戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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75時間目 Tank

 

 

「さて。一服したしそろそろ行くか」

 

エンドルフィン分泌して、その効果が消えたから冷静に物事を見れるようになった。考察した結果…

 

全員が手持ち無沙汰やら暇を持て余してるようだ。ゴメンね?

 

 

「なんだ、どこか行く予定でもあるのか?」

「ないけど」

椅子から腰を浮かせたところで直江が声をかけてくる。

 

「だったら、もうちょっといてもいいだろう。そんな用件終わったらすぐ帰るとか仕事みたいな対応取らなくても」

「結構ダベってたよ?」

 

四話分ぐらい座って喋ってたよ?

この教室に来てからならもっと長く居たよ、十分じゃない?

 

「もうちょっと!もう少しだけ居て!一人で店番するの辛いから!」

「知るか」

「俺と一緒に友好を温めないか…?」

「きもい」

 

マジきもい

 

 

コイツこんなウザいキャラだったっけ。俺の影響で変化したの?

 

もはや変異レベルだよ。暴走してるよ。もう完全に俺の手を離れたみたいだから俺のせいじゃないよね。

 

 

「ナツルくん、別に私たちのこと気づかわなくてもいいよ?」

「ほら!後輩の子もこう言ってるし、まだまだ時間潰せるぜ!」

「席に座るな」

わざわざ他の卓から椅子持ってきやがって。ウェイターなら立ってろ。

 

 

「ぶっちゃけさー、やな予感がするんだよね。具体的には姫路が来て手料理振る舞うとかさ」

「本当に具体的だな」

 

『自クラス』で『飲食』ときたら、もうオチは決まってるだろう。タイトルは劇物摂取でナツルくん死すだ。

 

俺はそのオチを全力でぶち壊す。

 

 

「その姫路という人物に料理されるのはまずいのか?」

「マズいなんてもんじゃねえ、この世の地獄を文字通り味わうぜ」

「意味がよく分からないのだが…」

「美術部のハズレアイスが出てくると思ってくれ」

 

 

ガタンっ

 

 

「あるじ、主っ、早く、早く行こう。早くっ」

 

 

今までボーっとしていた呂布ちゃんが急に立ち上がり、俺の袖口を掴んで早口で捲し立てる。ハズレアイスが余程こたえたみたいだな。

 

つーか呂布ちゃん、いつもFクラスに入り浸ってクラスメイト全員と顔見知りだろ?姫路の料理の腕がヤバイって―――知ったのは清涼祭始まってからか。しかも俺だけ。

 

呂布ちゃんそもそも最近ウチのクラス来なかったしな……来たところで誰かと喋ってるとこ見たことねえ。もう少し他人と交流持って欲しいようなそうでもないような。

 

 

「主っ早くっ、」

「分かった分かったよ」

 

半ば持ち上げるように(ていうかほとんど浮いてる)俺を引っ張る呂布ちゃんを宥めながら立ち上がる。

 

流石にここまで必死な彼女を引き止めようとは直江も思わんだろう。やったら殴って黙らせる。

 

さて次はどこの出し物へ行こうか――

 

 

ガラガラっ

 

 

「ただ今戻りましたー」

「あー楽しかったー!」

「ハイッ!ものすっごく楽しかったです!!」

「ふふっ、よかったですね葉月ちゃんっ」

 

 

唐突に扉を開けて見知った女子陣が室内に入ってきた。

 

……遅かったか…

 

あと一時間くらい徘徊してりゃあよかったのに。

呂布ちゃんが顔を真っ青にして抱きついてきたじゃねえか。

 

服越しに感じる柔らかな肢体に思わずドキッとしてしまうのが思春期の悲しいサガ。

 

呂布ちゃんは別の意味でドキドキしてるのに…

 

 

「心配すんなよ」

「………?」

「呂布ちゃんと玲ちゃんと善くんぐらい、俺が全力で守ってやるさ」

 

 

自分の意思とはいえ、この場所に連れてきた以上はそれぐらいやらにゃあな。

路上でいきなりのエンカウントだったとしても守るけど。

 

 

「ナツル、俺は?」

「知るか」勝手に散れ。

 

 

「あ、瀬能さん!」

 

俺に気付いた姫路が近づいてくる。

 

俺の顔を見た途端にキッと決意を固めた表情するのはなんでかなー?

 

 

「あの、私またお菓子を作ってきたんですけど!よかったら食べてみてくれませんか!?」

「嫌です」

「本当は朝言いたかったんですけど…なぜか近づけなくて……」

「ちょうどいいからそのままずっと俺に近づかなきゃいいんじゃないかな」

「今回のは自信があるんです!きっと瀬能さんも納得してくれるはずです!!」

「[納得]:他人の考え・行為を理解し、もっともだと認めること。食うだけで対象にダメージ与えて昏倒させるもんを『もっとも』とは認められねえな」

「お店の方で和菓子を中心に出しているので、私もそれに倣って作ってみました!」

「お前さっきから俺の話聞いてねえだろ」

「くず餅です!」

 

 

聞けよ。

 

 

最初から最後まで全て無視しやがって。もしかしなくても俺のこと舐めてんだろ。ブルーハワイぶっかけるぞ。

 

「どうぞ!!」

 

先ほど呂布ちゃんに拒否されたときとは比べ物にならないほどイラァ…としてたら、姫路が小皿に盛られたくず餅を差し出してきた。

 

ああいかん、ちょっと隙を見せたところを全力で突かれた。もう少し警戒心を磨かないと。

 

ていうかそれどっから出したの?

