ーゲームセンターー
一夏が織斑を捨て、駁羅の姓になってから月日が流れた。現在一夏は中学からの悪友五反田弾と共に格ゲーで対戦していた。一夏は弾に感謝していた。一夏の家庭事情をそれなりに知っていた弾は一夏の姓が駁羅に変わっても、中学が変わっても、弾は変わらず友として接してくれた。一夏はかけがえのない友に感謝しながらその友を格ゲーでボコボコに叩きのめした。勝負の世界に情けはないんです。ハイ。
「よぉし!俺の勝ち!昼メシ弾の奢りな!」
「マジかぁー!あんま高いのは無しな?」
「分かってるって。ハンバーガーでも食い行こうぜ」
一夏と弾は席を立とうとした瞬間。
「ーーーテメェなめてんのかオラァ!!」
店内に響き渡る怒鳴り声。その声の方には、小学高学年程の少年に絡む高校生四人の姿があった。どうやら格ゲーで少年に負けた高校生が絡んでるようだ。みっともない。
「ちっと強ぇからって調子乗ってんじゃねぇよ!表出ろ!歳上に対する礼儀教えてやっからよぉ!!」
「ボクちゃんカワイソー!でも、オレ等のこと舐めてるみたいだししょうがないっか!」
取り巻きの下卑た笑い声と小学生の頭を小突くバカ。それを見た瞬間一夏と弾は歩き出していた。
「オイ」
「アァ?なんだテーーーいでででででッ!!」
一夏は有無を言わさず主犯格の耳を引っ張る。そして空いた手でもう一人の耳も引っ張る。
「お前等、表出ろ」
一夏は痛い痛いと騒ぐ不良に簡潔に言うとそのまま店の外に引っ張っていった。
「お前等もな!」
弾は残った二人の頭を鷲掴み、一夏に続いて外に出て行く。一夏と弾は二人揃ってバカ共を放す。その瞬間不良共は血相を変える。
「テメェこの野郎ッ!!」
顔を猿の様に赤くして殴りかかる主犯格。だが、一夏の拳が先に頬を打ち抜き、主犯格のバカは殴りかかる態勢のままその場に倒れた。三人の取り巻きは一夏の強さに怯え、動きが止まる。普通ならこれで三人の不良にも小学生に詫びをいれさせてめでたしめでたしかも知れないが、一夏は違った。
駁羅尋稀の息子として、駁羅尋稀に追いつこうとしてトレーニングを重ね、駁羅尋稀の人となりを吸収した一夏は、倒れた不良にストンピングを連打で叩き込んだ。
「小学生相手にムキになって何が歳上だコラァ!精神年齢幼稚園児か!壊れたテレビ感覚で叩き直すぞコラァ!」
一夏はそう叫びながらストンピングを叩き込み続ける。神奈川県川崎市在住の某ヒーローを彷彿とさせるその姿は確実に一夏の父である駁羅尋稀が原因である。彼も普段は冷静なのだがムカつく奴に関しては女子供だろうと容赦せずに叩き伏せるきらいがある。
「オイお前等……あの子に謝れ。土下座で。それ以外は認めない。さもなくばボロ雑巾にしてやる。もしあの子が許さないって言うならその時はサンドバッグだからな」
一夏は凄まじい威圧感を纏い、ボロボロになり果てた主犯のバカを片手で持ち上げて言う。その後、この三人は小学生に土下座し、許してもらえた時に感謝のあまり五体投地をしてしまったとか。
ーバーガーショップー
「そういえば、一夏は高校どうすんだ?」
「んー……考え中」
ハンバーガーを食いながら二人は話す。現在の時期は受験シーズンだが、高校のことを考えると弾の頭の中にあることが過る。
IS学園。
ISを使える者ーーーすなわち女性しか入学出来ない学園。だがその常識は最近覆された。
ブリュンヒルデと名高い織斑千冬の弟であり、世界初の『ISを扱える男』である。そして、かつて一夏の家族でもあった男。弾は秋彦のことが心底嫌いだった。人を見下すあの態度が。
「なぁ一夏……もしも。もしもだぞ?お前もIS動かせたらどうする?」
「……ムカつくヤツをワイヤーで縛り付けて24時間市中引きずり回しの刑にーーー」
「ーーーいやそういうことじゃなくて!」
無表情で答える一夏に弾は若干食い気味にツッコミを入れる。
