久々に顔を合わせた旧友に別れを告げ、次に向かったのは漁業部と料理部の合同出し物。
内容の描写は割愛するが、まー…現実離れした出し物だった。
「すごかったね!さっきの解体ショー!」
「すこいの域を超えてると思うけど」
漁業部が海で釣った巨大魚―――見た目は5mを超えるカジキマグロだったが―――を料理部の顧問教師が、刺身包丁一つでさばいていく光景は目を見張るものだった。
しかもその後、身を削がれ骨だけになった魚を巨大な生簀に戻すと…なんと魚が優雅に泳ぎ出した。
リアルフィッシュボーン。俺を含めた見物人全員が度肝を抜かれた。
繊細且つスピーディーすぎる包丁さばきは食材にさばかれた事を感じさせないと…聞いた事はないな。ト●コかよ。
あの顧問、もしかして千代婆?
「そういえば呂布ちゃん、ふと気になったんだけど」
「……?…なに?」
ショーの後に振る舞われた魚料理に舌鼓を打ちながら、同じ卓に座っている呂布ちゃんに話しかける。
「ずっと一緒にいるけど、自分のクラスの方はほっといていいのか?」
「…………」
もぐもぐと箸を進めていた手がビシリと止まる。
「俺は一日休業だから大丈夫だけど…玲ちゃんたちは?」
「私たちもぐもぐもぐもぐ」
だめだこいつ、食欲に支配されてやがる。
「私たちのクラスは貸衣装屋だからな。少人数のグループで交代しながら店番をしている」
「まぁだいたいどこもそうだろうな」
「3日間のうちの1日だけを担当する、という取り決めで、私と玲は初日担当だ」
なるほど、つまり二人共俺と同じ一日フリーか。
じゃ問題ないな。
「で、お前は?」
「…………」
「コッチヲミロ」
顔を背けて聞こえないふりすんな。
ム"ーー、ム"ーー、
不意に、俺の腕についているデバイスから振動とバイブ音が鳴り響く。
電話か?
「(ピッ)お前か」
『はい。葵冬馬です』
葵?Sクラスの?
予想外の人間から連絡きたな…てかなんで俺の番号知ってんの?
『番号については直江君に聞きました』
「…プライバシーもクソもねぇな」なにしてくれてんのアイツ?
『いやあ、"プレミアム100 別冊オオヤドカリ大全"という希少本を渡したら快く教えてくれましたよ』
「あのクソ野郎ブッ殺す」
えるしっているか、ヤドカリはカニのなかまなんだぜ。
「ヤツへの制裁はこの際置いとくとして、なんの用だよ」
『そちらに呂布奉先さんはいらっしゃいますか?』
呂布ちゃん?
『休憩時間が終わっても戻ってこないから心配で…瀬能君のところへ行ってませんか?』
「……」
無言で呂布ちゃんを見ると、まだ顔を背けたまま固まっていた。
しかし、その褐色の皮膚からはダラダラと汗が流れている。
『お客も増えてきましたので、できれば戻ってきて手を貸してもらえたらと』
「…すぐ連れてきます」
ごめんなさいねうちの子が。
「て訳で今から2-Sに行くぞ、呂布ちゃん」
電話を切った後、すぐに代金を支払いに席を立つ。
残った料理?イベントリ内でタッパーにドラックアンドドロップして詰めるさ。
「ぁ…主……いっしょ…」
「俺のせいみたいな言い方するなよ…自分がやるべき仕事はきちんと終わらせてから付き従いなさい」
しょっちゅう生徒会サボってる俺が言えた事じゃないけどね!
「二人はどうする?まだ食べる?」
「もぐもぐもぐ私たちももぐ行くーもぐもぐもぐもぐ」
「支払いも済ませただろう。いつまでも食べている訳にはいかない」
まあそうだね。
じゃ次の目的地はニ年Sクラスということで。
「ほら呂布ちゃんいつまでも座ってないで、立って」
「…………」
「そんな俺の服摘んで無言の抗議とかされても――くっつく波紋を流すな!!」
ビリビリする!
