ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第四十一話 対面

 

「「ラテン!?」」

 

 緊迫した二つの声が同時に上がる。

 一人は突如現れた《外側》から来たという人物の話を一歩引いた形で聞いていた、整合騎士リリア・シンセンス・サーティワン。もう一人は、《外側》の世界から来たという二人の女性のうちの一人。深紫色の髪をした少女だ。

 

 

 ラテンはその少女を見るや否や、ぷっつりと糸が切れたように膝から崩れ落ちる。それを目前に立っていた少女が受け止めるが、突然の事態にびっくりしたのだろう、体勢が少し崩れる。それをいち早く察したリリアはすぐさま少女へ駆け寄り、その肩を支えた。

 

「あ、ありがとう。お姉さん」

 

「いえ、気にしないでください」

 

 少女と気を失ったラテンをゆっくりと立ち上がらせると、ラテンの腕を自分の首に回し、右手を腰に添える。

 そこまですると、先ほどまで見ていた周囲の人たちがゆっくりと近寄ってきた。

 

「ラテンは私が運びます。皆さんはあの方たちと話を」

 

 突如崩れ落ちたラテンも心配だが、今は《外側》の世界から来た女性の話を聞くのが先決だ。

 その言葉を聞いたベルクーリは、顎を手でさすりながら数秒意識を失っているラテンを見るとゆっくりと口を開く。

 

「わかった。その若者は、リリア嬢ちゃんに任せよう。そちらのお嬢ちゃんは……」

 

「ボk……私は皆さんといます。ラテンのそばにはいたいけど、今は自分の素性を明かさないと……お姉さん、ラテンをお願いします」

 

 少女は深々と頭を下げる。

 彼女のラテンを気にかける気持ちは強い。少女の瞳に不安の色が広がっているのがその証拠だ。

 リリアは深くうなずくと、馬車のほうを歩き出す。二人の女性を含めたベルクーリたちは、それとは反対方向へ歩き出した。

 

 

 彼女たちのことは後でアリスから教えてもらえばいい。そう思いながら、すぐ横にいるラテンに視線を移す。指一本ピクリとも動かないことから、しばらくは起きそうにない。最悪、明日以降も眠っている可能性もある。

 

「ラテン……」

 

 リリアは静かにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あれ? どこだここ……」

 

 瞼を開けるとそこに広がっていたのは、ひたすら白く何もない空間。周りを見渡しながらじっと目を凝らすが、残念ながらこの空間は思った以上に広く、終わりがないように見える。

 

(俺は、さっき……)

 

 先ほどの出来事を頭に浮かび上がらせると、それと同時に再び激痛が脳裏を駆け巡り、浮かび上がった情景が消えかかる。

 

「っ……!」

 

 慌てて頭を押さえると、だんだんと痛みが和らぎ、それとは対照的に消えかかっていた情景はより鮮明に変わっていく。

 

「……そうだ。俺は……」

 

 その言葉とともに浮かんだのは、誰よりも愛おしい彼女の顔。その声を思い出すと、不思議と涙が溢れ出す。

 どうして忘れてしまっていたのだろうか。彼女――ユウキとの思い出は何よりも大切なものだったっというのに。

 

 

 彼女がこの世界にいる自分のもとへ来てくれたのはとても嬉しかった。今すぐにでも小さな、それでも強い芯を持った彼女の体をめいっぱい抱きしめたいという気持ちに駆られる。ユウキの存在は自分の中でも相当大きいものなんだなと、ラテンは思わず苦笑した。だが、嬉しい反面哀しい気持ちも湧き上がる。

 

 

 この世界、《アンダーワールド》は現在、人界側とダークテリトリー側とで大きな戦争状態発展している。ユウキのことだから、ラテンとともに戦うと言い出すだろう。しかし、この世界はALOのようなゲームの世界とはまるっきり違うのだ。

 剣で斬られれば、ゲームの世界のような《斬られた感覚》だけではとどまらず、それ相応の痛みが発生する。現実世界と同等の痛みなのだ。これはまだ来たばかりの彼女にとっては非常にまずい。個人的にも彼女が苦しむ姿は見たくない。

