称号
"足技スピードスター"
"白狐"
"仮面(ペルソナ)の奇行子"
時は進み放課後。
朝受けた決闘を行うべく、場所をグラウンドから国技館似の闘技場へ移した。
アクジ先輩の時にもお世話になったなここ。本来なら三年専用の設備で二年は使用不能はずなのに、数日で二回使うってどういうことよ?
おまけに…
『さぁーやってまいりましたよ特大イベント!!真の強者を決める裏・神月ランキング!そのランカー同士の意地と誇りとランクをかけた一戦まで、もう間も無く!!
実況はわたくし、報道部の西野ますみがお送りしまーす!』
『解説はこの儂、川神☆鉄心じゃ』
客席の中段部に設置された放送席らしき場所―――実際放送席なんだろう―――から、身振り手振りを交えた女の声が響く。
場内に設置されてるスピーカーからも大声が流れてくるからうるさくてかなわん。
しかも女の隣には見慣れたジジイ。
前回は無かったのに、なんで今回は実況と解説がついてんだ?
『今日決闘を行うのは、刀術部現主将を務める居合抜きの達人・沙原政虎!
対するのはななななぁんとぉ!神月学園のトップに君臨しておりながら誰も見たことがない最強の人物・冴島タイガ!!今まで謎に包まれていましたが今日!そのベールが明かされるー!!
見た感じはステキなお姉様です!』
テンションたけー…なんか戦う前から疲れてきたんだけど。
『タイガお姉様ー!素顔を、素顔を見せてください!』
「『断る』」
朝から放課後の今まで、ひっきりなしに見物人が来たせいで外すに外せなかったんだ。なぜキサマの懇願程度で外さにゃならん。
それどころか余計に着込んでやる。そう思って羽織っていた上着の前を閉じた。
この上着は、土屋にバラバラにされたコートを縫い合わせてブレザーのようにしてみたものだ。休み時間のたびに来る野郎どもの視線がウザいから作った。
『おー、服の上からでもわかるダイナマイトボディ!ステキです!抱いてください!!』
さぞ残念がるだろうと思いきや、逆にヒートアップしやがった。
なぜだ。つーかホントに女子高校生?エロオヤジでももう少し考えた発言をするぞ。
ギャラリーも同意するように熱狂の声を上げる。あ、ウェーブしだした。
この学園に入学したことを少し後悔する瞬間。
「ハイハーイ。二人とも、そろそろ始めてもいいかナ?」
若干鬱に浸っていると、ルー教員が声をかけてきた。
…あ?今回は普通に名前を呼ぶんだって?
一々呼び方考えんのに飽きたんだよ。
ここ数日で会うの三回目だぞ、三回目。そう簡単に思いつくか。
つか他に決闘の立会人いねーのかよ。
「試験召喚獣を使わない普通の決闘ハ、武道の心得がある教員しか出来ない決まりネ。ワタシは川神院の師範の仕事もあるから、学園では他の先生より余裕があるヨ」
なるほど、ようするに暇なわけだ。
…もう人の考えをどうやって察してるのか気にならなくなってきた。
お面をしてるのに分かるってことは、表情から思考を読んでる訳じゃなさそうだな。
「二人とも、ルールの説明はいいかイ?」
「必要ないです」
「『同じく』」
おっさん―――名前なんつったっけ?…まあいいか。―――の返事に続けて頭を軽く下げる。
「沙原君は武器の使用申請を出してるけど、受理してもいいかナ?」
「『問題ない』」
ここで却下したらどんな反応が返ってくるか、内心では結構興味がある。が、面倒だし長くなりそうだからやめておこう。
「『武器を使われたからといって、私が弱くなる訳ではない』」
「…随分と自信があるようだな」
目の前のおっさんからゆらり、と怒気が立ち昇る。
あれ?そんなに怒るようなことを言ったつもりはないんだけど?
