ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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※ガンダムSEEDDESTINYの後半が大好きという方には不快な思いをさせるかもしれません。


ナデシコと種デスと製作秘話

 

 第二ピリオド、バトルロワイヤル。

 その地上エリアに、突如として1/48メガサイズモデルのザクⅡが上陸した。

 1/144スケールのガンプラが主流のガンプラバトル会場において、その存在はまさに怪獣のようだった。

 一歩歩けば大地が揺れ、マシンガンの直撃を受けたガンプラは塵すら残らないだろう。

 そしてその巨体から来る分厚い装甲の前には、ビームライフル程度の火力などものともしない。文字通り、「規格外」な存在だった。

 

 世界大会出場者達の戦いに横から割り込んできた無粋な乱入者へと、レイジ、イオリ・セイのスタービルドストライクガンダム、リカルド・フェリーニのウィングガンダムフェニーチェ、ヤサカ・マオのガンダムX魔王が結託して戦いを挑んだ。

 彼らの中で燃え猛るガンプラファイターとしての誇りが、悪戯に戦場を混乱させるこの怪物の存在を許せなかったのだ。既に彼らの頭には、逃走の二文字は無かった。

 

 しかし、スタービルドストライクが執拗に巨大ザクの弾幕に曝され、窮地に陥る。

 

 巨大クラッカーの爆発に巻き込まれ、墜落。一時的に機体のコントロールを失ってしまったのだ。

 懸命に態勢を立て直し、再び飛び上がろうとするスタービルドストライクだが、巨大ザクは無情にも二つ目のクラッカーを投擲する。

 スタービルドストライクの機体サイズほどもあるそのクラッカーは、直撃を受ければひとたまりもないだろう。

 完全に直撃コースに入ってきた巨大クラッカーを前に、未だ飛び立てないスタービルドストライクのファイター、レイジとセイは背中から冷たい汗を流した。

 

 ――その時である。

 

 スタービルドストライクと巨大クラッカーの間。

 何も居なかった筈の空間が突如ボワリと揺らぎ、闇色の影が現れた。

 そしてそれはまるで幽霊のように不気味な存在感を漂わせながら、スタービルドストライクを庇うように巨大クラッカーへと立ち向かい、背部から伸びる長い尻尾でクラッカーを掴むと、巨大ザクへ向かって()()()()()のである。

 直後、スタービルドストライクを襲う筈だった巨大クラッカーの爆発は、最初に投げた張本人である巨大ザクの装甲を襲った。それもガンプラの装甲の構造上、最も弱い部分である関節部で爆発し、巨大クラッカーの衝撃はザクの左膝を見事に粉砕してみせたのである。

 左膝を破壊されたことでそこから下の左足が本体から切り離された巨大ザクは、残った右足だけでその重すぎる重量を支えきれる筈も無く、大きく地を揺らしながら仰向けに転倒した。

 

 闇色の影が行ったことは単純である。

 言ってみれば相手の投げたクラッカーを尻尾で掴み、投げ返しただけ。ただ、それまでの動作があまりにも速かったのだ。

 どこからともなく出現し、ほんの一瞬でこれほどの芸当を披露してみせたそのガンプラとファイターの存在に、現場で戦っていたファイター達はもちろん、会場内の観戦客達の目も釘付けになる。

 

「なんだ……?」

「あのガンプラ、確か九州代表のアワクネ・オチカさんの……ブラックサレナNT-1?」

 

 レイジが驚きに目を見開き、セイが出場選手として登録されていたそのファイターの名とガンプラの名を読み上げる。

 鳥か、戦闘機のような姿をしたそのガンプラはその間も仰向けに倒れ伏した巨大ザクの真上を弧を描くように飛行しながら、前面と側部を覆っていた紫色の装甲をおもむろにパージした。

 

 その行動は、セイの目からはRGZ-91リ・ガズィのような飛行ユニットの脱着に見えた。

 しかし直後、その認識は誤りだったと気付かされる。

 アレはただ、装甲を外しただけではない。

 装甲という名の爆弾を投下したのだ。

 

「なっ……!?」

 

