戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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主人公、生徒会に入る。


15時間目 生徒会へ一属

〜瀬能Side〜

 

 

放課後

 

チャイムの音が響き、皆が思い思いの行動に出る。

 

帰り支度をする者、友達と好き勝手喋る者、おもむろに頭巾を被り怪しげに呟く者。

他の学校とそう変わらないであろう光景だ。…一部を除けば

 

 

「さて俺も帰るか」

 

一年の時は「持ってくる必要あんのか?」って言いたくなるくらいスカスカだったかばんに教科書を詰め込み席を立つ。

……みかん箱にブルーシートだけど

 

 

「ん、なんだナツル帰るのか?」

直江が急に声をかけてくる。

 

「悪いかよ」

「いや…、お前生徒会に所属してなかったか?サボったらまずいだろ」

 

なんでそう忘れてーことを蒸し返してくるの?言わなきゃ無かったことにできたかもしれないじゃない

 

「あんな無理矢理入れさせられたもんになんで付き合わなきゃなんねーんだよ。理不尽だろ」

「否定はしないけどな…。クラスに生徒会役員がいればなにかと便利だから、俺としては真面目にやってほしいと思ってる」

 

お前の都合なんて知るかっ。お得意のネットワークで他のカモ見つけろよ

 

…あーあ、誰かリコールしてくんねえかな

 

辞表(?)を出しても受理してもらえなさそうだしな

 

 

「冴島殿は生徒会に務めているのか?」

今度はフリードリヒだ

 

「…属してるだけでまだ活動はしてねーよ」これからもする気はないけど

 

「つーか俺の名前はナツルだ、瀬能ナツル。誰から聞いたんだその呼び名」

「ふむ…冴島殿はあれなのだな。えっと…そうインテリヤクザ!」

「お前実はわざと言ってんじゃない?」

インテリは分かるがヤクザを付ける意味がわからない

 

「むう、違ったか…じゃあ三百代言というやつか?」

「それ以上口を開くと意味わかって言ってるとみなすぞ」

 

 

 

三百代言:詭弁を弄すること。またはその人。弁護士を罵る言葉としても使われる。

明治時代の初期に資格のない代言人(弁護士)を罵ったことからいう。

 

「三百」は銭三百文の意で、わずかな金額、価値の低いことを表す。「代言」は代言人で弁護士の旧称。

 

 

 

喧嘩売ってんのかコイツ

 

そして名前直さねーし。このまま定着しそうな予感

 

 

「そもそも生徒会の副会長ってポジション的にかなり重要な位置だろ。なんで数時間そこらでさらっと決められんだ?」

 

三郷が用紙書いて教師に申請したらその場で採用されたぞ

 

「噂は本当だったのか」

「あ?どういう意味だよ」

「学校の生徒会長って選挙で決めるだろ」

 

まあそう…かな?

 

「…いや待て、やった覚えねえぞ」

「そう。神上学園(うち)に生徒会選挙ってのはないんだ」

「はあ?」なんだそりゃ

 

「学校の方針で生徒会長は代々、その前の年の会長が指名していくんだ。役員もそんな感じで受け継がれているんだろうと思ってたが…生徒会長が一人づつスカウトしてるのが真実だったわけだ」

「ドラクエか」モンスター仲間にする系の

 

 

むしろ俺の場合ポケモンに近い。強制だし

 

 

「そんな可愛らしいものじゃないでしょうあなたは」

 

うっさいボケ。俺はアレだ、グラードンやダークライ的な愛嬌…が……

 

突然出現した聞き覚えのある声に一瞬思考が止まりかけたが、すぐに勢いよく背後を振り返る。

 

 

「こんにちは瀬能君」

 

予想通りの人物が微笑を浮かべて立っていた。

 

「ゲーッ会長!?」

「ずいぶんな挨拶ね」

 

さして気にした風もなく、ただひたすらに見続ける彼女。俺が座っているからその視線は下向きだ。

 

…見下してジャネーヨ

 

 

『生徒会長…!』

『いったいなにしに…』

『今日もお美しい…!』

 

回りの男子(アホ)どもは美人生徒会長の突然の訪問にわかりやすく色めきだつ。

 

ほとんどが受け入れムードの中俺だけが眉間にしわを寄せ嫌な顔をする。

 

だって喜べないんだもん

 

 

「あっ会長さん、こんにちはっ。なにかご用ですか?」

「姫路さん、こんにちは。心配しなくてもいいわ、今日は彼に用があるだけだから」

 

そう言って睨むように俺を見つめてくるが、あえて気付かないふりをする。

 