A君とB君の二人の人間がいて、そのうちA君が武器を持ってもB君は弱くならんだろう。A君が強くなるだけだ。
まあだからってB君が負ける、って訳じゃあないけどね。
「それじゃ、指定の位置についテ。…レーーッツ、ファイト!!」
☆ ★ ☆
〜沙原Side〜
立会人であるルー教師の掛け声と同時に、右手で鞘を掴み、いつでも刀を振るえるように居合の構えを取る。
無駄に動くことはない " 待ち " の技。獲物を狩る狩人のような、落とし穴やトラばさみといった罠のような技術、それが居合抜き。
相手は学園最強と言われているが、一部を除いて誰も戦うところを見たことがない人物。戦闘スタイルはまったくの未知だが、居合ならば即座に対応できる。
たとえ模造刀だろうと問題ない。俺の一撃は立ち木も斬り裂く。
「『ほぉ、流石はランキングの5位だな。中々構えが堂に入っている』」
冴島が腕を組んだ状態のまま、偉そうな口をきく。
「『だが所詮その程度のようだ』」
―――気づいた時には、足のつま先が下段から迫っていた。
「!?」
咄嗟に刀を引き抜こうとするが、どんなに力を込めてもビクともしない。
後から聞いた話ではこの時、冴島の右足が刀の柄を踏んづけていたそうだ。
いかに女とはいえ、人一人の体重が乗っているんだ。抜刀できる訳がない。
しかしこの時の俺はそんなことまったく知らなかったので、突然起きた不測の事態にパニックを起こし―――
ズガシュッ!!
それを表現する間もなく、顎を蹴り上げられた。
「『
吹き飛ぶ瞬間、山犬声でそんな言葉が聞こえた。
「ぐっ!!」
数メートルほど地面を滑るように後退させられ、それでも倒れぬように踏ん張る。
「『む、耐えたか。…あちらがタフなのかこっちが弱体化してるのか判断に迷うな』」
キツネ面の女はふわり、と音もなく地面に着地しながら、誰ともなしに呟く。
そのまま軽く腕を上げ拳を握り、背筋を伸ばして、左半身を前に、身体を斜めに構えた独特のファイティングポーズを取る。
どこかで見たような気がするが…ダメだ、頭が回らん。
ただ、一対一を想定した"武道"ではなく、多人数に対抗する喧嘩寄りなのは間違いないとは思う。
その証拠に今も油断無く、こちらだけではなく周囲までも警戒している。
時折「視界の高さが…」やら「手足の長さが…」などと呟いているがな。舐めやがって…!
『先制攻撃はタイガお姉様のサマーソルトキック!見事に決まりましたねー。正直わたしにはなにが起きたのかまったく分からなかったんですけど』
『相手だけではなく、会場のほぼ全ての者がほんの少し意識を逸らした瞬間を狙って動いたからの。流石は学園一位じゃ、技術力も他の者と比べて頭一つ飛び抜けておる』
思わずカッとなって頭に血が登り始めたところに、設置されている拡声器から学長と女子生徒の声が響く。
意識を逸らした瞬間にって…そんな武道の達人みたいなことをさらっとやってのけたのか…!?そういえば着地の時も羽毛かなにかが落ちたかのように軽やかだった。
くっ…迂闊に突っ込むのはまずいか…!
一瞬そう考えたが、すぐに自分のスタイルを思い出して、いつでも居合抜きを出来る構えを取る。
右手を鞘に、左手を刀の柄に添えるように置く。
このスタイルで何人もの相手を沈めてきた。
そうだ…なにを恐れる必要がある。奴は人の意識の間を突いてきた
ならば常に集中していて、隙を与えなければいい。
同じ手が二度も通じないことを教えてやる!
「『…打って出る気は無し、か』」
構えを解き、ため息を吐かんばかりのオーバーリアクションをする冴島。
「『自分から決闘を申し込んだくせに、随分消極的だな』」
挑発のつもりか?その手には乗らん。
「『仕方ない、私からいってやろう』」
そう言って冴島は、ボールでも蹴るかのように足を軽く後ろに上げて―――
「『
そのまま振り抜き、一筋の衝撃波を放ってきた。
「なっ!?チィッ!!」
自分に向かってまっすぐに飛んでくる衝撃波を、刀を振り抜いて対処する。
これは…気か!?
