一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、初日から喧嘩売るってよ

ー教室ー

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

教室に戻ってのんびりしてたらまるで『高貴』って感じの金髪の女が一夏の前にやって来た。

 

セシリア・オルコット。

 

イギリスの代表候補生であり今の時代の女尊男卑の風潮に染まりきってる女だ。

 

 

「……なに?」

 

「まあ!なんですの、そのお返事。(わたくし)に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」

 

「そうか……で、なに?」

 

 

一夏は態度を変えずに問いかける。

 

 

「っ……!貴方、私をバカにしてますの!?」

 

「滅相もない!で、なに?」

 

 

一夏は態度を変えずに問いかけーーー

 

「ーーー貴方ねぇっ!!」

 

 

キレ出すセシリアだがいいところでチャイムが鳴ってしまった。

 

 

「……またあとで来ますわ!」

 

「(二度と来るなカスタードコロネ)」

 

 

自分の席に向かうセシリアに一夏はさりげなく中指を立てながら心の中で毒づいた。そして教室に千冬と山田先生が入って来て、授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎていき、HRにて。

 

 

「.さて、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな。自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

 

 

千冬がそんなことを言う。ちなみに代表者は対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会の出席など、簡単に言えばクラス長みたいな役割を課せられる。一夏はそんなのそっちのけで目を閉じていた。

 

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「私も!」

 

「私は駁羅君を推薦します!」

 

 

男である秋彦と一夏は客寄せパンダ感覚で推薦される。秋彦はやる気があるみたいだが一夏は我関せずと言った態度で目を閉じていた。

 

 

「……オイ、駁羅。聞いてたか?」

 

「えっ?あぁ、そうですね。やっぱり十二が一番使ってて爽快ですよね。何のゲームやってるのか分からなくなるけど」

 

「誰もそんな事聞いていない!!」

 

 

一夏の答えに千冬が怒鳴りながら出席簿チョップをかます。そりゃそうだ。クラス代表について聞いてるのに返って来る言葉が某銃墓過剰摂取(最高のバカゲー)についての話なのだから。

 

 

「ジョークですよー。んで、クラス代表でしたよね?お断り出来ませんか?」

 

「拒否権はない。選ばれた以上、覚悟しろ」

 

「横暴なそのやり方を、駁羅一夏は許さない」

 

「黙れ!」

 

 

キメ顔で言う一夏に再び千冬が出席簿チョップ。実に楽しんでいる一夏であった。

 

 

「ーーー待ってください!そのような選出は認められません!!」

 

 

セシリアが立ち上がり、机を叩きながら吠える。

 

 

「大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!実力から行けば私がクラス代表になるのは必然!!」

 

 

セシリアの発言に秋彦はムカついている。一夏は他人事のように振る舞い、ムカついてる秋彦を見てニヤニヤと笑っていた。

 

 

「私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであってサーカスをする気は毛頭ございませんわ!いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき。そしてそれはイギリスの代表候補生にして入試首席のこの私セシリア・オルコット以外ありえませんわ!!それを物珍しいからという理由で極東の猿を推薦!?この私にそんな屈辱を味わえとおっしゃるのですか!?第一、このような後進的な島国で暮らすこと自体が私には苦痛ですのに!……」

 

「(よくもまあこんなにペラペラと……)」

 

 

未だに長々と御弁舌を振るうセシリアから視線を外し、若干ウンザリしながら周りを見る。ジャパニーズはただいま怒り心頭中。そしてこのクラス、見事にジャパニーズばっかりである。そして担任と副担任もジャパニーズである。

 

 

「(空気読めないのはきっとイギリスの飯のせいだ。イギリスの不味い飯ばっか食ってるから脳をやられてるんだ。イギリス料理おっかねぇ)

あのー、発言いいですか?」

 

 

流石にウンザリしてきた一夏は席に座ったまま挙手する。セシリアの弁舌が止まり、一夏を睨む。

 

 

「えっとー……確か、ヘルニア・コルセットさんだよね?」

 

「セシリア・オルコットですわっ!!セシリア!!オルコット!!」

 

「あ、すいません。で、オルコットさん。御自分が何を言ったのか分かってます?」

 

「……どういうことですの?」

 

「イギリスの代表候補生であるオルコットさんの発言はすなわちイギリスの発言と捉えられます。そして先程のオルコットさんの発言を聞いてると、イギリスが日本に喧嘩売ってるとしか思えないんですがその辺はどうなの?」

 

 

一夏の発言にセシリアは我に返る。さりげなく周りを見ると他の生徒達は皆セシリアを睨んでいる。そして、千冬の鋭い視線が身体に突き刺さる。この状況で発言を撤回し、頭を下げれば事態はそれなりに鎮静化しただろうが、セシリア・オルコットは違った。

 

 

「駁羅一夏……よくも私に恥をかかせましたわね!?」

 

「(どこをどうしたらそんな結論に辿り着くの?)

