一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、腑煮え繰り返るってよ

クラス代表決定戦終了後、セシリアが自分のピットに戻ると、帰ろうとしている一夏がいた。

 

 

「あ……駁羅、さん」

 

「ん?おっ、オルコットか。お疲れさん」

 

 

一夏はその場で振り返り、セシリアを労う。セシリアはISを待機状態に戻すと、一夏の前に歩み寄る。

 

 

「……先日は、貴方と貴方の親を侮辱してしまい、申し訳ございませんでした」

 

 

セシリアは深く頭を下げた。この時セシリアの表情には若干の怯えがあった。あんな殺気を放つ男だ。許してくれないかもしれないし『酷いこと』をされるかもしれない。

 

 

「……分かった、許す」

 

「……えっ?」

 

 

セシリアは頭を上げて一夏を見つめる。セシリアにとっては完全に予想外だったようだ。

 

 

「正直な話、お前に親を馬鹿にされた時かなり怒った。この手で殺してやりたいとも思った。でもな、お前は自分の非を認めて頭を下げた。なら、俺はお前を許すよ。あのバカを叩きのめしてスッキリ出来たし。只、明日クラスの皆と山田先生と織斑先生にも謝れよ。んじゃ、また明日」

 

 

一夏は微笑みながらそう言い、ピットから出ていった。一人ピットに残されたセシリアは一夏のことを考える。

 

 

「駁羅……一夏、さん……」

 

 

あの堂々とした佇まいと強さ。そして、済んだことは水に流す器の大きさ。今まで情けない男しか見たことのないセシリアに、一夏はとても大きく見えた。そんな一夏に、セシリアは惹かれた。そして、彼の隣に立つに相応しい女になると、一人決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー教室ー

 

そしてクラス代表決定戦から翌日。SHRにて。

 

 

「一年一組の代表は駁羅一夏君に決定しました!あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

 

山田先生が言うと、拍手が鳴る。大半の生徒は事務的にやっているが、何人かは笑みを浮かべて心の底から称賛の拍手を送っている。女子にも異性のタイプがある。基本は秋彦の様な爽やか系がモテるがデンジャラスな雰囲気を醸し出す一夏の様なワイルド系もまたモテるのだ。

 

 

「駁羅君、クラス代表就任にあたり何か一言お願いします! 」

 

「ウッス」

 

 

山田先生に言われると、一夏は立ち上がって制服を肩に羽織ってから前に出て教壇に上がる。この男、山田真耶に対してはそれなりに態度がいい。

 

 

「クラス代表になった駁羅一夏です。このクラスで一番強い男です。やることはやるしクラス対抗戦で常勝無敗してくんで応援夜露死苦お願いします」

 

 

一夏は腕を組んでふんぞり返りながら言う。再び拍手が教室内に響く。

 

 

「拍手喝采痛み入る!そしてセシリア・オルコット!今この場で前回の発言について謝罪してくれ!ちなみに異論は受け付けません」

 

「分かりました」

 

 

セシリアは真剣な表情で前に出て教壇に上がる。教師陣は止めることなくセシリアを見つめる。自身の非礼を謝るならそれに越したことはない。

 

 

「皆様……先日は、私の失言で不愉快なお気持ちを抱かせてしまったことを、この場を借りて心からお詫び申し上げます。……誠に、申し訳ございませんでした」

 

 

セシリアは深々と頭を下げる。そして、頭を上げたセシリアの佇まいから、前の鼻につく雰囲気は消え去っていた。

 

 

「今後は『代表候補生』の名の重さとそれを背負う自覚を持ち、自身の立ち振る舞いと発言を見直すと共に、この一年一組の一員である『一IS操縦者のセシリア・オルコット』としても、皆様と共にISについて深く学んでいきたいと思います」

 

 

一夏は自然と微笑みながらセシリアを見つめていた。今のセシリアは美しいと思った。今のセシリアとなら、仲良く出来そうだと心から思った。

 

