戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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あけましておめでとうございます。

遅い?世界には旧正月というものがあって…あ、はい、スイマセン。
言い訳は後書きで…


88時間目 フィナーレのお時間です

 

キーン コーン カーン コーン …

 

『ご来客の皆様―――』

 

 

「ああ、もうそんな時間か…」

 

朝に比べるとずいぶん弱くなった日差しを感じながら、放送が聴こえてきた方向を眺める。

 

学園中をあちこち移動していたら、気づけばあっという間に祭終了の時刻になってしまった。

去年もあっという間だったけど内容が大違いだな。一年の時は三日間寝てただけだけど、今年はがっつり楽しんだなぁ。

 

この後は学園関係者のみ参加できる後夜祭だ。キャンプファイヤーとかやるんだっけ?

 

 

「全部回れなかったなー、いや当然だけど」

 

出し物多すぎなんだよこの学園。全部でいくつあったんだ?

 

「えっ…もう、学園祭終わっちゃうの……?」

 

玲ちゃんが悲しげに顔を歪ませる。

気持ちは分かる。

 

 

俺もまだまだ遊び足りない。結構長い時間遊んでたけど………冷静になって振り返ってみると、結構な時間過ごしたよな。

移動や店での滞在時間考えると1日じゃ足りない気がするんだけど…まるで時間を操られていたかのようだ。

なんてなっ。

 

多種多様な体験をいっぺんにしたから感覚が狂ったんだろう。

 

 

「始まりがあれば終わりもあるもんだよ」

「…なんで?……どうして、終わっちゃうの……?」

 

 

ぇぇー…なんでて……

 

そんな答えに困る質問俺にしないで。成績良くないんだから…

 

うーん……そうだな…

 

 

「楽しい時間が終わったらまた新しい『楽しいこと』を始めらるだろ?ソレを見つけるために頑張れる」

 

「明日に向かうために、辛くても楽しい時間は終わるんだよ」

 

 

『寂しい』や『悲しい』と思うなら、その分過程が充実していて、喜び。そして出会いに溢れていた。

 

次の楽しい時間には、きっと今回仲良くなった奴と今回以上の喜びを体験するのだろう。

 

 

………やっぱり今日の俺は色々おかしい。祭だからか?

 

「そう…なのかな……?」

「きっとね」

「…だとしても、この時間が終わっちゃうのは悲しいよ…」

 

ですよねー。

正直説得は難しいだろうって、知ってた。

 

「玲、来年もまた学園祭はやる。あまりわがままを言って瀬能を困らせるのはよそう」

「うん…」

 

…俺が悪い訳じゃないんだけど罪悪感を覚えるな……

 

「清涼祭は終わりだけど日常はまだまだ続くんだからそんなに落ち込むなよ。学年違うけど暇な時クラスに遊びに来てもいいし」

 

俺から一年の教室に行くのは流石にハードルが高い。

 

「それにほら、あともう一件くらいならアトラクション回れるだろ。どこか行きたいとこない?」

 

玲ちゃんの隣に立ち、見やすいように高さを調整しながら学園の地図を広げる。

今なら木工部のジェットコースターも可よ?乗らせんけど。

 

「えっと…じゃあ……ここ、行ってみたい」

 

おずおずと指先を迷わせながらも、彼女が差した場所は―――

 

「二年体育館?」

 

基本的に二年生しか立ち入ることが出来ない専用の体育館。

 

しかしデカ過ぎてどの学年のクラスも部活・団体も使用していないから無人のはずだ。なんでこんなとこに?

 

「いつも、遠くから見てるだけだから…」

「私たち一年生は上級生の施設に近づくこともないからな」

「そういや俺も一年の時はそうだったな」まぁ今もそうだけど。

 

三年生が使う施設も、生徒会に入った時以来行ってないし。(※4月 15時間目 生徒会へ一属 参照)

 

 

別に立ち入りだけじゃなくて、接近するのも禁止されてるって訳じゃない。

 

ただこの学園は無駄に広い。建物も多い。ついでに人も多い。

だから自分に関係ない場所に行く理由がないのだ。

 

生徒会に入ってあちこちに顔出す機会が出来たが、それでも行ったことない所や会ったことない人物は多い。

たまに「コイツ不審者じゃねえの?」って個性的な奴と廊下ですれ違う度にワクw…不安になる。

 

 

「なんでこんなとこ行きたいの?」

「こんなときしか自由に行けないから…それに…」

「それに?」

「ナツルくんといっしょに入ってみたいなって思って…」

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

もじもじと恥じらいながら、つぶやくのは、はんそくなんだなぁ。

 

