ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
全日本ガンプラバトル選手権。それはガンプラバトルを行うビルドファイター達が掲げる大きな目標の一つであり、その熱狂ぶりは大会発足時から今に至るまで留まることを知らない。
この大会に登場してくるガンプラは、人の個性そのものを表しているかのように実に多種多様である。それは市販のガンプラを素組したものであったり、色を塗ったものであったり、アレンジを加えていたり、ミキシングをしていたり……レベルの高いビルダーであれば存在しないガンプラのパーツを一からフルスクラッチで作り込む者も居る。
プラフスキー粒子の性質を理解するビルダーが、誰も知らない未知の技術を生み出すこともある。
有名どころではビームを吸収し飛躍的に性能を向上させる「アブソーブシステム」や、内部フレームに粒子を浸透させて一時的に機体を強化する「RGシステム」もまたその一例である。
ガンプラバトルが生まれて以降未だ謎の多いプラフスキー粒子であるが、時を経るごとにその謎は少しずつ、ほんの少しずつだが確かに明かされてきている。
この大会に出場しているビルダー達もまた少なくない人数の者がプラフスキー粒子の性質を理解しており、各々がガンプラバトル界に新しい風を吹き込む奇想天外なシステムを披露していた。
しかしそのシステム――色々とやりすぎであった。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからディストーションフィールドが発生しました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからハドロン砲が出ました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからカッコいいBGMが鳴るようになりました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラが念願のオーラ力を身に着けました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラがありえない変形合体をしました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラの目から光子力っぽい何かが出ました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラが私によって憎しみを理解しました。
プラフスキー粒子の性質を理解した結果……
プラフスキー粒子の性質を理解……
プラフスキー粒子の性質……
プラフスキー粒子……
プラフスキー……
プラフ……
お前らプラフスキー粒子の性質を理解したって言えばいいもんじゃねーぞという混沌ぶりである。
彼らにとっては、なまじ過去の場において「ブラックサレナNT-1」という成功例が生まれてしまったのが大きいだろう。
かつての世界大会を駆け抜けたアワクネ・オチカ、アワクネ・ラズリの夫妻による研究と実戦の成果は膨大なデータとなってKTBK社という一つの模型会社に注ぎ込まれた。
そしてそのKTBK社が、ガンダムシリーズでなくともプラフスキー粒子に対応する「ナデプラ」という新たな可能性を生み出した。
そのナデプラが七年の歳月を経て発展していく中で、彼らの影響を受けた一部のガンプラビルダー達の
それはきっと、かの幽霊ロボットが戦場を舞った時点で予測されていた事態なのかもしれない。
全日本ガンプラバトル選手権の決勝戦に駒を進めた本枚高校、チーム「竜宮城」の戦術指揮官であるミナキ・ソウシもまた、そんな個性派ビルダーの一人だった。
昨日準決勝が終わり、来る決勝戦を二日後に控えた今――彼は一人宿舎の自室に篭り、異形のガンプラと対峙していた。
そのガンプラは全身が暗い紫の外装に覆われながらも、節々には光り輝かんばかりに美しい翠色の結晶のようなパーツが浮かび上がっている。腰部は細く、腕は足よりも長く重厚だ。背面に広がっている鋭角的八枚のウイングも合わさり、その姿はさながら神話に出てくる悪魔のようだった。
