ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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※この番外編では、ナデシコ以外の他作品ネタが大量に出てくるので注意してください。


外伝 大惨事スーパーロボット大戦TRY
愛娘と四天王と魔改造野郎Aチーム


 

 決勝戦の直後、PPSE社のマシタ会長が失踪した第七回ガンプラバトル世界選手権が終了してから、七年の歳月が流れた。

 会長を失なったPPSEは日本企業のヤジマ商事に吸収され、ガンプラバトルは尚も世界中で続いている。

 一部ではマシタ会長はヤジマ商事によって暗殺されたなどという根も葉もない黒い噂が流れているが、全く持って事実無根、そんなことはないのだということを俺は知っている。

 俺、アワクネ・オチカはマシタ会長が失踪した現場に居合わせていたのだ。いやあ、あの時はびっくりした。ガンプラだけでなく、人間まで瞬間移動しちゃうんだからプラフスキー粒子ってもう何でもありだね。

 

 ……あの時は、色々あったなぁ。決勝戦ではメイジンがマシタ会長に洗脳されてダークメイジンになったり、かと思えば「身体と心は支配されても、ガンプラへの思いだけは忘れんぞォ!」と某野菜人の王子みたいに自力で洗脳を解除しちゃったりとか、色々と大変な決勝戦だった。

 そして気を取り直してぶつかり合ったメイジンとレイジ君達の試合、あれは決勝戦の名に相応しい最高の試合だった。

 アメイジングエクシアダークマター対スタービルドストライク。トランザムシステム対RGシステム。一進一退の高速戦闘はラズリちゃんの目を持ってしても「動きが読めない」と言わせるほどで、あの時の俺ではとてもではないが二人の戦いにはついていけないと思ったものだ。

 

 しかし、最後の勝利者となったファイターは、実は俺も知らない。

 決着付かず――公式の舞台では、第七回ガンプラバトル世界選手権の記録はそうなっている。二人の勝敗が決まる前に、彼らの最高の舞台に水を差すアクシデントが起こったのだ。

 バトルシステムの暴走――まあ、そのことは機会があればまた追々話そうか。ただマシタ会長が失踪するきっかけにもなったその事件は、俺には想像も出来ないカオスな有様だったとだけ言っておこう。チョマー、ジュリアン、あの時はありがとう。マジで助かった。

 

 

 ……さて、俺が七年経った今になってなんでそんな昔の話をしているのかというとだが。

 それは現在、俺()は第七回ガンプラバトル世界選手権当時のビデオを視聴しているからだ。

 当時を懐かしみながらテレビ画面を眺めている俺の膝の上には、それはそれは可愛らしい銀髪美幼女の姿がある。

 国宝をも超越した可愛らしさのその子は、愛しい愛しい妻のラズリちゃん――ではない。

 そう、俺の娘だ。びっくりするほどラズリちゃん似の、俺の自慢の娘である。

 察しの通り、この子こそあの時ラズリちゃんのお腹の中に居た子供だ。目つきの悪い俺に似なくて良かったと、この子のラズリちゃん譲りの金色の目を見る度につくづく思うよ。

 名前は、ユリ。アワクネ・ユリだ。ラズリちゃんと二人で考えたこの名前の由来は色々とあるのだが、その辺りのことはまあ適当に想像してくれるとありがたい。

 子育てはやっぱり俺が想像していたよりも遥かに大変だったが、この子があの時に産まれてきてくれて本当に良かったといつも思う。それはきっと、仮に産まれてきた子供が愛らしさの欠片も無い俺似の目つきの悪い男だったとしても変わらないのだろう。自分の子供というものはそれだけ親にとって特別なものなのだということを、俺はしみじみと実感していた。

 

「お父さん、どうしてこの試合には続きがないんですか?」

「ああ、実はこの試合中にしょうもない事故が起きてね。その後も色々とゴタゴタがあったもんだから、二人は決着をつけられなかったんだ」

「そうなんですか……勿体ないですね」

「それはユリちゃんにとって、勝敗が読めない試合だからかい?」

「はい。どっちが勝つのかわからない試合なんて、この大会ではこの試合と準決勝戦だけでしたから」

「そうか」

 

 銀色のさらさらした髪を撫でながら、俺は娘との会話を楽しむ。

 最近は仕事が忙しくて構ってあげられる時間が少なかった分、今日のような休日では思う存分家族サービスをしなくちゃなと思う。

 KTBK社の正社員として働き始めてから早七年、俺はどうしてこうなったのやら無駄に偉い立場になってしまったもんだから、平日は忙しくて仕方が無い。ニート時代がもはや懐かしいとすら思う。

 まあそのおかげで立派なマイホームを建てることが出来たわけだし、ホシノさん家からもラズリちゃんの夫となることを(ボコボコに殴られながらも)許されたのだ。こんな俺を雇ってくれたナガレ会長殿には感謝しているし、なんだかんだで楽しい職場を提供してくれる仕事仲間達にも同じぐらい感謝している。

 

 ……ああ、俺の話はどうでもいい?