 

「大丈夫か瀬能」

「あ、ああ…ただの持病だ」

「そうか」

 

突然血を吐いた俺に善くんが尋ねてくる。

 

が、あっさりとした返事をされた。

玲ちゃんもだけど、人が吐血したのに心配した気配のかけらもねえ。

 

萌えでダメージ受けるっていうイカれた設定を知ってるのか?本当にいつどこで知り合ったどんな仲なんだろう。

 

 

「じゃあ、最後に行くとこは二年体育館ってことでいいか?」

「うんっ!」

「私も構わない」

「分かった。それじゃ案内しよう、こっちだ」

 

地図をイベントリに仕舞って先頭を歩く。

 

 

ここが最後の運命の分岐点で、己の今後を大きく変えることも知らずに。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ベ〜〜ルベルベルベルベット〜、わ〜が〜あ〜るじ長い鼻〜〜〜〜♪」

 

二年体育館の中に入ると、中央で舞台女優のように歌いながらくるくると一人踊るエリザベスがいた。

 

保健室の時とは違い、なぜか青い服に着替えている。

 

 

「よし、帰るか」

「お待ちください瀬能さま。なぜ、(わたくし)を見るなり踵を返されるのですか?」

 

今入ってきたばかりの入り口から外へ出ようとしたら、振り返った瞬間に腕を掴まれた。デジャヴ。

 

ちょっとビクッとしたぞ☆(←あまりの恐怖にテンションがおかしくなってる)

 

 

「テメーなんでこんなとこいやがる…!?保健室はどうした…?」あとどうやって一瞬でここまで移動した。100mは離れてたはずだぞ。

 

「ええ、ええ!分かってます。分かっておりますとも、瀬能さまがなぜそのような過剰な反応を示すのか…」

 

「一度別れたのにその日のうちに再び会い見える。まるで映画のようだ…と」

 

 

なにいってんだコイツ………

 

 

「ああ!しかし何という悲劇!残念ながら私は瀬能さまの運命の相手ではないのです…!」

「いや微塵も残念に思っちゃいないけど」

「ちょちょ切れる涙を堪え、諦めてください」

 

聞けよ。

 

世界は広くて世間は狭いな…自分が一番かと思っていたけど、俺以上にアレな奴がまさか同じ学園にいるだなんて。

 

 

「それで?なんでここにいるんだよ」

「実は先程瀬能さま達が来室して以降、保健室に他のお客さまがまったりと来なくなりまして」

 

『まったり』て、『まったく』か『ぱったり』とか『めっきり』だろ。

 

「それでとても暇…時間ができたので、前々から思案していた実験を行おうかと思い、ここへやって来たという訳です」

 

保険医が出歩くな。

つか俺以外来てないって…ひかりちゃんがフルボッコした男子は?

 

よく見ると体育館の隅に大量のたこ焼きやら人形やらが置いてある。俺らが去ってから遊び呆けてたな。

 

「仕事しろ」

「本来なら誰もいないこの場所で一人ひっそりと作業するはずでしたが…まさか瀬能さま達がいらっしゃるとは、お釈迦様でも知らぬがホットケー、と言うやつでございます」

「ホットケーキ!?」

「玲ちゃん今そうゆうのやめて」話がややこしくなるから。

 

堂々と歌って踊り回ってたくせに何がひっそりとだよ。どうせ誰か来るの待ってたんだろ。

 

その『誰か』がまさか俺らだなんて…神は残酷だ。

 

 

「どうせなので皆さま、このエリザベスの研究の成果をご覧ください」

 

そう言ってズルズルと俺を、腕を掴んだまま体育館の中央へと無理矢理移動させる。相変わらず馬鹿力め。

 

「おほん、えーそれでは……突撃、抜き打ちペルソナチェック〜!でございます〜、はい拍手〜」

 

………

 

「ペルソナってなに?」

「…ああ、すみません。これは私の契約者への台詞でした」

 

やっぱりこいつ訳わかんねえや。

もはや賞賛レベル。あんたが大将だよ。

 

本当に帰ろうかな…付き合う義理もないし。

 

「この世界に生まれ落ちてきてからというもの、私は"何かの気配"をずっと感じておりました」

 

手を離されたので逃げようと思ったらなにか始まったらしい。

 

強制イベントか。スキップボタンはどこだ。

 

「その正体不明の気配を探る研究を進めてまいりました。寝食を忘れ研究を重ねる日々…具体的には720時間ほど」

「めっちゃ最近じゃねえか」一か月くらい?