 

「そして、織斑先生、山田先生」

 

 

セシリアは千冬と山田先生に向き直る。

 

 

「今後とも御指導御鞭撻の程、宜しくお願い致します」

 

 

そう告げた後に深々と一礼する。

 

 

「反省したのなら、私からは何も言わない。では、以上でSHRを終わる。今日の一、二時限目は第二グラウンドにてISの実習を行う。各人、すぐに着替えてグラウンドに集合しろ」

 

 

千冬の号令で生徒達は行動を開始する。一夏はそのままの格好で第二グラウンドに向かった。こういう時、制服とTシャツが特注のISスーツであることが便利だと、一夏は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二グラウンドー

 

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。駁羅、オルコット、織斑。まずはISを展開してみろ」

 

 

一夏とセシリアと秋彦はISを展開する。セシリアは流石は代表候補生と言った所で一夏は自宅でのISトレーニングの賜物。そして素人の秋彦、意外にも展開速度は上々。腐っても天才である。

 

 

「ふむ、三人共展開速度は言うことなしだな。では、飛んでみせろ」

 

 

千冬の言葉を聞いて三人は一斉に飛び立つ。並んで飛行する一夏とセシリアを、秋彦が追いかける形になっている。天才でもこれはダメのようだ。

 

 

「何をしている織斑。ISのスペックは三人の中で白式が一番高いのだぞ」

 

 

千冬は秋彦に言う。ちなみに無銘のスペックはブルー・ティアーズより低い為三人の中で最下位である。それなのに圧勝出来るのは、ひとえに一夏の50%の力が一般人を大きく超えているからである。

 

 

「織斑くーん。堅いこと考えずにイメージで飛びなさーい」

 

「そうですわ、御自分がやりやすい様にやるのが一番ですよ」

 

「(チッ……愚弟が調子に乗って……!)

あ、ありがとう……」

 

 

秋彦はこめかみの血管をピクつかせながらも平然を装い、セシリアのみに礼を言う。

 

 

「ーーー秋彦!いつまでそんな所にいる!早く降りてこい!!」

 

 

箒のやかましい声が更にやかましくなってグラウンド中に響き渡る。どうやら山田先生のインカムを強奪してそれに怒鳴った様子。それからすかさず千冬が出席簿チョップをかまし、箒は蹲ってしまった。

 

 

「駁羅、オルコット、織斑。次は急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表から10cmだ」

 

 

千冬が次の指示を出す。

 

 

「では、まずは私から」

 

 

先にセシリアが急降下し、ジャスト10cmで完全停止する。やはり積み上げてきた技量はある。

 

 

「おぉー、やるねぇ」

 

「次は僕がやる」

 

 

秋彦は一夏を一瞥してから急降下する。そして完全停止。地表から12cm程離れていた為ノルマ失敗である。

 

 

「ラストは俺か……っしゃあ!」

 

 

一夏は急降下し、地表から10cmの所で完全停止する。秋彦が恨めしそうな目付きで見つめてくるのに対し、一夏は爽やかスマイルで中指を立てた。こうして、一夏は秋彦に格の違いを見せつけつつIS実習にて千冬の指令を着々とこなしていった。

 

 

 

 

それから後日の事。クラス対抗戦の情報が入ってきた。優勝したクラスには学食デザートフリーパス(半年分)がプレゼントされるとのこと。

 

デザートフリーパス!

 

その甘美な言葉が一夏のやる気スイッチをONにした!