 娘のことを詳しく話せって?

 その意気や良し! ならば我が愛娘の自慢話を親馬鹿濃度全開で話してくれるわぁっ!

 

「オチカ、ユリ、ルルヤマさんが迎えに来たよ」

 

 ――と、そうしたいところだけどそろそろ時間のようだ。

 実は俺達、今から一家で静岡まで旅行に行くんだよね。娘についての話はその先ででもするとしようか。

 

「行こうか、ユリちゃん」

「はい」

 

 俺にとっては昨年の選手権以来の静岡だが、今回のように仕事の絡まないプライベートな時間で行くのは実に久々だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひっとりあるきの」

「まーいれぼりゅーしょーん」

 

 空港に向かう乗用車の中、助手席に座る俺は後部座席から聴こえてくる母娘の「Dearest」にバイザーの下で目を細めた。

 いやあ、二人とも歌が上手くて素晴らしいですわ。いつか家族でカラオケに行くのも良いかもしれないなぁと、そんなことを考えながら俺はラズリちゃんとユリちゃんの歌声を心地よく聴いていた。

 

「はは、娘さん、ラズリさんと並ぶとまるで姉妹みたいですね」

「……母と子だぞ?」

「知っていますよ。しかし見る度に、貴方の奥さんのお若さには驚かされる」

「……そうか」

 

 運転席に座っているひょろ長い兄ちゃんの言葉に、俺は全面的に同意する。

 今のラズリちゃんの年齢は二十五歳と十分に立派な成人なのだが、彼女の姿はまるで呪いを受けたようにあの頃のままだ。いや、ロリ化維持の呪いとか大歓迎なんですけどね。

 

「ルルヤマ、運転ありがとう」

「ありがとーございます」

「なに、オチカさんには日頃から職場でお世話になっていますからね」

「KTBK四天王のミスター・ゼロが、同僚の家族サービスに付き合ってくれるとはな」

「意外ですか?」

「……まあ、仕事中のお前を見ていればな」

 

 さて、皆さんお気付きかと思いますが、この中に一人、俺達の家族ではない人間が居ます。

 乗用車の運転席でハンドルを握っている美青年の名前は、ルルヤマ・ラン。職場では訳あってミスター・ゼロと名乗っている彼は俺の仕事仲間であり、ガンプラバトルでは良きライバルの一人でもある。

 仕事中では中々にはっちゃけた男だが、それ以外の時間では少々妹好きが行き過ぎているだけの至って爽やかな好青年である。

 彼は俺とは違って仕事として静岡に行くらしく、行き先も丁度同じということで途中までは同行することになっている。今彼の車に乗せてもらっているのもその為だ。

 俺の仕事仲間ということで、彼もまたKTBK社の一員だ。そしてKTBK社の誇る最強のガンプラファイター集団、KTBK四天王の一人でもある。因みに俺もそのKTBK四天王の一人として数えられていたりする。

 え? KTBK四天王とは何かって? んなもん俺は知らんよ。KTBK社の看板ファイターとして仕事をしている内に、気付いたら周りからそう呼ばれていたんだ。まあ四天王っていう響き自体は普通に格好良いし、最強の集団とか呼ばれてぶっちゃけときめいちゃってる俺は全然構わないんだけどね。四天王最弱ポジは多分俺だろうけど。

 ……と、そんなくだらないことを考えていたら運転席のルルヤマ君からお呼びが掛かった。

 

「空港までしばらくありますし、少しお話しませんかね」

「ユリちゃんに話しかけられるまでは良いだろう」

「それはどうも」

 

 車の運転手というものは孤独な立場である。それも、家族旅行に同行する身とあっては肩身も狭かろう。まあ進んで運転手を買って出たのは彼の方だし、コミュニケーション強者である彼はその状況を特に気にしてもいなさそうだけどね。

 まあ、俺も後ろでラズリちゃんとユリちゃんがわいわいやっている中に入れない寂しさを紛らわす為に、しばらくは彼との雑談に付き合うことにした。

 

