戦士たちの非日常的な日々   作:nick

16 / 129

前の投稿からずいぶん間空いちゃいましたね…
他に色々やってたとしてもほっときすぎた感があります。




10時間目 アイアムスパルタ

おなじみの掛け声で展開される魔法陣、そしてそこから召喚される召喚獣。

 

その姿は紋服袴。顔は隈取りしていて…なんか歌舞伎役者みたいだ。武器も番傘だし

 

つーかこの前と姿形が全っ然違うのはなぜだ?他の奴もそうなのかな

 

あんな化け物みてーなの相手にすんならこの前のピヨリ号が出てきてほしかったが…、いや初めて出した時のモップじゃないだけまだマシか

 

生徒会長の召喚獣は戦乙女みたいな鎧姿で、武器は無骨な短剣に鎖がついたやつが二つ。両手に一つづつ持っている。

前の奴らに比べたらなんか小さく見えるな

 

「二人とも、準備はよろしいですね?では、始めてください」

 

号令と同時に突進――しようとしたが、嫌な予感がしていったん身を屈ませる。

 

 

ゴオッ―――!!

 

 

「うわっ!?」

すっ…すげえ勢いで短剣が飛んできやがった!普通の召喚獣は物や人に触れられないって分かっちゃいるが、俺自身に当たるかと思ったぞ!

 

幸い当たる前に前のめりに倒れるように屈んだので、無傷で済んだ。

長い髪には掠ったが、点数に変化はない。身体の一部と認識されてないのか?

 

とにかく、今のを食らうのはマズイ。

ぶっちゃけ構えてから投擲するのがまったく見えなかった。

 

幸い向こうは操作に慣れてないだろうから、しばらくは回避に専念して情報を―――

 

「って早ぁ!?」

 

気づいたら三郷さんが目前に迫っていた。

何時の間にか手元に戻っている短剣ともともと持っていたやつの二本を×(ペケ)字に構えて、すでに斬る態勢に入っている

 

今度は…駄目だ、かわせない!

 

 

ガッギィン!!

 

 

武器である番傘で攻撃を防ぐとそんな感じの音がした。

くっ…ソ重てぇ!!

 

 

Fクラス “Mr.規格外”瀬能ナツル

総合科目 1893点

 

 

いいのか悪いのか分からんタイミングで発表される俺の点数。

なんてこった…2000もいってなかったのかよ

フィードバックで多少痺れる腕を摩りながら対策を考える。マジでどうすっかな

 

 

ビュビュ、シュッ――バオッ!!

 

 

考えてる間も休みなく猛攻が繰り出される。

左手に持った剣で連続突きを仕掛けてきたかと思えば、即座に右の剣で回転斬り。

 

それをかわして切り込もうとしたら、短剣を投げ飛ばしてきた。

再び番傘でガードするも、さっきより勢いが強すぎて弾き飛ばされる。

 

悪いことに俺は後方に、傘は三郷の後ろ側に飛んでいく。

しかも両腕が痺れてろくに使えないという二重苦。災難ってのは畳み掛けるもんなんだね

 

「ぐぉっ…」

「勝負ありね」

 

ビュン――――――!!!

 

残ったもう一方の短剣が投げ飛ばされる。

その勢いは弓矢、いや弾丸のようだ。実物見たことないけど

 

しかも先ほど飛ばされたもう片方がUターンしてきて、二刀に挟まれる形になった。

 

左右どちらかに避けたとしても、すぐに軌道を修正して確実に息の根を止める。

 

そう考え勝利を確信したのだろう。S組の奴らが顔に笑みを浮かべる。

 

「舐めんなや!」

 

目前まで迫ってきたそれを、自分から突っ込みダッキングで

続けざまに飛び込み前転をすることにより、背後からの強襲を回避した。

 

「ついでに食らえ!」

 

一回転した直後、相手の腹目掛けてロケット頭突き。

態勢が崩れ身体が"く"の字に折れ曲がったところに、追い打ちで空中回し蹴り!

 

 

――前転の極み!

 

 

「っ!?」

「まだだまだ終わらんよ!」

 

地面に叩きつけられ、バウンドしてきた三郷。

 

その戦乙女風な召喚獣を前に、歌舞伎役者は大袈裟な構えを取り、即座に肩口から押し出すような猛スピードタックルを繰り出した!

 

 

――酔鉄山の極み!

 

 

ドン!

 

車が激突したかのような鈍い音がして、戦乙女が吹っ飛ぶ。

 

その後ろには番傘が電柱のように刺さっており―――ちょうどいいから使っちゃおう

 

「おらァ!!」

 

吹っ飛んだ彼女を追いかけ、番傘にぶつかったところを再び傘に押し付ける。

すぐに持ち手部分を掴んで飛び上がり、そこから落下からニードロップ2段蹴り!

