一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、殺る気充分だってよ

放課後、一夏とセシリアは誰も来ないであろう生徒指導室にいた。

 

 

「一夏さん、外出許可を取らなくて良いのですか?」

 

「大丈夫。どうせバレないって」

 

 

一夏はドアにどこでも玄関を付け、ドアを開く。セシリアの目の前に広がるのは、IS学園の廊下ではない、明らかに別の廊下だった。

 

 

「ホラ、早く入って」

 

「は、はい!御邪魔致しますわ!」

 

 

茫然としているセシリアの背を押し、セシリアが入ってから一夏も入り、どこでも玄関を回収してドアを閉める。セシリアの驚く様子を見て一夏はかつての自分を思い出した。

 

 

「一夏さんは、そのブローチのようなもので今まで御自宅とIS学園を行き来してたのですか?」

 

「ああ。便利だぜコレ。すぐ帰れるし道中その筋の馬鹿に狙われる心配ないし。さて、リビングに行くか。親父が来るまで茶でも出すよ」

 

 

一夏はセシリアと共に歩き出し、リビングルームのドアを開ける。

 

 

「ーーーいっくーん!おっかえりぃーっ!!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

それと同時に、うさ耳エプロンドレスの人物が飛び込んでくる。

 

驚くセシリアを尻目に、

 

 

 

 

 

一夏は、

 

 

 

 

 

冷静に、

 

 

 

 

 

その人物に、

 

 

 

 

 

右手でアイアンクローをお見舞いした。

 

 

「やぁやぁいっくん!随分と容赦の無いアイアンクローだねぇ!!」

 

「……いきなり来ると危ないだろうが」

 

 

一夏は無表情で言いながら握力を強め、頭蓋骨が軋む音をリビングに響かせる。

 

薄々勘付いてる読者の方もいるだろうが、敢えて説明させていただこう!あの駁羅一夏がこの人物に、このような仕打ちをするだろうか?否ッ!断じてない!寧ろ一夏ならセシリア・オルコットの前だろうと、例え燃え盛る屋敷の中であろうと、その身で受け止め熱く抱擁するだろう!ならば、この人物は誰なのか!?もうこの辺りで気付いた読者の方もいるだろうから、正解発表と仕るッ!

 

 

「なんでぇ?なんでそんなこと言うのいっくん!いつものように抱き締ーーー」

 

「ーーーそおぉい!!」

 

 

一夏はそのまま『彼』を投擲し、リビングの壁に叩きつけた。その投擲は、瞬時加速を使った投擲よりも速く、そして強かった。

 

 

「背中痛ーっ!」

 

 

彼は笑顔で床に落ちる。

 

 

「……デッド。色々言いたいことあるけど、一言に纏めるわ。バーカ!!」

 

 

正解はデッド・ウォルノックスその人でした。

 

 

「いやぁ、いっちゃん君に喜んでもらいたくて張り切っちゃった!」

 

「なら本人呼べ!」

 

「ーーーそのリクエストにお答えしまーす!いっくん!おっかえりぃーっ!!」

 

 

一夏はこの声が聞こえた瞬間に振り向き、飛んできた人物を受け止めて抱き締める。うさ耳に胸元が大きく開いたエプロンドレス。眠たげな目に大きく柔らかい二つの感触。紛れもなく本物の篠ノ之束である。

 

 

「ただいま、束姉」

 

 

一夏は微笑みながら束の頭を撫でる。一方セシリアは色々と置いてけぼり状態になり、茫然としていた。いきなり女装した茶髪のイケメンが壁に叩きつけられた挙句笑ってたら今度はISの産みの親が一夏に抱きつくのを見せられたら驚くのも無理はないが。

 

 

「今日は友達を連れてきたんだ。IS学園で初めての友達だ」

 

「……いっくんが許したことだし、いっくんがそう言うのなら今までのことは水に流してあげよう!いらっしゃい!そしてよろしくね、セッシーちゃん!」

 

「あ、あの……貴女は、篠ノ之束博士、ですわよね?」

 

「そ〜だよ〜!天才の束さんだよ〜!」

 

 

一夏に抱きついたまま笑顔で言う束を見ながらセシリアは一夏の方を向いて口を開く。

 

 

「……ここは、凄い所ですわね」

 

「まあ、否定はしない」

 

 

