ー海ー
夜、頭と両腕に包帯を巻いた一夏は岩場に座っていた。水着姿に、アロハシャツを羽織って。蒸し暑さに耐え切れず、外に涼みに来たのだ。
「ハァ……今日の晩飯は憂鬱だった。口の中鉄の味しかしないし、味噌汁沁みるし」
一夏は海を眺めながら一人呟く。そこに、後ろから何者かが歩み寄ってくるのを感じ取った一夏は即座に振り向く。
水着を着たセシリアがそこにいた。一夏が外に出たのを見ていたセシリアはここぞとばかりに自分の武器であるプロポーションを利用することにしたのだ。
「よっ、セシリア。お前も泳ぎに来たのか?」
「ええ。……お隣、宜しいですか?」
「おう」
セシリアが一夏の隣に座る。二人は暫く言葉を交わさずに海を眺めている。やがて、夜風の冷たさにセシリアは身体を震わす。それを見た一夏は自分のアロハシャツを脱ぎ、セシリアの肩にかける。
「ありがとうございます、一夏さん」
「風邪ひいちまったら、大変だからな。俺は大丈夫だ。うん、大丈夫」
微笑みながら言うセシリアに、一夏は少し素っ気なく返す。やはり、セシリアの水着姿は思春期の一夏には少々破壊力が高め。セシリアは自分の作戦が上手く行ったことに心の中でガッツポーズを決める。そして、いよいよ行動を開始した。
「……一夏さん。お話があります」
「な、なんだ?」
少し頬を赤く染めながら上目遣いで見つめるセシリアに、一夏の心拍数は上昇していく。
「また今日のようなことが起こり、もしものことがあったら嫌ですのでこの場でハッキリと言います。私、セシリア・オルコットは、駁羅一夏さんをお慕い申し上げております」
「………………」
一夏は頬を赤らめ、セシリアを黙って見つめる。暫く無言のまま見つめ合う二人。それから一夏が口を開く。
「セシリア……俺はさ、親父譲りのワガママ野郎だ。俺が欲しいと思ったモノや人は必ず手に入れないと気が済まないタチだ。そして、そんなワガママな俺が心底大事にしてやりたい人もいる……それでも、それでも俺は、お前が欲しい。それでもいいか?」
「貴方が大事にしたいと仰る御方なら、それは素晴らしい御方なのでしょう。その御方と共に一夏さんに愛されるなら私は本望ですし、私自身は、そんな一夏さんも愛してます」
セシリアは微笑みを浮かべながら一夏に言う。一夏のことは分かってる。一夏が心底大事にしてやりたい人とは、あの人のことだとセシリアは理解している。
「……セシリア!」
「きゃっ!」
それを言った瞬間、一夏はセシリアを抱き寄せる。突然のことで動揺するセシリアだが、顔を真っ赤にしながらも身を委ね、肩にかけたアロハシャツ越しに伝わる一夏の体温、そして逞しい胸板と両腕の感触を感じた。
「……愛してる」
「はい……」
「絶対、幸せにする」
「はい……!」
一夏の言葉を聞いて、セシリアは満面の笑みを浮かべながら一夏の背中に手を回した。
そして、二人は見つめ合う。月の光に照らされるお互いの顔。
ゆっくりと、距離が近付く。
二人の唇はゆるりと、
重なーーー
「ーーーちょーっと待ったぁー!!」
「うおぉっ!?」
「きゃあぁっ!?」
何者かの叫びに二人の唇の距離は離れる。そして、声をした方を向く。
「いっくんの唇は、わたしが頂くのだー!!」
そこには、完璧にして十全な存在にして誰が呼んだか『一夏の正妻』の篠ノ之束がいた。
「束姉!?なんでここに!?」
「いっくんとイチャイチャハグハグしにわざわざやってきたのだ!と、言うことで……」
束は自分の着ているエプロンドレスに手をかけ、それを某極道ヒートアクションアドベンチャーのキャラクターの如く脱ぎ捨てた。
そこには、純白のビキニを纏った束がいた。実にボンとしてキュッとしており再びボンとしている。正にPerfect bodyである。