「他の世界とは違い、この世界には"生"にあふれている。そう気づいたのが最近ですので」

 

 

「そう……本来訪れているはずの"死"の定めや、不幸な運命を覆すほどに…」

 

 

そう言ってエリザベスは、意味深に俺たちを見つめる。うっすらと笑みを浮かべながら。

 

…なぜだろうか。つい先ほどまで立ち去ろうと思っていたのに、完全に聞き入ってしまっている。

 

 

エリザベスはどこからか百科事典のようなサイズをした真っ黒な表紙の本を取り出し、差し出すように軽く掲げながらその本を開く。

 

「皆さま。世界は一つではなく、数多も存在しているのをご存知でしょうか?」

「パラレルワールドのことか?」

「はい。例えば、私が瀬能さまとこうして出会い会話している時間が、別の世界ではお互い存在すら知るよしもない…」

 

ペラペラと、風が吹いている訳でも手が触れてもいないのにひとりでに本が捲られていく。

 

それなのにページが進んでいる様子がない。

 

「この本のように、いくつもの異なった『世界』は次元の壁を隔てて、重なるように並行して無限に存在しております。しかし世界同士は基本不干渉。移動などはとてもできるはずは……」

 

 

 

ないと、思っておりました。

 

"ひずみ"をベルベットルームに発見するまでは。

 

そしてその"ひずみ"より、この"球"を入手するまでは。

 

 

 

―――エリザベスの呟きと共に、自動できる捲られていたページがピタリと止まる。

そして開かれた本の間から、複数の球が飛び出した。

 

それらはまるで意思を持つように勝手に、エリザベスを中心に一定の距離を取り、五角を作るように地面に配置される。

 

 

 

「全ての生命の源、そして始まり。巡り巡る季節と自然の掟を表す黄色の"豊穣の球"」

 

 

「安定と幸せの真っ只中に身を置く素晴らしき恋人たちの喜びを想起させる桃色の"婚姻の球"」

 

 

「無とは何か、有とは何か、答えも意味もない虚しき問いかけをしてくる深淵のような黒色の"冥府の球"」

 

 

「刹那に揺れる高揚感と踊り戯れ、時間の間隔をも忘れ興奮するかの如く赤色の"祭壇の球"」

 

 

「際限のない優しさ全てを包み込む海。または果てなき自由な空を彷彿とさせる青色の"誓約の球"」

 

 

 

紹介された物は全て初めて見るはずなのに、何故か既視感を覚える。

 

同時に危機感と焦りを。

 

 

「今から研究の集大成をお見せいたします…」

 

「善くん、玲ちゃん、今すぐここを離れるぞ…」

「瀬能?」

 

気せず出た固い声に、善くんが怪訝な目を向ける。

 

「えー、まだ途中だよ?ここで帰ったらエリザベスさん「いいから行くぞ!!」、!?」

 

突然大声を上げ、彼女の腕を掴んでエリザベスに背を向ける。

 

強引な俺に善くんが止めに入る。

 

「瀬能!?いったい何を!」

「いーからとっとと逃げるぞっ!ここはヤバ――」

 

 

 

バシンッッ!!

 

 

 

唐突に背後から青白い電光が走る。

 

それと同時に、今までに感じたことがない強大なプレッシャーが襲ってくる。

心臓がうるさいほど爆音の鼓動を刻み、痙攣を起こしたように足が震える。

 

 

 

ム"ーーーー、ム"ーーーー、

 

 

 

腕に付いているデバイスから、いつもより一段と高いバイブ音が響く。

 

 

『天井付近までジャンプ。今すぐ』

 

 

画面にはそんな文言が浮き出ていた。

 

 

いまいち信用していいか分からんが、今のこの状況じゃそれぐらいしないと逃げられなそうだ。

 

迷わず跳躍に向けて体を縮め――

 

 

「きゃっ、」

「玲っ!」

 

 

――!!

 

そうだ、ずっと玲ちゃんの腕を掴んでたんだった!

 

 

天井までの高さまで跳ぶとなると結構ギリギリだ。200メートルをゆうに超える。

 

俺一人なら問題はない。しかし二人抱えながらは…!

 

 

 

一瞬迷った。

僅かだが、確かに一瞬だけ俺は迷った。

 

 

 

 

すぐさま空いてる方の手で善くんの腕を掴む。

 

「善、着地は自分でなんとかしろ!!」

「なっ?瀬能、何を!?」

「オォラァァ!!!」

 

即座に"気"を最大限まで使い、全力で上空に二人を放り投げる。

 

 

 

バリッッッ――――――!!!!