一夏は束の頭を撫でながら言う。セシリアは束に嫉妬しなかった。一夏の話を聞いて篠ノ之束が一夏にとってどれほど大切な人物かを知った為、今まで一夏を助けてくれたことに感謝はすれど負の感情を抱くことはなかった。だが、いずれは束がいる場所に自分も笑顔で入ってみせると、セシリアは決意を固める。

 

 

「さて、親父に連絡するかな。束姉、離れて。デッド、紅茶淹れてやって」

 

「は〜い!」

 

「ラジャーッス!」

 

「セシリア。適当に座ってくれ」

 

「失礼しますわ」

 

 

束は一夏から離れてソファーに腰掛け、デッドはリビングの奥に紅茶を淹れに行ったのを見てから一夏とセシリアもソファーに座る。一夏は携帯を取り出し、尋稀に電話をかける。その際にスピーカーをオンにし、携帯をテーブルに置く。

 

 

『一夏か、どうした?』

 

 

電話の向こうから轟音がリビング中に響く中、まるで自宅のソファーから電話している風な尋稀の声が聞こえる。

 

 

「親父……今フランスだろ?何やってんの?」

 

『朝っぱらからIS装着したズベ公に襲撃されてな、地獄への片道切符贈呈式を開催してたんだ。で、何かあったか?』

 

『来るな!来るなぁ!!あぁ……や、やめーーー』

 

 

爆発音と銃声の不協和音が響く中淡々と言う尋稀。そして女の声が何かを言おうとした瞬間、ぐしゃりと何かが潰れる音が響き、その瞬間に轟音が鳴り止んだ。

 

 

「あのさぁ、今日俺の友達が親父に話があるんだってさ」

 

『ほぉ……分かった。今から行くわ』

 

 

そして、電話が切れた。一夏の隣でセシリアは震えていた。

 

 

「(私……生きて帰れますでしょうか?もし許されなかったら……)」

 

「今の子、確実に踏み潰されちゃったね〜。ISごと」

 

「(ひいぃぃー!!恐ろし過ぎますわー!!)」

 

 

束の言葉を聞いたセシリアはこれから来るであろう尋稀に畏怖の念を抱いていた。

 

 

「ーーーただいまぁ」

 

 

そして、尋稀はリビングにやって来た。今まで電話の向こうでISと交戦し、仕留めてきた男が目の前にいる。セシリアはその威圧感を肌で感じていた。

 

 

「紅茶淹れてきたよ〜。はい、どうぞ〜。はい、オシリアさんの分ね〜」

 

「お、おし……?」

 

「初対面にセクハラすんなボケ」

 

 

デッドがテーブルに紅茶を置いた瞬間に尋稀の前蹴りが顔面にヒット。デッドは笑顔で吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 

 

「ぬはぁ!コレだ!やっぱコレだよコレ!!」

 

 

デッドは笑顔で鼻血を流しながら言う。ISを壊せる一夏のパンチを受けて無傷で君臨するデッドが鼻血を流している。一夏は改めて二人を化物だと思った。

 

 

「で、そこのブロンドっ子が俺に話があるって?」

 

「は、はい……セシリア・オルコットと申します」

 

「イギリスの代表候補生か……。俺は駁羅尋稀だ。ここの大黒柱やってる。それで、その代表候補生が俺に何用だい?」

 

 

そう言って尋稀が何もない場所に腰掛けようとする。その時、鼻にティッシュを詰めたデッドが四つん這い(ヨツンヴァイン)になって尋稀の椅子になる。その表情は何故か誇らしげで堂々としており、『これはオレの仕事だ』といった頑固な職人の風格を感じさせる。セシリアはデッドを困った目で一瞥したから真剣な表情で尋稀を見つめる。

 

 

「……入学初日、私は一夏さんが『男』だという理由で非礼を働きました。その際に、私は貴方のことも『男』だという理由で侮辱しました。そのことについて、謝罪をしに参りました次第です」

 

「そのことについては一夏が許したらしいじゃねぇか。なら、俺は何も言わねぇ」

 

「ですがーーー」

 

「ーーーお嬢ちゃん。俺はな、別に屑だの何だの言われても怒りゃしねぇよ。それを言う野郎が同レベルの屑だったり、俺以外の家族に言うのは例外でキレるがな。一夏が許したんだろ?なら俺も許す」

 

 

尋稀は淡々と言う。セシリアはこの言葉に、一夏の時と同じ器の大きさを感じた。

 

 

「あ、そうだ。一夏と……ついでにお嬢ちゃんにも話しとくことがある。茶でも飲みながら話そうか」

 