幸い威力はそれほどではなかったようで、一度の斬撃で霞のようにかき消えた。
しかしホッとするのもつかの間、学園指定の男子制服に包まれた足が、勢いよく迫ってきた。
「『
「ゴハッ!?」
靴の裏側が深々と鳩尾に突き刺さる。
一瞬本気で呼吸が止まった。
しかも冴島の攻撃は一度に止まらず、追い打ちをかけるようにスタンピングを続けてきた。
「『
「ぅおっっ!?」
堪らず腕で頭や体を守り、耐える。
一撃一撃が重くて早い。手馴れている感じもするし、蹴り技に特化したこれが冴島のファイトスタイルなのだろう。
『タイガお姉様の蹴りの猛撃が炸裂ー!!堪らず沙原先輩ガードを固めて防戦一方に追い込まれました!!』
『ダメージを与えるほどには強くなく、無視するには弱くない。しかもがむしゃらに見えて、要所要所で急所を狙ってくる。なかなかえげつない攻め方をするのぅ』
「くっ!」
学長の言葉通り、ガードしている腕に攻撃が集中したかと思えば突然足を蹴るなど急に場所を変えたり、胴体を連続的に攻め、そちらに意識がいった瞬間に頭を狙うなど実に嫌な攻め方をしてくる。
防御を固めているのにダメージが蓄積する。
「がッ!!」また一つ、つま先が顎を掠めた。
しかし、戦闘スタイルは概ね把握した。どうやら足技オンリーの戦い方のようだ。
スタイルが分かれば対処は容易い。
蹴り攻撃は必ず片足が地面に接している。人間は二足歩行だからな。
どんなに猛攻を仕掛けようとも、その接している片側は攻撃が薄い!
「がっ、あああああ!!」
頬に一発食らった後、引き戻すために一瞬攻撃が止む。
その隙をついて無理矢理前進する。
多少ダメージは負ったが、その甲斐あって攻撃の内側に入れた。
狙うは右足首!地面に接している方の足!!
「かああああぁっっ!!」
気合いとともに刀の切っ先を思い切り突き刺す。
模造刀とはいえ、この勢いなら確実に骨を折れるはずだ。この試合、貰った!
「『……………』」
刃(模造刀だから実際にはないが)が冴島の足にぶつかる瞬間、その足が忽然と消えた。
咄嗟にジャンプして逃れたようだ。
あの状況で、それも片足立ちで膝も曲げずに1メートル近く飛び上がるのは見事ではあるが、ただの悪足掻きでしかない。
即座に刀を切り返し、上空の冴島に目掛け振り上げる。
今度こそ勝った!!
「『
瞬間、前方に向かって勢いよく吹っ飛ばされた。
「ぐぁっ!!」
そのまま前のめりに倒れ、数メートルほど地面を引きづられるように移動する。
なにが起きたのか分からない。
切っ先が相手を捉えたと思ったのに、
学園最強を倒し、高らかに勝利宣言をする自分を思い描いていたのに、現実はマットのザラついた感触だった。
本当になにが起きた!?
それでも両手をついて立ち上がろうとする。
が、上半身を起こした途端に酷いめまいがした。
『強い強い強すぎる〜〜〜!!タイガお姉様、一度も攻撃を貰わないままに裏神月ランキング5位の沙原先輩をダウンさせました!!でも気のせいでしょうか、一瞬タイガお姉様消えませんでした?』
『消えたのぅ。正確には消えたと思わせるほどの速度で空を蹴って移動し、沙原政虎の背後から延髄蹴りを放ったのじゃ』
は?
『おー、なんかよく分からないですけどすごいですね!瞬間移動ですか?』
『実質そうだと言ってもよいじゃろう。あれは普通の人間ではまず避けられん』
なんだそれ、なんだよそれ!!ありかそんなの!?
俺はランキングの5位だぞ!四つしか離れてないのに、それほどまでに差があるのか!?
