一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、スッキリするってよ

話はセシリア達が撤退した直後まで遡る。銀の福音は宙に浮いたまま動かずにいた。すると、一夏が水面から顔を出す。

 

 

「ぷはぁ!ッ……あ゙ぁ〜!!海水が火傷に沁みるぜぇ〜!!」

 

「!」

 

 

一夏は頭から血を流しながら言う。だが、その表情は笑顔を浮かべており、空にいる銀の福音を見つめる。銀の福音は一夏を捕捉し、再び無数のエネルギー弾を放つ。エネルギー弾は再び一夏の全方位から降り注ぎ、巨大な水柱を立てる。

 

 

「ーーーわざわざ上げてくれてありがとなぁッ!!」

 

 

水柱の頂点から一夏が現れ、跳ぶ。そして、凄まじいスピードで縦回転式のニールキック『大車輪キック』を繰り出す。辛うじて身体を捻る福音だが、その脚は絶対防御を貫通して福音の左肩を砕き、その勢いのまま振り切って福音を海面に叩きつけて沈める。左肩部が粉砕し、左腕が使えなくなった福音。だが、駁羅一夏は止まらない。一夏も態勢を整えながら息を吸って肺に空気を貯め、海に頭から飛び込んで海中にて福音の頭を掴む。

 

そして、右の拳で福音を殴る。何度も、何度も、ぶん殴る。水の中の為ろくに動けない筈なのに、一夏はそれを感じさせない勢いで何回も殴る。

 

 

「!!」

 

 

福音は残った右腕で一夏の腕を掴むが、それでも制止出来ない。その結果、福音がとった行動は、『目の前の脅威からの退避』だった。武装に回していたエネルギーも全てブーストに回し、一夏を振り落とさんとする勢いで海面から飛び出て全速力で飛行する。

 

 

「速いじゃねぇか!その調子で旅館まで戻れオラァ!!」

 

 

一夏は笑顔で福音の頭を掴んでおり、離れることが無い。その状態で福音を殴り、飛行方向を強引に変えて旅館まで飛ばす。方向転換しようとすればまたぶん殴って旅館の方角を向かせて飛行させる。それを繰り返すと、やがて砂浜が見えてきた。一夏は福音を掴んでる腕に力を込めて、空中から砂浜目掛けてぶん投げる。砂浜のきめ細かい砂がクッションになり、あまり痛手を負わなかった福音だが、一夏の大車輪キックで左腕を失い、何度も殴られて装甲の至る所にヒビと凹みがあるという、正に満身創痍の状態である。

 

 

「軍用機を現場から旅館への送迎に使っちゃった。いやぁ、楽だった楽だった」

 

 

一夏も砂浜に着地し、海水と頭から流れる血で濡れた髪を両手で掻きあげて雑なオールバックにする。両腕の所々に負った火傷、頭から流れる血によって黒いTシャツと所々焦げた白いスラックスをも赤く染めており、その姿はいつもの数倍の威圧感を感じさせた。ハッキリ言って抗争中のチンピラを彷彿とさせる。

 

 

「そうだ!狗澄兄から伝授した技があるからちょっと食らえよ!」

 

「ーーー!?!?!?」

 

 

一夏は両腕をダランと下げて福音を見据える。その瞬間、立ち上がった福音が顔面にパンチを食らったように後ろに倒れる。これはかつて、学年別トーナメントにて鈴との戦いに備えて衝撃砲対策の為に狗澄がやっていた不可視の衝撃飛ばしである。あの後きっちりと伝授されていたのだ。

 

 

「ホラホラ、余所見すんな」

 

 

一夏は目を閉じ、笑顔を崩さず両腕をダランと下げている。一夏の全ては完全に静止し、衝撃の行き先を読ませない。再び立ち上がる福音に不可視の衝撃が襲いかかる。福音の身体に衝撃が何発も直撃する。端から見ればなかなか滑稽な光景だ。何もせず突っ立ってる男の前でISがボコボコになっているのだから。

 

 

「ンー……飽きたな」

 

 

