ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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新たなる戦いとガンプラの島

 

 

 僕の名前はミナキ・ソウシ。極めて普通のガンプラビルダーだ。

 

 日常の中で特別なことがあった時、こうしてその記録を書き残しておくことが僕のささやかな趣味の一つだ。

 そしてこの記録が今、僕以外の誰かに読まれているのだとすれば――その頃には僕はもう、その場所には居ないのだろう。

 

 

 八月。夏休みの間に行われた全日本ガンプラ選手権中高生の部――あの時、僕のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)はカミキ・セカイのビルドバーニングゴッドと相打ちになった。それと程なくして制限時間が切れ、両チームの間に二機のガンプラが残るままとなった決勝戦は大会史上初の「同時優勝」という形で幕を下ろした。

 しかしあの時、僕とセカイがどちらも倒れていなければ、規定により代表者同士の再試合が行われていた筈だった。……単独優勝のチャンスを逃してしまったのは、悔やんでも悔やみきれない僕のミスだと考えている。

 

 それでも、本枚高校は栄冠を相手チームと半分ずつ分け合うという形でガンプラバトル部創設以来最高の成績を収めることになったのだが――アスカ先輩もカリマ先輩も、当然ながら二人とも満足していない様子だった。

 しかし二人とも、アシムレイトの申し子としてセカイと決着をつけようとした僕の選択を責めるどころか健闘を称えてきたのだから、いつまでも頭を下げるわけにもいかないだろう。

 だから僕はこの悔しさを忘れず、来年の大会ではさらに上の成績を残すことを心に誓った。

 

 

 ――その、後日のことである。

 

 戦いは、終わった筈だった。

 選手権大会が終わったことによって、僕らのガンプラバトル部にもまたしばらくの平和が訪れると思っていた。

 そう思っていた矢先、大会が終了してから僅か三日後のことである。あのKTBK社がテレビ中継等によってメディアを通じ、全国のガンプラビルダーに向けて新たな戦いを告知したのだ。

 

「その名は――KTBKガンプラバトルアイランド!」

 

 元々、近年のKTBK社では年末年始頃にガンプラやナデプラに関する大きなイベントを行うことが恒例行事となっていた。

 しかし今回告知されたそれは今までのイベントの比ではないとキンジョウ会長が前置きした上で、会長の側近の一人であるミスター・ゼロが彼に代わってその詳細を語った。

 

 彼が語った「KTBKガンプラバトルアイランド」という言葉――それは来年の夏からオープンする予定の「ガンプラに特化した」アミューズメント施設の名称である。

 しかしそれだけならばかつてPPSE社がやっていたように、既に似たようなものは全国各地で開かれており、ガンプラバトル全盛とも言えるこの時代においては取り立てて珍しいものでもなかっただろう。

 

 しかし報道を見た者の誰もが震撼した理由の全ては、ミスター・ゼロが高らかに言い放ったこの一言にあった。

 

「このバトルアイランドでは――島そのものがキミ達のバトルフィールドとなる!」

 

 島がリングだと――KTBKという会社が作り出した嘘のような現実が、彼らの映し出したPVにあった。

 誰もが驚愕に目を見開いたそのPVを披露した後で、ミスター・ゼロはこの「KTBKガンプラバトルアイランド」にて、小中高生を対象とした選抜ガンプラバトル大会を開催することを宣言する。

 選抜の基準は全日本選手権を始めとするガンプラバトル大会において一定の活躍を見せた者が選ばれるのはもちろんとして、審査員の目に留まったビルダー達にはたとえ予選落ちであっても出場資格が与えられるのだと言い渡された。

 つまり予選はもう始まっており、もう終わっていた。僕達が行ってきた今までの戦いそれこそが、この大会の予選だったということだ。

 

 勿論、選手権の優勝チームの一つである僕らの元には、告知から三日と経たず一枚ずつ招待状が贈られてきた。

 その招待状と同封されていた手紙によると、今回の大会はチーム戦ではなく「個人戦」とのことだ。当日は受験シーズンと言うこともあり、あくまでも参加は任意だと書かれていたが……アスカ先輩もカリマ先輩も当然のように出場を決めていた。

 

 しかし二人とも、この大会にはザインとレゾンは使わないと言った。

 

