよくわかってるな。
吉井は必死で首を横に振り球種を変えるよう訴える。当てる外す以前に狙う時点ですでに危ないからな。いろんな意味で。
しかし坂本は頑としてミットを指定した位置から動かそうとしない。鬼か。
「ヴァーヴァ ヴァンヴァヴァヴァヴァヴァーヴァーヴァ、ヴァンヴァヴァーヴァ ヴァンヴァヴァヴァヴァヴァーヴァ〜ヴァ〜。ぅヴャァン、ヴャァン、ヴャンヴャンヴゃんっ、かっ飛ばせ〜ふ・る・たっ!」
「誰だ古田って」
「知らん」
「つーかいつまでやってんだ天狗打法」
「逆襲の…逆・天狗打法!」
逆って字二回使ってるぞ。
吉井の挙動不信な態度を見てたら様子がおかしいって、ナツルなら気がつきそうなんだがな…。野球という集団競技に参加させてもらって気が緩んでるのかな。
誘ったときとても分かりやすく喜んでたからなぁ(本人は隠してるつもりなんだろうけど)。
「とっとと投げろや吉井ィッ!!ボークにすんぞ!」
ナツルがイラついた様子で、構えを一般的なスイングの形に戻して叫ぶ。
後頭部のすぐそばにキャッチャーミットがあることを知ったらどう思うだろう。(というか気づいてやれ)
ちなみにボークとは、走者が塁にいるときに投手が規則に違反する投球動作をすることだ。
審判がいないから今回は適用されないけど、されたら相手に一点入ってたな。(ガクトが三塁にいるから)
やがて、まったくミットを動かす気配がないキャッチャーに諦めがついたのか、吉井が投球のポーズを取る。
ボールが吉井の手から離れた瞬間――坂本は突然ミットを構える手をストライクゾーンに戻した。
ゴスっ……
ボールは若干の変化(ネジを巻くような動き)を見せながら――ナツルのこめかみにジャストミートした。
「…………………」
グラウンド上が凍りつく。
当てられた本人も、ボールをぶつけた吉井も、それを見ていた俺たちも、全員が全員立ち尽くしたまま動かない。ただボールだけがてん、てんってん…と静かに転がる。
ナツルが今なにを考えているか表情から確かめてみたいが、あいにく角度が悪くて見ることができない。
吉井が顔面蒼白でだらだらと滝のような汗を流す中、俺を含めた(吉井とナツルを除く)全員が申し合わせたかのように無言で後ずさる。
「あの…その………なっ、ナツル、…大丈夫?」
「……テメェで当てといて声かけるたぁいい度胸だ。そこは褒めてやる」
声をかけられた男は、カラン…と静かにバットを捨てて、柔軟体操を始めた。
坂本が二人のいる場所を大きく迂回してこちらにやってくる。…十字を切りながら。
「人が嫌々ながらもしょーがなく参加してやったっていうのに、こんな扱い受けるとはな…まったく、人生ってのは儘ならねーもんだ」
ノリノリだったじゃないか。そう、ツッコミを入れたかったが我慢する。
なぜなら、ナツルの全身から炎のように揺らめく"気"が静かに立ち上っているから。
「そこを動くな、つっても無理な話か。なら――せいぜい足掻けや」
だっ、と吉井が素早く後ろに反転して走り出す。
ちょっ、まだそんなに遠くに離れてないのに!?
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁーーーーーッ!!!」
「ハッハッハッ、どこへ行こうというのかねっ」
脇目も振らずに逃げ回る吉井と、それを口角と目尻を釣り上げながら追いかけるナツル。怖っ
よくよく考えるとおかしな光景だ。なんで全力疾走してる人間に競歩程度のスピードで引き離されずについていけるんだ?
「ゆっ、雄二雄二っ雄二に指示されたんだよっ!あっちに逃げてるけどいいのっ!?」
「まずは実行犯のキサマから仕留める。ヤツはその次だ!」
「止めてくれ」
いつの間にか直ぐそばを走っていた坂本が、首だけをナツルの方に向けてつぶやいた。
気持ちは分かるがあいつが忘れでもしない限り無理だと思うぞ。
ていうかナツル…その気になったら即座に捕まえることができるはずなのに、それをせずに一定の距離を保って恐怖心を煽っている。
なんて嫌な主人公だ。
「フン、いつまでも逃れられると思うなよ」
なに言ってんだお前。わざとそうしてるんだろ。
知ってるんだぞ、50mを2〜3秒で走り抜けれること。
「キサマはチェスや将棋でいう『詰みチェック・メイト』にはまったのだ――――止まれい時よ!
―――――――――っ!?
ナツルの台詞に、再びグラウンドが凍りついた。
「ってできるわけねーだろバーァカ!!なに止まってんだ!!」
「ぎゃあああああああ!!?」
次の瞬間には吉井がナツルに馬乗りの体勢で殴られていた。
………ってできないのかタイムストップ。
「…まぁ、冷静に考えたらそうだよな。それでもナツルならあるいはって一瞬思っちまったぜ」
分かるよ坂本、その気持ちよく分かる。
「似たようなことは前にしたことあるけどね」
「……は?」
坂本が驚愕の表情で見てくる中、顔だけをナツルの方に向けて動向を確認しながら校舎へと走る。
結局吉井は、鉄人が注意に来るまでの間延々と馬乗りの体勢で痛め付けられ続けてた。
☆ ★ ☆
〜ナツルSide〜
「さて、みんな分かってると思うが、もうそろそろ清涼祭の出し物を決定しなきゃならん」
吉井に適切な裁きを与えた後、ボールをぶつけられたところを治療するため、一度保健室に行った。吉井と。
デッドボール受けたバッターよりピッチャーの方が負傷箇所が多いって普通ないよね。
で、教室に戻ってきたら坂本が教壇に立っていた。
まあ場所はさっきとは別のグラウンドなんだけどね!