 

 

「さあ瀬能さん!ガブっていってください!」

「その前に一つ聞いていいか?」

 

圧と共に皿を突き出してくる姫路をやんわり(と見せかけて本気で)押し除けながら尋ねる。

 

「それってキチンとレシピ通りに作ってんだよな?変なアレンジ入れてないよな?」

「…………もちろんです」

 

 

なんだ今の間は。

 

 

「あとお前味見した?」

「…………」

 

 

答えろや。

 

 

ぜってーしてねぇなコイツ。そんな恐ろしいもん口に入れられるか。

昨日の朝に言ったことも実行できないって、人としてどうよ。

 

「ちょっと瀬能、いい加減にしなさいよ!」

 

島田が睨みながら話に割り込んできた。

 

「せっかく瑞樹が作ってくれたのに文句ばっかり言って、男なら黙って食べなさいよ!」

「ならテメーが喰らえ!!」(ゴウッ!)

「むぐぅっ!?」

 

 

 

ごパッッ

 

 

 

「おねーちゃーーーん!??」

 

 

大口開けて怒鳴っていたのをいいことに、無拍子でくず餅をねじ込み無理矢理飲み込ませたら、そのまま吹き出してぶっ倒れた。

口程にもないヤツめ。

 

「しっ、島田ちゃん!瀬能ちゃん何するんですかいきなり!?お姉さん怒りますよ!」

「お前もオラァッ!!」

「むぐぅっ!!」

 

 

 

ブパッっ

 

 

 

「委員長さーーーーーーん!!?」

 

理不尽な抗議をしてきた女子のクラス代表に、これまた無拍子でくず餅を放り込む。

 

すぐに島田と同じく吹き出して倒れた。なにがお姉さん怒りますよだ、俺はその三倍怒っとるわ。

 

「マヨ!!瀬能あんたねぇ―――」

「犠牲者その三!!」

「むぐっ!!」

 

 

 

ボブッッ

 

 

 

「小笠原さーーーーーーん!!?」

 

文句を言われる前にギャルっぽい女の口にくず餅を突っ込んで撃沈させる。

 

「つぎぃ俺に意見したいヤツはどいつだぁ?遠慮なくこいょぉ」

 

教室の入り口付近に固まってる女子陣を睨むように見つめる。が、誰も目を合わせようとしない。

 

「は!男ならとかなんとか偉そうに言ってたくせに、オトモダチの手料理ひとつ食えないのか?大した友情」

「犠牲者その四!!」

「もごぅっ!?」

 

いつの間にか忍び寄っていた直江に、背後から姫路のくず餅を口に突っ込まれる。

コイツたまに身体能力高くなるよな。(いつもは普通なのに)

 

 

「ウボァッ!!」

 

先の三人と同じように、盛大に体勢を崩して口の中のものを吹き出す。

 

味覚を通して襲ってくる虚無感に身体から力が抜ける。

今更だが不味いを通り越して肉体・精神に直接ダメージ与える料理?ってなんなの?

 

 

「ナツルくん!?」「瀬能!!」

「……!!」

 

 

――――――!

 

意識が薄れゆくなか、玲ちゃんたちの悲痛な叫びが耳に入った。

 

 

ダンッ!!

 

ガシッ!

 

 

「なぁっ!?」

 

脚に力を込めて崩れ落ちそうな身体を無理矢理支え、反転して直江を掴む。

 

そして最後にひとつだけ残ったくず餅を逆の手で握りしめて、

 

 

「なっ、ナツル何を――」

(みぃちィ)連れぇだァーーーーーー!!!」

 

 

あおあたまは さいごのちからをふりしぼり

やまとのくちに ねじこんだ!

 

 

「モガッ!!」

 

くず餅をぶち込んだ後、素早く口を掌で塞いでブツを吐き出すのを出来なくする。

さらに頭を上下に振って、強制的に喉から胃に流し込む。咀嚼?いいんだよ細えことは。

 

「……ッ…………ッ………………」

 

 

 

ドサッ

 

 

 

直江は音もなく崩れ落ち、教室の床に転がってぴくりとも動かなくなった。

 

………今度こそ眠るのじゃ…友よ…

 

 

「念のため粘着テープで口塞いどこう」超強力なヤツで。

「よくわかんねーけど鬼かテメー」

 

いいえ悪魔です。

 




Fクラスのオチはやっぱり姫路かなー今のところは。

というわけでFクラスパートは今回で終了。もうちょい色々ネタがあったけど長くなってきたから…

次は来週あたりにUPします。久々にあの人が…

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