戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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神月学園は川上学院と文月学園を合体させて少し付け加えた。みたいな感じの設定です。

なので本来なら学園祭編から登場する大和たちも、一緒の学校なんです。


お得だね!


SHR ①

「うっ…わー……!」

三階2年Sクラス。他の教室三倍はあるであろう部屋の前で、明久は大口を開けて呆然とした。

 

ちなみにナツルは陰を背負いながら、重い足取りで一歩一歩階段を上がっている途中である。意外と引きずる性格のようだ。

 

「皆さん、ホームルームを始めます」

Sクラスの教壇上に、髪を団子状にして後ろにまとめたスーツ姿の眼鏡の知的美人が立つ。学年主任の高橋洋子だ。

 

「まずは進級おめでとうございます。2年S組を受け持つことになりました、高橋洋子です。どうぞよろしく」

彼女が告げると壁一面に敷き詰められたかのような大きさのプラズマディスプレイに名前が表示される。

 

「まずは設備の確認をします。デスクトップパソコン、個人エアコン、冷蔵庫、リクライニングシート、その他の設備に不備のある人はいませんか?」

 

洋子の言葉に数人の生徒が手を挙げる。一介の学生が使うにしては贅沢すぎるはずだが、何が足らなかったのだろう。

明久は確かめようと扉の窓から中を伺っていたが、後ろから声をかけられた。

 

「おい吉井、(もうしてるけど)遅刻するから先行くぞ」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

走り去るナツルの背中を慌てて追い掛ける明久。その後ろの教室では、Sクラスの代表であろう黒髪の少女が教壇で挨拶をしていた。

 

『霧島翔子です。よろしくお願いします』

『本来クラス代表は男女二名ですが、男子の代表は諸事情で欠席されています。皆さん、これから一年は――』

 

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「初日から遅刻しちゃった…」

『2−F』と書かれたプレートがぶら下がる教室前、明久は思い悩んだ顔で扉を見つめる。

対してナツルはズボンのポケットに手を突っ込み、あっけらかんとした様子。

 

「俺一年の時入学式と始業式遅刻したことあるぞ」

「神経太すぎだよナツルは…」

 

もっともである。

 

「でもそうだね、きっとみんな笑って迎えてくれるはず…!」

 

ぐっ…と拳を握り、決意をあらわに明久は扉を開けた。

 

ガララッ「すいません、遅れちゃいました♪」

「とっとと座れ、このウジ虫野郎!」

「いくらなんでも酷すぎるっ!」

 

まったくだ。

 

とても教師の台詞とは思えないが、教壇に立つのは学生服に身をつつみ短髪を上にツンツンと立てている長身の男。どうみても教師ではない。

 

「…って坂本じゃねーか。なにやってんだ?」

「瀬能か」

 

 

少し遅れて入ってきたナツルが失礼する。それに教壇に立つ男―――坂本雄二―――は

 

「先生がまだ来てなかったからな。一応、最高成績者として挨拶してたんだ」

「それって…」

 

明久が反応する。雄二は腕を組んで得意げに笑い

 

「ああ、俺がこのクラスの男子代表だ」

 

目を輝かせながら「今日からこいつらが俺の兵隊だな」と口走る。

それを尻目に

 

 

(つまり雄二を説得すればクラスを動かせるわけか…)

(あれっ?最高成績者って俺じゃないの?もしかして俺っていないことになってる?…もしくはいらない子?)

 

 

明久は黒い笑顔で、ナツルは半目で物思う。三者三様といったところか。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜ナツルSide〜

 

「すいません、ちょっと通してくれますか」

 

後ろから声をかけられたので振り返ると、スーツ姿で眼鏡をかけた初老の男が立っていた。

 

誰だ?ってこの状況じゃ教師しかいねーよな

なんとも存在感の薄い担任だ

 

 

「すいませんが席についてもらえますか?ホームルームを始めますから」

 

その言葉に従い、俺ら三人は自分の席に移動する。

といっても初日だから座席が決まってるわけもない。ので空いてる場所に適当に座ろうとするが、見事に皆後ろの方しか空いてねえ

 

 

「あっ、タイガ!」

 

教室の奥の方へ移動したら、見知った顔が一箇所に固まっていた。

 

 

「おおワン子よ。Fクラスにきてしまうとはなさけない」

「タイガだってFクラスじゃない」

 

 

ごもっとも

 

あと俺の名前は瀬能だからね?瀬能ナツル。何度もいったでしょ

 

いい加減覚えろよ

 

「タイガ最近ちっとも川上院なに来てくれないけど、どうして?」

「骨が折れるからな」

 

二重の意味で

 

 

「やあタイガ、久しぶり」「おー」

「冴島ー、今度また久しぶりにゲームとかしようぜー」「ゲーセンでならいつでもオッケーだ」

 

「…みんなナツルの知り合いなの?」

「まーな」

 

