一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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ありがとナス!


鈴、躍進するってよ

中国の寂れたアパート。その内の一室には、地下に広い部屋が存在する。そこの住人である天才科学者碧埜禎影が技術を無駄遣いして地下を掘り、制作したのだ。そこの部屋にて、鈴は禎影に飛びかかり蹴りを見舞う。が、禎影は何食わぬ顔で避けていた。

 

 

「それじゃあ俺に掠りもしないぞ。もっと筋肉を躍動させろ」

 

「は、はい!」

 

 

淡々と言う禎影に、鈴は返事を返す。ちなみに、今の鈴のチアガールの衣装を身に纏って打撃を振るっている。禎影の指導にて、『動きやすい服装』として渡されたのだ。最初は恥ずかしがっていたが最近慣れてきた模様。

 

 

「よし、訓練はここまでだ」

 

 

禎影の一言で鈴は行動を止める。

 

 

「う〜……今日もダメだった」

 

 

禎影と出会った日から日々訓練を重ねているお陰で身体能力は更に高くなった。だが、禎影に未だ一発も当てていない鈴は自分が果たしてどの領域に至っているのかわからなかった。

 

 

「昼飯を食おう、りんにゃん」

 

「……ハイにゃん」

 

 

最早りんにゃんと呼ばれることに慣れた鈴は自棄になった風に言い、禎影と共に上の部屋に出る。そして、鈴は炒飯を作り、二人で食べる。食事当番は、禎影の助手となっている鈴が担当する。

 

 

「禎影さん……あたし、ホントに強くなってるんですか?」

 

「当たり前だ。一夏は二年でISを生身で破壊出来るようになった。ならば、りんにゃんは一年でIS破壊を目指すぞ」

 

「えぇ!?」

 

 

禎影の無理難題に思わず声を上げる鈴。禎影はそれを気にも留めず炒飯を平らげ、皿をテーブルの隅に退かしてノートパソコンを置き、開いて操作を始めながら口を開く。

 

 

「大丈夫だ、俺が教えるんだから。お前だって一夏と織斑兄に早く会いたいだろう?」

 

「それはもちろんです!

(不安しか感じないけど……やるしかないわね!)」

 

「その意気や良し」

 

 

二人が話していると、禎影の携帯から法螺貝の音が鳴り響く。禎影は携帯を取り出し、電話に出る。その際にスピーカーをオンにしてテーブルに置く。やってることがかつての一夏と一緒である。

 

 

『もしもし、キモヲタ?俺だ』

 

 

スピーカーから声が響く。初っ端から暴言である。

 

 

「よぉ、クソチンピラ。もしかしてアレか?銀の福音の暴走のことか?」

 

 

それに対して同レベルの暴言で返しながらパソコンを操作している禎影。

 

 

『おっ、よく分かったなぁ。そう、そのプログラムを仕込んだ馬鹿を特定して欲しいんだ、今すぐに』

 

「……日本政府の連中だ。アメリカ政府にも何人か送り込んでる」

 

『うん。うん』

 

「女尊男卑主義者が『男の分際でIS乗るのが気に食わない』って理由で起こしたしょうもない事件だ。織斑秋彦には織斑千冬という後ろ盾がいるが一夏にはいない。だから一夏を狙った。他の連中は一夏の死体が欲しかったから黙認。理由は察しろ」

 

「!?」

 

 

鈴は禎影の言葉に反応した。何故秋彦と一夏の名が出てきたのか。鈴は黙して禎影を見つめている。

 

 

『あぁ〜。はいはいはい……分かった。サンキューな。じゃあな』

 

「おう」

 

 

通話が終わり、禎影は携帯を仕舞って再びノートパソコンを操作し、畳んでそれを持ちながら立ち上がる。

 

 

「禎影さん……秋彦と一夏の名前が出てきたんですけど、今の話はなんですか?」

 

 

鈴の問いかけに禎影は淡々と語る。臨海学校にて一夏と秋彦が銀の福音と戦ったこと。銀の福音の暴走は仕組まれていたことを。

 

 

「……そんなことがあったんだ」

 