 闇色のガンプラがパージした紫色の装甲が重力に従って落下し、真下に倒れていた巨大ザクの頭部に当たった瞬間、凄まじい爆発が巻き起こった。

 闇色のガンプラがパージした装甲は、機動力を向上させるユニットであると同時に強力な爆弾にもなっていたのだ。

 

「何をしている、早くとどめを撃て」

「っ、言われなくても!」

 

 爆炎が巨大ザクの頭部を覆い、その隙に態勢を立て直したスタービルドストライクが上空へと舞い戻る。

 片足と頭を失った今、敵はもはや虫の息だ。しかしそれでもまだ原型は残っており、巨大ザクはもがきながらも立ち上がろうとしていた。

 闇色のガンプラを操るファイターの男から寄せられた通信に答えると、レイジはスタービルドストライクの「ディスチャージシステム」を発動。ディスチャージライフルモードの圧倒的な火力によって、今度こそ巨大ザクを葬った。

 

 そして怪物の最期を見届けるなり、闇色のガンプラはこの場にもう用は無いとばかりに、何も言わずにこの空域を去っていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3! 2! 1! 0! ロワイヤル終了~! よっしゃ、無事生き残ってやったぞ!

 いやあ、メガサイズザクは強敵でしたねぇ。……って言うか、デカすぎねアレ? 1/48スケールどころじゃなかった気がするんだけど気のせいだろうか。

 

 ……しかし、何だ。ラズリちゃんから地球エリアに巨大なザクが現れたと聞いて、少し野次馬気分で様子を見に行こうとしたんだが、色々と失敗してしまった。

 このブラックサレナNT-1の持つトンデモ機能、「ボソンジャンプ」を使ったところまでは良い。

 ただ、その転移先が丁度攻撃中のザクの真ん前になってしまったのは、完全に予想外だった。危ねぇよ本当っ! 心臓に悪いったらない。生きた心地がしなかったわ……。

 あいつのクラッカーという名の殺戮兵器はテールバインダーを使って無我夢中で投げ返したけど、なんとか爆発する前に間に合って助かった。

 でも、ボソンジャンプの練習はもっとしておかないと駄目だな。思っていたところと全然違うところに転移してたんじゃ、これから先実戦じゃあとても使えない。

 ただ、そのミスは結果的にレイジ君って言ったかな、日本代表の一人であるあの子のガンプラを助けることに繋がった。彼視点だと多分、自分のピンチに突然異形のガンプラが現れ、颯爽とザクを破壊するっていうどんなヒーローだよって展開に見えたんじゃなかろうか。……言っておくけど全部偶然です。偶然彼とクラッカーの間に割り込むように転移しちゃって、クラッカーは偶然ザクの関節部に投げ返すことが出来ただけで狙っていたわけじゃないんです。パージアタックで時間を稼いだのだけは俺の技だけどね。にしても凄かったなぁ、レイジ君のガンプラの火力。ビルダーはパートナーのイオリ・セイ君だっけ? イオリ……ああ、そりゃあ強いわけだ。

 戦いが終わった後は、あの場には他にもイタリア代表のフェリーニさんや関西代表のヤサカ君が居たので、消耗したくなかった俺は彼らとの交戦を避ける為にさっさとドロンした。

 

 そして今、ようやくロワイヤルが終了したというわけだ。

 

 いやあ、疲れたけど楽しい戦いだった。

 でもまだまだ、ブラックサレナの性能に助けられた感が強い。

 もっともっとこのガンプラに、そしてラズリちゃんという最高のパートナーに相応しいファイターにならなきゃな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、第二ピリオドが終わったし、約束通り俺が「機動戦艦ナデシコ」にハマった理由を話そうか。多分これが、最後の過去話になる。

 

 ――始めは、詐欺にあった気分だった。

 

 お前SFって言ってたのにラブコメじゃないかコレ!って、でもなんだかんだで勢いに飲まれた感じで、気が付けば作品に夢中になっている自分が居た。

 理由は色々ある。例えばサブヒロインの子がラズリちゃんに凄く似ていたり、サブヒロインの子が凄く可愛かったり、寧ろナデシコという作品よりもサブヒロインの子が好きだった感じだ。あっ、もちろんメインヒロインの人も嫌いじゃないよ? ただ、俺という人間がロリータコンプレックスだっただけだ。