 もちろんユウキの反応速度や剣術を疑っているわけではない。この世界でもおそらくトップレベルの実力を持っているだろう。

 痛みが存在する。たったそれだけなら、この世界が《ALOに痛覚が加えられた世界》と考えればいい話だ。無邪気な彼女とて慎重に動くだろう。だが、問題はそれだけではない。

 

 

 アンダーワールドに存在する《人界》と《暗黒界》。住んでいるところ、姿かたちが違えど、この二つに住んでいる者に共通することがある。それは、《本物同等の生物》だということだ。 

 ここに住んでいる者たちを間近で見れば、余程冷淡で冷酷な者でなければ彼らを《NPC

》としてではなく《生物》として認識するはずだ。それほどこの世界に住んでいる者は、現実感あるのだ。

 本物同等の生物を斬るということは、それすなわち殺人と同意義だ。いくら第三者が、『本物ではないから殺人ではない』と言っても、実行した本人はそんな思考することができない。感覚でわかるのだ。ラテン自身もそうだった。

 約三年前、マリンをゴブリンたちから救うために彼らを斬ったとき、自分は確かに彼らを倒した(・・・)のではなく殺した(・・・)のだという感覚に包まれた。

 人を殺めた罪悪感、だけで行動不能に陥らなかったのは、人を殺すことをSAOの時に経験していたからであり、そんな経験がないユウキがダークテリトリー側の《敵》を殺せば、彼女を深く傷つけてしまうことになる。彼女のきれいな手を、人殺しという名目と共に血で汚してしまうことになるのだ。そんな重荷を彼女に背負わせたくはない。 

 だからこそユウキには今のこの世界に来てほしくはなかった。

 

 

 だが彼女が来てくれたからこそ、ラテンは記憶を取り戻し、無力な自分を責めることがなくなった。これでリリアを自分の手で守ることができる。もちろんリリアだけではない。

 《光の巫女》として狙われているアリスや、この世界にやって来たユウキ。精神が治っていないキリトや、人界軍として戦う仲間たち。

 そのすべてを例え自分が大量の血で汚れても守り通す。

 

(……汚れんのは……俺一人で十分だ)

 

 決意を胸にラテンは立ち上がる。まずはこの場から脱出しなければならない。

 指先を組み、大きく伸びをしながら改めて周りを見渡す。が、先ほど同様、何もない。

 

「はぁ。どうやって出ましょうかねぇ……」

 

 頭をかきながら途方に暮れていると、違和感のある声が耳に入り込んでくる。

 

『ようやく思い出したみたいだな……』

 

「は?」

 

 この声は聞き覚えがある。

 まるで録音した自分の声を聞いているような、そんな声だ。疑問が浮かび上がるが、その声の主にきけばここから出る手段がわかるかもしれない。

 

「お前は誰だ……いったいどこにいるんだ?」

 

 途端、目の前に縦横五十センチほどの黒い靄が現れる。そして、その靄の中央よりもやや上ほどか、そこに二つの赤い目が目が出現した。

 それを見て思わずぎょっとする。

 その場から全力で逃げることが頭に浮かんだのと同時に、その黒い靄が口もないのに話し始める。

 

『俺はお前だ。正確にはお前の中の《真意》だが』

 

「はあぁ!? お前が何言っているのか全然わかんないんだけど……」

 

 いきなりの意味不明な発言にラテンは戸惑う。

 それに真意とは何なのか。目の前の奴の正体よりもそちらのほうが気になってしまう。

 

「その《真意》ってなんなんだよ」

 

『……お前が戦闘時に何度も経験している状態のことだ』

 

「戦闘時の時に何度も……?」

 

 目の前の奴が言っているのは、SAOの時にも何度か経験していた不思議な感覚のことなのだろうか。あの状態に名前があるなんて知りもしなかった。

 

「ああ、あの状態のことね…………って、それじゃ尚更意味が分かんねえよ!? 百歩譲ってお前が俺だとしよう。なんで俺が俺の前に現れるんだよ」

 

