戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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自分の主より背が高いことが何気にコンプレックスだった呂布ちゃんの悩みがひとつ減ったの件。



84時間目 君に出会えたキセキ

 

バキッ、ドコッ、グシャ!!

 

「ぅわーん!」「うべらボァ!」

 

顔面への飛び膝蹴りから地面に突き倒され、そこからマウントで無慈悲な鉄槌を食らう。

なんで俺こんなに殴られてんの?

 

 

「ぶっ!ぼほっ!じゅっ、順逆自在の術!!」

「ぼぇっ!!?」

 

 

きつくなり始めたところで、見知らぬ他人と場所を入れ替える。

 

「たっ…たかしぃぃぃぃっっ!?」

「うわっ、数発で血塗れに!」

「ヤバイぞ早く止めろ!!」

 

身代わりにしたのはさっきと同じ人物だったようだ。悪いね、終わったら戻るよ。

 

 

「ハァハァ……くそ、あのアマっ無遠慮に殴りやがって…!」

 

クソ腹立つ…なにが女をパーツでしか見れない人間のクズだ。男なんて大概そんなモンなんだよ!女だってそうだろ!顔だのステータスだの…

 

 

「なあ呂布ちゃん!」

「……で…デカい………」

「え?」

「……なんでもない」

 

………………気になるけどスルーしておこう。なんとなく。

 

「瀬能くん!?いつの間に移動したの!?」

 

ようやく落ち着いたのか、ひかりちゃんがこちらに向き直る。

 

「俺のことよりあっちを気にした方がいいんじゃないか?」

彼女の背後を指差す。

 

 

「動かねぇ、たかしが動かねぇよ!!」

「早く保健室に運ぶぞ!!」

 

 

顔をパンパンに腫らした男子生徒が担架に乗せられ、慌ただしく運ばれるさまはER(救急治療)の最前線のよう。

 

理由がないだけにやってることが俺よりひでえ。

 

 

「大丈夫、クラスメイトだから」

「大丈夫の意味がわからないよ」クラスでどんなポジションなのきみ?

 

気になる…落ち着いたら調べてみるかな。

でも今はいいや。

 

「これ以上怪我をしたくないからとっとと他のとこ行こうか」

打たれた箇所をさすりながら玲ちゃんたちに話しかける。

 

リクエストの映画も見たし、もうここに用はないだろう。

ひかりちゃんとお喋りする理由もないし…酷い目に合いそうだし。そもそも合いっぱなしだけど。

 

さっき回復したばかりなのにこんなダメージ受けるなんて思わなかった。あざになってないよね?

 

 

「もうすぐ次の映画始まるけど」

「学祭で二本撮りするな!」

 

だから演技が拙いんだよ!

 

「二本じゃないよ。三本立て」

「なお悪いわ!」一本に絞れ一本に!

 

ただでさえカメラ向けられるのに慣れてないのに、その上セリフとアクション覚えさせられることの精神的・肉体的の疲労!

昔やらされたからよく分かる。ハンパないって!!

 

「そんなブラックな環境で劇団員がいつまでもついて来ると思っているのか!監督なら他人に気を配れ!!」

「言ってることは正しいけど瀬能くんに言われるとすごいモヤっとする!」

 

私はいいの。魚雷だから。

 

「映画他にもやるの!?」

「うんっ。恐竜のお話と、ロボットのお話」

「どっちもダンボール製だろ」

 

さっきの映画も背景や小物のほぼ全てがそれで作られてたみたいだから。

 

みかんとか表紙に描いてあるロボとかダサすぎて草。ベニヤ板くらい使え。

 

登場しただけで笑っちゃうだろうから、観ない方がお互いのためだな。

 

 

「ひかりちゃん、僕もう帰らなくちゃ」

「…銀河鉄道のジョバンニ?」

 

正解。そういえば中学のとき好きだって言ったっけ。

 

「映画観ないの?」

「玲ちゃん観たいの?」

「うん!」

 

マジかよ、こんなC級作品。

 

演じてる奴が運動部なせいか、やたら声がデカくて寝ることもできねえ一種の苦行なのに。

娯楽に飢えてるとこんなのでも心惹かれるんだな…

 

 

「そうか、なら一旦ここで別れるか。そろそろ漁業部の方で釣った巨大魚解体ショーが始まるから一時間後にでもまたここに「解体ショー!?行く!行きます!!」食い気味な意見をどうも」

 

きみならそう言うと思ったよ。

 

「えっ、あれ!?映画は!?」

「あっその…ごめんなさい!!」

「そんなぁ!」

 

ちょっと迷ったけど頭を下げて謝られた…

 

「諦めろ、彼女はお前の作品より魚を捌く場面の方を選んだ。それが真実だ」

「真実嫌い!」

「マグロに負ける映画…プギャーm9(^Д^)」

「瀬能くんはもっと嫌い!」

 

機雷(きらい)だなんてそんな…私は魚雷よ!

 

 

「という訳でじゃあな、ひかりちゃん」

「ちょっ、待ってよ瀬能くん!せめて連絡先交換しよ!」

 

あーん?連絡先〜?

 

そんなん昔から変わらな…そういえば高一の時に携帯買い替えたんだったわ。俺が。

 

買ったばかりなのに不具合ばっかで、そっちにばかり気が向いてて昔の知り合いの連絡先のことすっかり忘れてた。

ただでさえ風間一派の絡みが多くて濃いし…茜もなにも言わないもんで…つい。

 

そもそも使ってねーしな。

 

「じゃアドレス交換するか、なんかあったときのために」

「うんっ、…用がなくても気軽に電話やメールしてくれていいよ、友達なんだから」

 

………友達?

 

「俺たちって友達だったのか?」

「え」

 

 

カッ、

 

 

ひかりちゃんの手からするりと携帯が落ち、床の上に転がる。

大丈夫かお前、急に顔真っ白だぞ。

 

 

「え……う、嘘だよね…瀬能く――」

「『共に生きて共に死のう』みたいな仲だと思ってたんだけど」

 

チームというかファミリーというか…ほぼ毎日一緒にいたし。

居心地も良かったからな…機会はなかったが、必要なら命かけるくらいは平気でできた。

 

当時俺たちの関係性について誰も聞いてこなかったし言わなかった。

 

ネタやノリで散々言ってたけど…そうか……友達ってそんなんなのか……知らんかった。

 

「…?どしたのひかりちゃん。蹲ったりなんかして」

 

今まで話し込んでいた相手が、気づいたら両手で顔を覆ってしゃがみこんでいた件。

 

「……………落として持ち上げるのずるい……」

「?」

 

携帯ならまだ床の上だぞ。拾うんなら早く拾えば?

 

 

 




■ 無慈悲な鉄槌
 筋肉マン。セイウチンが使用。あお向けの相手に馬乗りになって、両拳を叩きつけるように相手の顔面を殴打する技。

■ 『共に生きて共に死のう』
 バッドボーイズ2バッドに出てくるセリフ。
 超映画っ子のひかりちゃんは普通に友達と言われるより映画ネタで例えられる方が胸にくる。はず。
 知らずに恥ずかしげもなくサラッと言える主人公。天然レベルがうなぎのぼりや…


どうでもいいけど映画内容が気になる方はPQ2をやろう。だいたいあんなイメージ。


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