 ガンダムMark-sein(ザイン)とジ・OMark-reason(レゾン)。この二機は元々、あまりにも癖の強い僕のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)との連携を前提にした上で、僕が彼らの既存機体だったデスティニーガンダムとジ・Oを対象に特別な改造を施したガンプラだ。今回は個人戦の為ニヒトとの連携が必要無くなった故に、彼らがこの二機のガンプラを使う必要もなくなったという道理だ。

 そして何よりも、この二機を使いたくない理由として二人はこう言った。

 

「選手権ではお前が改造してくれたガンプラに助けられた。けど、今回のはチームの戦いじゃないし、自分が作ったガンプラで戦ってみるよ」

「まあ、今回は大会ってよりアトラクションって感じだし? あの機体は使う方のプレッシャーが強すぎるし、次は久々に俺のフルスクラッチMAが暴れてやんよ」

 

 他人の施しをあえて受け取ることなく、今度は自分で作った自分だけのガンプラで戦ってみたいという、彼らのビルダーとしてのプライドから来る言葉だ。そう言われてしまえば僕には返す言葉もなく、僕もまた今まで通りニヒトを使うことに対して強い躊躇いを覚えたものだ。

 

 元々、僕らの扱っていた「ザルヴァ―トルプラモデル」は、お互いの連携がなければ全力を出し切れない三位一体のガンプラだった。この際、個人戦用に僕も新しいガンプラを用意しておくのもいいかもしれない。そんなことを考え、実行しながら……僕らは大会当日までの時間を各々のペースで過ごした。

 チームメイトだが、戦えば容赦はしないと――そんな風に、僕らは気楽に笑っていられたのだ。

 

 大会当日の――その日までは。

 

 

 

 

 

 

 1月2日。元旦をそれぞれの故郷で過ごした翌日に、僕らは横浜の港から旅立った。

 「KTBKガンプラバトルアイランド」――そこへの移動に使われたのは、KTBK社が所有する豪華な船だった。船の中には日本中から集まってきた大会出場者の姿とテレビ局の報道陣の姿があり、僕らはここで選手権で戦った多くのライバル達との再会を果たした。

 もちろん、ガンプラ学園や聖鳳学園の姿もそこにあった。グラナダ学園のルーカスさんは外国の実家に居る為出場しないという話は残念だったが、見知った顔の登場に対してはどこか安心している自分が居た。

 

 久しぶりに顔を合わせたコウサカ・ユウマと世間話をしてみると、彼ら聖鳳学園もまたこの大会の為に新しいガンプラを仕上げてきたらしく、カミキ・セカイに至ってはガンプラ修行の旅にまで出ていたらしい。見ればカミキ・セカイと親しげに話しているキジマ・シアの姿が目についたが、彼と彼女はその修行の過程で親交を持ったらしいとユウマは言っていた。ガンプラ学園専属のビルダーが、彼にガンプラ製作のノウハウを叩き込んだのだそうだ。これは選手権以上に厄介な相手になりそうだと、僕は警戒を深めた。

 しかしキジマ・シアもまた僕のことを強く警戒している様子だった。セカイに話しかけようとする度に、彼の背後に隠れながら無言で睨みつけてくる彼女の視線は少々居心地が悪かったものだ。

 後から合流したキジマ・ウィルフリッドの話によると、自身の全国デビューとなった試合を散々な結果に陥れた僕らのことを彼女は怨敵として強く意識しているらしい。それは同じチームに所属していたアドウ・サガも同じ様子だった。彼も出場するようで何よりである。

 聖鳳学園との同時優勝とは言え、栄冠を掴んだことで周りから向けられる視線は以前までとは比べ物にならないほど強くなっている。

 この大会において僕が警戒するべき相手は数多く、選手権で戦った彼らはもちろんとして初対面の相手も同じだ。スレッガーは鉄板として、イズナ・シモンという男も相当手強そうだ。そして最も気になるという意味では、同じく船で会った「ビルダートJ」という男だった。

 奇抜な白いコスチュームを身に纏い、顔の上半分を仮面に隠したあの男からはファイターとしてただならぬ凄みを感じた。カミキ・セカイは彼のことを「ジュンニィ」と呼んでいたが……一体彼は何者なのだろうか? 各地の実力者の情報は軒並み集めていたと思っていたが、彼のデータに関しては何も無く、少々不気味に思えた。