一夏はそう言い、不可視の衝撃が命中してふらついた直後の福音を左拳で殴り飛ばす。福音の顔面部が凹み、砂浜を転がっていく。一夏は不敵な笑みを浮かべて手招きすると、既にろくにシールドエネルギーの残っていない福音はそれに応えるかのように態勢を整え、一夏に近接攻撃を仕掛ける。残った右腕と両脚で打撃を試みるも、一夏は右腕一本でそれを防ぎ、流し、叩き落とす。

 

 

「さぁて、フィニッシュだ!」

 

 

一夏は右アッパーを福音の顎部に叩き込み、高く打ち上げる。その威力は凄まじく、福音の機能に支障を来し、平衡感覚を奪う。

 

そして、一夏も高く跳び、脚で福音の首筋を捉える。

 

 

「地獄の断頭台ッ!!」

 

 

一夏は叫び、福音を地面に叩きつける。その脚は、正にギロチンの如く福音の首をすっ飛ばす!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……予定だったのだが、地面が砂浜だった為衝撃が幾分か分散し、福音の頭部は身体についているままだった。だが、いくら軽減されたとはいえ威力は強大。

 

銀の福音、機能停止。

 

作戦、成功である。

 

 

「では、御首級(みしるし)頂戴してっと……」

 

 

立ち上がった一夏の蹴りが、福音の頭部をまるでサッカーボールを蹴り上げるように空高くすっ飛ばす。

 

 

「んー……気が晴れねぇなぁ」

 

 

一夏は落ちてくる福音の頭部を左手でキャッチしながら呟く。暴れるには暴れたが、まだスッキリしていない模様。

 

 

「……作戦終了の報せがてら、ちょっくら青春の一ページ刻みにいくか」

 

 

こうして一夏は旅館の作戦室にやってきて、今に至る。

 

 

「一夏……生きていたのか?」

 

「当たり前だろうが。あっ、これお土産」

 

 

戸惑いながら問いかける秋彦に一夏は淡々と返答し、左手に持っていた銀の福音の頭部を床にぶん投げる。

 

 

「銀の福音の、頭部……!?」

 

「身体は砂浜に転がってるから。まあ、多少グシャグシャにはなってるがね。回収はそっちでお願いします」

 

 

一夏は笑顔で言う。そして、秋彦を見つめる。その目は、真剣そのものの如く鋭い。

 

 

「砂浜で待ってる」

 

 

一夏はそれだけ言って作戦室から出て行った。

 

 

 

 

 

と、思いきや後ろ向きに歩いて再び作戦室に戻ってきた。

 

 

「ごめんごめん。一つ忘れてたことがあった。……篠ノ之さん」

 

「貴様に呼ばれる筋合ーーー」

 

 

一夏は笑顔で箒の目の前に歩み寄り、箒の額に頭突きをかます。その衝撃で脳震盪を起こし、フラつく箒。一夏はそこに間髪入れずに右の拳を左頬に叩き込み、気絶した箒は床を転がった。

 

 

「作戦を邪魔したことによる俺個人からの罰だ。後は、学園側からの罰を心待ちにしてろ」

 

 

一夏は無表情で吐き捨て、作戦室を後にした。あの時の箒の妨害には当たり前ながら怒っている一夏であった。

 

 

「……箒のことを、頼みます」

 

 

秋彦はそう言い、足早に作戦室を後にした。

 

 

「……篠ノ之を部屋に連れていけ。山田先生、貴女も同行して下さい」

 

「は、はい!」

 

 

千冬の命で教師陣は箒を担ぎ、作戦室から出て行く。残されたのは、千冬とセシリアとラウラだけ。

 

 

「織斑先生。一夏さんと織斑さん……昨日から、なんだか良い関係になっているようですわ」

 

「まあな……色々あったからな。色々と」

 

 

セシリアの言葉に千冬は微笑みながら答える。

 

 

「教官。私は救急箱を用意してきます」

 

「……ああ、頼む。恐らく、秋彦も怪我をするだろうからな」

 

「はっ!」

 

 

ラウラも微笑みながら敬礼し、作戦室を出て行く。

 

 