他の奴らにも適当に挨拶しながら席につくと、吉井が隣に座りながら尋ねてきた。

 

「タイガとか冴島ってなに?」

「先生がなんか言うみたいだぞ」

 

興味ありげな目で見てくるがとりあえず無視。ほら先生がこっち見てる(ような気がする)ぞ、前を向け

 

 

「えーそれでは皆さん初めまして。私が2年F組担任の福原槙です」

そう言って名前を書こうと黒板に向かったが、すぐにこっちに向き直った

たぶんチョークがないことに気付いたんだろう。学ぶ場所ならチョーク位常備されててもいいと思うんだが

 

「ではまず設備の確認から。ちゃぶ台、座布団、…えー…なにか不備のある人はいませんか?」

 

不満なら掃いて捨てるほどあるが

 

「Sクラスを見たあとだから余計酷く見えるね…」

「ていうかほとんど廃屋だろここ……!」

周りに聞こえない程度の音量で吉井と愚痴をこぼし合う。それほどこの教室環境はひどいのだ。

 

だっておもっくそ床に穴開いてるし。蛍光灯だって割れてるし

 

 

「先生、俺の座布団破れて綿が飛び出てるんですけど」

「あーはい、糸と針の支給を申請しておきますので自分で直してください」

「センセー、ちゃぶ台の天板が傷だらけなんですけど…」

「我慢して使ってください」

「先生、アタシの席のすぐとなりに大きな穴があるんですけど」

「長板の申請をしておきます。無理だった場合は我慢するか、他の人と代わってもらってください」

「センセー!今そこに半透明な人影がいたぜ!」

「気のせいです」

 

予想以上に酷すぎる。

ほかの奴らもおんなじこと考えてるんだろうな

 

というか最後の、実際にいたけどいいんですか?

 

 

 

「必要な物や不備がある場合は各自、極力自分でなんとかしてください。ではそうですね…廊下側の人から順に自己紹介をお願いします」

 

納得できないことは多々あるが、皆口には出さず、一人づつ名前などを言っていく。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

甘粕(あまかす)真与(まよ)ですっ。えっFクラスの女子代表をさせてもらってますっ。…えっ、えっと………よっよろしくおねがいしますっ!!」

 

 

「木下秀吉じゃ。これから一年、よろしくたのむのじゃ」

 

 

「島田美波です。趣味は吉井明久を痛めつけることです♪」

「島田さん!?なに物騒なこと言ってるのさ!?」

「大丈夫。吉井(アンタ)以外にはやらないから」

「なにひとつ安心できないよ!!」

 

 

(みなもと)忠勝(ただかつ)。…とくになにもねえ」

「ゲンさ~ん…。そこはなにか言ってくれなきゃ」「ねえもんはねえ」

 

 

羽黒(はぐろ)黒子(くろこ)ぉ。アタイぃマジイケメン好きだしぃみたいな?」

 

 

 

 

次々にクラスメイト(あまり認めたくないけど)が自己紹介してく。どうでもいいがいろいろ濃いなうちのクラス

 

 

そしていよいよ俺の番が回ってきた。さてどんな紹介しようかな…

 

「え〜瀬の『ガララッ』「す…すいま…せんっ、遅刻…してしまい…ました…!」……」

 

 

名前を言おうとしたら華麗に被された。誰だコンニャロめー

 

見ると教室の前入口にピンク色の髪の可憐な美少女が…、チッ命拾いしたな、男だったらひき肉にしてた位のタイミングだったぞ今の。

 

 

「ちょうど自己紹介してもらってたところですから、あなたもお願いします」

「は…はいっ」

少女は担任に促され、深呼吸をする。

 

 

あれっ?俺の自己紹介は?なに?やっぱ俺っていらない子?

 

 

ふて腐れてるうちに自己紹介が終わったのか、少女が後ろの空いてる席(ちゃぶ台)に座る。他の奴が名前を言ってってるあたり、俺のアピールタイムは完全に終わったようだ

 

仕方なく少女を観察でもしようと後ろを向けば、吉井が話し掛けようと身を乗り出してる最中だった。

 

「ひめ「姫路」」

流行ってんのか?狙ったのかのように坂本が先に話し掛ける。

出鼻をくじかれ吉井がハンカチを噛んで悔しがる。どっから出したんだよ…

 

「はい?えっと…」

「坂本だ。坂本雄二」

「あ、はい。なんですか坂本君」

「もう体調は大丈夫なのか?」

 

病弱キャラなのかこいつ?