 

 

 

 そんな多くの出会いと再会があった船の旅は数時間ほどで終わり、僕らはたどり着いた。

 

 KTBKガンプラバトルアイランド――ガンプラビルダーの「楽園」に。

 

 

 

 驚嘆。それが、その島に足を踏み入れた僕らが抱いた共通の感情だろう。

 ガイドの女性の案内に従って、舗装された海岸から林を越えて島の奥地へと入場すると、そこには見渡す限りの視界を覆い尽くす巨大な人工施設の姿があった。

 

 触れ込み通り、島その物が巨大なアミューズメント施設として作られていたのだ。

 

 ガイドの話によれば、この島は元々草木の刈り尽された文字通りペンペン草も生えていない荒れ果てた無人島だったものをKTBK社が買い取り、多額の投資によってガンプラバトルシティとして蘇らせたものなのだそうだ。

 この島がアミューズメント施設として一般公開を行うようになるのは数か月後になる予定らしいが、辺りを見れば実に子供受けが良さそうな娯楽施設が一帯に広がっており、それらを眺める小学生出場者の目は実に輝いていたものだ。

 

 しかしそれは、僕ら中高生も似たようなものか。

 

 施設の中では実物大のガンダム、Zガンダム、ZZガンダム、νガンダムが展示されており、その後ろには実物大のエステバリス(夜天光撃破後の目からオイルを流しているあの状態を再現したもの)までも展示されており、その異常に優れた出来栄えにはキンジョウ会長の並々ならぬ拘りと愛が感じられたものだ。それを目にしたユウマなどは感動のあまり涙を流しており、その姿に僕はKTBK社という会社が愛される理由と、日本の将来の不安を感じた気がした。

 

 しかし、驚くのはまだ早かった。

 

 

 

 ――娯楽スペースを越えてさらに島の奥へと進んだその時、僕らの世界は「宇宙」になったのだ。

 

 

 それは、比喩ではない。

 文字通り僕らが一定の位置まで足を踏み入れた瞬間、一瞬にして僕らの立っていた場所がプラネタリウムのような光景へと変化したのである。

 

 

 ――まるで、ガンプラバトルのフィールドのように。

 

 

 僕がそう思ったのとほぼ同時に、この異変に対してどこからともなく現れた一人の男が説明する。

 

 それは、目元をバイザーで覆い隠した黒衣の男――アワクネ・オチカだった。

 

 彼の登場と同時に、多くの者からはっと息を飲む音が上がった。

 アワクネ・オチカと言えば、KTBK社に所属するガンプラファイターの中で最も有名な男だ。僕らの扱っているザルヴァ―トルプラモデルのような異形のプラモデルがプラフスキー粒子に対応する為の基礎理論を構築した、異形ガンプラ界のパイオニア的存在として世界でもその名が知れ渡っているほどである。

 黒の貴公子。

 黒い幽霊。

 闇の偽王子。

 無職の勝利者。

 ロリコン。

 世界一酷い風評被害。

 その他諸々、無数の二つ名を持つ凄腕の実力者である。そんな彼は、どこか昔を懐かしむような口調で言った。

 

「……七年前、俺達は世界大会の決勝で不可思議な事故に遭った」

 

 それは、多くのガンプラバトルファンが忘れもしない出来事の体験談だった。

 ガンプラバトル選手権世界大会。三代目メイジン・カワグチとレイジ、イオリ・セイがぶつかり合った、幻と消えた決勝戦のこと。

 最高のガンプラ同士がぶつかり合った世紀の一戦を幻として消した「アリスタ暴走事件」のことは、当時その件に関わったヤジマ商事とKTBK社を通じ、今や全世界にまで知れ渡っている大きな出来事である。

 

「プラフスキー粒子の原石、アリスタの暴走。アリスタの暴走は天井を突き破るほど巨大なア・バオア・クーを生み出し、競技場その物を巨大なバトルフィールドに変えた。……今君達が居るこの場所はその事故を解析し、我が社が新システムとして生み出したものだ」

 