 

 

――ポールクラッシュ!

 

 

更に倒れている相手の両足を抱え込み、ジャイアントスイングの形で力任せに振り回して番傘にぶつける!

 

 

――ヘブンスイング!

 

 

衝撃で傘が地面から抜け、回転しながら宙を舞う。

 

都合よく頭上にやってきたので、空中で掴みダウンした三郷に振り下ろした。

 

 

――大剣進討ちの極み!

 

 

「傘だけどね」

「容赦なさすぎだよ!?」

 

一連の極みコンボが終わり一息ついたところに、吉井のツッコミが入った。

 

「いくらなんでもやり過ぎだよナツル!良心は痛まないの!?」

「あーうっさい」

 

三国志を見ろよ。董卓相手に何人の諸侯が手を組んだことか

 

 

Sクラス 三郷雫

総合科目 10194点

 

 

…流石にアレで終わったとは思ってなかったけど、千いくらかしか削れてない。げんなりだ

 

食らった方も何事もなかったみたいに立ち上がってるし。普通ならオーバーキルなのに、俺・ショック(大)

 

まあ差に大きな開きがあるからしょうがないだろう。そんなことより

 

「ずいぶんと上手く扱ってるじゃねえか…召喚獣をよ」

 

かかって来る気配がないので、思い切って訊いてみる。

 

あの動きはどう見ても経験者のそれだ。観察処分者じゃないのになんでそんなに慣れてんだ?

 

 

「喧嘩や決闘といった争いが絶えない学校だと、どうしても戦力が必要なのよ」

「まあそうだな」いざこざ一つ止めるの力づくってのは珍しくないし

 

「だから生徒会のメンバーは全員、物に触れる召喚獣を使用出切ることを許されてるの。もちろん学校内限定で武器も持ってないけどね」

「………マジかよ…」

 

こいつ確か一年の時から生徒会長やってなかったっけ?

だとすると使用期間俺や吉井以上じゃねえか

 

反則でしょこの戦力にテクニックって

 

 

「ちなみに召喚獣が攻撃を食らったら本体も痛いなんてことは…」

「ダメージがフィードバックされるのは観察処分者だけよ」

 

なにその理不尽

 

「あなた達は罰なんだから、当然でしょ?」

「…腹立つわぁその余裕」

 

内心焦りまくりながらも、精一杯の強がりで悪態をつく。

 

どう足掻いても絶望。そんなフレーズが頭を過った

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜雫Side〜

 

 

最初の攻防から十数分が経過した。

 

 

Sクラス 三郷雫

総合科目 9894点

 

     VS

 

Fクラス “Mr.規格外”瀬能ナツル

総合科目 315点

 

 

いく度となく彼の攻撃―――対人ならばどれも一撃必殺であろうそれ―――を召喚獣の身に受け、それなりに多かった点数はかなり削られた。

 

それに対して私が与えたダメージの数はたったの二回。

 

それも武器の刃ではなく、短剣についている鎖をぶつけて与えたものだ。

彼はとにかくかわすのが上手くて…クリーンヒットさせれる気がしない。

 

 

しかし、その彼はたったの二回でもう追い詰められている。

 

今も、召喚獣が受けたダメージのフィードバックのせいで呼吸は荒く、肩で息をしている。

 

終わりは近い。彼の姿を見れば誰もがそう思うだろう。

 

 

 

『ははっ、数回攻撃されただけでもう満身創痍か。所詮Fクラスだな』

『あんなカスみたいな点数で挑むからこんな目に合うんだ』

『違いない』

『姫路も不幸だよな、底辺に落ちたせいで馬鹿な夢に付き合わされてさ』

『瀬能の奴はいい気味だ。出る杭は打たれるってのはこういうことを言うんだな』

「山猿はどこまで行っても山猿なのじゃ、高貴なるこなたらの足下にも及ばぬわ!」

 

 

 

Sクラス側から嘲笑とともに、瀬能君を侮蔑する言葉が投げかけられる。

 

同時に私を褒め称える声も聞こえるが、全く嬉しくない。

 

 

どうして相手を褒めないの?点数に差があるのにここまで諦めないで食らいついているのに。

 

私が召喚獣を扱うようになったのは、生徒会に入ってしばらくしてから…約1年前だ。

 

彼の方も、観察処分者として召喚獣を扱う(扱わされる)機会が多いとはいえ、使用者としての経験値は断然私の方が多い。

 

それなのにこちらの攻撃はことごとくかわされ、向こうの攻撃だけがヒットする。

ここまで見事だと憤りも湧いてこない。

 