 でもアニメの評論家じゃないけど、シナリオには結構な数の突っ込みどころがあったと思う。それはまあ、俺が普段ガンダムシリーズしかSF物を見ていない狭い視野だったからなんだろうけど、そのことを言ったらナガレの奴にドヤ顔で「君はもっと色々なアニメを見ておくべきだったね」ってナデシコに登場するナガレさん風に言われた。見た目も声も妙に似ているもんだからイラッと来たよ。

 ただ、不満な点を全てひっくるめても良い作品だったと、最終回を見終わった後で堂々と言い張れるほどには十分にハマっていた。最初はラブコメじゃないかと思った内容も、世界観とか戦艦とかメカの戦闘はちゃんとSFしてたし、ゲキ・ガンガー3という劇中劇を絡めた木連との戦いは見所満載で気にならなくなった。何と言ってもルリルリを筆頭にキャラが良かった。メインの女キャラ達だけでなくウリバタケさんら男キャラ達も濃い性格をしていて、主人公のテンカワ・アキトも熱くて良いキャラだった。

 特に最終回を見終わった時、俺はアキトの台詞に痛く共感したよ。

 

「アニメ本編全26話を見終わったみたいだねぇ。感想はいかがだったかな?」

「良いアニメだった。……俺が最初にガンダムのアニメを見た時のことを思い出したよ」

「へぇ、詳しく聞いても?」

「俺が初めて見たガンダムは、【機動戦士ガンダムSEEDDESTINY】だった」

 

 ナデシコのテレビ版本編を見終わった時に感じた気持ちを、俺はナデシコの視聴を奨めてくれたナガレに伝えたかった。

 そこで出したのが、俺が初めて視聴したガンダム作品のことだ。

 

「ふうん、因みに僕はガンダムはZまでしか見ていないんだ。だからその作品の方は見たことないんだけど……ナデシコと似ていたりするのかい?」

「いや、全く似ていない」

 

 決してその二作品、機動戦艦ナデシコと機動戦士ガンダムSEEDDESTINYの内容が似ていたわけではない。

 似ていると感じたのは、当時子供だった頃の俺とナデシコの主人公、テンカワ・アキトの気持ちだ。

 「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」を見終わった時の俺と、ナデシコ劇中劇「ゲキ・ガンガー3」を見終わった時のアキトの気持ちが、どこか通ずる部分があると感じたのだ。

 

「SEEDDESTINYという作品は、ガンダムファンの中でも特に賛否両論がわかれている作品だ。ネタバレになるが、作中の終盤から最終回に掛けてのシナリオはそれはもう酷いもんだったよ。戦闘シーンはバンクだらけで、隙を見ればしつこいほど同じ回想シーンを挟み、大事な話をするかと思えば総集編が始まる。登場人物達は子供ながらにおかしいと思うぐらい唐突に意味のわからない行動をし始めるし、主人公に至っては終盤から完全に悪役扱いされ、挙句の果てには前作「ガンダムSEED」の主人公に主人公の座を奪われ、最終回では相手の機体に傷一つつけることが出来ず、まともな台詞の一つも言えないまま敗北する。……良くも悪くも、普通じゃないアニメだった」

「らしくなく饒舌だね。そんなにそのアニメが嫌いなのかい?」

「いや、嫌いなわけじゃない。寧ろガンダムSEEDDESTINYは、俺がガンダムシリーズにハマっていく切っ掛けを作ってくれた作品で、一番思い入れのあるアニメだ」

「その割には、随分と激しい批判だったけど?」

 

 この話をする相手がSEEDDESTINYを見ていないナガレで良かったと、俺は話した後になって思った。もしもナガレが熱狂的なSEEDDESTINYファンだったらと思うと、この言葉で戦争が免れなかったからだ。

 だがこれは単なる、俺という一視聴者の感想である。ただ、不快な思いをさせたら申し訳ないとは言っておこう。

 

「突っ込みどころは語り尽くせないほど多い。ここをこうすれば良かったのにと思う話だって、たくさんあった。……だが俺は、SEEDDESTINYの最終回を見終わった時、寂しさを感じた」