キュベレイMark-
映像作品では機動戦士ZガンダムからガンダムZZに掛けて登場した「キュベレイ」の改造機であり、ミナキ・ソウシにとっては長い付き合いである愛機だ。
尤もガンプラバトルにおける実働期間は一年にも満たないが――それでもソウシの中での思い入れは強く、語れば長くなる特別な思いが込められたガンプラだった。
「決勝は二日後……後二日で、この大会も終わりか」
今部屋にいる人間は、ソウシだけだ。チームメイトのカリマ・ケイとアスカ・シンは二人でリフレッシュの為街に出掛けており、ソウシだけがこの部屋で自らのガンプラと向き合っている。
思えば一人で過ごすこういった時間も、随分と久しぶりな気がする。座椅子の背もたれに寄り掛かりながら、ソウシは感慨と感傷に浸っていた。
これまで長く、極めて濃い大会であった。
いや、大会が始まる前からも濃い日々ではあった。彼の日常がそうなったのも、全てはこの本枚高校に入学したことが始まりだった。
入学して彼らに出会うその日まで、ソウシにとってガンプラバトルは中学時代に卒業した筈のゲームだった。
しかしソウシはこの高校に入って、ほんの些細な成り行きから今のチームメイトであるアスカとカリマに出会った。
アスカ・シン――ドン引きレベルの不幸体質が玉に瑕だが、ガンプラバトル部において最も頼りになる先輩だ。彼のガンプラバトルに懸ける情熱は人一倍強く、ソウシもまた彼の情熱に感化された結果、再びガンプラを操るようになったほどである。
彼と出会わなければ、今の自分はここには居なかった。
そう思うと、ソウシは今なら言えるだろうと一人思う。ガンプラバトルをまた始めて、彼らとチームを組めて良かったと。
カリマ・ケイ――自信過剰で時々噛ませ犬っぽい行動をしてしまうのが玉に瑕だが、彼の発する空気を読まない自信満々な言葉には、ソウシはこれまでに何度も助けられたものだ。
チームを組んだ当初こそ、年下であるこちらの指揮に従わず独断行動を行っていたものだが……苦難に塗れた数々の実戦を積み重ねてきたことによって彼は「結束」の重要さに気づき、自ら率先して緻密な連携を取るようになった。
彼にとっての本枚高校は自分以外に頼れる仲間がいない、典型的なワンマンチームだった。
その為に彼はこれまで自分一人で三人を相手取る為に出撃制限の掛かる巨大モビルアーマーの火力に頼っていたのだが……この三人でチームを組むようになってからは、ケルディムやジ・Oを巧みに操り、連携の要としてサポートに回ることが多くなった。そしてこの大会を経て――彼はサポートの鬼とも言える素晴らしいファイターへと開花したのだ。
カリマ・ケイという男は、仲間のサポートに回ってこそ真価を発揮するファイターだったのだ。それはこの本枚高校ガンプラバトル部が彼のワンマンチームでなくなったことによって明かされた、今まで彼自身すらも知りえなかった新しい才能だった。
ソウシが仕切り、アスカが切り込み、カリマが抑える。それが本枚高校最強のチーム、「竜宮城」の姿だ。
ここまで勝ち残れたのはガンプラ学園の慢心という運もあった。しかしそれ以上にチームが一丸となって戦っていく結束の力こそが、自分達が躍進している一番の要因だとソウシは考えていた。
しかし……と、誰もがこのチームを見て疑問を抱くことだろう。
傍から見れば抱いて当然の疑問であり、ソウシもまたそうあって然るべきものとして素直に受け入れている。
その疑問とは……
「あなたはそこにいますか?」
背後からの問いかけに、ソウシは微かに頬を緩める。
そしてどこか自嘲気味に、不意の問いかけに答えてやった。
「前はいなかったが……今は、ここにいる」
「いい話だったよ、蒼穹のファフナー。久しぶりに感動する作品だった」
問い掛けてきた相手もまたソウシと似たような笑みを浮かべながら、その手に一枚のケースを持って差し出してくる。
それは先日、ソウシが彼に頼まれてより貸し出したブルーレイディスクの一つである。