 

尋稀がそう言って立ち上がった瞬間、デッドが立ち上がり凄まじい速さで尋稀の分のコーヒーを置いた。そして、再び四つん這い(ヨツンヴァイン)になるデッドに尋稀は座る。その光景を見てセシリアは苦笑いしていた。

 

 

「最近IS学園にフランスから転校生来なかったか?」

 

「はい。フランスの代表候補生がやって参りました」

 

「確か……シャルル……シャルル……なんだったっけ?」

 

「ジ・ブ○タニア?」

 

「デュノアだタコ」

 

 

尋稀は座っているデッドに踵で蹴りをいれる。デッドは揺れることなく笑顔で椅子となっていた。

 

 

「そうそう、デュノアだった。親父。それがどうかしたのか?」

 

「その子はデュノア社が寄越した回し者だ。お前と織斑兄のデータを回収しにやって来た」

 

「いずれそういう輩が来るのは分かってたけど、理由は?」

 

「経営危機だとさ」

 

 

尋稀の言葉に一夏とセシリアは少し驚く。

 

 

「経営危機ぃ?確か、デュノア社は量産機ISのシェアは世界三位でしょ?それがどこをどうすりゃ経営危機になるのさ?」

 

「その量産機が第二世代型だからじゃないかな?」

 

 

一夏の疑問に束が横から言う。尋稀はそれを聞いて頷く。

 

 

「そうだ。欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』ってのがある。それの次期主力機候補は第三世代型メインでな、第二世代型メインのフランスは計画から除名されちまった。次期主力機にアンティークは使えねぇと欧州連合は考えたんだろうよ」

 

「ならさならさ、フランスでも第三世代型造ればイイんじゃね?」

 

「時間とデータが足りなくてお手上げだとさ。そしてデュノア社は政府から予算を大幅カット。そして次のトライアルで選ばれなかった場合援助を全面カット。その上IS開発許可剥奪のオマケ付きだ」

 

 

尋稀はそこで話を切り、コーヒーを一口飲む。

 

 

「要はラファール(第二世代型)頼りで企業努力を怠ってたツケが回ったって訳だな」

 

「うわぁ……ほぼ詰んでるな、デュノア社」

 

「そうだねぇ、チェックメイト!(ヤフーチャット万歳!)だねぇ」

 

「ねぇねぇ、そのことで一つ話があるんだけど」

 

 

束が挙手して言う。皆の視線が束に集中する。

 

 

「いっくん、その子の性別分かる?」

 

「女でしょ。男装してたけど」

 

「えぇっ!?デュノアさんが、女性!?」

 

 

隣でセシリアが驚く。どうやら気付いてなかった様子。いきなり他の男子操縦者が出るのは珍しくない。現に一夏は世間には公表せずそのままIS学園に入っているのでシャルルも同じようなものと考えられる。まあ、あまりにも出来過ぎだと考えることも出来るが。

 

 

「いっくんの無銘にはもしものことに備えてカメラ仕込んでるんだけどね、その時にその子を見たけどあれは男装してる女子だよ」

 

「デュノアは線が細過ぎる。線が細い男でも、もう少し肉付きがいいからな」

 

「でも、何故デュノアさんはわざわざ男装して来たのですか?」

 

「注目を浴びる為の広告塔。そして、あの女の園では同じ男の方が気を許せる。そこで油断した時にデータを取ってくって寸法だろ」

 

 

尋稀の推測にセシリアはしっくり来た。現に今日のことを振り返ると、今日転校してきたシャルルは基本的に秋彦と一緒にいた。その理由がデータ回収なら実に辻褄が合う。

 

 

「まあ、警戒するに越したことはない。一夏、用心しとけよ」

 

「あぁ、分かった」

 

「と、いうことで俺からの話は終わりだ。他に話はあるか?」

 

 

一夏はラウラのことを話そうと思ったが黙っておくことにした。理由は単純。そろそろ夕餉の時間なので、このことを話せば束がヒートアップし、そこに尋稀とデッドが悪ノリしてその場を鎮圧するのに時間がかかるからだ。ファミリィの良心である狗澄がいない今、それは避けたい一夏であった。

 

 

「特に無いな?なら、そろそろ夕餉にするか。お嬢ちゃん、お前も食ってけ」

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きますわ」

 

 