「ああ。そして今現在、ウチのドチンピラリーダーが日本政府とアメリカ政府の本部にカチ込みかけてる。となると、死体と情報の後処理で俺が出張らなきゃいけない。俺がいない間は自由に過ごしててくれ」

 

「はぁい」

 

「あ、そうだ。りんにゃんサイズのメイド服を作ったからサイズが合うか試着だけしておいてくれ」

 

「わ、わかりました……」

 

 

禎影はそう言い、出て行った。鈴はそれを見届けてから立ち上がる。その視線の先には、コスプレ部屋がある。

 

 

「……そう。これはあくまで試着。そう、試着よ試着。禎影さんがわざわざ作ってくれたんだからサイズが合ってないとアレだもんね、うん」

 

 

鈴は自分に言い聞かせるように言いながらコスプレ部屋に入る。そして、置いてあるメイド服を見る。黒の長袖ロンスカタイプに白いリボン、白いカチューシャ、白いオーバーニーソックス。そして御約束の猫耳&猫しっぽ。

 

更に、ピンクの縞柄の下着まで置かれていた。碧埜禎影、やはり変態。

 

鈴は服と下着を脱ぎ、手慣れた様子で下着を着用、メイド服を着てリボンをチェンジ、カチューシャを装備、ニーソを履き、ラストに猫耳としっぽを装備する。

 

 

「……ど、どうかな?」

 

 

りんにゃんは大型スタンドミラーの前に行き、自分の姿を見る。

 

 

「け、結構いいかも……えへへ」

 

 

りんにゃんは楽しんでるようだ。

 

 

「…………にゃん」

 

 

りんにゃんは両手を猫の手にして言う。非常に楽しんでるようだ。

 

 

「……にゃんにゃん!」

 

 

可愛らしく小首を傾げながら笑顔で言うりんにゃん。とてつもなく楽しんでるようだ。

 

 

「……おかえりにゃさいませ、御主人様♪」

 

「ーーーた だ い ま」

 

「にゃあぁぁあぁああッ!!?」

 

 

背後から声が聞こえ、振り向くりんにゃん。そこには、禎影が立っていた。

 

 

「あ、後処理があるんじゃ……」

 

「ああ、あった。予想より遥かに早く終わったからりんにゃんが試着しているタイミングを予想して帰ってきた。そしたら予想以上の姿が見れた。有難う、りんにゃん」

 

「うぅ〜……」

 

 

りんにゃん顔真っ赤です誠にご馳走様でした。

 

 

「それと、すぐ出るぞ。コレを装備してくれ」

 

「え゙っ」

 

 

そんなりんにゃんに禎影は顔の上半分を隠す白いファントムマスクを渡す。これにはりんにゃん苦笑い。

 

 

「近くの銀行で男三人組が重火器持って立てこもってる。それで顔を隠して、鈴が如何程の腕前になったか犯罪者相手に実戦と参ろう」

 

「いぃ、いきなりですか!?」

 

「心配するな。そのメイド服とマスクは特別製だ。防弾防刃機能が付いてる。それに今のりんにゃんならそこらの犯罪者如きそれを着てない生身でも叩き伏せることが出来る。だから素手喧嘩(ステゴロ)で往くぞ。さぁ征くぞ」

 

「えぇ〜!?ちょ、担がないで〜!自分で歩きますからぁ〜!!」

 

 

禎影は叫ぶ鈴に目もくれず肩に担いで靴を履かせ、アパートから出て銀行に向かった。余談だが、禎影は青一色の目と耳のみ露出しているゴム製(スケ○○)マスクを被っている。端から見たら『なにこの変態タッグ』と言われること請け合いである。だが、禎影は意に介さず進み、銀行に辿り着く。既に警官隊が駆け付け、封鎖している。その周りには野次馬だらけである。その野次馬達の外に禎影とりんにゃんは立っていた。

 

 

「……どうするんですか?禎影さん」

 

「今の俺はス○○ヨブルーだ。作戦内容はこうだ。ベルキャット(りんにゃん)が銀行内で強盗をぶっちめる。終わり」

 

「あたし一人ですか!?」

 