「(な、なんですのアレは!!?プロポーションでは勝ち目が無いのは分かっておりましたが、肌のハリでも負けているなんてッ!!)」
「
束の水着姿は初見の一夏。満面の笑みを浮かべてハイテンションで歓喜の声を張り上げた。束は誇らしげな表情を浮かべてから一夏に近付き、目の前で四つん這いになり、谷間を強調させながら顔を近付ける。
「いっくん……ちゅー、しよ?」
束は少し頬を赤らめながら眠たげな眼で見つめ、言う。一夏は首から上を真っ赤にしながら固唾を飲む。普段の束ならともかく目の前にいる束は水着姿。色気が何時もの数倍を誇り、流石の一夏もこれにはタジタジ。
「一夏さん……私と、キスをしてください」
だが隣にいるセシリアも負けていない。セシリアは一夏にかけてもらったアロハシャツを肩から下ろしながら頬を赤らめたまま切なげな表情を浮かべて一夏に詰め寄る。
「(ヤバい……ヤバいヤバい……!束姉は視覚で攻めてきやがった!!もうキスしたい!それはそれはディープに!!フレンチに!!だがしかし、今この場にはセシリアもいる!俺はセシリアのことも愛おしい!この暑さに負けないような熱いキッスをしたいと思うくらいに!……どうすりゃいいんだぁ!?)」
一夏の頭はショート寸前まで追い込まれていた。
「うぅ〜……いっくん!わたしとちゅーしてよぉ〜!」
「いいえ、一夏さん!私とお願いします!」
二人の美女が一夏の両腕に抱きつく。俗に言う両手に花状態。女性特有の柔肌が、一夏の皮膚に触れ、一夏の理性にダイレクトアタックを仕掛ける。
「セッシーちゃん!ここは年功序列で、わたしがちゅーするの!」
「いいえ!束さんのことは尊敬していますし、一夏さんとの絆も深いでしょう……ですが!これは譲れません!一夏さんのキスは、私が頂きますわ!」
二人は一夏を間に挟んで言い合う。二人の胸が、一夏の両腕を挟む。一夏はこの柔らかさに、気を失いそうになりながらも酔いしれている。
「(柔らかいな……柔軟剤、使ってる?)」
一夏に目もくれず口論している二人を見て、やがて一夏は現実逃避を始めた。だが、現実は止まらない。二人の口論は収まることを知らない。
その時、一夏の脳裏にある男の姿が過る。
駁羅尋稀……一夏が尊敬している血の繋がっていない父。かなり大人気ない時もあるしチンピラに見える時もあるが基本的にカリスマ全開で時に冷静時に豪快なあの父なら、この状況はどう切り抜けるだろうか……。
「(親父なら……きっと、親父ならこうするだろう)」
一夏は答えに辿り着いた。そして、すぐに行動に移った。
一夏は束の方を向き、喋っている束の口を己の口で塞いだ。
「んっ!……ん、ぁ、ぁう……」
そのまま深く、深く、束を犯していく。そして、ゆっくりと唇を離すと、束は顔を赤くして止まった。それからすかさず一夏はセシリアの唇に、己の唇を重ねた。
「んぅ!ふぁ……ん、ぅうん……!」
セシリアの柔らかい唇を舌でこじ開け、半ば無理矢理に犯していく。そして、ゆっくりと唇を離すと、セシリアも束と同じ状態になった。その後、一夏は二人の拘束から腕を抜き、二人の腰に手を回して抱き寄せる。
「二人共……黙って俺の嫁に来い!」
一夏は真剣な表情で言い放った。それを見た束とセシリアは、微笑みを浮かべて一夏に抱きつく。
「はいっ!」
「うんっ!」
場は収束した。だが、勢いで行動した一夏の精神は限界を突破していた。
「ぬわぁ〜!!恥ずかしいぃぃぃぃぃーッッ!!!!」
「きゃっ!?」
「いっくん!?」
一夏は叫びながら二人を振り切る。
そこから腕を組み、前傾態勢をとりつつ胸を張り、物凄い速度でさながら刻むようなステップで海に向かって走る。
この間、約0.1秒!
