「あ〜ナツルくんだ〜」
唐突に女性の間延びした声がかけられる。
「あ?っとぉっ!?」
と同時にナツルと同じ髪色の美少女が飛び込むように抱きつく。
ここにナツルを訪ねてきた三人組の一人だ。さっきまで寝てたはずだけど、待ち人が来たから起こされたのかな?
「えへへー すりすり」
「……!!」
さらに人目を憚らずにナツルに頬擦り。
それを見て側に控えている呂布がムッとした雰囲気を醸し出す。
主の身内なんだから嫉妬するなよ…クラスメイトたちなんてカッターを取り出し始めたぞ。気持ちは分かるけどみんなちょっと追いつけ。
「誰だあんた!」
されるがままだったナツルが慌てた様子で相手を引き離す。
って、
「え?いや、姉だろ?」
「俺は一人っ子だって言っただろうが!」
そういえば電話越しにそんなことを…え、あれ本当のことだったのか?てっきり誤魔化しかと。
「おい聞いたか?姉弟の関係じゃないってよ…!」
「そいつはいけないな…よし殺そう」
「ニクニクニクニクニニニニニクククククククククククク」
こんな吉井と坂本がいない時に……来てくれてよかったのかな?
あの二人がいても騒ぎが大きくなっただけかもしれない。
いやでもやっぱりいてくれた方がよかったかなぁ〜?普段無駄に鋭いくせに、殺伐とした店内の様子に気づいてないかのように会話続けるし。
「私らのこと忘れたのかい?まぁ1度会っただけだしねぇ」
「あいにく…いや待った、なんか覚えがあるぞ。確か……『ウチ魔法少女になる!』とか言いながらゴルフクラブ振り回してたイカれたツインテと、それを止めようとしてた姉二人だったな」
「ちげーよ!とくにウチのくだりが!!」
「なんでそう中途半端に覚えてるんだい…辰に殴られたからかい?」
「……!」
アミ姉と呼ばれている女性の口から『殴られた』という台詞が出た途端、呂布の全身からオーラのようなものが発せられた。
「そんなことあったっけ?てか辰って誰?」
「あんたに抱きついてた娘だよ。…そういや自己紹介途中だったね。板垣亜美だよ」
「私は辰子〜」
「………天…」
「マジカル☆エンジェル天か」
「ちっげーよッッ!!なんで言ってもねーのにウチの名前知ってんだよ!?」
「え、お前エンジェルって名前なの?DQNじゃん」
「またゴルフクラブ頭にぶちかましてやろうか!?」
「……!!」
ゴォウッ!!
「うわっ!?」
なっなんだ!!
突然呂布から突風のような圧が放たれ、思わず身を竦ませる。
これって…"気"か!?使えたの!?
「主、傷つける奴、コロス!!」
「ヒィッ!!」
修羅の闘志纏いながらぶっっ騒なこと言い出したーーーー!!なんか"気"が額に集中してツノが生えてるみたく見える!熱気がすごい!
「おォい主君!従者が暴走してるぞ!早く止めろ!!」
「怪我人が出そうになったらな」
「い・ま!止めろ!店が壊れる!!」
「えー」
「分かった、なにか飲み物1つ奢るから!」
「ケチくせえなぁ、まーしょうがねえ。分かったよ」
なんでそんなローテンションなんだよ!呂布の方は爆発寸前なのに…温度差がひどい。
「おおい呂布ちゃんやい。その辺にしときなさいや、傷つけるっつっても覚えてないし気にもしてないから」
「だめ!主の敵、コロス!」
「あ?」
―――呂布のせいで上がっていた店内の温度が、一気に下がった。
こ…これは……まさか…!
「熱を操る大魔法『パイナップルフラッシュ』…まさかこんな身近に使い手がいたなんて…!」
「大和って本っ当ナツルに似てきたよな」
「うん。でもそんなところも好き」
最近は「ナツルに似てる」って言われてもショックを受けなくなってきた。
そしてお友だちで。
「聞き間違いかな…今俺の言うことが聞けないって言ったか?」
「……!」
「人のことを『主』とかほざくくせに、ずいぶん偉くなったもんだな。舐めてるのか?俺をペロペロ舐めてんのか?舐めてんだな。何味だ?」
ナツル節が炸裂する中、呂布の顔色がどんどん悪くなっていく。
ヤ◯ザのやり取りみたいだ。店の印象悪くなるから他所でやってくんないかな。
「別に俺の言うことに全て従えたー言わねえ。だがな、どんな行動がどんな結果に繋がるのか、そこんとこよく考えるこったな」
「………?」
「分からんか?まーおいおい覚えていけばいいさ。ちなみに俺はブルーハワイだ。青いから」
ちょっといいこと言ったみたいな感じだったのに、どうして最後に必ずオチを付けるかな。
ナツルらしいっちゃらしいけど、こういうところがあるせいでモテないんだよ。
☆ ★ ☆
「ナツルく〜ん」
突然青い髪の美少女――辰子、とか言ったっけ――がナツルに抱きつく。
「うぉうっ?」
「守ってくれてありがとう〜。優しくてーやっぱりかっこいいねっ」
「やるじゃないか。見直したよ」
「正直マジでびびったから助かったぜ…」
「……!」
辰子さんを皮切りに残りの二人がより一層、気安い感じに近づいていく。
それを見て呂布が再び嫉妬。険しいオーラを放つ。
おかしいな?ナツルはモテないって話した直後なのに…なんで女子に囲まれてるんだ?
