戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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8時間目 パロスペシャル・ジエンド

〜試合開始10分前。武道館前某所にて〜

 

『さあ!他に賭ける奴はいないか?あともう少しで締め切るぞ!』

『阿久津に10枚!』

『俺は5枚だ!』

 

 ※神月学園では賭博が合法的に認められております。

 ※ちなみに彼らが賭けているのはすべて食券です。

 ※………嘘じゃないですよ?

 

「派手にやってるなぁ」

「決闘前はこれが普通さ。これも神月学園(うち)の一種の名物みたいなもんだ」

「へー、そうなんだ。知らなかったわ」

「つか冴島人気ねーなー…今あいつに賭けたら大穴狙えんじゃね?」

「あ、確かに。しかも僕らは実力知ってるからリスクゼロだね」

「よぅし、それじゃあ。さえちゃんの応援も兼ねてここはどーんと景気よく―――」

「賭けるのは無理だぞ。決闘に出場してる奴と同じクラスの人は賭けに参加出来ないんだ」

「えーなんでだよ?」

「前にイカサマがされてそういうルールができたらしい。最低限の八百長対策だな」

「なんだよそれ~、試合中は武道場にも入れないしやることないじゃんよー」

 

『阿久津に食券15枚!』

『俺はどーんといくぜ、30枚だ!』

 

「あたしはそれよりも、タイガに誰も賭けないのが納得できないわ。理不尽よ!」

「まあデータがまるでないからな。外見だけを判断材料に危険な橋を渡る奴もいないだろ」

 

『おいおい、みんな同じ奴に賭けてちゃ賭けになんないだろ。誰か相手に賭けてやれよ―――』

 

 

「瀬能ナツルに100枚」

 

 

『『『!!?』』』

「…驚いた。えらい物好きがいたもんだな」

「100枚って…!」

「当たったら何倍になるんだよ!?」

「思い切った賭け方するな…しかもあいつ、Sクラスの奴だぞ」

「え?」

 

「おや、そろそろ始まるみたいですね。皆さん見なくていいんですか?」

 

「……とにかく今は決闘の方に集中しよう。………もう決着つきそうだけど」

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

〜ナツルSide〜

 

 

率直な感想を言うと(口に出さずに心の中でだけど)

 

 

超・拍子抜けだ

 

 

こういった公式な試合をするのは実に…何年かな。まあそれくらい昔にやった程度だが、その中でも最短時間じゃなかろうか

ここ最近はモモさんやワン子ぐらいしか相手にしたことなかったからよくは知らんけど、コイツレベルが標準なのだろうか。

 

だとしたら退屈で死にそうだって愚痴ってたモモさんの気持ちがちょっと分かるかも。いくらなんでも弱すぎるだろ…ランク7でこれかよ

 

ゴリぽん(島津)とバンダナ(風間)はホントにこんなのに負けたのか?不甲斐なさすぎるぞ

 

「うぐぐぐぐぐっ、がぁあああ!!」

 

下になっているゴウキ(もどき)がなんとか抜け出そうと、唯一自由に動かせる首を前後左右に振ってもがいている。

勢いすごくて必死感が伝わってはくるんだが、見た目とのギャップが酷すぎる。滑稽どころか逆に笑えない

 

「元気だなぁオイ。なんかいいことあったのか?」

「ふざけんなクソ野郎!離しやがれ!!」

バカなのかコイツ?

 

「ていうかバカだろお前。なんでわざわざパロ決めたのに解放しなきゃなんねーんだよ。再放流か」

「うがぁぁぁぁっ!!」

 

聞いてねーし

ちなみに再放流とは釣った魚を川や海に戻す行為のことだ。キャッチ&リリースとも言うな

 

「それよりさぁ、さっきの質問の答え聞いてないんだけど。結局どっち折ったの?」

「な…なんのことだ」

 

…………へぇーしらばっくれるんだー

 

「お…おい、なんか腕にかかる力が強くなってきてないか?」

「うーでーがーピョンと鳴ーるー」

「まてまてまて!お前俺の腕になにをするつもりだ!?」

 

ピョンとするんだよ

 

「わ、分かった。俺が悪かった、島津の件は謝るから離してくれ!!」

「それは降参するって意味か?」

「ああ!」

 

「風間の件は?」「それも謝る!」「この結果しだいではFクラスと設備が入れ替わるかもしれないけど」「甘んじて受け入れる!」「他の奴が納得するかどうか…」「説得してみせる!」「本当に島津と風間に謝るんだな?土下座で」「…ああ!」

 

……ふむ

 

「も…もういいだろっ、そろそろ痺れてきた」

「そうだなぁ。いつまでもむさい男の背中に乗ってるのは絵的にマズイだろうし、降りるか」

 

そう言って握っている手首から力を抜く。

 

 

「―――!」

「なんちゃって」

すぐさままた力を込めて捻り上げる。

 

一瞬気を緩めたゴウキもどきも突然来た激痛に悲鳴を上げた。

 

 

「ぐああああっ!!  なっ、なんで…!?」

「舐めてもらっちゃあ困るねぇ。そんじょそこらの純真無垢な子羊ちゃんと違って俺は立派に汚れた虎だ」

 

 

……なにを言ってんだろうか俺は

 

言わんとすることは分からんでもないがたまに自分でも理解不能なことが飛び出すな。テンションのせい?