一夏達は食堂へと向かい、セシリアと共に夕餉にした。飯当番は一夏と尋稀が担当。それから間も無く狗澄が帰って来て、ファミリィと客人は揃いも揃って二人の料理に舌鼓を打ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。IS学園園舎外にて、織斑千冬とラウラ・ボーデヴィッヒは二人話していた。

 

 

「教官!何故こんな所で教師など!」

 

「……何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!?お願いです教官、我がドイツで再びご指導を!ここでは貴女の能力は半分も生かされません!」

 

 

ラウラは自分にとって偉大なる千冬にはIS学園なんて相応しくないと豪語する。千冬は無表情のまま無言でラウラを見つめる。

 

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません。意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そんな程度の低い者達に教官が時間を割かれるなどーーー」

 

「ーーーそこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ!」

 

 

長々と語るラウラを千冬は凄んで黙らせる。

 

 

「少し見ない間に偉くなったな?十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は……!」

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れ」

 

「……っ」

 

 

有無を言わさぬ千冬を前に、ラウラはすごすごと走り去る。

 

 

「……ラウラ」

 

「ーーーイヤだねぇ、全く」

 

「ッ……!?」

 

 

突如聞こえた声に千冬は咄嗟に振り向く。そこには間近に一夏が腕を組んで立っていた。

 

 

「へっへっへ……驚いた?」

 

「全く気配を感じなかった……」

 

「そりゃ消してたしな」

 

 

笑顔を浮かべている一夏に千冬は冷静を装いつつ驚いている。

 

 

「……駁羅、そろそろ授業が始まるぞ。お前も早く戻れ」

 

「身体が怠いので次の授業は休むって山田先生には報告済みだ。これで心置き無くサボれる」

 

「それを教師の前で言うか」

 

「授業をサボる。高校生の青春の一つでしょ?それに、これで話を出来る時間が出来た」

 

「……いいだろう、見逃してやる」

 

「サンキュー、織斑先生」

 

 

一夏はそう言って近くの木に寄りかかる。そして、視線を千冬に向けたまま口を開く。

 

 

「ボーデヴィッヒってアンタの教え子だろ?あんなに心酔するなんて、ドイツ軍でどんな指導したんだよ。え?織斑教官殿」

 

「教官と言うな。……お前になら、話しておこう」

 

 

千冬は一夏に語る。ラウラが人の手で造られた優秀な戦士であり、最強だったラウラはISのせいで『出来損ない』の烙印を押されたこと、そして千冬の手解きで再び最強となったこと。一夏は無表情のまま耳を傾け、やがて口を開く。

 

 

「……成程、道理であそこまで心酔するわけだ。それと、俺を敵視してる理由がよぉく分かった」

 

「昨日の朝の件か……」

 

「そう。千冬姉は俺が居なくなったことに負い目感じてたろ?」

 

「……ああ」

 

「それをあのチビに語ったらきっとこう考える。

 

『私が憧れであり目標であり存在理由である強くて凛々しくて堂々としている教官の汚点になるなんて許さない。私の手で排除してやる』

 

……ってな。ああいう強さと力を履き違えたバカは言っても治らない。一度価値観諸共叩き壊さないと」

 

 

一夏は千冬でさえ悪寒を覚える無機質な笑みを浮かべながら言う。何より、ラウラの自分に対する認識が『千冬の汚点』だということに一夏は心の底から殺る気充分となった。幼い頃からそれで虐めを受けた一夏にとって、汚点呼ばわりされることは親父である尋稀を馬鹿にされる次にムカつくことだった。

 

 

「お話サンキューな、千冬姉。ボーデヴィッヒはアンタに代わって俺が指導してやる」

 

「……済まない、一夏」

 

「千冬姉は関係ない。俺はやりたいことをやるだけだ。それが駁羅家の家訓であり、親父との約束だからな」

 

 

一夏はそう言い残し、その場から消えるように立ち去った。一人残された千冬は、空を見上げながら考えた。

 

 

「(初めてラウラに会った時……私は一夏の面影を見た。私は一夏の時と同じ過ちは繰り返したくない一心でラウラの面倒を見た。それがまた、新たな間違いを犯すとは……)」

 

 

あまりの自分の情けなさに千冬は一人溜息を吐く。

 

 

「(一夏。今のお前なら、ラウラに本当の『強さの意味』を教えることが出来るだろう……。情けない姉の代わりに、ラウラを力の呪縛から解き放ってくれ……)」

 

 

千冬は空を見上げたまま一人、一夏に祈りを込めた。


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