☆ ★ ☆
・2-S 水着喫茶『あるじ様とお呼び!』
「まさかまた来るとは思わなかった」
他のより明らかに設備の質が高い教室を前に呟く。
この学園無駄に広いし、そこまで仲良い知り合いもいないから同じところに二度行くってないだろ普通。自分のクラスでもないし。
しかも癖の強いイロモノばっかだしなここ。
「一度来たことがあるのか?」
「初日にちょっとな」
できれば忘れたいし近寄りたくなかった。
でもそんなわがまま言ってられない。気を抜くとすぐ足のつま先からくっつく波紋を流し、床にへばり付いて抵抗する呂布ちゃんを引きずって店内に入る。
終始この調子でここまで来るの超疲れた…駄々のレベルが高すぎるよ…
「葵ー、葵冬馬ー!いるかー!?呂布ちゃん連れてきたぞー!」
「ああ、瀬能君!丁度いいときに来てくれました!」
入り口から堂々と入ってきたにも関わらず、葵が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「忙しくてもう限界です。呂布さん、着替えなくていいからすぐ厨房に入ってください」
「…………」
「店が終わったら戻ってきていいから、お仕事きちっとしなさい」
渋る呂布ちゃんにそう言って、厨房に押し込む。
やれやれ…やっと終わった。
ついでになにか食っていこうかと考えてたけど、店内のテーブルはどこも埋まっているし、廊下にまで並んでる奴らがいる。
一緒に並んでたら学祭終わるぞ。諦めよう。
パシャ、パシャパシャッ
「ん?」
再び廊下に戻ってくると、妙な音がすることに気づいた。
なんだ?さっきは呂布ちゃんに夢中だったせいか分からなかったが、まるでカメラのシャッター音のようなものが……
「…………!(パシャパシャパシャパシャ!)」
音源を探すとすぐに見つかり、そこには擦り切れんばかりにカメラのシャッターを切る見知った男が一人。
ていうかクラスメイトだった。
そういやさっきFクラス行った時いなかったな。
「…なにしてんだ土屋」
「…………人違い」
ブンブンと勢いよく否定してるが無理あるぞ。
つーか例え人違いだとしてもだ、水着の女生徒を許可なくローアングルで撮影するのは犯罪よ?事案よ?
取り締まりに生徒会呼ぶ案件よ?
「(ガシャン)オフの俺に仕事させんなよ…」
「…!!(ブンブンブンブン!)」
カメラを構えていた両腕に手錠をかけると、無罪を主張するように激しく首を横に振る土屋。
無理があるって。現行犯だから。
ちなみにこの手錠、一昨日直江が使っていたものだ。(※32時間目 容疑者、確保参照)
教室についても一向に外す気配がなかったので自力で外した。
装着してる物をイベントリに入れようとすると強制的に解除されるんだな…知らなかった…
故に、この手錠に鍵はない。(直江が持ってるかもだけど)
「ほら、キリキリ歩け」
「(ブンブンブンブンブンブンブンブン!!)」
手錠で繋がれている腕の右手を掴んで引っ張ると、土屋の抵抗がより一層激しくなる。
すると奴のブレザーの内側からバサバサと紙のような物がこぼれ落ちた。
「あん?なんだこれ」
「……!!」
床に散らばった物を上から覗きこむ。それは……
メイド姿で満面の笑みを浮かべる俺の写真(※18時間目 シュレディンガーのパンツより)
……………………………………………………………………
「自白を強制させて余罪を追求するのが先だな」
「…!!む…無実…!(ブンブンガチャガチャブンブンガチャガチャブンブンブンブンブンブンブンブン!!)」
この近くに人気が全くない隔離スポットはないかな。
「…………こ…これを…!」
デバイスで検索するために掴んでた腕を離していたら(代わりに足踏んでた)、土屋が懐から何か取り出し差し出してくる。
なんだ買収か?思わず手に取る。
内容は……
水着で接客する会長の写真
「一番近いのは第三準備室か」
「……!?…こ…こっちは……?」
また懐から写真を取り出す。
今気づいたけどこいつ、呂布ちゃんと口調が被っててなんかイヤだな…
とりあえず受け取る。どうせ似たようなもんだろう、どんな拷問技を使うか………
考えながらも手元をチラリ。
呂布ちゃんの水着写真 ← 制服無しver
「………」
「…で…データも……」
無言でいると勝手に値段を釣り上げてくる。
それに対して俺は――
スッ……
手錠を外してブツを受け取る。
さらに、
「清涼祭実行委員の見廻巡回ルートだ。もう少ししたら誰か来る」
周りに聞こえない声量で耳打ちし、小さく畳んだ紙を土屋に握らせる。
「……!感謝する…!」
メモを受け取った土屋は足早に去って行った。
それを横目に写真とメモリーカードをイベントリに仕舞う。さりげなく会長の写真も受け取ったのはナイショだ。
「………」
「………」
そしてそんな俺たちのやり取りの一部始終を、善くんと玲ちゃんが冷めた目で見ていた。
「瀬能…今……」
「ふ……級友を連行するなんてマネ、俺にはできなかったよ…」
「ナツルくん悪徳警官みたい」
聞こえんな。
「……きみの『人でなし』な部分を垣間見たぞ…」
聞こえんなぁ。
なぜなら僕は魚雷だから!
呂布ちゃん離脱。
主と別れさせられる(呂布の悲しいこと)
女装写真撮られる(ナツルの悲しいこと)
正義感強いと思ってた友が堂々と悪事っぽいことに手を染める(玲&善大ショック)
玲ちゃんは割とナツルにヒーローのイメージ持ってます。実際は悪y(削除されました)
※活動報告にてどうでもいい解説とかやってます。暇な人は見てネ