…そろそろ出るとこ出た方がいい気がしてきた。
「学校行事である以上
クラス代表にあるまじきセリフだな…
「とりあえず今から議事進行並びに実行委員を…適当に決めておいてくれ」
そう言いながら坂本は教壇から自分の席に戻り、ダンボール箱につっ伏せる。数秒後には寝息が聞こえてきた。
どうしよう…一応は生徒会の役員として、焼きを入れるべきだろうか?
吉井にだけで坂本に処罰を与えてないし、丁度いいといえば丁度いい。
「吉井君…大丈夫ですか?」
悩んでいると姫路の声が耳に入った。
見るといつの間にか自分の席についている吉井が、心配そうな表情の彼女に話しかけられていた。
顔をミイラ男のように包帯だらけだから無理もないかな。
「あっ、姫路さん。見た目は酷いけどこれぐらい平気だよ」
「そうか。じゃあもう二・三度シバいても大丈夫だな」
「ああっ!もうだめ死んじゃう!!」
ゴキゴキと拳を鳴らしながら言ってみると、少し…いやかなり大げさにのたうち回る。
こっちの方に転がってきたので足で思い切り踏みつけておく。
側頭部に硬球ぶつけられた恨みはこんなもんじゃねーぞ。
「おいナツル、クラスメイトとスキンシップを取ってる場合じゃないぞ。文化祭の実行委員を決めないと」
自分の席に座ると、それを見計らったかのように直江が話しかけてきた。
その側で吉井がうつ伏せの状態で痛みを堪えてるのは気にしないことにする。
「出し物決めないとお前も困るだろ。生徒会役員的に」
「じゃお前がやれよ実行委員。得意だろ」
危機感煽って仕切らせようとか考えてるんだろうけどそうはさせん。
面倒なのはみんな一緒ですから、残念!
「いや俺は…ほら、材料調達とかの方が得意だから」
「じゃあ裏方も兼任だな、はいけってーい。Fクラスの文化祭実行委員は直江大和君に決まりましたー」
はい拍手ー。と合いの手を促すと、クラス内の人間ほぼ全員が手を叩く。
ノリのいい子は好きさ。
「…藪ヘビだったな…貧乏くじを引いてしまった…」
「他人を利用しようとした報いだ。甘んじて受け入れろ」
苦々しげにため息を吐く直江に、しっしっと手を払う。
「ていうかホントに大丈夫なのか?出し物について言われたりしてるんじゃないか?」
「まあね」
瀬能君あなたのクラス、清涼祭に参加しないのかしら?
文句を言われない程度に業務をこなしているが、生徒会室に行くたびに必ず一度は
もう耳にタコができちまったよ。
会長ですらチクリチクリと言ってくるんだから、超会長(※桐条美鶴)にはなに言われるか分からない。
そう思って週に何度かある定時報告会には出席しないようにしている。
「それはそれでマズイんじゃ…」
「大丈夫だろ」
ろくに話したことはないけど、会長と同じでクールっぽい人だし俺程度がサボったところでどうこうするような奴じゃ――
ピンポンパンポンッ
『二年Fクラスの瀬能ナツル、二年Fクラスの瀬能ナツル、至急第一生徒会室に出頭しなさい。繰り返します。二年Fクラス瀬能ナツル、至急第一生徒会室に出頭しなさい』
校内放送で呼び出し来た。
しかもこの声本人(桐条美鶴)だ!
『瀬能、今お前がなにをしているかは知らないが、五分以内に来なかったら連続処刑してやる』
微塵も隠せてない(隠す気ない?)怒気と殺気に満ちた言葉を最後に、放送は終わった。
完っ全に怒ってたなあの人…定時報告毎回サボったくらいでここまでするかふつー?てか今日あったっけ第一と第二の会合。
もう少し冷静な奴だと思ってたんだが…認識を改める必要があるな。
やれやれ、もっと大らかに生きろよ。俺みたいに。
「おいナツル…行かなくていいのか?」
「うん、行かなきゃヤバイね」
処刑されちゃう。
初めて食らった時は衝撃的だったな…アレ。超会長がどこからか銃っぽいもの取り出したと思ったら、いきなり全身氷漬けにされたから。
今更だがどうやったんだあれ。もしかしてあの銃ブレイズガン?
まあそれはいいとして。
「悪いけど抜けるわ。役割分担まで決める場合は裏方にでも割り振っといてくれ」
「どこまでも楽するなお前…」
しょうがないじゃないか。人間だもの。
■ハッハッハッ、どこへ行こうというのかねっ
ラピュタ。ムスカ様のセリフ。
うちの主人公悪役のセリフ似合う気がする。
■「キサマはチェスや将棋でいう『詰みチェック・メイト』にはまったのだ――――止まれい時よ!
ジョジョ。DIO様のセリフ。
うちの主人公(略)。50m2〜3秒で走るってチーターみたいだよね。
■ブレイズガン
FFタクティクス。ゲーム中に登場する武器。冷気属性をもった弾丸を発射する銃。