〜ナツルSide〜
「つーかあんたら、あの胡散臭いおっさんを師匠って…いったいなにを教わってんだよ」
前回(※ 18時間目 SWK)の戦いを軽く振り返ってみたが、自由奔放にやってたように見えたけど。
師匠って呼び名から勝手に戦闘って考えたけど実は違うのか?賭博とか?
「武術だぜ!師匠はウチら4人全員の師匠なんだ!」
「ファイトスタイルがみんな違うみたいだけど」
使ってた武器も違うし。バス停とかゴルフクラブとか。
いやまあ、ムチャクチャって点では一緒だけどさ。
「それぞれに合った戦い方教えるのがすっげーうまいんだぜ!リュウとタツ姉は格闘術で、アミ姉は棒術だ!」
「…ムチ使ってなかった?」
※ガッツリ使ってました。
「アミ姉ぐらいになるとぐにゃぐにゃしたものでも棒みたいにビシッ!となっちゃうんだぜ!」
「"気"で固定化してるだけだけどね」
「なんでもないように言ってるけど十分凄くない?」"気"を使えるって時点で。
なんだかんだ言って使い手ほとんど見かけないからな。
「お前はどんなの習ってんだよ」
「護身術だ!それだけだとつまんねーからゴルフクラブも使ってっけどな!」
「そんな理由で武器にしてたの?」
訳分かんねーよマジで。つーか護身で武器フルスイングすんなし。
「個性引き出そうとして本筋見失ってるじゃねぇか。原点に帰れ」
「意味分かんねーよ!どこだよ原点って!」
使い手であるお前が知らないのに俺が知るか。
「あと辰さんやたら強くない?」
「まぁ私らの中で頭一つ抜きんでてるのは確かだね」
だよね。
どっちかって言うと防御寄りの俺をふらつかせる威力のパンチとか、もはや反則だから。(※お前が反則言うな)
そんな彼女は今、俺の隣で幸せそうに眠っている。
強くてマイペース。呂布ちゃんと同じタイプだな。
「ふふんっ。タツ姉が強いのはジジツだけどよー、ウチだって結構やるんだぜ?」
「自称乙」
もうひとりの姉との連携で決定打を与えられないのに、一人でも強いとか説得力無いんですけど。
「てめーウチを舐めてんな!?クソ、見てろよ!薬使えばてめーなんて…!」
「あーん?」なんだ、いきなりポケット漁り出したぞ?
緋色ツインテが取り出したのは野球ボールほどの大きさのガラスビン。こげ茶な色合いから察するに薬ビンか?
―――パシッッ
「あ!?」
フタを開けようと一瞬動きが止まった隙をついて、素早くビンを奪い取る。
その際にカラカラと音がした。結構中身入ってるな。
「かっ、返せよテメー!」
「なんだこりゃ。サプリメントか?」
「ちげぇよ興奮剤だ!」
興奮剤ぃ?なんだそりゃ。
いやなんか聞いたことあるな…確か……
「最近急に流行り出したドラッグの一瞬だったかな。少ないリスクでお手軽に強くなれるとか」
「詳しいなナツル」
「まぁちょっとな」
街中の噂が集まりやすいところでバイトしてるから。
最近は生徒会とかに入れられたせいで全然顔を出せてな――やめよう。話が長くなる。
「だったらなんだってんだ!?センコーみてーに説教でもすんのか!」
「いや別に」しないけど。
自分の意思で決めたんならドラッグでもなんでも勝手にやりゃぁいい。自分の人生だ、自分の好きにやっていいじゃない。人間だもの。
ただ他人、もっと言えば俺に迷惑をかけるんなら全力でブチコロス。加減はしねえ。
「ジャックハ●マーだってドーピングしょっちゅうしてるし、強くなる過程なんて人それぞれだ。ただな…」
「ただ?」
「
手に持ってるビンをカラカラとこれ見よがしに振る。
「外部から何かを得ようとするとそこに隙が生まれる。大概は呆気に取られるかもしれんが、その隙をついて致命傷を与えられる奴なんてごまんといるのだよ!」
「なっ、なんだってー!」
ツインテが両方の髪を雷のようにカクカクっと逆立たせて驚愕する。
ノリのいい子は好きさ。どうやってんのそれ?
「でもそれってどうしようもないんじゃ…」
「ドーピングってのは薬物摂取で身体能力を高めることだから、たしかにどうしようもないね」
直江と亜美さんが会話に割り込んでくる。
「相手に出会う前から服用でもするのかい?」
「中毒になっちゃうでしょ…それよりもっとお手軽で安全な方法がある」
「お手軽で安全って…ドラッグでそんなのあるのか?」
「自分の体内で生成して摂取する」
………………
「えいっ、やっ、とおっ!」
「む…玲は強いな」
無邪気に対戦ゲームを楽しむ善くんと玲ちゃんの二人。
さらに店の外から喧騒が途切れることなく聞こえるというのに、室内に静寂が流れた。
「体内で生成って…」
「動物は体内でビタミンCとか作れるって聞いたぞ」
「人や猿なんかの霊長類は無理なんだよ」
そうなのか?
「いや今のは例えだ。生物はな、脳内麻薬ってものを作ることができてな」
「アドレナリンとかエンドルフィンだろ。アレはマラソンで全力疾走とか、極限まで自分を追い込んで初めて分泌されるものだろう」
「俺は好きなタイミングで出せるけど」
…………………………………………
またしても静寂が訪れる。
なんで?
「やあっっ!!」
「むっ…負けてしまったな。今のがコンボか?」
こっちは相変わらずだし。
「今なんて言った?」
「好きなタイミングで出せるって。別に珍しくもないだろ。モモさんだってできるだろうし」
「姉さんも?」
まぁあの人の場合無意識な部分多いだろうけど。
いやそれだと普通の人間もやってるか?よく分からなくなってきた。
「どーやんだよ?」
「脳内麻薬の出し方か?人それぞれらしいけど俺はこう、耳を…」
喋りながら左手で耳を掴み、
コンロのつまみを回すように捻る。
シャキーン!!
「エ・ク・ス・タ・スィ〜〜〜!!」漲って、きたぁ!!!
「…………」
「…………」
「…………」
「……(ごくごく)」
「くぅ…すぅ…」
「善またその人にするの?」
「ようやく少し操作方法に慣れてきたからな」
…上がってたテンションが急速に下がったわ。
だからやらねえんだな俺…普段から高いし。もうやんない。
「ちなみにこの脳内麻薬を利用した広範囲技が俺にはある。その名もスティンキングガス…」
「(エンドルフィンスモークじゃないんだ…)」
「前に一度囲まれた時に使ったら狂ったように叫びながら同士討ちし始めたなぁ」
「頼むから俺がいる時に使うのだけはやめてくれ」
「どうでもいいけど二人とも何のゲームやってんの?」
「えっと、兵語(つわものがたり)?ってゲーム!」
「あーそれなら俺もやるわ。面白いよねそれ」
「じゃあ今度対戦しようよ!」
「いいよー。ただ手加減はしないよ?」
「ならば、少しは対抗できるように練習しないといけないな」
「…………(私もやらなきゃ…)」