「今日皆さんが見学しに行くニールセン・ラボですけど、どうやら全国大会に出場する学生の子達が合宿に使っているようですね」

「そう言えば、もうそんな時期か」

 

 ああ、結構面白い話題を持ってきたね。今回の静岡旅行で最初に行くことになっているのはニールセン・ラボ。第七回ガンプラバトル選手権にも出場していたあのニルス・ニールセン……いや、今はヤジマ・ニルス君だった。彼が支配人をやっているガンプラ専門の研究施設で、所内では未だに謎の多いプラフスキー粒子の研究活動を行っており、観光地としてはガンプラ博物館的なものも開かれているガンプラファンとしては堪らない施設の一つだ。

 で、そのニールセン・ラボには業界で最高峰のバトル環境が整っていたりして、全国、はては世界中から強豪たるガンプラバトルファイター達が修行に訪れたりしている。

 そして夏休みにもなると、日本国内で開催される中高生によるガンプラバトル全国大会の出場チームなども合宿に扱うことが多い。……何というか、ここまでガンプラバトルがメジャーな競技になってくれるとはおじさんは嬉しいよ。

 

「それで、今年はどこの学校が来ているんだ?」

「有名どころで言いますと、昨年の優勝校の私立ガンプラ学園や、鹿児島代表の我梅学園。他に目ぼしいところと言えばあのイオリ・セイの母校、西東京代表の私立聖鳳学園が来ますね。聖鳳学園、トライファイターズの試合は俺も一度見に行ったことがありますが、中々面白いチームでしたよ」

 

 ルルヤマ君の語る合宿参加校の中には俺が予想していた学校もあれば、予想していなかった意外な学校の名前もあった。しかし鹿児島代表の子達には同じ九州民として頑張ってもらいたいものだと、上から目線で言ってみる。

 

「お前はどこに注目している?」

 

 ルルヤマ君の出身は、確か神奈川県だったっけ。

 彼も地元の高校を応援しているのかなと、この七年間で向上した俺のコミュニケーション能力を持って聞いてみる。

 すると、その点では思った通りではあったが別の意味で興味の沸く言葉を返してきた。

 

「俺が個人的に気に入っているのは神奈川県代表の本牧学園ですね。あそこは俺の母校でもありますし……何より、面白いガンプラを扱う子が居てね。ああそうそう、この学校もニールセン・ラボに来ているそうです」

「本枚か……あそこはカリマ・ケイのワンマンチームだと思ったが」

「良い新人が二人入ったんですよ。ガンダムMark-Sein(ザイン)を駆るアスカ・シンと、キュベレイMark-Nicht(ニヒト)を駆るミナキ・ソウシ……貴方も彼らを見れば、きっと気に入ると思います」

「……ああ、機体名でわかるぞ。俺達の同類だな、そいつらは」

 

 何その機体名すっげぇ気になるんですけど!? っと俺はバイザーの下で目を見開く。

 ガンプラバトルの大会では大人や子供という区分に限らず、毎年かつての俺みたいな奴が冗談みたいなガンプラを駆って現れたりする。メイジン・カワグチはそんな彼らに「ガンプラは自由だ!」と変態機体の出場を認めてそう言っているが、俺も大体は同じ意見だ。

 勝ち負けが全てではない。ただ自分の好きな機体を使って、好きな戦い方で挑む。単純だが、遊びであるが故にそれがガンプラバトルの一番の醍醐味だと思うのだ。その考え方は、俺の中で昔から変わっていなかった。

 ……にしても、ガンダムMark-Sein(ザイン)とキュベレイMark-Nichit(ニヒト)か。カリマ・ケイ君のモビルアーマー次第では、絵面的に凄いことになりそうだな。

 

「気が向いたら見に行ってやってください。二人とも貴方に憧れているみたいなので、顔を出すと喜ぶと思いますよ」

「……一応、四天王とか大層な名で呼ばれているんだ。一部の人間ばかり特別扱いは出来ないぞ」

「そこはまあ、さじ加減ということで」

 

 一応はプロということもあるので、立場上は一部の人間にばかり拘ってはいけないのが難しいところだ。

 しかし学生のバトルというものも見ていて非常に面白いので、時間があれば家族みんなで一緒に見に行こうかなと思う。

 

 ただ、何よりも忘れてはならないのは――

 

「お父さん、酔いました……」

「ルルヤマ、何をやっている! パーキング・エリアだ!」

「了解した! このミスター・ゼロが車に命じる! 停まれ!」

 

 ――娘のユリちゃんの希望に、どこまでも従うことだ。

 