「案ずるな。もしもの時は俺がVERSUSばりのアクションで叩きのめす」

 

「よりによってあのB級!?」

 

「お気に召さないか?ならば、トム・ヤム・クン!宜しくシャム拳法(古式ムエタイ)の関節技でへし折ってやる」

 

「○○キヨブルーさん映画の見過ぎ!!」

 

「さぁ、行くぞ。蹴り飛ばすから良い具合に乗れ」

 

「あぁ〜ん!もぉどうにでもなれぇ!!」

 

 

構える禎影の前にりんにゃんが立つ。そして、禎影のキックに合わせてりんにゃんは跳び、両脚で禎影の蹴りに乗り、飛翔する。その時禎影は、ロングスカートの中に隠されたピンクの縞パンを履いた小ぶりの臀部、白のオーバーニーソと縞パンの間にある健康的な太腿を網膜に焼き付けた。

 

 

「律儀に着てくれたりんにゃんはやはり良い子だな」

 

 

しみじみと思いながらその場から動かずにいる変態ブルーであった。

 

その頃メイド服を纏ったツインテ白仮面のりんにゃんは、野次馬と警官隊の封鎖を飛び越えて銀行の窓ガラスにドロップキックを叩き込む。今のご時世強化ガラスにしてあった筈なのに、さながら映画に使う飴細工のようにガラスは割れ、その勢いで銀行内に飛び込んだ。

 

 

「な、なんだァ!?」

 

 

中の男三人が鈴の方を向き、男共は銃を構える。鈴はそれらを冷静に見つめる。

 

 

「(……大丈夫。このメイド服なら受けても問題はないって言ってたし)」

 

 

鈴は一度深呼吸してから地面を蹴り、一人の男の懐に入り込む。鈴の身長の低さも合わさり、男の視点からは鈴はその場から消えたように見えたことだろう。

 

 

「ッラァ!」

 

 

そこから鈴は右脚を思い切り振り上げる。右脚が上り詰める先にあるのは、男の股座。男が鈴の声に反応し、下を向く間も無く、その右脚は男の股座を蹴り上げた。

 

 

「アァァァアァッ!!!!」

 

 

男は絶叫し、顔から涙、汗、鼻水、涎等出せるだけの液体を流しながら股間部を両手で押さえ、倒れ込む。鈴は右脚に感じた柔らかいものを潰した感覚に嫌悪しながらも、すぐ様二人目の男の下に駆ける。

 

 

「うっ、うおぉ!!」

 

 

残りの男二人は目の前の惨状に思わず身震いするがすぐ様我に返り、銃を放つ。だが、鉛弾は鈴に当たることなく地面に当たる。

 

 

「二人ィッ!」

 

 

鈴はスライディングでもう一人の男の真下を潜る。その際に右脚で男の股座に前蹴りを叩き込んでから男の背後にて立つ。今度は靴の裏でやった為感覚は伝わらなかった。

 

 

「ギィイイィッ!?!?」

 

 

男は銃を落とし、先程の男と同じように股間部を押さえながら倒れる。

 

 

「う、動くんじゃねぇ!!」

 

 

ここに来てラスト一名、お約束と言わんばかりに銀行員を人質に取る。鈴はそれを無表情で見据える。

 

 

「(……イケる)」

 

 

鈴は敢えて、ゆっくりと一歩踏み出した。男は怯えていた。他者にそれを向け、人差し指で引き金を引けば容易く命を奪える銃を持っているのに、人質を取っているのにも関わらず。絶対的に有利な状況が、彼を追い詰めた。

 

 

「来っ、来るなぁ……!来るなぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

男は目の前の鈴に恐怖を抱き、その恐怖を撃とうとする。銃が人質から鈴に向いた瞬間に、鈴は消えた。

 

 

「ーーーこっちよ、バカ」

 

 

鈴の声が男の上方から響く。男が見上げた先には、銃を向ける男の右腕に立ち、マスク越しに冷たい視線を送る鈴がいた。

 

 

「ラストォ!」

 

 

鈴の右前蹴りが、男の顔面に突き刺さる。人質と銃を手放し、後方に倒れる男。鈴は顔面に打ち込んだ右脚でバランスをとり、倒れた男の顔面にて片足立ちをしていた。

 