だからだろうか。

 

 

「もう止めにしない?」

 

 

気づいたらそう、話しかけていた。

 

「……試合放棄、って訳じゃなさそうだな」

 

警戒を緩めない、鋭い眼差しのまま話しかけてくる。

その姿は気高く…そして痛々しい。

 

「このまま戦っていても無意味でしょう。勝ち目もないのに」

「以外に奇跡ってのは足元に転がってるって言うぜ」

「運任せなのね」

 

本気で言ってるのかそれとも強がりなのか…前者ならがっかりね。

 

「そこまでして戦う理由があるの?諦めないことは美徳だけど、理由がなければ醜いだけよ」

「うわキツっ」おどけた口調で笑う彼は、しかしどこか覇気がなかった。

 

 

「理由…理由か。…ねえな、確かに」

 

 

つぶやくように吐露しながら、疲れたように遠い目をする。

 

本当は彼も分かっているのだ。

 

自分が勝っても首の皮一枚繋がるだけ。

しかも自分のクラスはすでに諦めムード。

 

これだけの状況下でよくもまあ粘ったわね。

 

 

「もういいでしょう。ここまで善戦したあなたを誰も責めたりしないわ」

「……………」

 

私が言い終えた後、彼は考えこむように瞼を閉じ、ふーっと深く息を吐いた。

 

知っている。

あれは悩んでいるわけではなく、なにかを決意した時に取る仕草だ。

 

「………まー…いっかなー…」

 

呟きながら開かれた瞼。その瞳には投げやりな感情しか浮かんでいなかった。

 

 

その姿を見た瞬間、私は目を伏せた。

 

なぜ?自分から進めたことなのに…これ以上、傷つき罵られるのが我慢できなかったはずなのに、

 

 

今の彼を見るのがたまらなく嫌だった。

 

 

 

「……やだ…」

 

 

 

その時かすかに、Fクラス側から女子生徒の声が漏れた。

 

「…やだ…やだよ…やだよタイガ!」

 

声は次第に大きくなり、今にも泣き出しそうな悲痛な叫びとともに一人の少女が集団から飛び出した。

 

川神一子。

 

校内でも一・二を争う有名人。川神百代先輩の妹さんだ。

 

「おい一子!」

すぐさま鋭い目をした男子生徒が止めに入ったが、彼女は構わず喋り続ける。

 

「アタシ、変わったよ?タイガのおかげで、変われたんだよ?『俺のせいじゃないお前自身の力だ』ってタイガは言ったけど、あなたのおかげなんだよ?」

 

「……………」

 

「勝って、勝ってよタイガ!お姉さまと同じくらい、あなたはアタシの憧れなんだから、負けちゃやだよ!」

「ワン子…」

 

感極まったのか、彼女は涙を流しながら瀬能君を見つめる。

 

 

「負けないで…」

「……きつい注文してくれるぜ」

 

 

川神さんが真後ろにいるが故に、その姿を見るため完全に顔を背けている彼の表情を知るすべは私にはない。

 

「…昔、自分で言ったことがあったっけかな」

 

唐突に彼が語り始める。

一瞬、私に向けての言葉だと分からなかった。

 

「『ヒーローとは諦めを知らぬものだ』って。…ま・あん時はネタで言っただけで俺自身ヒーローになれるとは思ってないし、なりたいとも思っちゃいない」

 

でもね、といったん区切り、彼は身体ごとこちらに向き直った。

 

「仲間の期待一つ答えられない根性無しにもなりたくねーんだよ」

 

その顔には先ほどまでの空虚な表情はなく、真剣な眼差しがまっすぐに貫く。

 

「一人でも俺に期待してくれてる奴がいるかぎり、俺は戦うのをやめない」

「…素質は充分あるように見えるけど」

 

英雄(ヒーロー)になるための

 

「でもどうするの?逆転するにしても、あなたの残りの点数は315点しかないわよ」

「余裕だね。300ありゃああんた程度、百回は倒せる」

「その冗談、面白くないわね」

 

容赦無く短剣を投擲する。

今日一番の勢いだ。

 

このまま短剣が当たれば確実に試合は終わるだろう。

 

なのに彼は、微塵も召喚獣を動かさない。

いや、持っている番傘を正眼に構えさせたが、それだけだ。

 

「こいつが男の生き様よ…!」

 

傘の上を短剣が通過しようとした瞬間、召喚獣が素早く傘を開く。

そしてすぐさま傘を閉じた。

 

最後に私の武器が突き刺ささったままの傘を開きながらぐるりとその場で横に回り―――

 

勢いよく大見得を切った。

 

……ポージングの意味が分からないわ。

 

 

びゅうん!