自分で恥かいてそれ?頭大丈夫?美味しいもの食ってる?」

 

「黙りなさい!男のくせに!」

 

 

セシリアは顔を真っ赤にして一夏を非難する。しかし一夏は頬杖をついてそれを聞き流す。だがその時、セシリアのある言葉が一夏の耳に入った。

 

 

「ハン!この屑の親を見てみたいですわ。屑な男の親なのだから、きっと余程の屑なのでしょう」

 

 

その瞬間、一夏がセシリアを見つめた。殺意がこもっているがあくまで『見つめた』だけである。只それだけで、セシリアは蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなってしまった。あの織斑千冬さえも、教室に充満する殺気によって身動きがとれなかった。

 

 

「……分かった。アンタがそこまで言うなら、クラス代表の候補同士で総当たり戦でもするか。で、だ。ハンデつけてやろうか?」

 

 

一夏に見つめられるセシリアは口を開けなかった。他の生徒達は内心『男が強かったのは昔の話』『代表候補生には勝てない』などと思っているが、一夏の殺気を前に実戦経験のない生徒達の考えは変わった。

 

『駁羅一夏なら、セシリア・オルコットを倒してしまう』と。

『ハンデをつけなきゃセシリアに勝ち目はない』と。

 

 

「け……結構、ですわ」

 

「そうか……じゃ、ということで織斑先生。アリーナって空いてます?」

 

「ッ!……いや、今は空いていない。来週の月曜の放課後になら第三アリーナが使える」

 

 

一夏に声をかけられてから千冬は我に返り、話す。

 

 

「じゃあその日に勝負ってことで」

 

 

来週の月曜日、一夏とセシリア、ついでに秋彦の総当たり戦が開催されることになった。そして、セシリアの弁舌で長引いたHRはやっと終わりを迎えた。

 

 

「さてと……今日もむらまさカンスト目指して返り血を浴びまくるかな」

 

 

一夏は早々に帰ってゲームをやろうと思っていたら、千冬が一夏の視界に入った。その瞬間、一夏の考えは変わった。

 

 

「織斑先生。ちょっとお話があるんですけど」

 

「……分かった。ついて来い」

 

 

一夏は千冬と共に歩き出した。.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー生徒指導室ー

 

一夏が入ったのを確認してから千冬は鍵を閉める。一夏は椅子に座り、踏ん反り返りながら千冬を見つめる。

 

 

「……本当に、久し振りですね。織斑先生」

 

「今は、先生じゃなくていい」

 

「分かりました、織斑さん」

 

 

一夏の敬語と苗字呼びに千冬の表情が暗くなる。

 

 

「もう……、姉とは呼んでくれないのか?」

 

「無理。だって束姉が親父に依頼してくれなかったら、織斑一夏は額に穴の空いたホトケになる所だったんだよ?それに、いい加減あの家には愛想尽きてたし」

 

 

淡々と言う一夏を千冬は目に涙を浮かべる。

 

 

「いつもアンタ達と比べられて周りには『出来損ない』と言われた」

 

「…………」

 

「そして、貴女がブリュンヒルデになってから『織斑の付属品』とか『織斑の恥』って呼ばれるようになった。でもな、こんな風に言われてる俺だけど成績は優秀だったんだぜ?まあ、織斑家は過激なお受験ママならぬお受験姉がいたから満点以外は赤点同然の扱いだったけど」

 

「…………」

 

「でもな、感謝はしてる。厳しい御言葉ばかりで褒められたことはないけど、俺にも飯は食わせてくれたし学費だって出してくれた。感謝してるよ。金銭面は。だから、ここで言わせてくれ」

 

 

一夏はそう言ってから立ち上がる。既に千冬や秋彦を見下ろせる程になった。

 

 

「千冬姉。俺に飯を食わせてくれてありがとう。俺の分の学費を出してくれてありがとう。そしてーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー誘拐事件の時に助けに来てくれなくてありがとう!」

 

 

飛び切りの笑顔を浮かべて一夏は言う。この言葉を聞いた瞬間に、千冬は肩を震わせながら涙を流す。あの時、千冬は一夏が誘拐されたことを知らなかった。大会二連覇後に一夏が誘拐されたことを知ったのだ。もし決勝戦前にそのことを知ることが出来たら、千冬は決勝戦なんてそっちのけで助けに行っただろう。だが、今目の前にいる一夏は、助けたかった弟は、『助けに来てくれなくてありがとう』と言った。その一言は、世界最強の女である織斑千冬の心に深い傷を遺した。

 

 

「んじゃ、俺はもう行くよ。言いたいことは言えたし。ではまた明日。織斑先生」

 

 

一夏は涙を流す千冬の横を通って生徒指導室から出て行った。千冬は一人、声を押し殺して泣いていた。そして、一夏は廊下で立ち止まり、考えた。

 

 

「……自分でも驚くねぇ、全く」

 

 

自分がここまで無関心になれるとは、と。かつての姉が涙を流しても、何とも感じない。何の感情も湧かない。

 

 

「(束姉の悪い所が移ったんだな、きっと。さーて、帰ってゲームやろうっと)」

 

 

一夏は自覚しつつもすぐに思考を変えて、再び廊下を歩き出した。


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