「好きだったアニメが終わってしまう時に感じるあの喪失感だね。ナデシコでアキトが言っていた」

「……ああ」

 

 初めて見たガンダム作品、「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」にはその内容に多くの疑問と不満を抱きながら視聴を続けていた。特に第三クール後半辺りから最終回までの内容――ロボットの格好良さばかり見ていた少年時代だったけれど、あの展開には子供ながらに違和感を感じたものだ。

 だが、それでも最後まで視聴を続けたのだ。親に頼んで、BDをレンタルしてもらって。

 不満を抱えながらも俺は作品の続きが気になって楽しみにしていたし、デスティニーガンダム等新しいMSの登場には毎度ワクワクしていた。

 だからか、最終回を見終わった時は言い知れぬ喪失感を感じたものだ。

 

「俺も、アキトと同じだった。ずっと見ていたアニメが終わってしまうことが怖くて、DESTINYの最終回を見るまではしばらく時間が掛かったよ。新しい回を視聴する時は、いつも主人公のシン・アスカやガンダム達の活躍を楽しみにしていたんだ。……色々と不満なところがあっても、それを上回るぐらい作品の魅力に引き込まれていた証拠だ。

 ……だから俺は、機動戦士ガンダムSEEDDESTINYというアニメが「やっぱり好きだ」と思った。そしてその点で、アキトのゲキ・ガンガー3に対する思いと俺のガンダムSEEDDESTNYに対する思いは、どこか似ているような気がした」

 

 まさかあの時抱いた俺の気持ちを、アニメのキャラに代弁されるとは思わなかったもんだ。

 俺の見方は少しズレているかもしれないが、テンカワ・アキトのあの台詞を聞いた瞬間からナデシコという作品も心から好きになれた気がした。

 ゲキ・ガンガー3というアニメを戦争に利用する木連よろしくガンダムというアニメをしょうもないことに利用するガンプラマフィアみたいな連中が蔓延っているこの時代、今こそナデシコのような作品を世間に広めるべきなのかもしれないと思った。

 

「あの時の気持ちを思い出すことが出来て良かった。俺はナデシコを見て、心から感動した」

「……なるほど。君とは美味い酒が飲めそうだ」

 

 あのアニメを奨めてくれたことに対してナガレに礼を言うと、ナガレもまた嬉しそうに微笑んだ。人間誰しも、自分が好きな物を褒められると嬉しいものなのだ。

 

「ナデシコにはまだ続編として劇場版があるわけだけど、こっちも見るかい? お待ちかねのブラックサレナが登場するよ」

 

 そしてその時ナガレに言われて、俺は機動戦艦ナデシコというアニメを視聴した元々の理由を思い出した。

 すっかり忘れていたが、元々俺はブラックサレナが活躍する姿が見たくてBDを借りたのだ。BDはただでくれると言われたけど、流石にそれは申し訳ないので遠慮しておいた。BDボックスは後でネットで買う予定だ。

 

「……ああ、そう言えばその為に見たんだったな」

「本来の目的を忘れるほどアニメにのめり込んでいたのかい? はは、結構じゃないか。で、どうする?」

「もちろん見るに決まっている」

「いい返事だ。でも、覚悟しておきなよ」

 

 覚悟――というナガレの言葉に、その時の俺は首を捻った。ホラー映画じゃあるまいし、ビデオ一つ見るのに覚悟が要るのかと。

 だが、「楽しみにしていたアニメが今度こそ終わってしまうことに対する覚悟」なら、確かに必要かと納得した。

 でもまあ、あのナデシコの続編だし内容自体はそう身構えるものでもないだろう。不幸続きだったアキトだってユリカと結ばれてようやく幸せになったし、二人のことはもう安心だ。劇場版の内容はあれだな、うん。きっとアキトとは違う新しい主人公が登場して、そいつがブラックサレナに乗ってルリルリ達と一緒にあれやこれやするんだろう。いつものナデシコの、明るいノリでさ。

 

 

 

 ――そんな風に思っていた時代が俺にもありました。

 

 

 

「………………」

「ははは、流石の君も、ショックを隠せないみたいだね」

「………………」

「言いたいことはわかるよ? でも僕は言ったろう、覚悟しろって」

 

 劇場版を無事視聴し終わった後、俺は文句の一つでも言ってやろうと単身ナガレの元へと押しかけた。

 もう本当に、てめえだけは許さんぞナガレェッ! ラズリちゃんなんてあれを見て、アキトはどこへ行っちゃうのってめっちゃ泣いたんだぞ!? 俺はそれに対して思わず真っ白な頭で「秩父山中」と返しちゃったじゃないか!