タイトルには、「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」と書かれていた。
「しかしあそこで犬はないだろ……犬は……」
「僕が知る創作の中で、最も心に響いた話です」
感極まった様子の彼の言葉に対して神妙に頷くソウシだが、ここで話しているのはアニメの内容である。
それは「蒼穹のファフナー」という少年少女達の存在の在り様を描いた一作のロボットアニメであり――どういうわけか、ソウシにそっくりなキャラクターが登場する作品であった。
「しかし似ているな、総士とソウシは。顔や声とかそっくりだ。雰囲気はそうでもないが、お前の左目の傷を見ていると怖いとすら思うよ」
「言われても困ります」
「もしかしてその傷は、昔友人につけられたものだったりするのか?」
「…………」
「おい、何か言えよ」
何故ソウシが総士に似ているのか――そこに理由などある筈もなく、ソウシが総士の生まれ変わりであるなどということもも断じてない。
全てはただの偶然――そう。
ソウシの左目を覆っている大きな切り傷もまた、過去に起きた偶然の事故によって刻まれたものだった。
「……アシムレイトという現象を、貴方は知っていますか?」
まさか傷の理由までアニメと同じじゃないだろうなと焦る金髪の男の手からBDを受け取った後、ソウシは数拍の間を置いて彼に尋ねた。
脈略のないソウシの問いであったが、金髪の男は間を置くことなく当然のように答える。
「ああ、一時は大騒ぎになったからな。ここにいて知らない奴はいないだろう」
アシムレイトとは、ガンプラバトルにおいてファイターが強力な自己暗示をかけてガンプラと五感を共有し、その機体性能を飛躍的に向上させる現象のことだ。平たく言えば、「ガンプラとファイターの一体化」のようなものか。
これは数年前に確認された現象であり、最初に発覚した当時はお茶の間でも大いに話題になったものだ。
しかし、このアシムレイト。現在ではヤジマ商事やKTBK社を始めとする企業の手によって世界全てのバトルシステムにファイターとのシンクロを断ち切る「アシムロック」と呼ばれる特殊措置が加えられており、それによって実質的に「封印」されている現象であった。
何故、ファイターにとって有用なこの現象が封印されたのか……その理由は、ひとえに「有用すぎるから」であると人々は認識している。
従来のガンプラバトルにおいて、重要なのはあくまでも組み立てたガンプラの完成度とファイターの操縦技術の二つにあった。そこにアシムレイトという新たな要素が加わることを、多くのビルダー達は恐れたのである。
「こんなのがあったらガンプラを丁寧に作るより瞑想してた方がいいじゃん」、「ガンプラの性能関係なく武闘家が無双出来ちゃうのはちょっと……」というのが、彼らから贈られてきた否定的な意見である。
そう言った理由もあり、今では封印され日の目を見ることがなくなったアシムレイトであるが――ここまでは表向きの話である。
アシムレイトに対するビルダー達の意見だが、その全てが否定的だったわけでは断じてない。
「バトルバランスは崩れるが、今までだってガンプラバトルは進化してきたじゃないか」、「ガンプラとシンクロすることによって、よりガンプラに愛着が持てるようになるじゃないか」、「明鏡止水再現キター!」……というように、アシムレイトに対して肯定的な意見を述べる声も少なくはなかった。
賛否両論あるならば、アシムレイトがガンプラバトルにおいて有りか無しか、戦う都度任意にルールを決めれば良いという話にもなるだろう。
しかしそれでも「封印」という結論を急ぐような形になってしまったのは、アシムレイトに隠された一つの副作用が本当の原因であった。
「アシムレイトはプラシーボ効果によって、ファイターの精神力が続く限りその効果は発揮される。……しかし、一方でプラシーボ効果の反作用であるノーシーボ効果によって、ガンプラが傷つけばそのダメージがファイター側へも反映されてしまうリスクも孕む。ここまでは知っていますか?」