「……オルコット。お前はどうする?」

 

「事後処理のお手伝いをさせて下さい。今だけは、お二人だけにした方が良いでしょう」

 

「そうか……なら、頼む」

 

 

二人は少しの間の後に微笑み合い、作戦室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー砂浜ー

 

夕日が輝く中、海を眺めている一夏と秋彦がいた。

 

 

「顔に涙の跡があった。俺の為に泣いてくれるとは、ガキの頃のお前に虐められてた俺としては凄く嬉しかった」

 

「越え甲斐のある壁が無くなる所だったからな。別に、弟だから泣いた訳じゃない」

 

「それ『大事な弟がおっ死んで僕悲しいよー』って言ってるのと同じだぞ」

 

「うるさい、バカ」

 

 

笑顔で話す一夏()と照れ臭そうにそっぽを向いて話す秋彦()。この時ばかりは仲良し兄弟に見える。だが、二人の根底は違う。

 

一夏は、この兄が嫌いだ。天才で何だってこなす兄が。

 

秋彦は、この弟が嫌いだ。出来損ないで何も出来ない弟が。

 

だからこそ、堂々と真正面から叩き伏せないと気が済まない。

 

 

「さて……御約束の夕日輝く中でのケンカ、おっ始めようか」

 

 

秋彦は白式を展開し、雪片弐型を構える。一夏も無銘を展開し、ブレードを構える。

 

 

「こうしてサシで向かい合うのは、クラス代表を決める時以来だな」

 

「あの時は経験の浅さ、それとお前を見くびったせいで僕は叩き伏せられた。だから、今回は僕がお前を叩きーーー」

 

「ーーークチャクチャ喋らず構えんかい!!」

 

 

一夏は秋彦の言葉を遮り、叫ぶ。かつての秋彦ならこの時点で頭に血が上っていただろう。だが、今の秋彦は一夏を倒す為、一夏を理解した。今更見え透いた挑発は通用しない。

 

 

「…………」

 

「……分かったよ、真面目にやるよ」

 

 

一夏は自然と笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄り、間合を詰める。やがて一夏は、一足一刀の間合にて立ち止まる。

 

 

「………………」

 

「……ーーー!」

 

 

まずは無銘のブレードが振るわれる。狙いは胴体だが、その刃は雪片弐型とぶつかり合う。一夏はそこから雪片弐型の刃を滑るように擦り付けて横に流して態勢を整え、逆袈裟斬りを行う。秋彦はその二の太刀に反応して弾き、一夏の態勢が少しよろけた瞬間にすかさず横一文字に振る。

 

 

「バックステッポォ!!」

 

 

一夏は地を蹴って後ろに下がるが雪片弐型の刃は胴体をかすり、僅かながらシールドエネルギーを消費する。

 

 

「……やるじゃねぇか」

 

「まだまだ……これから!」

 

 

秋彦は再び構え、瞬時加速で間合を詰めて斬りかかる。一夏はそれを迎え撃ち、鍔迫り合いとなる。

 

 

「うおぉぉらぁあぁぁぁッ!!」

 

 

だが、力の押し合いとなると人間を辞めている一夏が有利。一夏に押されて秋彦の踏ん張る両脚が砂浜に二本の線を刻む。

 

 

「なら……これで!」

 

 

秋彦は後ろに向かって瞬時加速を行い一夏から間合を離しながら雪片弐型を投げる。一夏はブレードで雪片弐型を弾く。それと同時に秋彦は瞬時加速を行い、右の拳を突き出して突撃する。その拳は、絶対防御を貫いて一夏の左頬を捉えるが、一夏は動かない。

 

 

「オォラッ!」

 

「ぐぅッ!!」

 

 

一夏はブレードを消して同じく右の拳を秋彦の左頬に打ち込む。絶対防御を貫通する上本来は素手喧嘩(ステゴロ)専門である一夏の拳はひとたまりもなく、秋彦は砂浜に転がるがすぐに立ち上がってみせる。一夏は左の口角から流れる血を親指で拭い取り、秋彦は口内に溜まる血をそこらに吐き捨ててから左口角から流れる血を拭う。一夏は笑みを浮かべて秋彦を見つめていた。IS操縦者相手に初めて負傷した。その事が、一夏のテンションを上げる。そこに、秋彦は雪片弐型を展開して斬りかかるが、一夏は目前に迫る刃を両手で挟み刃を止める。

