私の『パールジャム』でも彼(ナツル)の異常性を治してあげられなかった…!
青い空。
白い雲。
ここは、自分だけの時を過ごす、とっておきの場所。
おはようございます。渡辺篤史です。
「なに言いだしてんだいいきなり…」
☆ ★ ☆
〜ナツルSide〜
「と〜きど〜き〜 とおく〜を〜 みつめ〜る〜 ふあんそうな〜あなたの〜よこがお〜」
「本当に寝てるのかねこれで…まあいい、起こしな」
「(こくり)…わかった」
今日の建物探訪はエーゲ海の家を思わせるような白
「…起きる」
「いっしょくっ!?」
なっなんだ!?いきなり後ろ首筋に衝撃が!
半ばパニック状態に陥りながら目の前に視線をやれば、そこには喪服のような黒い衣装?に身を包んだ鬼のミイラが…!
「誰が鬼のミイラだい。あたしゃ人間だよ」
「心を読むな」
「声に出てたよ」
マジでー?うわ、はずかしっ。
「微塵も恥ずかしがってないね」
「また声に出てた?」
「顔を見てりゃだいたい分かるよ」
さよけ。
あらためて周りを見渡してみる。どうやら俺は映画でしか見たことないような豪華な造りの一室に、これまた豪華なソファに座っていたようだ。身体が沈みきっている。
なんでこんなとこいるんだっけ。
「気を失う直前の記憶はあるかい」
「あ?」
現状を不思議に思っていると、テーブルを挟んで向かい側にいる婆さんが話しかけてきた。
「えっと…確か周りが海に囲まれた監獄のような建物内にいた」
「それは寝てる間に見た夢だろう、さっさと忘れな」
俺もそう思う。
「…メイド二人と言い争ってたかな」
「そう、そしてそこにいる
そう言って婆さんは俺の背後にいる奴を視線で示す。
…起きてからずっと気になってたが……
「なあなんでこいつ俺の後ろに立ってんの?」
指で後ろを差しながら尋ねる。
そこには先ほどまでガチファイトを繰り広げようとしていた(繰り広げてた?)真紅髪褐色肌の女が従者のように佇んでいる。
正直落ち着かない。
「知らないね。来てからずっとあんたの側を離れないんだ、本人に訊いてみたらどうだい」
にべもない。が、その通りではある。
なので座ったままの状態で、身体を捻って女の方を向く。
「あー…なんで俺の背後に控えてるんだ?」
「……?…」
なるべく刺激しないように優しく(※ナツルの感覚で)話しかけると、こちらを見つめ返したままで不思議そうに小首を傾げられた。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
互いに見つめ合うこと十数秒。ゆっくりと身体を婆さんの方に戻し―――
「どうやって来たかの経緯は分かったけど、なんでまだ俺ここにいんの?」
>ナツルは コミュニケーションを あきらめた!
「端的に言えば謝罪だね。うちの馬鹿共が迷惑をかけてすまなかった」
「ホントだよ」拉致は立派な犯罪です。
よしんば知り合いと勘違いしてるとしてもだ、気絶したまま運ぶとかどんな同僚だよ。頭おかしいんじゃねえの?
「そういやそのきっかけ作ったメイド二人はどうしたんだ」
上司よりも先に頭を下げにくるのが筋なんじゃないのか。
「李とステイシーなら罰として全館のトイレ掃除を命じてるよ」
地味にキチーーー!!トイレいくつあんのここ!?
「あんたが起きるまでに終わらせられないなんてね…こりゃ追加でなにか考えなくちゃいけないねぇ」
しかも追い打ち!?なんかすいません逆に!
「まあ、あの二人のことはいいだろう。それより」
婆さんが一旦言葉を区切る。
するとそれを合図にしたように扉が開き、ルームサービスとかで使われてそうなワゴンを押してメイドさんが入ってきた。
「せめてもの詫びだよ。口に合えばいいがね」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは…イチゴのショートケーキだった。
…ケーキて…しかも1ホールまるまる。
「おいおい婆さん。俺は不良だぜ?『ケーキ』なんて女子供の――サクサク――食う物なんて――サクサクが…サクサク!――チャンチャラおかしくて――言うなればそう――サクサク!!」
なんだ…このサクサク感は!?
「シェフを呼べ、いやレシピを寄越せ。これは店では作れん味わいだ」
「気に入ってもらって何よりだよ」
「パイ生地などは使ってないんですけど…」
「……………」
バカな…このサクサクは幻だというのか…!?
☆ ★ ☆
「そういやあさ、さしあたりなければ訊きたいんだが」
一品だけだと飽きるだろうとの配慮か、色々な菓子を用意されたので遠慮なく食っていく。
レシピ集も貰えたし余は満足じゃ。
「うん?なんだい」
「こいつってなんなんだ?」
隣に座っている、俺以上に遠慮のない奴を指差す。
「はむはむはむはむ…」
いつの間にか許可なくバクバク食ってんだが、それって俺のじゃないの?
もうなんか…メイドさんもこの女のために運んできてるようなもんデスヨ?