 

 

「お前さっきからオウム返ししかしてねーよな。どうせあれだろ?適当に都合のいいこと言って少しでも体動かせるようになったら攻撃するつもりなんだろ?」

 

最大トーナメントの猪狩完至が使った手段()だよ。ふりーんだよ

 

「そっ…そんなこと…」

「じゃあ今すぐここで敗北宣言してもらおうか。なるべく惨めに情けなく、かつ外にいるクラスメイトに聞こえるくらいでっかい声で」

 

ギブアップ、って

 

最後の言葉だけは阿久津にのみ聞こえるように、耳もとでささやいた。

 

それに対して奴は、歯ぎしりでもしそうなくらい―――実際してるのかもしれないが―――に身体をわなわなと震わせ、

 

「……っ…最下位クラスのくせに調子に乗りやがって…!」

「………」

「俺はAクラスだぞ!?てめえらみたいなクズになんで頭下げなきゃなんねーんだ!!」

 

こっちを向こうと首を精一杯曲げて叫ぶ阿久津。

その目には屈辱と怒りの感情がはっきりと見て取れる。

 

「……俺らがFクラスだからって人を傷つけていい理由にはならねーぞ」

「目立ちすぎんだよ!ゴミで出来た奴らなんだからもっと肩身狭くして地味に生きてろ!!」

 

今まさにゴミに生殺与奪握られてるお前はゴミ以下だろ

 

「…人は皆傷ついたら痛いことを知っている。それは経験したことがあるからだ。拳で殴られたら痛い。手で叩かれたら痛い。

 

故に誰かや何かを叩いたり殴ったとき躊躇うし考えるし胸を痛める。自分がそうだったんだから相手もそうなんだろうという思考が頭を掠める」

 

捻り上げた手にさらに力を込め、阿久津の体を前に傾ける。

 

 

ミシッ……メキ…

 

 

「お…おい、なにを……!」

「でも傷ついたら痛い(その)ことを知りながらも平気で他人に暴力を振るう奴がいる。なぜか?答えは簡単だ、知っているのと理解しているのは違う」

 

理解してる奴は相手の立場になって考えれる。つまり優しい奴だ。

 

 

メキッ…パキッ……!

 

 

「や…やめろ…」

「他人殴ってへらへらしてるくせに、いざ自分の番になったら尻尾振って逃れようとする。俺が一番嫌いなタイプだ」

「やめろ…!」

「殴られる覚悟もないのに軽々しく人を殴っちゃあいけないよ」

 

ギシッ、コキッメキッ!

 

「やめろーーーーーー!!!!」

「もう少し優しくなれよ」

 

――パロスペシャル・ジエンド

 

 

バキボキッメキ、ゴギッッ!!

 

 

「ゲハァッ!!」

 

前のめりに倒れ、阿久津の身体を地面に叩きつけると、その口から汚い悲鳴が飛び出た。

 

両腕は本来とは逆の方向に曲がっており―――まあぶっちゃけ俺がへし折ったんだけどね

 

「それまで!勝者、瀬能ナツル!」

 

悠々と背中から降りると、それに合わせるように教員が声を張り上げる。(そういえばいたんだっけ)

 

 

試合終了が告げられると、道場の扉が開き数人の生徒がなだれ込んで来る。

多分Aクラスの人間だろう。バッチにもそう描いてあるし

 

『阿久津…おい、阿久津!』

『ダメだ、完全に気を失っている』

『おい誰か!タンカ持ってこい!』

 

ゴウキもどきはうつ伏せになったままピクリとも動かない。本当に完全に気絶してるみたいだな

 

それを一瞥してから出口に向かい歩き出したら、シチュー先生に呼び止められた。

 

「ワタシの名前はルーだヨ」

「心を読むな」相変わらずデタラメだなこの先生

 

「いやー、いつもながら目を見張る闘いぶりだったネ。見事だったヨ」

「相手が弱すぎたんだよ」

 

実力に差があればあれくらいどーってことない

 

モモさんとかだとこうまで上手くいかないからな。

最近じゃワン子も一方的にやられるだけじゃなく奇抜な反撃方法をやってきては俺を驚かせ―――っていいかそんなこと

 

 

「いやいや、阿久津君も中々の実力の持ち主ネ。…ただ、性格に少々難があるけど」

「俺の方が問題児だけどな」

「本来なら彼みたいな子の教育や指導はワタシたちの役目なのだけれど…」

 

 

無視しやがったよコイツ

 

 

モモさんといい…そういやあの人のジイさんも自分の都合のいいことしか耳に入れようとしないな。もしかして人の話を聞かないのは流派の方針ですか?