「『私は普通ではないからな』」
冴島がなにかつぶやいているが、それも気にならないほどのショックが襲いかかる。
強くなりたい―――小さい時からそう願い続けて今日まで、様々な〝努力″を重ねてきた。
日々の鍛錬はもちろん、筋力トレーニング、技の練度上げ、精神トレーニングなど思いつく限りなんでも行ってきた。
その甲斐もあってか、神月学園でも上位の実力者になれるほど強くなれた。
でも、そこが限界だった。
一度ランキングの4位の奴に挑んで、負けてランク外に落とされた。
だから次はそいつを避けて3位の奴に挑み、また負けてランク外になった。
そこから死に物狂いでランキングを駆け上がり、なんとか5位に返り咲いた。
その様と戦闘スタイルから、俺には『侍ゾンビ』ってあだ名がついてる。
4位と3位に敗れ、順当に行けば次は2位の人間に挑むべきなんだろうが、ランキングの2位はあの川神百代だ。勝てるはずがない。
ならばと思い1位の冴島タイガに挑んだのだが―――
「『さっさと立て』」
呆然としていると両肩を掴まれ、そのままグイっと引き上げられる。
「『ボクシングルールじゃないんだ、こういうことをしても問題はないだろ?』」
「―――!!」
真後ろから囁くようにかけられたセリフに思わず、背後目掛けて刀を振り切る。
「『おっと』」
棒読みに近い声とともに肩にかかる圧力が消える。
刀は虚しく空を斬った。
勢いのままに振り返れば、後ろに向かって跳躍している冴島の姿が目に映る。
―――着地際!!
「かぁああぁっっ!!」気合いとともに突きを放つ。
模造刀とはいえ、その硬度は木刀より少し柔らかい程度。使い手によっては簡単に骨を砕けるし、命を奪うこともできる。
それを知りつつ、俺が取った行動は刀による突きだった。それも相手の正中線、胴体を狙って。
「『
切っ先が触れようとした瞬間、冴島はぐにゃり、と音がしそうなほど上半身を反らし、刀の突きを回避した。
猫かお前は!!
「ウォオオオォオおおっ!!」
今日何度目かの気合いの掛け声とともに刀を引き戻す。
―――そのタイミングで素早く上体を起こした冴島が、刀を引き戻すのと同じくらいのスピードで突っ込んできた。
いやむしろ、俺の引き戻しよりも速い!
「『…………』」
そのまま攻撃するかと思いきや、至近距離からじっと眺めるだけで他に何もしてこない。
時間にしてわずか数秒ほど、しかし何時間も長い時間観察された気分だった。
それ以上にあの能面―――狐の面をつけてるから当然なんだが―――で見つめられると、失望されているような、馬鹿にされているように感じて苛立ちと焦りが湧いてくる。
「あああああアアァァァ!!」
それを振り払うように、持っている刀とその鞘を、無茶苦茶に振り回す。
胴薙ぎ、袈裟斬り、唐竹、逆袈裟。正面から行くあらゆる斬り方を連続して行うが、その全てがあと数センチのところで当たらない。
完全に見切られている。
しかし相手は攻撃をかわすだけで、反撃をするそぶりすらない。
あの豪脚をカウンターで貰ったら…。そう考えるとますます焦りが募り、太刀筋が大雑把になる。
それに気づいてまた焦り、修正しようと振り方を変えればまた太刀筋が大雑把になり余計に焦る。
悪循環の堂々めぐり。
それ故に―――
「っ″!?」
鞘での攻撃をかわされれた瞬間、通過した髪を掴むことに躊躇はなかった。
相手も予想だにしなかったのだろう。髪の毛を思いきり引っ張られた瞬間、体勢を大きく崩した。
その隙を逃さぬよう、右手に持った刀を力任せに振り切る!!
ボキッ!
頭部に当たるはずだった刀は冴島の左腕に阻まれ、そこから骨が折れたような音が聞こえた。
勝機!