「………」
「………」
「………」
『……………』
ああ、クラスの男子が虚な表情で黒装束身につけ出した。
なんかもう俺も被っちゃおうかな。
「だ…ダメ……っ…」
騒ぎの中心にいるナツルの服の裾を、呂布がおずおずと握るように摘む。
「主……取っちゃ、ダメ…!!」
その姿は先ほどまでとはまるで違い、捨てられた小動物のように弱々しい。
すごいギャップだ…!!姉さんやナツルと同等かそれ以上の武力を持っているのに、無性に保護欲を掻き立てられる。
萌えでダメージを受けるナツルなんて吐血ものだろう。
「いや呂布ちゃん、俺は俺自身のものなんだけど」
平然と見つめ返してる!?なんで!?
おかしな設定のせいでいつも瀕死になってるのに…慣れたのか?
「え〜ナツルくん、私のものになってくれない?駄目?」
「ダメに決まってんだろーが。頭パープリンかあんた」
「そんなぁ…あ、じゃあ、弟は?駄目?」
「『じゃあ』の意味が分かんねーんだけど。ていうか年上?」
こらこらみんな、人目がある所で刃物なんて研ぐんじゃあない。
あと誰か、漁業部から投網を借りてきてくれないか?
何に使うとは言わないけど素早く動く相手を捕えるには必要だろうから。
「……俺の一つ上かよ…調子狂うな…つーか弟になれってどうすんのよ。杯でも交わすの?」
「おー。三国志?」
「産まれし日は違えども、死すときは同じ……!!」
「…!だ…ダメっ!」
「ん?」
呂布が慌てた様子でナツルの右腕を引っ張る。
よくは分からないけど今のやり取りは彼女の心の琴線に触れたようだ。
さっきの修羅のような危なさはないが、必死さは伝わってくる。
「ナツルくん取っちゃ駄目だよー!」
「おぉう」
負けじと辰子さんがナツルの左腕を引っ張る。
丁度両サイドで腕を引っ張られて綱引きされるみたいな状態になった。
二人ともに力が強いのか、引かれているナツルが一瞬苦痛に顔を歪める。
「、っ」
「――…!!」
それを見て呂布が即座に手を離した。
彼女が真の母だったようだ。
しかし急に片方の力が抜けたためにバランスが崩れて―――
「お?」
「え?」
ぽよん……
辰子さんの豊かな胸に、ナツルが顔からダイブした。
「ゴメンなさっ――!!」
「わーい。ナツルくーん」
「わぷっ!?」
慌てて飛び退こうとしたがそれよりも早く腕が伸びて、再び胸の中に顔が埋まる。
「……!!」
むにゅ
負けじと呂布が背後側からナツルに抱きつく。
「………!」
「んん…くせになりそぅ…」
褐色肌の赤い髪の美少女と、白い肌の青い髪の美少女が競うように身体を押し付けあう。
教室内のSAN値が大暴落していくのを確かにカンジル…
「っだーーーー!!
真ん中で挟まれていた男が大声を上げて無理やり二人を引き離す。
窒息しかけたせいか、それとも他の理由か、その顔は真っ赤だ。
「……おかしい、絶対におかしい…俺はギャグ系の主人公なのに……なんでこんなラブコメの主人公みたいな目にあうんだ………?」
小声でなんかぶつぶつ言ってる。よく分からないけどメタなこと止めろ。
あとブッコロス……
みなさん!ウチの主人公に石を投げないでください!どうか石を投げないでくださーーーい!!
投げるなら鉄アレイを!鉄アレイを投げてください!!どうかお願いですっ鉄アレイを!!
今どきの分解できて重さが変えられるやつじゃなくて、ひと塊で昔の黒電話の受話器みたいな形をしたやつを投げてっ!!
うわっやめろっ、キサマなにをする!?
ザザっ、ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(以下、延々と砂嵐が続く)
Q.胸クソ展開は?
A.人がイチャついてるとこ見ると胸クソ悪くならない?
Q.……………