「……ガンプラへのダメージが、ファイターに反映されるって言うのか?」
「ファイターが受けるダメージはガンプラへのダメージが強ければ強いほど重くなり、酷い場合には重傷事故になる危険も十分にあった」
まるでアシムレイトをその身で実際に体験してきたかのように詳細に語るソウシに、頭の回転の速い金髪の男はこの話の続きをある程度察し、頷く。
そしてそれを決定付けるように、ソウシは左目の傷を懐かしむように摩りながら告白した。
「この左目の傷は……重度のアシムレイト現象によって受けたものです」
かつてアシムレイトによってガンプラとシンクロを果たした幼いソウシは、その状態で一人の友人とガンプラバトルを行った。
そして友人のガンプラが突き出したビームサーベルによって自らのガンプラの頭部――丁度左目の部分を破壊され、この傷が生まれたのだ。
それによって、しばらくの間ソウシは左目の視力を失った過去がある。
何も眼球まで失っているわけではない。しかしこの話が本当ならば、ガンプラバトルそのものがなくなってもおかしくない重大な事件であった。
「……なるほど」
「信じるんですか?」
「お前はそんな嘘をつくような奴には見えん。……まあ、仮に私が言いふらしたところで、今となっては誰も信じそうにないがな」
この話を外部に広める気は二人の内のどちらにもないが、事件当時から時間の経ちすぎた今となっては仮に広めようとしたところでガンプラバトルを嫌う者の陰謀か、都市伝説のようにしか思われないだろうというのがソウシと金髪の男の見解である。
ガンプラバトルは誰もが安全に、楽しく戦うことが出来る健全な遊びだ。メイジン・カワグチを筆頭としたプロのビルドファイター達の尽力によって、今や世界中の人々にそう広まっているのだから。
金髪の男はソウシの話を真摯に受け止めると、腑に落ちた笑みを浮かべた。
「私も、あの時は確かにおかしいとは思った。アシムレイト現象が発覚してから封印されるまでの流れは、どうも不自然だと感じていたが……」
「……とは言っても、アシムレイトの封印はノーシーボ効果が発覚した時点で決まっていたようです。この話を知っている人物は、事故の当事者以外はミスター・ゼロ一人……ヤジマにもKTBKにも広まっていないと彼は言っていました」
「あの人か……厄介そうな人間に知られたな」
「問題ありませんよ。妹を愛する人間に、悪い者は居ないでしょう?」
「気が合うな、私もそう思う」
少し長く語りすぎてしまったが……自分らしくないとはソウシ自身も思っている。
こんなことを話したところで良いことなど起こりえないし、寧ろこの金髪の男の出方次第では悪いことの方が起こり得るだろう。
それでもソウシが彼に語ったのはきっと柄にもなく――ただ単に、そういう気分だったからなのだろうとソウシは自己分析を下した。
「……という、僕の考えたネット小説の内容です」
最後にそう締めて、ソウシはこの話を無難に終わらせる。
予防線としては少し苦しいかもしれないが、特に広める気のない金髪の男に対してはこれで十分である。
何せ、ミナキ・ソウシの左目の傷がガンプラバトルが原因であるという証拠は、今やどこにもないのだ。
傷その物が何よりの証拠ではあるが……実際にその現場を見ていたのは当事者である対戦相手の友人が一人だけだ。そちらにももう、心配は無い。
「ああ、そういうことにしてやる」
「ありがとうございます」
自身の意図は無事伝わったようで、ソウシは内心で安堵の息をつく。
そう、これは妄想の物語。自分と同じくガンプラバトルを愛する彼にとっても、こんな爆弾話に対する認識などそういう形で落としておくのが最善であった。
「……周りには、転んでそうなったとでも言ったのか」
「ええ。僕はこんなことの為に、ガンプラバトルが世からなくなってほしくなかった。……案の定、事故を起こしてしまった対戦相手の友人とは長い間関係がこじれましたが……なんであの時、自分がやったって言わなかったんだと泣かれましたよ」
「リアル総士じゃねーか」
机の上のキュベレイMark-