なんか怖いもん

 

 

「ねえタイガ、心配しなくていいってどうゆう意味?」

「宣戦布告しにきたわけじゃねぇって意味だろ。負けたクラスは3ヶ月試召戦争の申し出ができないけど、挑まれたら受けなきゃならんからな」

 

疑問符を浮かべてくるワン子に答えを返す。

 

てかなんで俺に訊くんだよ。直江にでも訊けよ

 

 

「瀬能君」

「さー長話もこれくらいにして、そろそろ帰るか」

「瀬能君」

「お前らも帰んだろ?どっか寄り道してこーぜ」

「せの「近くのゲーセンに新しい台が導入し(はいっ)たらしいから対戦でも――」

 

 

 

プスッ

 

バタッ

 

 

突然チクリとしたかと思った次の瞬間、いきなり身体が動かなくなり前のめりに倒れた。

 

 

「な…何事?」

「心配しなくていいわ。塩化スキサメトニウムを注入しただけだから」

 

 

筋弛緩剤じゃねーか。なにに安心しろってんだ

 

つかなんでそんなもん所有してるの?注射器まで持ってるし

もしかして常備品?

 

 

「ところであなたどうやって喋っているの?身体中の筋肉が麻痺してるから口も動かせないはずだけど」

「腹話術です」

「…………」

「腹話術なのです」

 

 

そうゆうことにしといてください

 

 

「……腹話術も微妙に口を動かす必要が…まあいいわ。さっさと行きましょう」

 

そう言うと会長は倒れてる俺の襟首を掴んでズルズルと引きずりだす。

そこそこ体重があるのにどんな腕力してんだコイツ

 

 

「おっおい、誰か助けてくれっ」

「そう言われも…」

 

視界に入る奴らは気まずそうに目線を逸らすか、憎悪の目で睨みつけてくるかの二種類だ。

 

前者は相手が生徒会長だからーってのは分かるが、後者はなに?もしかして羨ましいとか思ってんの?

 

 

「ドナドナドーナード〜ナ〜。タイガを乗ーせーて〜」

「おいなんだいきなり、やめろ縁起でもねえ」

「「「「「ドナドナドーナード〜ナ〜。荷馬車が揺ーれーる〜」」」」」

「合唱するなァァァッ!!」

 

なぜかワン子を皮切りに、直江たちが息の合ったコーラスを披露してくれた。

 

本気でやめてほしい。リアルに笑えない

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

ズルズルズルズル…

 

生徒会室までの道のりをただひたすらに引きずられながら進む。

 

校庭から玄関を越えここまでほぼノンストップ。グラウンドの土やら床の埃やらでズボンがもうえらいことになってる。流石に酷くない?

 

「着いたわよ」

 

そうやって耐え続けること十数分、生徒会室として使われている(らしい)教室の前までやって来た。

 

 

ここまで来ていい加減薬の効果が切れたのか、身体の方も少しづつ動くようになってきた。

万全とは言い難いが、自分で歩く程度はできそうだ。襟首を掴んでる腕を振り払い立ち上がる。

 

 

 

余談だがうちの学校、生徒会室は二階に設置されている。

 

階段をどうやって移動したかと言うと…なにも変わらない。斜面を引きずるように登らされた。この女やっぱり悪魔だ

 

しかも一回落とされた。

 

一昔前のドリフみたいなことさせられたせいで背中が超痛い。

 

 

「てめえいつか見てろよ…!」

「わざとじゃないわよ」

 

怨嗟の視線を込めて話しかけたのに、ピクリとも表情を変えない。

 

 

笑いやがったくせに

 

 

笑いやがったくせに!よくもまあいけしゃあしゃあと!

 

いつか必ずギャフンと言わせてやる

 

 

「入るわよ」

 

睨み続ける俺に全く気にした様子もなく、ごく普通に扉に手をかける。

 

こうなったら第一印象最悪の挨拶をして会内の空気を悪くしてやる。ついでに辞められたら御の字だ

 

 

駄目な方向に決意を固め、入った瞬間にどんな行動を取ろうか頭を回転させてるうちに会長がドアを開けた。

 

 

ガララッ

 

 

「すうー…すうー…」

会長の肩越しからまず初めに見えたのは、頭からマスクのようにブルマーを被り、椅子に座りながら布らしき物に顔を埋めている少女。

スカート穿いてるから多分女だろう。

 

 

「…………」

「…………」

 

突然ドアが開いたにも関わらず、そのまま匂いを嗅ぎ続ける少女を前に二人して絶句する。

 

 

なんだこの空間。本当に生徒会室か

 

 

思わず振り返って教室表示の看板を確認するが、そこにはきちんと『生徒会室(2)』と書かれていた。(2?)