 アワクネ・オチカ、親馬鹿です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラバトルとは、時が経てば主流が変わってくるものだ。

 フィンランドのカイザーさんが無双していた頃は火力重視の機体が覇権を握り、俺が初めて世界大会に出場した頃のガンプラバトルでは、よりプラフスキー粒子を上手く応用出来るかという自由な発想が勝敗をわかっていた。

 そして近年では高機動からの格闘戦がガンプラバトルにおける主流となっている。そのパイオニアとなったのは、やはりメイジン・カワグチのアメイジングエクシアとレイジ君のスタービルドストライクだろうか。

 格闘機体の威力はレイジ君の(正確にはレイジ君とイオリ・セイ君のだが)スタービルドストライクのビルドナックルが世界大会の舞台において絶大な威力を発揮し、数々の強豪を殴っては貫いていたことから実証されており、メイジンのアメイジングエクシアは言わずもがな。トランザムシステムからの超高機動は、並のガンプラでは何をされたのかもわからず真っ二つにされてしまう凶悪なものだ。

 そんな彼らをリスペクトしてか、近年の――特に学生の大会などではGNドライヴを積んだガンプラや殴り合い主体のモビルファイターのようなガンプラが流行っているようだ。まあGNドライヴに関しては丁度ガンダムOOがリアルタイム世代直撃だからというのもあるのだろうと思っている。

 中高生最強のチームと言われている私立ガンプラ学園もまた、彼らの使うガンプラには今年もGNドライヴが動力として積まれていた。

 うーん、キジマ・ウィルフリット君のトランジェントガンダムアルストロメリアは相変わらずナイスなガンプラだ。流石はあのジュリアンが育てたファイターだけのことはある――と、俺はまたまた上から目線で彼らの訓練風景を遠目に眺めていた。

 

 

 話は少し遡る。

 道中で俺の愛娘が車酔いに遭うという悲劇的なアクシデントが発生したものの、ユリちゃんはパーキング・エリアで休憩すると程なくして回復し、何だか俺の目が怖かったから本気を出したらしく以後覚醒したルルヤマ君による揺れを微塵も起こさない変態的な運転テクニックによって快適に空港まで到着。そのまま飛行機による移動で無事に静岡へと着陸した。

 

 ――それから電車で数分後、俺達は最初の目的地であるニールセン・ラボへと到着した。

 

「お久しぶりです、ミスター・ゼロ。そしてアワクネ・オチカさん。しかしアワクネさんまでいらっしゃるとは意外でした」

「俺は仕事で来たわけではない」

「そう。私は仕事だが、彼はプライベートでの来訪だ」

「そ、そうですか、これは失礼」

 

 ラボに入るなり俺達は施設の責任者であるヤジマ・ニルス君直々に歓迎され、挨拶を交わした。その際、ルルヤマ君は皇帝のようなマントに身を包み、頭にはフルフェイスの仮面を被っていた。声のトーンまで変えて微妙に尊大な態度を取っているが、これは決して彼がツッコミ待ちだとか、ふざけているわけではない。仕事中の俺がテンカワ特製黒衣を纏っているように、彼のこの格好もまた仕事着なのである。全てはナガレ会長のふざけたもとい粋な計らいである。

 

「ユリ、こんにちはは?」

「こんにちはー」

「こんにちは。皆さんは家族旅行ですか?」

「ああ、敵情視察ではないから安心してくれ」

「はは、ここは観光地としても力を入れていますからね。お楽しみ頂けると思いますよ」

 

 そんなルルヤマ君もといミスター・ゼロの方をなるべく見ないようにと言った様子でこちらに顔を向けたニルス君が、ラズリちゃんとユリちゃんのやり取りを見て微笑ましげに頬を緩める。わかる、わかるぞその気持ち! 見た目姉妹にしか見えない幼女二人が母と子のやり取りをする画は微笑ましかろう! 可愛かろう! フハハ!