 

 

「何ッ!?」

 

「真剣白刃取り……初めてやったぜぇッ!!」

 

 

一夏はそこから刃を横に反らし、未だ雪片弐型を掴んでいる秋彦の態勢を崩す。そこで一歩分間合を詰め、剣の触れない至近距離に入り、両腕で秋彦の頭を抱え込み、膝蹴りを連続で叩き込む『膝地獄』で攻め立てる。絶対防御を貫き、シールドエネルギーをガンガン削りながら秋彦の胴に突き刺さる膝。これはひとたまりもない。

 

 

「シャアラァッ!!」

 

「ぐあぁッ!!」

 

 

最後に渾身の膝を叩き込まれ、秋彦は仰向けに倒れる。シールドエネルギーは切れ、ISが解除される。だが、秋彦は立ち上がる。その目には、未だ衰えぬ闘志が宿っている。それを見た一夏は無銘を解除した。

 

 

「来いやァ!秋彦ォッ!!」

 

「オォォォォッ!!!」

 

 

秋彦は一夏に殴りかかる。一夏はそれを避けずに受け、次に一夏が秋彦を殴る。右の拳が秋彦の左頬に突き刺さり、砂浜を転がる。だが、秋彦は立ち上がる。

 

 

「ウラァッ!!!」

 

 

口角から流れる血を拭おうともせず再び一夏の左頬に拳を叩き込む。一夏はそれを受けてから、再び秋彦を殴り飛ばす。少しの間の後に秋彦は起き上がり、立ち上がる。

 

 

「ウゥゥオォォォォォォッ!!!!」

 

「(秋彦……今日は、最高の思い出になりそうだ)」

 

 

身体中砂まみれになろうと、口角から流れる血がISスーツを汚そうと気にも留めず、我武者羅に一夏に右の拳を突き出す。そこに、一夏は同じく右の拳を突き出す。互いの腕が交差し、互いの左頬に拳を叩き込み合うが、突撃してきた勢いに合わせられた分秋彦のダメージが高い。

 

秋彦は、そのまま仰向けに倒れた。

 

 

「クロスカウンター……俺の、勝ちだ」

 

 

一夏は左口角から血を流しながら笑みを浮かべて言う。銀の福音を倒しても晴れなかった気持ちはスッキリと晴れたようだ。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!次は、負けないからな……!」

 

「いいや、次も絶対俺が勝〜つ」

 

 

倒れている秋彦に歩み寄り、一夏は見下ろしながら言う。それを聞くと、秋彦は微笑みながらゆっくりと起き上がり、ふらつきながらも立ち上がる。

 

 

「さて、行こうぜ。肩、貸してやるか?」

 

「お断りだ……と、言いたいところだが……もう歩く力もない」

 

「よし、なら貸してやる。レンタル料五千円ポッキリな」

 

「ほざけ、バーカ」

 

 

互いに微笑みながら、秋彦は一夏の肩に手をかける。一夏はそれを掴み、ゆっくりと歩く。やがて二人の下に救急箱を持ったラウラがやってくる。

 

 

「一夏、秋彦、今手当てをしよう」

 

「おう、サンキューラウラ」

 

「ありがとう」

 

 

二人は並んで手当てしてもらう。

 

 

「ッ〜!!……沁みるなぁ」

 

「なんだなんだ、消毒液が沁みて痛いのかぁ?天才なのに?」

 

「そこは天才関係ないだろ。黙って手当てされていろ。お前は福音にも大分やられているんだからな」

 

「心配してくれてるのか?嬉しいぜ、マイブラザー」

 

「フンッ」

 

「男のツンデレはキモいだけだが」

 

「キモいって言うな!」

 

 

傷口の消毒をしてもらいながら二人は言う。その姿は、正に仲良し兄弟のようだった。


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