 

「ちょっとやり過ぎな気もするけど、今回のことは彼にとっていい薬になっただろウ」

「そうかねぇ」

 

 

 

『タンカ来ましたっ!』

『よし、運ぶぞっ。……うわ、こいつ失禁してやがる!』

『きたねえ!!』

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

「これを機に正しい武の道を歩んでくれることを願うヨ」

「いや、無理だろ」

 

ありゃ辞めるな、武道

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「あ、ナツル!」

 

武道館から出ると、クラスメイトの面々が出迎えてくれた。

 

次々に駆け寄ってくる仲間たち。

 

 

とりあえず向かってきた吉井に腹パン。

 

「ヴッ!!」奇妙なうめき声と共にその場に崩れ落ちた。

 

 

「なっ……なんで…?」

「いや、なんとなく」しいて言うならお前が一番近かったから

「意味が分からないよ……!」

 

吉井が腹を押さえて恨めしげな眼差しで睨んでくる。

 

直前で拳は止めたが、勢いがついてたからそれなりにダメージがあったみたいだ。

流石は虎落とし。加減しても強いね!

 

「あれ、坂本は?」

囲んでくるメンバーの中に一人だけいない。

こういう時にいなさそうな源はいるのに…ていうか先にいってるっつったのに

 

「坂本なら今Aクラスの奴らと話してる最中だ」

「終わったばっかで即交渉か…Aクラス(あちら)さんも大変だ」その原因作ったの俺だけど

 

 

ぱちぱちぱちぱち……

 

 

「ん?」

突如、手を叩く音が辺りに響いた。

 

「見事な勝利でした。流石は瀬能君」

「お前は…」

 

 

……誰だ?

 

 

「葵冬馬、S組のクラス代表だ」

 

どうしたものかと迷ってたら直江が耳打ちしてきた。

よかった。見知らぬ他人だった。顔見知りでも忘れるからな俺は

 

「さっきの試合、唯一ナツルの勝利に賭けてた奴だ」

「ああ…」なるほど、通りで

 

辺りに両手・両膝をついてorz状態になってるのが大量にいると思った。

時折そこら中からうめき声が耳に届いてきて正直かなりウザい。ゾンビかてめえら

 

「しかし強いですね。神月ランキング7位で柔道部の問題児と言われている阿久津君をほぼ瞬殺ですか」

「俺の方が問題児だからな」

「そうですね。しかし些かやり過ぎ、という気がしますが」そう言ってキザったらしく髪を首を縦に振る。

 

スルーしやがった。貴様に俺のなにが分かるってんだ

 

「つっても両腕それぞれ一本づつ折っただけだぞ」それも比較的綺麗に

 

「とても骨二本が折れた音には聞こえませんでしたが」

「声帯模写だ」

「…………」

 

信じてねーなコイツ。まあいいけど

 

「つかあんた俺が勝つ方に賭けたんだっけ?それじゃあさぞかし儲けただろ」倍率すごかったらしいし

 

「ええ、食券が千枚を超えました」

「すごいどころじゃねえ!」

いったいいくら賭けたんだ!?

 

つかそんだけ儲けたならいくらか分け前よこせ!

 

「つまりそっちはうちのナツルに借りがあるわけだな」

 

突然、直江が変なことを言い出した。

うちのナツルってなにさ

 

「…そう言われてみればそうですね。彼が勝ってくれなかったら大損害を受けていたわけですから」

そう言って人の良さそうな笑みを浮かべてくる。

「瀬能君、なにか私にしてほしいことはありませんか?」

「あ?」

急にんなこと言われてもな…

 

チラッと直江を見てみると、じっと俺を見つめていた。

なに考えてるかは分からんが、これは絶対なんか企んでるときの顔だな

 

「あ~、今は特に思いつくことはないな。貸しが一つあるってのだけ覚えといてくれ」

「……そうですか。それでは、私はこれで失礼させてもらいます」

 

優男は笑顔を貼り付けたまま、優雅に去っていった。

 

 

……アレでよかったのかな

 

直江の方を見ると満足げな表情をしていて、今にも「ナツル、ナイス」とか言い出しそうな雰囲気だった。

 

しかし―――

 

 

「S組の奴を直で見るのは二度目だがマイナスイメージな奴ばっかだな…」

 

胡散臭さが半端ねえ

 




 「うーでーがーピョンと鳴ーるー」
  ブリーチ。ルキアの中に入った義魂が言った台詞。
 猪狩完至
  バキ。アントニオ猪狩と言えば分かりやすいでしょう。
 パロスペシャル・ジエンド
  筋肉マン。もはやナっつんのフェイバリットっぽくなってますね
 ありゃ辞めるな、武道
  餓狼伝(板垣恵介版)。松尾象山が神山徹に向けて言った(?)言葉。ありゃ辞めるな、空手
 虎落とし
  龍がごとく。相手の攻撃の瞬間懐に潜りこんで腹部に必倒の一撃を叩き込む技。ちなみに前話で開始直後、阿久津に叩き込んだのがこれです。


そんなこんなで決闘戦終了。新たにSクラスの葵冬馬が登場しましたが、ぶっちゃけキャラがどんなかよく覚えてないので微妙な感じになった気がする。
代案で①会長が登場②S組の主要メンバーが悪の組織風に離れたところから観戦していたってのがあったんでしたが最終的に葵のみ、としました。
……変えりゃよかったかな

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