 

 

一花(かずは)

「ふぇっ?!あわわわわっ!」

 

 

三郷が声をかけると、一花と呼ばれた少女はビクッ!と一瞬飛び上がりバタバタとパニック状態に陥る。

残念ながら生徒会室に忍び込んだ変態という線はなかったようだ

 

 

「はわっわ…かっ・会長さん……!」

「学校では止めなさいと前にも言ったはずよ?他人(ひと)に見られたらどう言い訳するつもり?」

「あうぅ…ごめんなさい……」

 

 

声だけ聞いてたら姉が妹を窘めるようなほのぼのした場面。

 

しかしそこに視覚が加わっただけで、なんということでしょう。ブルマーの変態仮面を叱る女子高生といった異様な光景に早変わり。

 

 

もう帰っていいかな俺

 

 

「瀬能君」

「はい、すいませんっ」

「何に対して謝ってるの?…まあいいわ。彼女は水無月一花、書記を担当してもらってるの」

 

紹介された少女はいそいそとブルマーを外す。そこから出てきたのは白銀色のショートツインテールの女子。

 

こんな妹がいたらいいなと思わず妄想してしまいそうな感じの可愛い系少女だった。

 

 

でもさっきの見た後だから残念としか言えない。世の中色んなのがいるもんだ

 

 

「いっ一年Bクラス、水無月一花です…」

 

近くに置いてあった。おそらく彼女のであろうかばんにブルマーなどを多少慌てながら詰め込み、服装を整える女子。

 

俺が悪い訳じゃないんだが、なんとなく気まずい。

 

とりあえず自己紹介はしとこう。えーっと……

 

 

………………………………

 

 

駄目だ!さっきの光景を超えるインパクトある紹介の仕方が思いつかない!

 

 

「二年Fクラス瀬能ナツル…」仕方なく無難な挨拶で終わらせる。

 

さようら、俺の入会デビュー

 

 

「あっあなたが瀬能さんですか?噂はよく聞いてますっ」

 

どんな噂だろう

 

「あとっ生徒会に入ってくれるんですよねっ? ねっ?」

 

鬼気迫るような勢いで詰め寄ってくる。

 

彼女にとっては自分の性癖をバラされるかどうかの瀬戸際だろうから、その分必死なんだろう

俺に言い触らす勇気は無いが

 

 

ガラガラっ「一花、この前の案件だけ、れど………」

 

この教室は隣接した部屋があるらしく、入ってきたものとは別のドアが突然開いた。

 

そこから登場したのは…なんつーか……ゴスロリだった。

 

それも第何ドールとか付きそうな――多分それ意識してんだろうなアレ

 

 

「臭いフェチの変態の次はコスプレイヤーか…ここ本当に生徒会室か?」

なんか俺が考えてた生徒会とちょっと違う

 

「なっ、なんで一般生徒がここにいるんですの?!」

 

そう言ってあたふたと身体を隠そうとするが、残念ながら全く隠れていない。出てきた教室へ戻ればいいのに

 

せっかくなので少し観察させてもらおう

 

 

顔は釣り目がちで高飛車なお嬢様。

 

腰辺りまで届いてるであろうソレを、ツインテールを基本に4〜5回ほどクルクルとロールしている髪。

その色は南国の海を彷彿とさせる鮮やかな水色。

 

「ちょっと待てやテメェ、誰に断って髪を水色にしてんだゴラァッ!!」

「ひゃ!?」

 

側で水無月が悲鳴を上げたが無視。

 

「俺と被るだろうが!!」

「はぁ?意味がわかりませんわ。(わたくし)の髪がどんな色をしてようと勝手でしょう。それにあなたはどちらかといえば青色ですわ」

 

まあそうなんだけどね。

 

「アンジェ。彼はたまにおかしくなる()があるみたいだから、あまり気にしないであげて」

 

口調はいつもとあまり変わらないが、諭すような感じで説明しやがった。あんた俺のなにを知ってんだよ

 

ゴスロリ(アンジェ?)は羞恥のためか顔を真っ赤にして会長に詰め寄り、後ろ向きに俺を指差す。

 

「会長!部外者を室内に入れるなんて、どういうおつもりですの!?」

「彼は副会長よ、部外者じゃないわ。…別に反対してもいいけどこのままだと困るんじゃない?」

 

 

会長さんなんか、人の弱みに付け込んで自分の意見を通そうとしてない?