そのポーズを取らしたことに、特に理由は無い。
しかしただ単純に――とてもカッコいい姿だとソウシは思った。
「そんな時、僕はこのアニメと出会った」
「ああ、なるほど」
「そして友人も、このアニメと出会った」
「お、いいぞいいぞ」
「事故以来関係がこじれていた僕達は、このアニメに出てくる皆城総士と真壁一騎を教師に、或いは反面教師に……お互いに腹を割って話し合いました。その後和解し……彼女とは今でも、良い友人関係ですよ」
「それは何よりだ。……彼女?」
「……真壁一騎に似た境遇だからと言って、存在まで同じなわけないでしょう」
「それはそうだが、お前が言うとなんかムカつくな」
アシムレイトの副作用によって左目を負傷した過去のあるソウシであるが、彼は当時ですらガンプラバトルや友人のことを恨んだことは一度もない。
……寧ろ、当時は感謝してすらいたのだ。その理由も色々とあるのだが……流石に金髪の男を相手に、ソウシはそこまで語る気は無かった。
ただ、ソウシと友人は一つのアニメがきっかけで仲直りすることが出来た。それだけは確かな事実であり、彼がこのアニメを好むようになった理由なのだと伝えたかった。
テクニカルかつ、実に回りくどい作品PRであった。
アニメと現実を混同するのは決して良くないことだ。
しかし程度の違いはあれど、アニメで学ぶものがあったのもまた確かな事実である。
ガンダムシリーズも、他の作品も、どれもソウシにとっては平等に尊いものだった。
ソウシの語りを聞き終わった金髪の男は、少し疲れたような表情を浮かべる。
そして話題を変えて、ソウシの机の上にある異形のガンプラを指して訊いた。
「そう言えばお前のそれは、やっぱりマークニヒトなのか? 私には、アスカのザインほど似ていない気がするが」
「ザインのように、あの機体も劇場版で変化するんです」
「……よし、後で見てくるか」
「その後、さらに続編で活躍します。主役と言ってもいい」
「OK。ネタバレはその辺りにしてくれ。ともかく有意義な作品を提供してくれて感謝するよ。この作品を通して、私の足りないものもわかった気がする」
「アニメと現実を混同するのはどうだろうか」
「お前が言うな」
キュベレイMark-
金髪の男は彼と戦う前まで、彼の……彼ら「竜宮城」のことを取るに足らないチームだと侮っていた。
四代目のメイジン・カワグチを襲名することを自らの義務とまで考えていた彼にとって、今まで出場してきたこの大会には強敵と呼べる者など居らず、彼自身も精々が世界選手権に向けての調整試合としか考えていなかったのだ。
ソウシ達のことなど精々妹が扱う新機体の踏み台程度にしか見ておらず――その慢心が結果的に、ガンプラ学園創立史上初の一回戦敗退という形に繋がったのである。
恥ずべき結果の全ては、リーダーである自分の驕り高ぶりが招いた結果だ。かつてないほどの屈辱を胸にした彼はガンプラバトルに対する自らの向き合い方の甘さを戒め、二度とこんなミスは犯さないと心に誓った。
そして彼は、最強である筈の自分達を見事に打ち破った彼らに対し敬意を払い、今後のガンプラバトル道において必ず倒さなければならない強敵――ライバルだと認識したのである。
故に。
「優勝しろよ、ソウシ。お前を倒すのはこの私だからな」
明後日の決勝戦に向けて、彼はソウシに対し激励の言葉を贈る。
自分達を倒したチームが他の誰かに負けることは、今の彼にとって最も面白くない展開だ。
そして次に、彼は自らが認めたライバルに対して高らかに宣誓する。
「今回の汚名は次の戦場で晴らす。今度は油断も慢心もしないと、他の二人にも伝えておいてくれ」
「……了解」
随分と長い前置きになってしまったが、そう伝え終わると彼は踵を返し、部屋を去っていった。
「キジマ・ウィルフリッドか……」
言いたいことを言って颯爽と帰っていった金髪の男の名を呟きながら、修繕を終えたガンプラをケースへとしまい、ソウシはその頬に苦笑を浮かべる。
キジマ・ウィルフリッド――四代目メイジン候補として名高い、ガンプラ学園一の実力者。