 

 ……テレビ版の続編である劇場版機動戦艦ナデシコは、俺の想像を遥かに上回る壮絶な内容だった。

 映像のクオリティは高くて話もよりSF的になってて面白かったし、ブラックサレナなんて予想以上に格好良すぎてますます惚れたけど、それとこれとは話が別だ。別なんだよ、ナガレェッ!!

 俺は聞いていないぞ、アキトがあんなことになるなんて! でもラピス・ラズリちゃんっていうこれまたラズリちゃんにそっくりな可愛い幼女を連れていたのはナイスだったと言わせてもらおう! 銀髪幼女は最高。

 作品に対する不満は無かったが、アキトが何一つ救われない終わり方だけは納得出来なかった。漫画のヒーローに憧れていたあのアキトが、あんな風に漫画みたいなことになるなんて皮肉にしては度が過ぎている! 良い歳してラズリちゃんと一緒に号泣しちゃったじゃないか。

 

「ナガレ、劇場版の続編はないのか?」

「無いわけじゃないよ。マイナーだけど、ドリームキャストにあの後のアフターエピソードを描いたゲームがある」

「なら……」

「でも残念ながら、あの後アキトがどうなったかまでは明かされていないんだよねぇ。おかげでネット上にはファンの書いた大量の二次創作が溢れかえっている始末さ。僕も何作か自分で書いちゃったよ。もちろん、アカツキ・ナガレ無双のIF小説をね」

「お前の話は聞いていない」

「それは残念」

 

 ああ、作品は良いんだ。ナデシコの続編を見て良かったと心から思うほど面白かったし、作風もより俺好みになっていた。だが、あれの続編が無いことだけが唯一にして最大の不満だった。

 俺も一緒に見ていたラズリちゃんも、アキトがあれで終わってしまうのはあまりにも不幸すぎると、彼は何があっても救われるべきだと思ったものだ。

 しかしそんな俺に「続きは無い」と、無情にもそう告げたナガレは無駄に豪勢なソファーから立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて俺に耳打ちしてきた。

 

「……でも、もし君がブラックサレナを使ってガンプラバトルで優勝でもすれば、またナデシコブームが始まって続編が作られるかもしれないねぇ」

「ナガレ、俺と契約しろ」

「その言葉が聞きたかった」

 

 悪魔の囁きのような提案に、俺はコンマ一秒も掛からず即答した。最初に趣味と仕事はうんたらかんたらと言っていたのが何だったのかと言わんばかりの手のひら返しぶりである。俺の手首は夜天光並にグルグル回るから仕方が無い。

 都合が良すぎる話ではあるが、ガンプラバトルブームが加速している現代、たとえ1パーセントでも彼の示した可能性は十分にあると思った。

 ……と言うか、この時の俺はそう思うことで彼と契約した後もガンプラバトルのモチベーションを高めようとしていたのかもしれない。ブラックサレナを使って戦うことについては、劇場版ナデシコを見る前から決めていた。

 

「ただ、あんまり自重しないと周りがうるさそうだから、あくまでこの機体のことは「ガンダム」と言い張ってくれよ?」

「問題無い。中身はエステバリスではないからな」

 

 もし上手く行けば、アニメ製作者さんサイドが劇場版ナデシコの続編を作ってくれるかもしれない。会社への貢献だとかよりそっちのことを考えておけば、重すぎず軽すぎない絶妙な加減のプレッシャーを持って戦うことが出来る。

 もちろん後でラズリちゃんとも相談したが、あの子も俺と同じぐらいの速さで協力すると即答してくれた。彼女もまた、ナデシコの続きが見たくて夜も眠れないらしい。それと、ブラックサレナを使う俺の姿が見たいって言ってくれた。ヒャッホイ。

 

 

 