 

 

「デザートで腹一杯になりたいかぁ!?」

 

『オー!!』

 

「ワシもじゃ!ワシもじゃみんな!!」

 

 

一夏はあっという間に秋彦と箒以外のクラスメイトの心を掴んだ。

 

 

「そういえば駁羅君。二組に転校生来たらしいよ?」

 

「ほぉ……こんな中途半端な時期にか。つまりアレだな。二組の連中もデザートフリーパスの為に代表候補生辺りスカウトしてきたのかもな」

 

 

若干おかしなテンションの一夏は言う。あまりのテンションに一夏が肩に羽織っている制服が窓を閉めてる室内なのに何故かはためいていた。

 

 

「理由に関しては我々が分かることではありませんが、もし転校生が代表候補生ならば二組のクラス代表も変更になるかもしれませんわね」

 

「連中が誰であろうと蹴散らすのみだ」

 

「ーーーへぇ、なかなか言うじゃない。アンタ」

 

 

クラス一同が声の聞こえた方に視線を送る。そこには、ツインテールの少女が立っていた。

 

 

(りん)か!久し振りだな!」

 

 

秋彦がその少女に声をかける。

 

凰鈴音(ファン・リンイン)

 

秋彦のセカンド幼馴染であり、秋彦と共に一夏を虐めていた女。一夏曰く『手羽先女のちんちく鈴』である。

 

 

「久しぶりねぇ秋彦!所で、アイツ誰?」

 

「俺の名前は駁羅一夏だ」

 

「一夏……もしかして、あの出来損ないの一夏?」

 

 

鈴は一夏の顔をまじまじと見つめた後に問いかける。

 

 

「んー……まあ、そうなるかな」

 

「苗字違うけどどうしたのよ?やっと織斑の恥だって理解して絶縁した?それとも千冬さんに捨てられた?」

 

 

鈴は笑みを浮かべながら爆弾発言をする。鈴の発言を聞いて一組が騒然としだす。

 

 

「駁羅君って、織斑先生の家族だったの!?」

 

「前々から織斑君と顔が似てるとは思ってたけど兄弟だったなんて……」

 

「でも、苗字が違うし、それより織斑の恥って?」

 

「千冬様に捨てられたって、どういうこと!?」

 

 

教室に色々な疑問がけたたましく響く。その中、一夏は自分の席に座り、鈴を見つめる。無表情だが、正直(はらわた)煮え繰り返っている。

 

 

「そろそろ授業が始まるから、自分の教室に戻ってくれ。ここの担任織斑千冬だぞ。モズグス様みたいにシバくぞ、教育簿だけど」

 

「何言ってるのかは分かんないけど、そういうことなら戻るわ。あぁ〜、クラス対抗戦が楽しみだわ!」

 

 

鈴は最後まで一夏に対する嘲笑を崩すことなく教室から出て行った。

 

 

「ねぇねぇ駁羅君!あの子の言ってたことってホントなの!?」

 

「どうして苗字が違うの!?」

 

 

女子達の問い掛けに一夏は内心鬱陶しがっていたが、それは表情に出さない様にしていた。

 

 

「………」

 

 

一夏は黙して座っていた。今の一夏が口を開けば罵詈雑言の雨あられと化してしまうからだ。せっかく仲良くなったクラスメイト達にそれは是が非でも避けたい。

 

 

「もしかして……織斑先生に捨ーーー」

 

「ーーー黙りなさい!!」

 

 

女子の一人から禁句が放たれる前にセシリアが吼える。そして、セシリアの鬼気迫る表情と気迫を前に教室が静まり返る。

 

 

「駁羅さんが口を開かないということは、駁羅さんが語りたくないと思っているからです。それを察せずに根掘り葉掘りと問いかけるのは、少々無作法なのでは?」

 

 

セシリアの言葉が教室内とクラスメイトの心に響く。一夏は察してくれたセシリアに感謝していた。

 

 

「それに、もう間もなく授業が始まる時間です。早く席に着かないと、織斑先生に教育簿で指導を受けることになりますわよ?」

 

 

セシリアの言葉を聞いて一夏の周りにいた女子達は蜘蛛の子を散らす様に各自席に戻っていった。一夏は、只々セシリアに感謝の念を抱いていた。




セカン党の皆様、申し訳ございません。

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