戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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宣言通り、比較的早く投稿することができました。

物語の演出上、後半辺りをナツル以外の人物視点で書いたらなんか変な風になった気がする。




17時間目 生徒会の三劇

前回のあらすじ。なんか同じ学園に通う一歳年上の嫌な感じの男にの決闘を挑まれた。

 

なんで?

 

「私に勝ったら加入を認めてやる」

「言ってる意味が分からない」

 

いや実際は分かるよ?分かってるよ?

 

「あんたが承認しようとしまいとすでに俺は役員の座についてるんだよ。もう少し考えて喋れなんちゃってエリート」

「キサマァァァッ!!」

「おいおい、いくらなんでも青筋を立てすぎだろ。血管切れるぞ」

「貴様が怒らせてるんだろうが!!」

人のせいにするのはよくないよ上級生。

 

「(…瀬能さんが頼もしすぎてちょっと怖いです……)」

「(一人でさせるのは不安だけど、交渉事をするときにいてくれると心強いわね)」

「(いつも澄まし顔で嫌味を言ってくる阿久津書記が、あそこまでの醜態を晒しているのは見ていて気分がいいですけど)」

 

「何をするのか分からないから味方にすのは不安だが、敵に回すのは出来れば避けたい。まったく、扱いに困る人物だ…」

 

外野がまた好き勝手言ってるが無視。評価がいいのか悪いのか分からねえ。

 

「まあとりあえず、やるだけ無駄なのでこの話はなかったということで」

「ふん!そんなことを言って、本当は私と戦って無様に恥を晒すのが怖いだけだろう!所詮は最低クラスの腰抜けか」

 

あっはっは。なかなか面白いこと言うじゃない。

 

(やっす)い挑発だなぁオイ。今どきそんなのに引っかかるのはバカだけだぜ」

「挑発?事実を言ったまでだが?」

「だから乗ってやるよ。その決闘受けて立つ」

 

侮蔑と、人を小馬鹿にする薄ら笑いを浮かべるオールバックを満面の笑みを持って見つめ返す。

 

手の中のワッペンがぐしゃり、と握り潰された。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

場所を変えるぞと言われて連れてこられたのは、東京ドームの地下に存在する地下闘技場のような空間だった。

 

もっとも、本家とは違って選手が戦う場は砂地ではなくプロレスのマットが敷き詰められているが。

 

「こんな場所もあるんだな」

 

学園全域をマッピングした俺だが、学園にある施設全ての内部構造を知っているわけじゃない。

 

なぜなら一部の…というか大半の施設は立ち入りに制限があるからだ。上級生専用の棟とかは基本、許可がないと入れない。

なのでこの闘技場―――外観は国技館―――は初めて見た。

 

「ここは三年専用の施設だ。貴様ごときと戦うのに使うのは少々贅沢すぎるが、他は全て使用中なのでな」

「別にどこでやってもいいんだけどさ」

 

なんか…観客多すぎね?

見たとこ客席の八割が人で埋まっているんだが。

 

全体的にざわざわと好き勝手ざわめいて、耳を済ましてみれば『阿久津がまたやるみたいだぞ』とか、『今日の犠牲者は二年生か』などと聞えてくる。

 

こういうこと日常的にやってんのかこのオールバック?

 

気に入らない奴や自分に反抗する奴を大衆の面前で痛めつけて、自分の強さを見せつけ相手の心を折る。みたいな。

 

俺の勝手な想像だが、これが当たっていたらすごく…クズっぽいです。

つーか決闘するのが決まったのついさっきだぞ。どうやって集めたんだ。

 

 

「ハイハーイ。そろそろ始めるヨ、二人とも集まって」

 

 

リング上で客席側を見ながら物思いに耽っているとクラムチャウダー先生に呼びかけられた。

 

「ワタシの名前はルーだヨ」

「失礼しました、スパイス先生」

「だからルーだヨ。…それにしてモ、ナツルも大変ネ。こんな短期間で二度も決闘するなんテ」

「短期間て…モモさんなんて一週間フルで連戦なんてのしたことあったでしょう。それに比べたら可愛いもんスよ」

 

まあ実は八日目には俺とやったから一週間超えてるんだけどね。

 

 