クールな外見から気難しい男だという印象を受けるが、実際に話してみると案外気安いところもあるものだ。あのコウサカ・ユウマと同様に、ソウシにとっては波長の合う男だった。
明後日の決勝戦の相手は聖鳳学園中等部――そのコウサカ・ユウマの所属するトライファイターズだ。
天大寺学園のスーパーロボット「トライオン3」との戦いを制し、同じく決勝戦へと駒を進めた彼らのポテンシャルの高さは掛け値なしに凄まじいものがある。
エアマスターとライトニングをミキシングしたユウマのスーパーエステバリスの機動性は、竜宮城最速を誇るアスカのガンダムMark-
そしてカミキ・セカイのビルドバーニングゴッド。ニールセンラボで対峙したビルドバーニング以上のパワーを持ち、相手を叩き潰す拳の破壊力はソウシの二ヒトと同等か、それ以上かもしれない。
それ以上に厄介なのはホシノ・フミナのスターウイニングだ。前述の二機ほどのインパクトはないが、前述の二機以上に何をしてくるかわからない底知れなさがある。戦術指揮官であるソウシにとっては、彼女こそが最も戦いにくそうだと感じる相手だった。
いずれの相手もまさに不足なし、決勝戦の相手として相応しい相手だ。
故に、ソウシの頭には油断も慢心も無かった。
「祝福を果たそう、マークニヒト」
完璧なガンプラで挑み、完璧に勝つ。それが彼、ミナキ・ソウシにとっての祝福だった。
――二日間は、あっという間に過ぎた。
そして遂に始まった、全日本ガンプラバトル選手権決勝戦。下馬評ではあのガンプラ学園を破った本枚高校が優位か、という声も少なくはなかったが……始まってみればどちらもお互いに一歩も譲らない一進一退の攻防だった。
ファイターの技術もガンプラの性能も、どちらもこの大会最高峰のものだ。そしてどちらのチームのファイターもまた、固い結束を身に着けていた。
両者とも抜群のチームワークを発揮し、お互いにお互いを助け合う。三対三のチームバトルという形式を最大限に活用し合った、巧みな連携であった。
「はあああっっ!!」
「これは……この力は……!」
制限時間が着々と迫り、膠着状態となっていた戦場に突破口を開いたのは、カミキ・セカイのガンダムビルドバーニングゴッドだった。
彼のガンプラのゴッドガンダムを彷彿させる背中のスラスターが展開されると、燃え盛るような炎の日輪が浮かび上がり、同時にビルドバーニングゴッドが纏う全身のクリアパーツが激しく光り輝いた。
その力の正体を、他ならぬソウシは誰よりも早く見抜いた。
「馬鹿な……アシムレイトだと……っ!」
「ジュン兄が教えてくれた……そして、ユウマと先輩が作ってくれた! これがビルドバーニングゴッドの本当の力! アシムバーストだ!」
セカイのビルドバーニングゴッドには、ソウシの知らない新兵器が内臓されていたのだ。
その名は「アシムバーストシステム」――封印されたアシムレイトのパワーアップ原理を参考に、彼らのチームが研究し、一丸となって生み出した新たな力だ。
それはファイターの精神の高ぶりによって機体の性能を飛躍的に上昇させることが出来る、アシムレイトとは違いファイターの肉体には一切ノーリスクである、純粋なパワーアップシステムであった。
「行け! セカイ!」
「ここは私達が抑える! セカイ君はニヒトをお願い!」
「うおおおおおおおおおおっっ!」
「くっ……!」
アシムバーストシステムによって全性能が引き上がったビルドバーニングゴッドが最初に行ったのは、戦術指揮官機であるソウシのキュベレイMark-
敵の頭である彼を分断すれば、他の二人との戦いもやりやすくなると――通常時の戦力では実行は困難であるが、理にかなったトライファイターズの戦術であった。
背中から日輪を加速させるビルドバーニングゴッドが猛然と突っ込み、ニヒトの機体を強引に浚っていくと、吹き荒れる過剰なまでの推進力を持って一気に上空へと押し出していく。
ニヒトの機体はビルドバーニングゴッドの圧力により雲を突き破ってなお上昇していき、二機の戦いの舞台は太陽の光が照り付ける「蒼穹」の空域へと押し出された。
「やってくれたな……カミキ・セカイ!」