 ……しかしニルス君もご婦人と結婚して幾らか経つが、まだ子供は作っていないのだろうか。そんなことを聞くと、それも良いかもしれませんねと至って普通に返された。うむ、子供はいいものだぞ。

 

「ではミスター・プリンス、私はこれでしばし失礼する。良い旅を」

「勝手にそう呼ぶな」

「ルルヤマさん、ありがとーございました」

「私の名はミスター・ゼロだ! ふははは、さらばだ盟友!」

 

 俺達の和やかな会話を吹き飛ばしながら、ルルヤマ君が颯爽とその場から離れていく。

 それも職業上必要な役作りなのだろうが、あの格好になると性格まで変わるのは気のせいではないだろう。俺は慣れているから良いにしろ、ニルス君やタイミング悪く入口から入ってきた合宿生と思わしき少年達はみんなドン引きしていたぞ。

 ってあれ? そこの赤毛の君、何目をキラキラさせてるの? もしかしてアレを格好良いって思ったりとか……ま、まあ、中学生ぐらいの年齢みたいだしそれも仕方無いか。こういうことを俺が言うと「お前が言うな」って言われそうだけどね。

 って言うか、あの子達を引率しているのラル大尉じゃないか! これは久しぶりだ。

 

「おお、オチカ君とラズリ君。久しぶりだな」

「あっ、ラルさん」

「ご無沙汰している」

「久しぶり、ラルさん」

 

 貫禄のある佇まい、出っ張った腹。その正体は三次元化したランバ・ラル大尉と専らの噂の彼こそが、ガンプラバトル界における大御所の一人、ラル大尉である。

 大尉はこちらに気がつくとフランクに挨拶を交わし、そして俺の足元に立つめちゃ可愛い娘の方へと興味深げに視線を向けた。

 

「しかしそちらの子は、小学生の部の優勝者のユリ君では……そうか! その子は君達の子だったのか! 通りで素晴らしいファイターだと思った」

「えっへん」

 

 どうやらラル大尉はユリちゃんのことを知っている――と言うか、ユリちゃんの方も大尉の名前を呼んでたし、お互いに面識があるようだ。俺は知らなかったが、ラズリちゃんは知っていたのだろう。特に驚いた様子は無かった。

 

「会ったことがあるのか?」

「ユリ、ラルさんと会ったことあるよね?」

「はい。春の大会の時、私の試合を見に来てくれました」

「……流石は大尉だ。小学生の部までチェック済みとは」

「なに、次代を担うファイター達の戦いだ。老骨として調べておかねばな」

 

 ガンプラバトルの大会にも色々と区分がある。

 一番有名なのは世界中のガンプラファイターが集まる全年齢層による世界選手権だが、この日本国内では小学生の部、中高生の部とわかれて行う学生用の大会がある。それは、ガンプラバトルが昔よりも遥かにメジャーな競技になったことによる変化の一つだ。

 そして俺とラズリちゃんの愛の結晶ことユリちゃんは、小学二年生でありながらもその小学生の部で全国優勝を果たしている。いやあ、我ながら自慢の娘だ。

 

「大尉は中高生の視察か?」

「うむ、それもあるが今回はこの子達、トライファイターズの合宿をな」

「トライファイターズ……聖鳳学園か。なるほど」

 

 どうやらラル大尉は今、あのイオリ・セイの母校である聖鳳学園ガンプラバトル部の顧問をしているらしい。

 フラフラと色々な場所に移動することの多い彼がそうやって一つの場所に拘るというのは珍しい、と言うか、俺の知る限りこれが初めてだ。

 ルルヤマ君も気にしていたが、聖鳳学園のトライファイターズとやらはよほど高いポテンシャルを秘めているようだ。

 そのメンバーの一員と思わしき赤毛の男の子の目を見ると、俺も何となくわかるような気がした。

 

「……似ているな」

「えっ?」

 

 そう、似ているのだ。

 赤い髪と言い、澄んだ目と言い。

 第七回ガンプラバトル世界選手権でメイジンと互角に渡り合った少年、レイジ君と。

 それはもう、血縁関係を疑うほどに。

 

「あの子の弟か」

「いや、違うぞ」

「そうか」

 

 人は見た目だけではないとは言うが、最初に物事を判断するのは見た目から入るのがほとんどだ。

 俺はそれほどレイジ君と話したことはないが、あの少年と姿が似ている赤毛の彼には何となく興味を抱いた。戦い方も似ていたりするのかなと、そのぐらいの興味だ。

 まあ、今日は家族サービスの為に来た以上、彼ら学生達と関わる気はさらさら無かったが。

 

「あ、あの、アワクネ・オチカさんですよね!?」

「うおっ、ユウマ、どうしたんだ?」

「ユウ君、あの人のファンなのよ……」

 

 あっ、でもトライファイターズの眼鏡の少年にサインを求められた時は全力で受けてあげた。彼、俺のファンなんだって。バトルではスーパーエステバリスを使っているんだと聞いて、おじさん感動したよ。

 

 ……俺の今までの戦いは、ちゃんと子供達の心に届いていたんだってさ。

 

 

 


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