 かつての事故を一から解析し、新たなシステムとして活用する技術力。

 そして島その物をガンプラバトルのフィールドにしてしまうという、極めてダイナミックな発想。

 それだけでも、このKTBK社という会社のことをよく物語っていると思う。

 島がリングというこの状況を僕らは事前にPVを見て把握していた筈だったが……こうしていざ目の前で見せられると、心が動かずには居られなかった。

 

「もちろん、安全性は保証する。ここは世界一広く、世界一作り込まれているフィールドだ。ここでしか味わえない戦いと臨場感を、どうか楽しんでほしい」

 

 寡黙なファイターとして知られるアワクネ・オチカが、表情は変わらないながらも僕らに応援の言葉を送る。

 そして、次の瞬間だった。

 

「あ、あれは……」

「アビゴルズウァース! ルワ……黒騎士のアビゴルズウァースだ!」

 

 漆黒のガンプラが物凄いスピードでオチカさんを横切り、僕らの目の前を疾走していく。

 その続け様に、周囲に広がるプラフスキー粒子の宇宙から次々と漆黒のガンプラの姿が飛び出してきた。

 

「見ろ! あそこにもう一機!」

「この壮大にカッコいいBGMは……ショクツ・シークレッターのガンダムトロンべか!」

「まだだ! もう一機来るぞ!」

「ガウェイン! ミスター・ゼロのパラスアテネ、ガウェインだ!」

 

 アビゴルズウァース、ガンダムヒュッケバインMk-Ⅲ、パラスガウェイン。どれも世界大会では優秀な成績を収めている、KTBK社所属のガンプラファイターの機体である。

 そして目の前の男のガンプラもまた、僕らの目の前に広がる新次元の空間に介入しようとしていた。

 

「ラズリ、行けるか?」

《うん、今いくね》

 

 彼がどこかに居る誰かと言葉少なく通信を行った次の瞬間――最後の「漆黒」がその場に舞い降りた。

 

「ふつくしい……」

「ブラックサレナNT-1! やったー! 四人の変態が揃った!」

「変態じゃねぇよ紳士だ殺すぞ」

「落ち着けユウマ!」

 

 ブラックサレナNT-1。彼ら四天王の中で最も活躍を収めた名機の登場に、ある者は慄き、ある者は喜び、ある者は闘志を滾らせた。

 四機のガンプラは自らの作り込みの深さを見せつけるかのように僕らの周りを旋回した後、弾丸のような速さで視界の奥へと飛んで行った。その先にあるのは青い眠りを解かれた水の星――地球。

 

 

「……今日から五日間、ゆっくりしていってくれ」

 

 一瞬にして遠のいていった四機のガンプラの姿を見送ると同時に、アワクネ・オチカもまた踵を返し、プラフスキー粒子の闇へと消え去っていく。

 

 瞬間、僕らの周りを覆っていた宇宙空間は掻き消え、元のアミューズメント施設の景色へと戻っていった。

 

「ぼ、僕は行くぞ! あの人達の高みへ!」

「やめとけユウマ! アレは明らかに越えちゃあかんラインや」

 

 コウサカ・ユウマを筆頭に、彼ら世界レベルのガンプラの姿を間近に見たことによって興奮の冷めやらない様子の者は何人も居た。

 かく言う僕もまた、その一人だった。

 僕はキュベレイMark-Nichit(ニヒト)を、あの「マークニヒト」に極限まで近づけるためにとことん作り込んだと思っていた。

 しかし、彼らの機体を生で見てわかってしまった。ビルダーとしての本能が、格の違いを思い知ったとも言える。

 彼らと僕の作るガンプラのベクトルは、恐らく同じだ。

 しかし言葉には上手く言い表せないが……彼らと僕のガンプラには、決定的な何かが違っていたのだ。それはおそらく、彼らしからぬ様子で興奮しているコウサカ・ユウマも同じことを感じたのだろう。

 決して、ショックを受けたわけではない。

 今はまだ足りない。けれども、いつか必ずたどり着いてみせると意気込んでいる。

 

 

 ――そう、僕らは目指したのだ。果てしなき最高のガンプラへと至る、この欲望を抑えきれずに。

 

 

 

 

 

 






 ビルドファイターズと遊戯王のネタって凄い親和性が高いことに気づいた今日この頃。
 このお話では、個人的に原作で見てみたかった展開をやりたいと思っています。艦隊戦とか、vsメガサイズの改造機とか、長時間のサバイバル戦とか。

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