 

事前に通達してなかったみたいだし最初から狙ってただろ

 

 

「誓約書でもなんでも書くんで帰らせてほしんですけど」

「うぐぐ…仕方ありませんわね……」

 

割と本気で言ってみたものの見事に無視された。

 

「それじゃ瀬能君、紹介するわね。彼女が会計の――」

「高杉・アンジェ・リッヒ・ベルム・リ・クラムニコ・メン・フロアーズですわ!」

「なげーよ。もうチョーでいいだろ」

「ひっぱたきますわよっ!?」

 

あと、どう見ても完全外国人て外見なのになんで日本人の名前が入ってんだよ

 

「分かってると思うがいかりやの方の『チョー』じゃなくて、長くて超めんどくさいの『チョー』だから」

「離しなさい一花!!この非常識をギタギタにしてやるんだからーっ!!」

「おっ、おちっ落ち着いてください高杉さん!」

 

チョーが襲い掛かろうとしたのを見て、咄嗟に水無月が腰にしがみつくようにして止めに入った。

 

さっきから怒ってばっかだな。カルシウムが足りてないんじゃないか?

 

 

「そっそうだ会長さん。瀬能さんが副会長になるのなら、横橋さんはどうするですか?」

「横橋?」誰それ?

「あら、そういえばいたわね横橋君」

 

会長つめてー、でもそこにシビれるアコガれるぅ!!

 

「で、横橋って誰」

「さぁ…?そんな人いましたかしら?」

 

ある程度冷静さを取り戻して水無月を引き離すチョーに尋ねるも、彼女は首を傾げるばかり

 

…仲間じゃないのか?

 

 

「横橋君は副会長だった人よ。厳密にはまだ生徒会に所属してることになってるけど」

「じゃあ――」変更は無理なんじゃ

「最初の一回出たきり今も不登校だったわね」

 

 

なにがあったんだよ横橋に

 

 

「ああ、思い出しましたわ。確か私たちを見た瞬間『かみはしんだ!』とか叫んで走り去った人でしたわね」

 

 

やっべ、なんとなく気持ちが分かる

 

 

悲しいわけでもないのに涙が零れそうになり、思わず上を向く。

 

 

「横橋君は正式に辞めたことにしましょう。いい加減三人だけだと不都合も多いから」

 

いつの間にか壁際に貼ってあるあるホワイトボードに移動した三郷が、喋りながら同時に手を動かす。

 

そこには役職と名前が書いてあり、『横橋』の名前が消されて綺麗な字で『瀬能』と記入されていく。

 

「オイ待てコラ、俺は生徒会に入らんと何度も――」(くいくいっ)

 

 

「入って…くれないんですか…?」

 

うるうるうるうる…

 

袖を軽く引っ張られたのでそちらを向くと、水無月が目に涙をためて見上げてきてた。

 

「ぐっ……」

 

 

やっ…止めろ…!そんな目で俺を見るなっ!!

 

 

「女の子を泣かせるなんて、男として最低のことですわよ。瀬能ナツル」

 

おかしい。チョーには自己紹介してなかったはずなのに、なんで俺のフルネームを知ってんだ?

 

生徒会に属してるなら生徒の顔と名前を把握してても不思議ではないが(俺有名だしな。悪い方に)、秘密を知ってしまった以上脅されてる気がしてならない。

 

どうする…どうすればいい!?

 

 

「……………よろしく……お願い………しま…す…」

 

 

しばらく考えた後、血を吐きそうなほど苦しげな声で答える。

 

もとよりここに連れてこられた時点で選択肢はなかったんだ。そう思おう

そう思うしかない

 

 

答えを聞いた瞬間、会長が憎たらしい程に絵になる笑みを浮かべる。

 

「ええ、歓迎するわ」

「ただし!FクラスがSクラスに試召戦争で勝ったら即刻辞めさせてもらうからな!!」

「好きになさい」

 

 

こうして、俺こと瀬能ナツルは晴れて生徒会副会長の座についた(つかされた)

けして忘れることのできない、ある意味大切な青春の一ページ。

 

 

 

 

 

「生徒会の一員である今は、それなりに節度を守って行動してちょうだいね」

「いつもしてるじゃねーか」

「どの口が言ってますの」

「今日瀬能先輩のクラスから病院送りになった人がいるって聞きましたけど…」

 

日常の範囲内だ

 




次回、マスターボールもはね返す非常識伝説級のモンスター「ナツル」を捕獲した三郷さんの冒険が始まります。乞うご期待

なんてね

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