あの時は直江に『ゲームでもしようぜ』みたいな感じで電話で呼び出されたんだったな。

そしてその後、なぜか流れるようにモモさんと試合したんだ。ギリギリで俺が勝ったけど。

 

満身創痍で問い詰めたら『姉さんが滾ってたから…』て抜かしやがった。

ガスぬきに俺を利用するんじゃねえよバカヤロー。お前んとこの姉御と違ってこっちは回復魔法使えねえんだぞ。毎回数カ所あざや骨折を作る奴の身になれってか治療費払えやコラ。

 

なんか、思い出したら腹が立ってきたな。

 

「百代は有名だからネ。でもナツルはこの前裏神月ランキングに入ったばかりヨ。それなのに数週間以内で二回目は普通ないヨ」

「そう言われりゃそうだが」しかもランクインっつっても最下位だし。

 

別名でならすでに一位に入ってるんだけどね。

 

「まあ、それだけナツルも有名になったという訳ネ。きっとこれからもっと挑戦者が増えるヨ」

「メンドくさ…」

 

たまにならいいけど連続はやだな。ザコを相手に『俺、最強!』とかやっても虚しいだけだし。

 

「先生、そろそろ始めましょう。時間の無駄です」

「ああ、すまないネ」

「…ま、すぐに終わりますがね」

 

ホント一々癇に障る言い方するなコイツ。

 

「二人とも決闘のルールはもう知ってるネ」

「はい」

「基本はプロレスのアレっスよね」

 

武器の使用。それ以外の全てを認める!ってやつ。

 

「武器は何を使うかは事前に申告する必要があるけど、二人とも素手で大丈夫ネ?」

 

早速ルールが瓦解した。

 

「アリなの武器使って!?」

「ダイジョーブ。訓練用の模造品ネ」

「そういう問題!?」

 

竹刀だって当たりどこ間違えたら命落とすんだぞ!?

 

「ふん、所詮はFクラスのクズ…いや虫けらだな。ルールを再確認して早々に怖気付くとは。心配せずとも私は武器を使わん」

 

……………

 

「なんだその顔は?」

「別に。もういい加減始めましょうか」

 

なんかもう気づかうのもバカらしいし。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜???Side〜

 

 

観客席から見下ろす先に、二人の少年と一人の成人男性が向き合っている。

 

一人は道着姿で、私も所属している第一生徒会の書記、阿久津障司。

もう一人は選択科目『武道』を担当しているルー教員。

そして残る一人は学園指定の制服を着た二年生…瀬能ナツル。

 

神月学園に入学して―――否、入学する前から、報告や噂で聞いている人物の一人。

 

言い回しは異なるが、皆似たような評価を彼に下す。

 

人の姿をした魔獣、と。

 

はたしてどれほどの実力を秘めているのか…少し、興味がある。

 

 

「それでは、時間無制限、一本勝負!レーーッツ、ファーイト!!」

 

ルー教員の掛け声を合図に、試合が始まった。

 

しかし双方共に構える気配がない。瀬能に至ってはズボンのポケットに手を入れている。

二人共なにを考えているんだ?

 

「…こんな覇気のない奴に弟は負けたのか。やはり解せんな」

瀬能を睨みつたまま、阿久津が口を開く。

 

「弟?」

「阿久津真は私の弟だ」

「…………?」

「貴様が数週間前、試召戦争特別ルールを使い倒した男だ!!」

 

本気で心当たりがないといった顔をする彼に、阿久津が怒鳴り声を上げる。

 

「いちいち声を荒げるなようっせえな…それで?アンタの本当の目的は可愛い弟の敵討ちだったってか?優しいお兄さんだねぇ」

「可愛い弟?ハッ!あんなどこの馬の骨とも知れん奴に負ける屑を、そんな風に思ったことなど一度としてないわッ!」

怒りの形相でこの場にいない者を罵る阿久津。

 

実の弟に対してそのような言い草を…

 

確かに阿久津真の素行の悪さは目に余った。しかし、そこまで言う程だろうか。

 

家族間でのことなので口出しすることはないが、なにか問題を起こしても、大事にならぬよう率先して後始末をしていたので、仲は良好だと思っていたのだが…

 

その彼は両腕を骨折してから現在まで、休学して自宅で治療に専念していると聞いた。はたしてどのような扱いをされているのだろうか。

 

「…ある意味似たもの兄弟だな。それで?結局お前、俺にどうしてほしいんだよ」

「私を殴れ」

「は?」

 

……………うん?