「おや、気になるのかい?」
「まあな」桐条超会長にも言われたが、俺が他人の素性を尋ねるのはそんなに珍しいんだろうか。
「気を抜いてたとはいえ、ああまでいいようにあしらえる奴はそうはいねえ。ただもんじゃねえだろ」
少なくともモモさんクラスの強さは持ってるはず。
見た目もこんなんなのに全く(直江に)情報がないのは流石におかしい。
「ふむ……まあいいだろうね…お前さんクローン技術は知ってるかい?」
「あ?羊のドリーがどうかしたか?」
「よく知ってるねそんなこと…」
1997年だっけ。話題に上がったの。
なんで知ってるんだろ俺。
「『武士道プラン』という、過去の偉人に学ぶことを目的としたプロジェクトがあってね。つい先日それが完成したのさ」
「その二つの話題から察するに、こいつがその過去の偉人のクローンって訳か」
横目でチラッと様子を伺うと、マカロンを喉に詰まらせたのか両手に複数持った状態で顔を青くして小刻みに震えていた。
バァン!!
迷わずその背中を強く叩く。
すると彼女は「けほっ」と咳き込み、少し欠けたマカロンを口から吐き出した。
こんなのからなにを学べって?
「その娘は確かに過去の偉人のクローンだが、武士道プランには組み込まれてないよ」
「うん?どういうことだ?」
「いつの時代のどの分野にも馬鹿はいるもんさ…しかも能力が高い馬鹿がね」
そう言って婆さんは悲しげな目を女に向ける。
「そいつは自尊心がとんでもなく高い上、出世欲の塊みたいな奴でね。それでも能力的にどうしてもプロジェクトに参加させるしかなかったんだ」
実際、奴がいなかったらあと十年は計画は遅れてただろう。と当時を振り返っているのか、遠い目で宙を見つめる。
「最初のうちは大人しくしていたんだがねぇ…」
「だんだん本性表してきたのか」
「監視の目を欺きながらね。知力と武勇に優れたクローンを作って
誰だ帝って。
訊いてみたいけどなんか訊ける雰囲気じゃないな。
「しかしいざ蓋を開けてみればご覧の通り、誕生したのは武力は申し分ないが知能は幼子並な未熟児だ。これがどれだけ危険か分かるかい?」
「身を持って体験したからな。…で、結局こいつはなんの偉人のクローンなんだ?」
「
ちょっと待とうか。
「飛将軍呂布ー!?三国志最強の武人じゃねえか!」そんなのと
「よりによってなんでそのチョイスだよ…ただのカスが猛獣従えられるわけねぇだろ。つーか元々知力に優れてるイメージないんだけど」
「自分ならどうにもできると思ってたんだろうさ。結果は最初の被害者として病院の集中治療室で生死の境を彷徨ってるよ」
どうにもできてねーじゃねーか。
「愚か者のことなんてどうでもいいさ。問題はその娘だよ」
「どうすんだ?」
「どうするもこうするも、生み出された以上は面倒みるさ。…理想と違うからって勝手に失望されるなんて、可哀想な子だよ」
「やめろ」
思わず硬い声が出た。
「"可哀想"だなんて安っぽい同情、相手に向かって直接『お前は哀れだ惨めだ』って言うのと変わんねーんだよ。テメエ他人を簡単に見下せるほど偉いのか?」
「四肢が欠損してようと性格が破綻してようと、生きているって時点じゃ誰だって平等なんだよ。分かったか?分かんねーなら分かりやすくテメーを格下にするぞババア」
「わ…わかった」
鋭く睨みつけると婆さんは怯えたような顔で頷く。
よかった。分かってくれて。
満足したので食事を再開しようとケーキにフォークを刺す…と思ったらフォークがなかった。
どうやら握り潰したようだ。
興奮しすぎたな…久々に本気出したせいか熱くなりやすくなってる。落ち着かなきゃ。
クールダウンクールダウン。
「……………」
「ん?」
ふと視線を感じて横を見てみれば、呂布子ちゃん(←ヲイ)がじっとこっちを見つめていた。
「……………」
どことなく、相手の心の中まで見透かしてきそうなその瞳に――
思わずそっと、目を逸らした。
■青い空〜 のくだり
テレビ朝日系列で放送される建物紹介番組。でも作者は見たことないです。
じゃあなんで知っているかというと…ゲームプレイ動画の途中で流れたから。
■海に囲まれた監獄のような建物
サイレントヒル4・水牢の世界。
超怖いホラーゲームとして名高いけど、ニコニコ動画のプレイ動画でこれでもかとネタを盛り込まれたものを見たらあんまり怖くなかった。
■おいおい婆さん。俺は不良だぜ?『ケーキ』なんて女子供の――サクサク――食う物なんて――サクサクが…サクサク!――チャンチャラおかしくて――言うなればそう――サクサク!!
ジョジョ第4部、億泰のトニオの料理に対してのコメント。及び実は私はの校長の藍澤作ケーキに対しての感想
「俺は不良だよ…!『プリン』なんて女子供の食う物なんてチャンチャラおかしくて…」
「なんだ!?このサクサク感は…言うなればそう…サクサク!!」
■羊のドリー
2003年に死没したクローン羊
あと二、三話続きます。そしたら本編に戻る。