更に、岩場から跳んで海に飛び込む!
かと思ったらなんと一夏は海面を走った!車よりも、新幹線よりも、ジェット機よりも、ISよりも、早く、速く、疾く、走っていった!
「い、一夏さぁぁぁぁん!?!?」
「いっくぅぅぅぅぅん!カァム、バァーック!!」
あっという間に見えない所まで走り去った一夏に二人は叫んだ。
「束さん、私ちょっと迎えに行ってきますわ!」
「お願いセッシーちゃん!」
セシリアはISを展開し、速度全開で空を飛んでいった。それから一夏はそこから数百Km離れた島で頭を冷やし、迎えに来たセシリアにしがみついて旅館へと帰ってきたのだった。
そして、臨海学校最終日。バスに乗り込む一組のクラスメイト達。一夏と秋彦は隣同士の席に座るが、二人の表情はどことなく暗い。
「……しょげんなよ、秋彦」
「ああ……分かってる」
銀の福音暴走事件の後、箒はIS学園退学処分を受け、その身柄を政府に拘束されることになって旅館から一人連れて行かれたのだ。最早、会える見込みはない。
「……まあよ、今の汚い世の中なら口封じに殺られることもあるから生きていられるだけ幸せだ。まあ、お前は辛いかも知れないがな」
「……箒とは、別れた」
「……マジで?」
一夏は驚いた。かつてボンクラカップルと呼んでやった二人が別れたのは流石の一夏も予想外だった。
「ああ。正直な話、今の状態で関係を続けるくらいならお互い離れた方がお互いの為になると思った。だが、それが箒と最後に話したことだと考えると、少しきつい」
「……そうか」
一夏は深くは聞かなかった。二人が別れ話が箒との今生の別れだとすると、秋彦の心情は複雑だろう。
「では、出発するぞ」
千冬の号令でバスが走り出す。一夏は景色を眺めながら考える。
「(あの時、気紛れでIS学園に行きたいって考えてなきゃ、今のこの状況は無かったのかな……?)」
IS学園に来てからのことを振り返る。
千冬と仲直りした。
鈴とは憎み合いながらも分かり合えた。
秋彦とも、今では気楽に闘り合える仲となった。
セシリアと出会い、恋人となれた。
シャルロットと出会い、ファミリィになれた。
ラウラと出会い、親友となれた。
一夏は微笑みを浮かべてから、口を開く。
「秋彦。俺寝るわ」
「……しょうがない。着いたら起こしてやる」
「ありがとさん、マイブラザー」
一夏は笑顔のまま腕を組んで、ゆっくりと目を閉じた。
「(束姉の作ったISは、世の中を狂わせた。だから、俺は束姉は好きだったがISは好きじゃなかった。女尊男卑となった原因だし、世間では最強の兵器とか謳ってるが俺が素手で殴り壊せる程度のモノだし。だが、そのISがあったから俺の今の青春がある。そう考えると……)」
一夏はゆっくりと、睡魔に身を委ねながら心の中で呟いた。
ーーーISも、悪くねぇや。
これにて、この妄想
『一夏、織斑捨てたってよ』は
終わりです。
正直な話、
妄想とその場のテンションで書いている上
このように皆様方の視界に入るように
書くのは初めての経験だったので
途中エタると思っていましたが、
感想にて激励の御言葉を頂き
こうしてメインストーリー『は』
書き切ることが出来ました次第です。
以降は番外編として
色々思いつき次第書こうと思いますし、
ISでまた一つ
妄想を書こうかとも考えています。
これからもどうか、
お暇な時にでも
アホな私の書く妄想を
視界に入れてやって
あわよくば鼻で笑ってやってください。