なにやらおかしな流れになってきたな。

 

「なんだって?」

「私を殴れと言ったんだ。どうしようもない愚弟だが、武の腕前は私も買っていた。それが貴様のような雑草に負けたとはとても信じられん」

 

「どうせ小物らしく卑怯な手でも使ったのだろう。化けの皮をはいで、真の姿を白日の下に晒してやる」

 

そう言って一層、胸を張り堂々とした態度でリング中央に立つ阿久津。

 

……なんと言えばいいやら…

 

 

「寸劇を見ている気分ですね」

「数秒後どんな反応をするか、楽しみですわ」

「えっ、ええっと…」

「オー、阿久津ハ演劇部ダッタノカー!」

 

私の隣、共に観客席の最前列に座る少女たちが、思い思いの感想を口にする。

ちなみに発言は三郷、高杉、水無月、南條の順だ。席もその順番で並んでいる。

 

二年生の二人は随分と余裕がある。先日の試召戦争でFクラスに挑まれていたから、瀬能の実力を少なからず知っているのだろう。

 

南條は別として、一年生の水無月も困惑はしているが彼を心配している様子はない。

前々から思っていたが、我が校の生徒は自分より下の者を見下す傾向があるな…それも根拠もなく。嘆かわしいものだ。

 

 

「お前バカだろ」

「なに?それはどういう―――」

 

「おわたァァッ!!」

ズガンッ!

 

 

阿久津が眉を顰めて疑問を口にした次の瞬間。瀬能が握りしめた拳が阿久津の頭に叩きつけられていた(・・・・・)

 

おかしな言い方だがそれ以外表現のしようがない。少なくとも五歩分はあろうかという距離を、いつ近づいていつ腕を振り上げいつ落としたのか全く気づかなかった。

 

「―――ぎゃああああああっっ!!」

 

数秒の間を開けて、阿久津は足を抱え込むようにして床に崩れ落ちた。

 

「ものの価値が分からん金メッキ野郎は這いつくばってんのがお似合いだ」

「それまで、勝負あり!」

 

冷めた目で阿久津を見下ろす瀬能に、ルー教員が決闘の終了を告げる。

順当だな。これ以上は命に関わる。

 

「ま…待て…、私は…まだ……やれる…!!」

 

苦悶の表情を浮かべ、腕の力のみで上半身を起こす阿久津。

やはり、立ち上がるか。プライド高い男だからな。

 

「その身体じゃ無理ネ、両足が折れてるヨ」

「そうなるように打ったからな」

 

しれっと、なんでもないように答える瀬能。

その言葉を聞き、阿久津はギロッと音が鳴りそうなほど彼を睨みつけた。

 

…そろそろ介入するべきか。

 

「貴様…自分がなにをしたか分かっているんだろうな…!私は生徒会の一員だぞ!?」

「それさっきも聞いた」

「貴様のようなどこの馬の骨とも知れんクズなど、本来なら会話することも許されんのだ!それなのにこんなことしやがって…!貴様なぞ私の権限を使ってこの学園から追放してやる!!」

「それは無理だ」

 

観客席を隔てる壁を飛び越え、直接リングに降りる。

そのままリング中央へ近づいていくと、二人の様子がより一層分かりやすくなる。

 

阿久津は歯を食いしばり、目を血走らせて憎悪を露にしている。

人はここまで醜くなれるのか。そう思わせる表情だった。

 

一方瀬能は、道端の石でも見つめるような眼差しで阿久津を見つめ返している。

こうまで悪意を向けらたら普通、顔を背けるなりなんらかのリアクションを取るものだが…全く微動だにしない。

 

先程と違い氷のような表情に―――不覚にも少し、美しいと思ってしまった。

 

「か…会長…?」

「いくら生徒会役員とはいえ、生徒を退学にすることはできない。なにより」

 

そこで一端区切り、阿久津の側で膝を屈める。

そして上体を支えている腕に手を伸ばし―――

 

「生徒会を辞めた一生徒に、そのような真似をする権限は無い」

 

そこに付けられていた腕章を取り外した。

 

