途中までは前話と全く一緒です。
〜善Side〜
先頭には瀬能。その後に玲と私、最後尾に呂布が続き、校舎二階の廊下を当てもなく歩く。
ここは普段、学園の2年生がおもに使っている校舎で、私も玲も来るのは初めてだ。
「私たちが使っている校舎とあまり変わりはないのだな」
「廊下やトイレなんかの共有スペースはな。各クラスの教室は差がすごいぞ」
ただ感想を呟いただけで質問ではなかったのだが、瀬能が律儀に答えてくれた。
「そうなのか…瀬能のクラスはどのようになっているのだ?」
「…………」
「ナツルくんのクラスはどんな出し物やってるの?」
「ちょっとした喫茶店だな。あとで行ってみる?」
「いいの!?」
「この二年棟じゃなくて木造校舎の方で出してるから、すぐには行けないけどな」
「クラスの出し物なのに自分たちの教室でやっていないのか?」
「まー色々事情がありまして」
「そうか…そういえば2年はSからFまでクラスがあると聞いたが、瀬能はどこに属しているのだ?」
「………………」
自分のクラスの事になると途端に口を閉ざすようだ。なにか不都合でもあるのか?
…口を閉ざすと言えばもう1人、全く喋らない人物がいる。
「…………」
「ナツルくん、呂布ちゃんまだ具合がわるいみたい…」
心なしかぐったりとした様子の呂布。
玲の言葉に瀬能が立ち止まってこちらに振り返る。
「あんな劇物食った後なんだからしょうがないだろ。少し休むか?」
「……大丈夫…」
声に元気が無い。
呂布は先ほどのアイス屋で普通のバニラを頼んだが、一口食べた瞬間に瀬能と同じようなリアクションを取って倒れた。
店員に感想を聞かれたときは「……ゾディアッククラメーション…!」と呟いた。意味はよく分からないがとても強い衝撃とダメージを受けたということはわかった。
「瀬能も口にしたのに元気そうだな」
「流石に三度目だから慣れたよ」※本当は四度目。(姫路料理三回。劇物アイス一回)
…2年生とはそんなにしょっちゅう食事でダメージを受けるのだろうか。
玲が被害を受けないか心配だ。
「……………」
「おいマジで体調悪そうじゃねえか。褐色肌なのに顔が白いぞ」
「………大丈夫…」
「説得力がまるでないよ呂布ちゃん…」
同感だ。今の彼女はまるで余裕がない。
しかしなぜこうまで頑なに休むのを拒否するのか…
「(善、善!)」
玲が私の服の袖を引っ張りながら小声で話しかけてくる。
「なんだ、玲」
「(あのね、呂布ちゃんが休憩しようとしないのって多分、ナツルくんに置いてかれるかもって思ってるんじゃないのかな)」
「?そうなのか?」
どこかに腰を下ろす。
その間に別行動を取る。
瀬能がそんなことを提案するとは考え辛いが…
「考えすぎじゃないか?」
「(今の呂布ちゃんは心まで元気ないから、普段なら絶対ない!って言うことももしかしたらって不安になっちゃうんだよ、きっと)」
そういうものか。
しかし、玲の説明を聞く限りでは私たちが何を言っても聞かないのではないだろうか。
現に瀬能の説得が成功した様子はない。
「前から呂布ちゃん繊細だとは思っていたけど、ここまでとは思わんかった。吉井や直江とは違うな…もう保健室行くぞ」
「…!(ブンブンブン)平気…!」
「首横に振った反動でふらついてるじゃねーか。無理すんな」
体勢を崩して倒れそうになる呂布を慌てて瀬能が支える。
誰の目から見ても限界が近いのは明らかだ。
「(気持ちはわたしも分かるから止められないけど、少しでも別の想いに意識を向けられたら気分転換になるんじゃないかなって、思うの)」
「…?どうするのだ?」
「(ちょっと見てて…)ナツルくん!次はあそこ行ってみよう!」
小声で話すのをやめて、ある教室を指差しながら瀬能たちに向き直る。
玲の指の先にある店の名前は『ごーこんきっさ』
……どういう店なんだ?