 

「……あっけない」

 

 

鈴は呟いた後に男の顔面から降りる。

 

 

 

 

 

そして、男の両足を掴んで開く。

 

 

「ぁ……ぁあっ!?」

 

「当たり前だけど、銀行強盗は犯罪。そして、見ず知らずの他人に拳銃突きつけるのは人としてダメな行為よ」

 

「い、イヤだぁ!それは、それはイヤだぁ!」

 

「ケジメはしっかりつけてにゃん♪

 

ーーー御主人様ァ!!」

 

 

男の股間部に、りんにゃんの右スタンプがクリーンヒットした。

 

 

「ギャアァァァァァアァァァッ!?!?」

 

 

男はあらん限りの声を張り上げ、意識を失った……股間部を赤く染めながら。実に過激な御仕置きである。

 

 

「あぁ、ありがとうございます!」

 

「………」

 

 

鈴は無言のまま銀行員に軽く手を振ってから走り出し、素早く外に出る。警官隊と野次馬の群衆の中に低身長で紛れ込み、間を潜り抜けて外に出ると、禎影がその場で待っていた。

 

 

「待っていたぞ、ベルキャット」

 

「もしかして……ずっと外にいました?」

 

「決まってるだろう?ベルキャットならあの程度余裕で捻るのは容易。俺の助けはいらないのは目に見えていた」

 

 

鈴は何か言いたげだったが禎影には無駄と即判断し、一度だけ溜め息をついた。

 

 

「さて、早々に引き上げるぞ。話はそれからだ」

 

「は〜い」

 

 

鈴は禎影と共にアパートに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?どうでした?」

 

「……どうでしたって?」

 

 

アパートにて、鈴はマスクを取ってメイド服のまま禎影に問いかけ、禎影はそれにわざとらしく返す。

 

 

「禎影さんならマスクにでもカメラ仕込んで中の様子見てたはずです」

 

「よく分かったな。流石は我がフェイバリットメイド」

 

「……それで?どうでした?」

 

「実に良かった。鈴は元の能力が高い。特に動体視力が。だからこの短期間の修行、特訓、訓練であそこまでの物になった。はっきり言うと、一夏より筋が良い」

 

「ホントですか!?」

 

 

鈴は禎影の言葉に驚いた。あの化物じみた一夏より筋が良いと言われた。つまり、一夏に追いつける日も近いと鈴は思った。

 

 

「だが、今の鈴は一夏に遠く及ばない。だから、今後は俺の仕事にも付き添って貰う。人死にがあるから精神的にクる事もあるが、それを克服して経験を積み、更に己を磨け」

 

「はいっ!」

 

 

禎影の言葉に鈴は元気良く返事した。自分が如何程に成長出来たのかを実感出来、今後は更に躍進出来るチャンスを得た鈴は心を躍らせるのだった。

 

 

「因みに、仕事の際はベルキャットとして扱うから。最低でも猫耳しっぽとマスク着用しておくべし」

 

「……は〜い」

 

 

躍っていた心が静止したベルキャットであった。




おまけ

「あの、禎影さん」

「どうした?」

「メイド服はサイズ合ってました。それで、どうでした?その……似合って、ますか?」


鈴は頬を赤らめながら照れ臭そうに問いかける。禎影はいつもの無表情を崩さずに鈴を舐め回すように見つめて口を開く。


「ああ、似合っている」

「そ、そうですか!それなら、良いです!はい!」


りんにゃんは嬉しそうに言う。コスプレイヤー特有の何かが芽生え始めている御様子。


「ミニスカも良かったがここは敢えてロングにした。ロングだからこそニーソと縞パン、そしてその間に存在する健康的なふとももが映えると俺は思っている」

「……もしかして、あたしを銀行に蹴っ飛ばした時見てました?」

「御馳走様でした」

「……変態!!変態!!ド変態!!」

「りんにゃん、そのセリフも御馳走様」

「うにゃあああっ!!御主人様のバカァ!」


凰鈴音、毒されたってよ。

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