「IS学園のことか?」
「ああ」
「んー……まあ、ISが使えるのが分かれば強制入学するハメになるだろう。そしたら、女尊男卑を唱えて俺を見下すクソアマをシバいて、織斑秋彦には嫌がらせして、そして気ままにやりたいことをやって青春を謳歌する」
淡々と言う一夏。これも尋稀の影響である。
「お前……どこでも唯我独尊か」
「やりたいことをやるのがウチの家訓だから」
一夏はそう言い、笑顔でポテトを食べる。弾は一夏の変化が嬉しかった。少々変わり過ぎたと思うがここまでハジけているなら逆に清々しい。それから二人はバーガーショップを出て、再び遊び回る。そして日が暮れる頃、本日はお開きとなった。
「んじゃ、今日はハンバーガーご馳走さん」
「おう、んじゃまたな!」
「おう!」
一夏と弾はお互い逆方向に歩き出す。それからやがて一夏は走り出し、近くの公園のトイレに入って個室便所のドアにブローチのようなものを付け、扉を開く。扉の先にはいつもの我が家の廊下に繋がり、一夏は中に入ってからブローチを取って扉を閉めてから歩き出す。
「……毎回思うけど便利だよなぁ、コレ」
一夏はブローチを見つめながら言う。これは現在出張中のメカニックお手製の『どこでも玄関』と言う道具。開け閉め出来るものに付ければあっという間に我が家の玄関に繋げることが出来る。しかも一回取り付けたドアにも繋げることが出来るスグレモノで、尋稀達は一人一個支給されている。
「お〜!いっくんおかえり〜!」
「ただいま、束姉」
歩いていた一夏は研究室から出てきた束と鉢合わせする。現在一夏は束のことを姉のように慕っていた。その束の手には電話が握られていた。恐らく研究室で電話してたのだろう。
「誰かに電話してたの?」
「アイツと電話してたんだー。確か……モップ?だったかな」
「箒か……」
篠ノ之箒。
束の妹であり、過去に秋彦と共に『鍛え直す』という名目で一夏に嫌がらせをしていた女。もし会う機会があればシバいてやりたいと一夏は思っている。束とは折り合いが悪く、一夏の誘拐事件の頃には束の方から縁を切ったとのこと。
「危うく耳が腐り落ちかけたけどいっくんの声を聴いて束さんの耳は元通りだよー!」
「それなら何よりだよ、束姉。あ、そうだ。親父達はいる?」
「みんなリビングにいるんじゃないかな?」
「なら、話あるからリビングに行こうか」
一夏は束と共に歩き出し、リビングに入る。
「ーーー
「お前に使うナギはねぇ!糞して寝ろ!」
そこには口プレイ全開で格ゲー対戦している尋稀とデッドの姿があり、尋稀がボロ勝ちしていた。
「おっ、一夏君。おかえり」
「ただいま、狗澄兄。親父、ちょっと話あるんだけど」
「それは後回し!」
そう叫ぶデッドは次の瞬間尋稀の右ストレートを食らい、笑顔で沈んだ。
「なんだ?」
ゲーム機の電源を切って一夏の方に向き直る尋稀と狗澄。ついでにデッド。
「俺さ、IS学園に行きたい」
一夏はそう宣言する。尋稀は無言のまま一夏を見つめる。
「それが、一夏のやりたいことなら俺はそうさせる。何も問題はないしな。お前は、『ISが使える』からな」
尋稀は微笑みながら一夏に言う。何を隠そう、一夏は駁羅の姓になった次の日に、ISを起動させていたのだ。尚、その頃の一夏はISに無関心だった為この事は尋稀達だけの秘密になっていた。
「よーし!なら、束さんがいっくんに専用機造ってあげるからね!!」
「なら、余り者のアタクシ達はいっちゃん君にISの知識をお教えしましょうかねぇ」
それぞれが一夏の為に動き出し、束と尋稀と狗澄は足早に研究室に向かった。
「親父と狗澄兄はともかく、デッドって勉強出来るの?」
「あったぼうよ!言っとくけどオレこの中で一番高学歴なんだかんね!家庭教師のバイトもやってたし!」
デッドが高学歴!あのデッドが家庭教師!正直全く想像出来ない一夏であった。