「玲ちゃん今取り込み中――玲ちゃんあそこはやめよう」
玲が指差した方向を見ると一瞬だけ固まった。
すぐに動き出したが、なぜか先ほどまでと違い警戒心をむき出しに焦った表情をしている。
「早くここから離れよう。早く、早くっ」
「どうした瀬能、そんなに慌てて」
「バカお前知らんのか!?あそこにいる人間を!」
あそこにいる人間?
改めて店に目を向けてみる。
「ご…合コンやってまーす……」
黒く長い髪をした、赤色のカチューシャとカーディガンを身につけた女子生徒。
『……………』
『……………』
『…川神水おかわり』
そして教室内に用意された複数の卓のひとつに無言で居座っているスーツ姿の女が三人。
いずれもテーブルの上にいくつもの一升瓶が空の状態で転がっている。
ガバガバと飲んでいるようだが大丈夫なのか?
「あの3人がどうかしたのか?」
3人の内1人は知っているが…1年生の歴史教科を担当している、小島梅子という教員だ。
他の2人は知らない。全校集会などで見たことはあるが……その時とは全く違い黒いオーラを放っているな。
「三人っつーか正確にはあの内の一人なんだが…本当に知らないのか?婚期を逃して単位を盾に生徒に交際を迫る船越女史のこと」
恐ろしいことを聞いた気がする。
初耳だと返せば、「下級生の間には広まってないんだな…」と呟いた。
なぜそのような問題のある人間が教師を続けていられるのだろうか。
「ちなみにあとの1人は誰だ?あの席で真ん中に座っている…」
「あいつは昨日見たな。確か三年担当の柏木とか言ったか…」
詳しく聞けば例の船越女史ほどではないが、年齢を気にしていて絡まれると面倒なのだとか。
小島先生はなぜそんな2人と一緒の卓についているんだろうか…
「制服着た奴が少ないわけだぜ…俺らも逃げるぞ」
「えー、行ってみようよ合コンー、広大な宇宙の中でたったひとりの相手を探し求め煮てさ焼いてさ食ってさの狩人の集い場所なんだよ!?」
「あの面子見てると否定し辛いなそれ…」
そうなのか。
しかしなぜ玲はそんなことを知っているのだ?
「だいたい玲ちゃん、行く必要ないじゃん。すでに見つけてるだろたったひとりの相手」
「え!?なななななっナツルくんなに言ってるのっ!?」
「しかも逃げないように首輪までつけて…すでにハンティング終わってんじゃん。次は鎖か?」
「私のことか?」
どういう意味なのだ?
「ちなみに俺はフリーだ」
『『『!!(ギンッッ)』』』
射抜かれそうなほどの鋭い視線を感じた――と思った瞬間、横へ凄い勢いで引っ張られる。
そして無理やり物陰に屈まされ――いや、物じゃない。いつの間にか巨大な黒い布をマントのように羽織らされている呂布だった。
さらにその呂布の陰に先に隠れている瀬能。先ほど私を引っ張ったのも彼のようだ。
『……気のせいかしら…今若い男の子がフリーって聞こえたのだけれど…』
『空耳だったんじゃないですかぁ、外はざわついてるみたいですしぃ(…ったく、なんで私こんなところで行き遅れの相手してるのかしら。この二人のせいで向こうから来れないじゃないの)』
『………川神水、おかわり』
「とっとと移動しようか。アレに絡まれるのだけはごめんだ」
「………そうだな…」
玲には悪いが早くここから離れよう。身の危険を感じる。
無事にこの学校を卒業できるか不安になってきた。
バカテスから船越女史。
P4から柏木紀子。
マジ恋から小島梅子。
学園1嫌な集い、三世界妙齢合コン。この面子と飲み会とか絶対行きたくねえ。
もしも玲ちゃんが指差した店がお化け屋敷じゃなかったら。善くんは今でもマントを羽織っていなかったかもしれない。(どうでもいい)