振り抜いた勢いを殺さぬように、小さく弧を描くような動きで刀を切り返し、再び冴島に刃を振るう。
今度こそ勝った!
ズガシュッ!
―――?
いきなり刀身が消えた。
変な…斬撃音?がした瞬間、模造刀の鍔から上数センチを残して刃がなくなった。
突然の出来事に頭がついていかない。
いや正確には、理解しようとする前に頭頂部付近の髪を両手で掴まれて―――
「『
そこからの記憶はない。気がついたら病院のベッドの上に横たわっていた。
ただ記憶が途切れる刹那、最後に見た映像は、
般若のように牙をむく、怒れる狐の顔だった。
〜〜〜ナツルSide〜〜〜
「そこまで、勝負あり!」
俺の膝蹴りにより吹っ飛んだ沙原が、地面に転がると同時にルー教員の声が会場に響く。
それを聞きながら、手に掴んだ髪の毛をパラパラと地面に払い落とす。ばっちぃー。
(いってー…)
完全にゴミがなくなったのを確認してから髪の毛を撫でさする。
その後の斬撃は腕の肉で受けた上で、骨を外して衝撃を逃したからあんまり効いてないけど。
そういえば戻しておかないとな。そう思い右手で左腕の骨をはめ直す。
今更だが、我ながらよくもまあ脱臼したまま相手の髪を掴んだもんだ。
『けっちゃーっく!!勝ったのは、冴島タイガお姉様です!!強い強い強すぎる〜〜〜!終わってみればなんと、攻撃を受けた回数はわずか一回!これが一位の実力か〜〜!!それに引き換え沙原先輩は…』
言われてさっきまで対立してた男を見てみれば、今だに気絶しているのか担架に乗せられ退場する途中だった。
起きたら驚くだろうな。自分の髪型が変わってて。
『まあ、自業自得とも言えるのぅ』
『ですよねー。女の命とも言える髪の毛を無遠慮に引っ張ったんですもん』
俺男だけどね。
『まああんな漢字の山みたいな頭した人はほっといて、ここからは勝利者インタビューの時間です!タイガお姉様ー!』
山みたいな頭!面白い表現するなあの一年。それでいて中々的を射てる。
俺は黒いブリーフ被ってるみたいと例えるけど。
などと考えてるうちに実況の一年がマイク片手にすぐそばまで近づいてきてた。
今から立ち去るのはちょっと不自然…てか後々めんどくさそうだな。
『タイガお姉様、今の感想は?』
「『…感想と言われてもな』」楽勝でしたとか?
『なにか一言お願いしますよぅ〜なんでもいいですから』
なんでも…か、それじゃあ…
「『私に勝てるものはいないか!?』」
「ここにいるぞーーー!!」
なに!?
ネタのつもりでやったのに返してくる奴がいるとは…嬉しいじゃないか!じゃない、誰だ!?
内心ワクワクしながら声が上がった方を振り向くと。
「よーナッ…タッチ。昨日ぶり」
「『…モモさん』」
こんな厄介な状況を作り出した
そのままゆっくりと近づいてくる。
…あの顔は絶対碌でもないこと考えてるな。
つか誰がタッチやねん。
いやまあ、
「びっくりしたぞー。目が覚めたらいつもと違う場所だったし、時間は正午を回ってたし」
もう二・三日寝てりゃよかったのに。
「登校してみればナっ…タッチが決闘するって言うじゃないか。二度びっくりしたぞ」
びっくりついでにぶっ倒れちまえばよかったのに。
「まあそんな些細なことはどうでもいいか。という訳で―――」
ある程度の距離までくると、そこで立ち止まりなぜか戦闘体勢を取る。
「
なんでやねんな…
「『誰がナタっちだ…それになぜ私がお前とやり合わねばならん。理由がないだろう』」
ホントに意味がわからないよ。
「理由ならあるぞ。なぜならば…今ここで私はお前に決闘を申し込むからだ!!」
「『断る』」
先ほども使った、しかし先ほどよりも強い意志を込めた言葉で即答する。
すると目の前の女性はすぐにブーたれた表情になった。
「なんだよー、ここは『是非ともない』とか言って受ける場面だろー?」
知るかそんなお前事情。本当に碌でもないこと考えてやがって。
「他者からの挑戦を受けるのは神月ランカーの義務だぞー?」
「『そんな義務はない』」
上位ランカーから下位ランカーへの決闘の申し込みなら基本的に断ることは出来ないけど、この場合
それ以前にすでに一戦やってるんだぞ。誰がやるか。
「ノリの悪い奴だなー。しょうがないじゃあ…問答無用でいくか!!」
言うが早いか、数メートルの距離を一瞬ともいえるスピードで詰めてくる。
そのまま腕を振るい、顔面に拳が―――当たる直前で止まった。
いや正確には俺が止めた。
「なに!?」
「『迷いなく顔面を振り抜いてきたな…』」止めなかったら直撃・粉砕コースだったぞ。相変わらずあぶねーねーさんだ。
「お前、一体なにを…!」
「『
え?ならなんでさっきの奴(沙原)には使わなかったのかって?ハハッ
砂利と本気でケンカする大人がいるか?