 

「あ、それ僕も気になる!」

 

吉井が坂本を押しのけて迫る。

 

「よ…吉井君!?」

 

「悪いな姫路、明久がブサイクで」

「雄二、そこはフォローするとこだよね」

「モザイク処理すれば大丈夫」

「ナツル、僕はそういうフォローを期待してるわけじゃないんだよ?」

 

だろうね

 

「そんな…!目もパッチリしてて顔のラインも細くて綺麗だし…、むしろ…」

まあそう言われればかわいい系に入るかもな。俺は殴り飛ばしたくなるけど

 

「はいそこ、静かに――」バキッガラガラガラッ

担任が注意をしながら教卓を叩いたら、教卓は一瞬にして木材へと姿を変えた。それとともにほこりが教室中に拡がる。

 

「…代えを用意してきます」

そう言ってその場をあとにする担任。窓を開けたりと換気がなされるが、ほこりがこっちまできてキツイ…。ホント最悪だこの教室

 

「教育現場とは思えんな…」

「あはは…」

手団扇で辺りをバタパタと扇ぎながら少女が苦笑する。俺も扇いどこ

 

「雄二、ちょっと…」

 

それを見て何を思ったのか、吉井が坂本を廊下へと連れ出した。なんだ?

 

 

「よっ、ナツル」

「んあ?」

 

今まで座ってた奴がいなくなったことにより、一時的に空席となったところに新しく別の奴がやってきた。

 

「なんだ、直江か…なんかようか」

「いや、べつになにかしらの用事があるわけじゃない。でも同じクラスになった知り合いに声をかけるのはごく普通のことだろ?」

「相変わらず理屈っぽいヤローだ」それに微妙に嫌味ったらしいんだよなコイツ

 

直江はそれ以上、とくに話しかけてはこなかった。ただ前の席のクラスメイトたちを眺めるような目で見続けるだけ。

 

…本当に用事はねえみたいだな

 

 

「そういえばよ」「んー?」

「どういうつもりだ?」「なにがだ?」

 

しらばっくれやがって

 

「お前の学力ならA…がんばりゃSには行けただろ。なのになんでFクラス(ここ)にいるんだよ」

「ナツルだって特待生制度でSクラス入りできたんじゃないのか?」

 

ここ神月学園では、成績が芳しくない生徒でも才能しだい(絵とか音楽とか武術とか)で特待生としてSクラスに編入させてもらえるのだ。

 

 

ただ特待生になるには、当然なにかしら必要だ。

 

例えば世界的なコンクールや大会で優勝したなどの最優秀の成績を持っているか、もしくは制度試験で試験官を倒すなりなんなりして合格しなければ、その資格は得られないのだ。

 

俺?そもそも受けようと思ったこともねえよ。だってめんどくさいもん

 

 

その上受けられない理由が―――まあそれはどうでもいいか

 

 

「いろいろ都合があるんだよ」

「俺だってそうさ」

 

つまり言いたくねえんだな。じゃあいいや

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

 

吉井と坂本が帰ってきた。

それとほぼ同時に教卓を持って入ってくる担任。さっきのよりマシっぽいが、それでもボロだ。

 

 

直江?話が一段落したところでワン子とかに呼ばれて本来の自分の席に戻っていったぞ

 

 

きっとはなっからクラス全体を観察するためだけに後ろに来たんだろうな。俺への挨拶はほんのついでだ。

 

体よくだしにされたみたいでなんかムカつくな。いつか仕返ししてやろう

 

 

「えー、それでは。あらためて自己紹介の方を…おや坂本、君で最後ですね。ではクラス代表として前に出てきてください」

「了解」

 

教師の言葉に立ち上がり前へ歩いてく坂本。教壇に上がり、向き直って教卓に手をつく。

 

 

「Fクラス男子代表の坂本だ、代表でも坂本でも好きに呼んでくれ。…さてみんなに一つ聞きたいんだが……」

そこでいったん止めて目を閉じる。

 

 

 

「廃屋と言っていいほどボロい教室。傷だらけのちゃぶ台。カビてたり腐りかけた座布団…。Sクラスは高級リクライニングシートに新品のシステムデスクだそうだが―――」

 

また目を開いて

 

「―――不満はないか?」

 

『大ありじゃあ!!』

 

 

クラス全員(一部除く)が叫ぶ。むしろ不満しかねーよ

 

『いくらなんでもこれはあんまりだ!改善を要求する!!』

『Sクラスだっておんなじ学費だろ?!不公平じゃあ!!』

『彼女欲しいぃいい!!』

 

一人関係ないの混じってんぞ

 

 

クラスが混雑する中、教壇に立つ坂本が両手を上げ『静粛に』のポーズを取る。多少時間がかかったが、さっきまでの静けさが戻った。

 

「俺だってこの設備には不満がある。そこで提案なんだが―」

ニヤリと不敵そうに笑い、続ける。

 

「FクラスはSクラスに対し、試験召喚戦争を仕掛けたいと思う」




瀬能ナツル 2年F組

10月31日生まれ 蠍座
血液型:あえて不明
身長:187cm
体重:身長の割に軽い


攻撃力:70(※)
守備力:83(※)(ただし精神的な打たれ強さは68)
走力:90(※)
瞬発力:75(※)
体力:95
知力:53

総合武力ランク:B+(※)
(※)状況下により変動あり

以上の者、我が校の生徒であることを認める。

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