友軍から強制的に引き離されたソウシのキュベレイMark-
しかしファイターの判断が僅かに速く、ビルドバーニングゴッドが自ら拘束を解き、二ヒトの腕から逃れた。
「一対一の勝負だ! ミナキ・ソウシ!」
「邪魔をするなァァッ!!」
二ヒトの右手が持つ斬射両用の武器「ルガーランス」の射撃を宙を泳ぐような動きでかわしながら、加速するビルドバーニングゴッドが迫り、拳を突き出す。
予想を上回る速度で懐に飛び込まれたソウシは冷静にルガーランスを斬撃モードに切り替え、本来の使い方である「突き」を持って応戦する。
しかし。
「次元覇王流ゥゥッ! 聖拳突きィ!!」
カミキ・セカイの拳法がルガーランスの強度を上回り、真正面から槍の先端部を貫いていく。
「――!」
次元覇王流、聖拳突き。これまでの試合で多大な成果を上げ続けてきたその一撃は当然ソウシも事前から警戒しており、ビルドバーニングゴッドの拳がルガーランスを破壊し、二ヒト本体にまで届こうとしたところで身を翻し、即座に距離を取ることで攻撃から逃れていく。
しかし、ソウシの額から冷たい汗が滴る。
拳法だけではない。アシムバーストシステムによってパワーアップしたビルドバーニングゴッドの性能は、確実に今のキュベレイMark-
「いいだろう……!」
制限時間も、もはや残り僅か。
今から仲間と合流しようとしても、その後で出来ることはたかが知れている。
何より、カミキ・セカイは強い。「ワーム」で移動すると言う反則的な手段もこの機体には残されてはいるが、彼がその隙を逃すとは思えない。
故に。
「どちらが
「いくぞおおっ!!」
ここで全ての粒子を使い尽くしてでも、目の前の敵を滅ぼす。
そう決意したソウシは、キュベレイMark-
それは外したが最後、機体の性質故にあまりにも大きすぎるプラフスキー粒子の消耗を抑えきれず、自滅することが必至となる諸刃の剣――ソウシにとってはこの戦いを制する為の最後の手段であった。
全ての力を込めた二ヒトの右手が、金色に輝く。
ビルドバーニングゴッドの右手が、真っ赤に燃える。
――そして二体のガンプラが、
光と炎の拡散が蒼穹の空を覆い尽くし、観客席からモニターを眺めていた全ての人々が言葉を失いながらも二人の一撃に視線を集めていく。
会場に詰めかけた大勢の心を魅了する激しくも美しい爆発は、二人の戦いの決着を意味していた。
爆発の中で残っているガンプラが誰のものであるのか、この時はまだ誰の目にも見えていない。
――ただ一人、金色の瞳を持つ幼きガンプラファイターを除いては。
「……同時優勝の場合は、私との約束はどうなるのでしょうか……」
困った顔で――外面から見た表情に変化はないが、その決着を見つめながら真面目に悩んでいる幼女の姿がそこにあった。
そんな彼女の呟きに応じたのは、隣の席に腰かけている彼女の見た目幼い母親ではなく――いつの間にやら彼女の傍らに佇んでいた、見るからに怪しげな仮面を被っている一人の男の姿だった。
「なに、君達が行う戦いの場には、我々がこれ以上ないほど素晴らしいものを提供しますよ」
「ルル……みすたーぜろ?」
ミスター・ゼロ――幼き少女の口からそう呼ばれた男は、仮面の下でこれから自分達が起こすことに思いを馳せながら愉悦の笑みを浮かべる。
そして彼は、後に大々的に発表することになる重要な情報を彼女にもたらした。
「我々の主催する小中高生混合の選抜ガンプラバトル大会――KTBKバトルアイランドでね」
――それは、日本中全ての学生ビルドファイター達を震撼させることになる、新たなる戦いの狼煙であった。
ソウシの傷の話がどこまで真実かはご想像にお任せします。
ビルドバーニングゴッドの外見はまんまトライバーニングの背中にゴッドのスラスターが付いているみたいなのをイメージしていただけると幸いです。蒼穹な連中はまんまアレです。
今回はダイジェスト的に流しましたが、空白の2日の間にトライファイターズサイドでは謎の覆面ファイターJIがセカイにアシムレイト同士のバトルを仕掛け、ほぼ原作通りの展開があったりなかったりしています。