「どんな原理で押さえつけてるのかは知らんが、この程度の拘束――」
「『すぐにでも外すだろうなお前なら』」
喋りながらも突き出されたモモさんの腕を左手で掴み、右腕を首筋に回し、
「『なので先に攻撃させてもらおう』」
――テリブルペインクラッチ
「『もう一度眠れ深く!』」
思いきり力を込めて絞めあげる。
昨日もこうやって気絶させたんだ。同じ技が二度効くほど甘い相手とは思わん。反撃に来たところで、より効果が高い絞め技を―――などと考えていたのだが、
「(ギュゥゥゥゥ…)……………」
なんか、すごい効いてる。
昨日もそうだったけど、本家とは違い足4の字固めをかけてないから比較的簡単に抜けれると思うんだが、なんでこの人素直に受けてるんだろう。実はMなの?恍惚とした顔もしてるし。
あと…西野ますみとかいったか?食い入るように見つめるのヤメロ、気持ち悪い。(なんでハァハァしてんの?)
そうして絞めること約数十秒。モモさんの身体から力が抜け、ぐったりとしたところで技を解く。
……うん、完全に落ちてるな。
『おおーっとタイガお姉様、沙原先輩に続いて川神先輩もノックアウトー!本当に強ーい!!これはもうっ、私生活からその強さの秘密まで根掘り葉掘り訊いてみないとわたくし気がすみません!!というわけでお姉様、まずはスリーサイズから――』
「『狐空』」
言い切る前に文字通り跳んで逃げた。
最初から試合終わった瞬間にこうしておけばよかったと軽く後悔した。
冴島タイガ
・ファイトスタイル…龍がごとくの秋山。手を使わない理由は不明。
狐脚 = シャイニングウィザード
狐閃 = 嵐脚(ワンピース。六式体術の一つ。「"気か!"」とか沙原君が言ってるけど安心してください。カマイタチです)
孤判 = ただの前蹴り
狐群 = 秋山の連続蹴り
狐空 = 月光(テイルズオブヴェスペリア。ジュディスの技)
狐舞 = 紙絵(ワンピース。六式体術の一つ)
硬狐顎 = チャージニーキック(掴んだ敵を力を込めて豪快に蹴り飛ばす。龍がごとく、冴島大河の技。)
操孤 = サニーゾーン(トリコ、サニーの技。男の時でも使えないことはないが範囲は頭部周り数cm)
■砂利と本気でケンカする大人がいるか?
ナルト。うちはマダラの台詞
■テリブルペインクラッチ
筋肉マン。パーフェクト・オリジン、ペインマンの技。
本家はプチプチシートみたいなエアバッグボディで至高の触感を与えてくれるらしいが、女ナツルがやったら胸部のエアバッグが至高の感触を――考えることが親父臭くなってきたな…もう歳かもしれんね
そんなこんなで冴島話終了。あと一つくらい書きたい話があるので、それが終わったら本編に進みたいと思っています。