「な!?会長なにを!?」

「『なにかを賭ける時は双方共に同等の価値のものを賭けなければならない』、神月学園に置ける決闘のルールだ」

 

阿久津は瀬能の生徒会追放を提示した。

しかし瀬能は対価を要求しなかった。よって阿久津の生徒会追放が彼に支払われる報酬となるのが妥当だろう。

 

「そ、それは知っていますが―――」

「ならば受け入れろ。自分で言ったことだ」

「ですが!」

「阿久津、正直に言うと最近の君の行動は目に余る」

 

一部の生徒への差別、有名病院や財閥の御曹司など権力者への賄賂紛いの贈り物、決闘を利用したリンチ(公開私刑)

証拠が固まり次第一斉摘発しようと泳がせていたのだが、私に気づかれてないと本気で思っていたのだろうか?

 

「しっ、しかしっ」

「引き継ぎ等は気にしなくていい。残りのメンバーでうまくやってみせる。なに、いざとなったら頭でも下げるさ。君の言う通りにな」

「………!」

「残念だ阿久津。一年の頃の君は本当に―――輝いていたのに」

 

すがるような眼差しを切り捨て背を向けると、背後からドシャッという音が聞こえた。

 

ギリギリのところで保っていた意識が切れたのだろう。タンカも来ているようだし、放って置いても大丈夫だろう。

 

それよりも…

 

「瀬能、これは君の物だ。受け取れ」

持っていた腕章を突き出す。

 

「…付けなきゃダメっスか」

「お前…生徒会室で宣言しておいて今さらそれはないだろう」

 

まあ数人しかいなかった一室と、何十人が見ている中では規模が違うがな。

 

瀬能は深くため息を付いて、腕章を受け取り自分の腕に嵌めた。

裏返しに。

 

「おい、逆だぞ」

「知ってます」

 

しれっと悪びれもせずに…まあいい。

これぐらいの反抗心なら可愛いものだ。

 

「なんか流れで完全に入ることになっちゃったけど、よかったんスか?こんな問題児生徒会にいれて」

 

気絶したままタンカで運ばれる阿久津を眺めながら、瀬能が口を開く。

 

「言っただろう。第二生徒会の人事に口を出す権利はない。それに、君は中々理性的な人間だ」

「あれで?」

「頭を打ったのに、負傷したのは両足のみ。充分理性的だと思うが?」

 

観客の多くや、阿久津本人も気づいてないが、ついさっきの試合は本来ならもっと大惨事になっていてもおかしくなかった。

 

一撃で両足が骨折したのだ。あれを骨盤や内臓、勿論頭にでもあの衝撃が放たれていたら、とても怪我では済まなかっただろう。命に関わる。

 

「散々罵倒されたのに、君は随分と優しいんだな」

「あれぐらい日常茶飯事だし」

「ふむ…寛大だな。その実力と"裏番"の名前を示せばもっと楽な学園生活を送れるだろうに」

 

 

ビリっ…

 

 

瞬時に、目の前に立つ男の雰囲気が一変する。

外見は全く変わっていないのに、溢れる殺気で空気が震えるようだ。

 

先ほどから少なからず警戒心は持っていたようだが、今の彼はまるで猛獣だ。

 

「…そういえば先輩の名前をまだ訊いてませんでしたね」

「そうだったか?私としたことが…すまない。しかし、君は他人のことを気にする性格ではないと思っていたのだがな」

「相手が一方的に自分を知ってるっていうのは、誰だって嫌だと思いますが」

 

ふむ…正論だな。

 

「では名乗ろう。神月学園三年、第一生徒会会長の桐条美鶴だ」

一端言葉を区切り、手を差し出す。

 

「これからよろしく頼むぞ。副会長」

「…リコールされるその日までは、まぁ よろしくお願いします」

 

悪態とも皮肉とも取れるつぶやきをしながらも、瀬能は私の手を取りしっかりと握手をした。

 




桐条美鶴 3年S組

5月8日生まれ 牡牛座

血液型:0型
身長:166cm
体重: 機密事項

攻撃力:76(武器使用)
守備力:82
走力:69
瞬発力:83
体力:74
知力:96

総合武力ランク:A+

以上の者、我が校の生徒であることを認める。

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