 しかし、それからKTBK社と協力して行った選手権までの準備は、想像を絶するほど過酷なものだった。

 ブラックサレナの鎧をアレックス用に加工するのも楽ではなかったし、形その物が完成した後もトントン拍子には運ばなかった。

 ナガレの言う通り、ブラックサレナの造形をしたプラモデルは確かにプラフスキー粒子に反応した。しかし反応しただけで、最初に動かしたブラックサレナ擬きの性能は素体のアレックスのままの方がずっと強いぐらい情けないものだったのだ。当然ディストーションフィールドも再現出来なかったし機動力もショボく、鎧の強度すらチョバムアーマーに劣るレベルだった。

 そんな感じで、製作は始めから上手くは行かなかった。今にして考えてみればナガレから提示された異常とも言える契約金は、KTBK社のワークスチームではプラモデルを「動かす」ことの先まではどうにもならなかったからなのだと思う。

 

 だが俺達は、立ち止まらなかった。

 

 劇場版ナデシコで活躍したあの闇色のロボットを、性能まで完全に再現することを最後まで諦めなかった。

 それはもはや、執念で作り上げたと言って良い。

 KTBK社の社員に必要なパーツを取り寄せてもらいながら、俺達は何度も試行錯誤と起動試験を重ね、世界大会本選が始まる三日ぐらい前になって、ついに念願のブラックサレナを完成させたのだ。

 妥協は一切しなかった。そしてKTBK社の総力と俺とラズリちゃんの持つビルダーとしての全技術と愛を結集して出来上がった「ガンプラ」は、文句なしの最高傑作だった。

 以上が、今俺が使っているブラックサレナNT-1が完成に至るまでの製作秘話だ。

 因みに、国内で開かれた予選は中の人ことアレックスで頑張った。予選決勝まで完成が間に合わなかった時は流石に終わったかと思ったけど、紙一重の戦いで初めて優勝することが出来た。もちろん、ラズリちゃんの協力のおかげだ。

 だから実を言うと、このブラックサレナNT-1を衆目の目に晒したのはこの世界大会が初めてだったりする。

 

 ガンプラバトルで他のアニメのロボットを使っていることで、世間から少しは話題にされているだろうか。

 少し気になったので、ロワイヤル終了後に俺は携帯端末からインターネットの某掲示板の一つ、「ガンプラバトル板」を覗いてみることにした。

 

《世界大会優勝予想(438)

【オーラバトラー】ガンプラバトルって、時々変なロボットが沸くよな【ブラックサレナ】(112)

 巨大ザク出現wwwwww(620)

 フィンランド代表アイラ・ユルキアイネンちゃんのヘルメットの下は美少女(1001)

 九州代表の二人組が完全にアレな件(102)

 【悲報】チョマー軍団全滅(23)

 三代目メイジン・カワグチの正体について考察するスレ(555)

 ニルス・ニール専(300)

 カイザーINEEEEEEEEEEEEEEE(98)

 アキトはどこへいきたいのー?(12)》

 

 板内のスレッドタイトルの一部である。どうやらこれを見る限り、そこそこ話題にはなっているようだ。スレの中身までは何が書かれているのか怖くて見れなかったが、大会初日でこれだけ注目されれば十分だろう。

 その点、巨大ザクとのバッタリドッキリはナイスな展開だったのかもしれない。

 ブラックサレナを活躍させ、世間にKTBK社の宣伝をする。その点については、今回の戦いでは十分に成功したと思う。

 

「オチカ、食事会始まるよ?」

「ああ、今行く」

 

 第二ピリオドのバトルロワイヤルが終了し、世界大会の初日を無事乗り越えた俺達。

 明日はどんな戦いが待っているのやら、ガンプラファイターとして楽しみで仕方が無い。

 KTBK社との契約のこともあるが、そんなことよりも俺は、ラズリちゃんと初めて出場したこの世界大会を思い切り楽しむこと一番に重視していくつもりだ。

 

 真剣に、心から遊べる――やはり、ガンプラバトルはいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 





 種死の前半は割と好きと言ってみる。
 次回はVSオーラバトラーとか色々を予定しています。
 お気に入りが思っていたより増えてビックリ。やっぱりブラックサレナの人気は凄いんだなぁと実感。

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