『それは……忠告するためだ』

 

「忠告ぅ?」

 

 何かまずいことでもしでかしてしまったのだろうか。必死に記憶を呼び起こすが、まったく身に覚えがない。ここは自分自身の話を聞いたほうがいいだろう。

 

『いいか? 俺の発動条件は、お前の強い意志だ』

 

 確かによくよく思い出してみれば、《真意》の状態になったときはすべて、何かを強く思った時だったような気がする。それならば意図的に発動させることもできるかもしれない。我ながらいいアイデアだ。

 

『だが、俺の発動の本筋は《自己防衛本能》だ』

 

「自己防衛本能?」

 

『そうだ。自分以外を拒絶し、すべてを無力化するように働く。まあ殺人衝動といったほうがわかりやすいかもな』

 

「へぇ~…………は? 殺人衝動?」

 

『そう。それも、無差別に、だ』

 

 無差別の殺人衝動。つまり、あの状態の自分は対象以外にも……仲間にも刀を振るう可能性があったということだ。

 だが、それでは一つ疑問が浮かぶ。それは、アドミニストレータが作り出した《ソードゴーレム》と戦った時だ。あの時はリリアたちを見ても、何も思わなかった。自分以外を無差別に拒絶、無力化するように働くのなら、他の者と協力などするはずがない。

 

「……でも、ソードゴーレムの時はリリアたちを見ても何も思わなかったじゃねえか。どういうことなんだよ?」

 

『その答えは簡単だ。そして、俺が忠告する理由でもある』

 

「それは……?」

 

 忠告する理由。

 《真意》が味方にも被害を及ぼす可能性が発生した今、この忠告はしっかりと聞くべきかもしれない。内容次第では、超がつくほど役に立つ《真意》を発動させないような行動をしなければならない。

 黒い靄が少しの間隔をあけて、再び話す。

 

『今のお前と俺が未完全だからだ』

 

「未完全……」

 

『だから、まだ(・・)お前には仲間を斬るという考えはない。お前にとって今が一番いい状態なのかもな』

 

 確かに今の未完成な《真意》ならば、仲間に被害を及ぼすことはない。問題は、あと何回発動すれば、完成してしまうかだ。

 

「あと……あと何回発動したら完成するんだ?」

 

『……あと、一度だ』

 

「あと、一回……」

 

 限界を超えた力を出すことができるのはあと一回。つまり、ダークテリトリー側の大将の元にたどり着く前に一度でも発動すれば、次に発動するときその場にいる仲間も殺してしまうことになる。

 次発動すれば、人界軍を離れるか、一対一で敵の大将と殺りあうかの二択しかなくなるということだ。

 これからのことを考えていると、突然目前の黒い靄が大きく揺れる。

 

『俺は忠告をした。あとはお前次第だ。お前がどんな選択をしようが俺はお前を尊重する。俺はお前だからな』

 

「え……?」

 

 黒い靄はそれだけ言うと、ゆっくりと消えていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! まだ聞きたいことが……あっ、おい!」

 

 ラテンの叫びも虚しく、黒い靄が跡形もなく消えると、視界がだんだんと黒く染まっていく。

 それがすべてを埋め尽くすとラテンは意識を手放した。

 

 

 

 

 





あ………あれ? なんかおかしいな。これ、ソードアートオンラインの二次創作小説ですよね? あれ、あれれ? 


ま、いっか!(笑)




というわけでお待たせしました。最新話です。
最新話といっても物語自体はまったく進んでいません(笑) 
書いてて思ったんですが、ユウキの一人称が『私』って、結構違和感がありますよね。まあ私は、『ボク』でも『私』でも、ユウキはかわいいからいいかな(笑)


話が変わりますが皆さん、米山シヲ先生作 『ブラッディ・クロス』という漫画はご存知でしょうか? 
最近はこの漫画にはまっていまして、全巻買ってから何度も読み直してます(笑) 
↑お前は投稿ペースを上げろ

というわけで、これからもこの作品をよろしくお願いします!

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