 

 

 

その直後、とてつもないエネルギーの奔流が背中から全身を襲い、駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

……一瞬だけだったんだ。

ほんの一瞬、気の迷い。

 

それでも、

 

俺はその一瞬が許せなかった。

 

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜善Side〜

 

 

いきなり空中に投げ出されたと思ったら、次の瞬間には眼下一面が轟音と共に青白く染まる。

 

「!!!」

「キャアアアア!!」

 

あまりの光量に眩む目。すぐ側で聞こえる玲の悲鳴。

そして…巨大な電流に飲まれる青い髪の男の姿。

 

そこまで考えてようやく、私は自分と玲が助けられた事に気がついた。

 

「…っ、玲!!」

 

身体が下降を始めたのを感じ、急いで玲を抱き寄せる。

瀬能は自分でなんとかしろと言った。手助けは期待できない。

 

 

不安定だがなんとか体を動かして、足から着地する。

玲には衝撃がいかないようにしつつ、膝を曲げて落下のダメージを最小限に抑える。

 

「グッ…!」

「善!?大丈夫!?」

 

逃しきれなかった苦痛に顔をしかめると、心配そうに玲が詰め寄ってくる。

 

「大丈夫だ…それより、瀬能はっ?」

「!」

 

飛びはしたが、私たちは場所を移動していない。

それなのに瀬能の姿はない。いったいどこに…!

 

電流の動きを考えると…いた!

 

「瀬能!!」

 

体育館の入り口に力なく横たわる男が一人。

 

その身はボロボロで、ところどころ焦げて煙を上げている。

 

「ナツルくん!!」

 

玲が即座に駆け寄ろうとする。

 

 

 

『汝は命果てるまで惑う羊か?』

 

 

 

――寸前で、背後からの声に動きを止められる。

 

 

 

『それとも荒野を踏みしめる狼か…?』

 

 

 

ゆっくりと振り返ると、今までとは違う雰囲気を醸し出すエリザベスが、試すような視線で私たちを見つめていた。

 

その背後には山のような大きな、圧倒的な存在感を放つ巨人が、同じく私たちを見下ろしていた。

 

『我はゼウス…彼方より呼ばれし者なり…』

 

ダメだ…一目見ただけで分かる。

あれは常人がどうにかできる存在ではない。

 

「ひっ…!」

「くっ…」

 

せめて玲だけでもこの場から逃そうと考えるが、巨人に隙が見当たらない。

 

少しでも逃げる意思を察知されたら、その瞬間に先ほどと同じく広範囲に電流を放たれるだろう。

 

 

『答えよ、汝は狼か?羊か?』

 

万事休すか…!

 

 

 

 

 

 

 

「犬科の動物は嫌いだね。アイツら昔っから無遠慮に本気で噛んでくるから」

 

 

 

 

 

 

 

背後から、突然声がかけられた。

 

 

「かと言って羊ってタイプじゃあない。がっつり肉が好きだからな…」

 

玲と一緒に振り返ると、先ほど見た時には床に横たわっていた男が膝に手をつきながら、俯き加減で立っていた。

 

その身はボロボロだ。しかし、なぜか安心する。

心に溜まった不安を押し流してくれるようだ。

 

 

『では、貴様はなんだ?』

「犬でも羊でもなかったら答えは決まってるだろ――虎だ」

 

瀬能が顔を上げると、その表情は憤怒に彩られていた。

 

 

「真っ赤に燃える炎の虎だ。調子乗ったヤツに焼き入れようかぁ…!」

『…よかろう。試そう…その大言を発せるに足る存在か、否か』

 

 

 

 

エリザベス…いや、ゼウスか?

 

ゼウスの興味から私たちは外れたようだ。

もちろんまだ危機が完全に去ったわけではない。しかし……

 

 

不謹慎かもしれないがこの戦い、どのようになるのか非常に興味がある。

 





学園祭編最終幕・VSエリザベス。

本当はもっと色々やりたかったけどグダってきたのでフィナーレ。そして投稿が遅れた理由は、

シリアス寄りのバトル展開になった途端執筆意欲が下がりました…

まさかここまで書けないとは…シリアスとバトル、どっちか単品でも書きづらいけど合わさるとよりいっそう難しい…だからもう一つの作品も更新できないのか。

さっさとギャグに戻りたい…でもきちんとした話書きたいのでこれからも遅くなります。
…暖かい目で見守ってください……

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