 

 

「っ!」

 

不意に視界が動く物を捉えた。

 

私の召喚獣の短剣。その柄の先に繋がっている鎖だ。

なぜ武器に鎖がついているのかは知らないが、それが先ほどの彼の動作で大きく波打っている。

 

このままいくとこちらに鎖が叩きつけられ、ダメージを受けるだろう。

 

…防ぐだけじゃなくて同時に攻撃も狙っていたのね。あの行動はフェイクってところかしら。

 

悪くないとは思うけど、策というにはおざなりすぎる。

 

鎖は武器と持ち主とで一直線に存在している。その間に障害物はなく、動きは丸わかりだ。

 

そもそも本気で当たると思っているのだろうか?こんなの召喚獣に手を離させればそれだけで回避できる。

それとも他になにか…?

 

とりあえず私は、自分の召喚獣に回避行動を取らせる。

いや、取らせようとした。

 

しかし

 

 

『…………』

 

 

彼女―――自分を小さくしたようなものをこう呼ぶのはちょっと変な気がするけど―――はピクリとも動かない。

 

「どうして…!?」

 

慌てて様子を見てみれば、その表情はぽーっとしていて頬がうっすらと赤らんでいる。

もしかして見惚れてる?

 

 

バヂンッッ!!

 

「きゃっ…!」

 

 

不用意に近づいたため、二つのものがぶつかる音と光景を間近で感じてしまった

実害はないと分かってはいるが、実際に衝撃が発せられているように錯覚し、思わず小さく悲鳴を上げる。

 

 

Sクラス 三郷雫

総合科目 8613点

 

 

…さっきまでと点数の減りが違う…!私自身の武器だから?

だからって一撃で千以上ダメージを受けるなんて…いや、それよりも

 

「あなた今、いったいなにをしたの…?」

「あー?わっかんないんですかー?」明らかに相手を馬鹿にした、ニタニタと嫌らしい笑みを顔面に。

 

「たいしたことなんだね。学年主席っつっても」

 

…挑発だということは充分理解できた。

理解はしたけど、苛立ちを抑えることはできなかった。

 

気づけば召喚獣を突撃させていた。

 

 

「虎よ虎…!」

 

 

――瞬間、何が起きたか分からなかった。

 

勢いよく突進していたはずなのに、気づけば彼のいた位置で立ち尽くしていて、

逆に彼は私がいた場所から、番傘を両手で掴み、振り上げた状態で召喚獣に突っ込んでいた。

 

「オラァアッッ!!」

 

ドゴッッ!

 

混乱する暇もなく、容赦の無い一撃が後頭部に決まる。

 

 

Sクラス 三郷雫

総合科目 7891点

 

 

また千点近く…!しかも今度は私の武器を利用せずに!?

 

 

「あなたいったい…!」

「スパルタ軍は300人で10万の兵を倒したらしいな」

 

 

Fクラス “Mr.規格外”瀬能ナツル

総合科目 315点

 

 

「俺に出来ない道理なし」

 

アイアムスパルタ。そう彼はつぶやき、ニヤリと口角を上げる。

 

 

なるほど…称号に偽りなしね

 

 

 




 前転の極み
 酔鉄山の極み
 ポールクラッシュ
 ヘブンスイング
 大剣進討ちの極み
  オール龍如くシリーズ。
現実でやった場合一つ目の段階でオーバーキルです。

 どう足掻いても絶望
  「SIREN」キャッチコピー。あのゲーム理不尽すぎる


作中で名前の出なかったもの

コラボアーツ・『侠時の極み』
 千両役者の極み(龍が如く見参) + 男の花道(ペルソナ4ザゴールデン)
本家より大げさな見得きりを行うことでほぼ確実に相手を魅了し行動を止める技。ちなみに現実で使ったことはない

順逆自在の術
 筋肉マン。技のかけ手(相手)と受け手(自分)を瞬時に入れ替える技。
モモさんとやりあう時は重宝させてもらってますbyナツル


ひさびさ投稿。戦士10話(実際は16)目です。途中までですが対生徒会長戦です
今回の話ですが、配役をナツル→牧野 雫→板垣 ワン子→あつし ゲンさん→真理と置き換えると…あら不思議。はじめの一歩のあのシーンに

まあそのつもりで書いたんですが(そうなると一歩はモモさんか?)にじふぁんでは姫路が激励のきっかけ作りましたがこっちではワン子にお願いしました。

なぜなら彼女にとってナツルは特別な存在だから…そう、ヴェルタース オリジナルのように(訳わかんねぇ)


次回。本編は試召戦争ラスト。そしてあの人がS組を嫌う訳が明らかに……?



なんで疑問系やねん



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。