ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第三十六話 再会と別れ

「「………」」

 

 補給係としての仕事を終えたラテンは、かつての傍付きであったシャロンと共に、簡易宿舎に来ていた。自室に入るや否や、椅子に座るよう促したラテンはベットに座り込み、何を言えばいいかわからないまま、今現在に至る。

 先ほどから続いている無言状態は、正直に言って気まずい。相手と何もなかったならたわいのない話ができるのだが、残念ながらラテンとシャロンは最悪な別れ方をした。その再会をいつもの調子で喜ぶことはラテンにはできない。

 

「ぁ………」

 

(俺の意気地なし!!)

 

 口を開いても言葉を出すことができない。これではいつまでたっても変わらないだろう。開いては閉じて、また開いては閉じてを繰り返しているラテンに気が付いたのか、先ほどから俯いていたシャロンが顔を上げた。

 

「……お久し…ぶりです」

 

「あ、ああ」

 

 正直に言って、ラテンの人生の中で一番気まずい状況だろう。シャロンに対する罪悪感が頭の中を駆け回り、思考が正常に動いてくれない。

 だから……

 

「あ、あのさ………元気だった?」

 

 何とか絞り出した一言。しかし、この一言は完全にアウトだろう。もしラテンがシャロンの立場であったら、「アホかこいつ」と思ってしまうはずだ。

 自分の言ったことを少々悔やんでいると、先ほどと同じようにトーンが低い声が聞こえてくる。

 

「……先輩のことは全部聞きました。大変…だったんですよね」

 

「ま、まあな」

 

 シャロンが自分のことを知っているとは、正直驚いた。確かにロニエとティーゼには、約束を守れないと伝えておいてくれと言ったが、どうやら二人はその理由までも言ってしまったらしい。

 

(まあ、しょうがないか……)

 

 ラテンは大きく深呼吸すると、ベットから立ち上がる。ラテンの行動を見て、首を傾げたシャロンはラテンの顔をじっと見ていた。

 そして……

 

「……すまなかった。約束を守れなくて」

 

「………」

 

 まさか頭を下げてくるとは思わなかったのだろう、シャロンは目を丸くしている。しかしそれも一瞬で、すぐさま表情を変えた。

 

「……そんなことは………」

 

「……え?」

 

「そんなことは、どうでもいいです!!」

 

(何で怒ってんの―――!?)

 

 今度はラテンが目を丸くする番だった。シャロンの勢いに思わず、ベットに倒れ込む。何が何だかわからないラテンに、シャロンは目元をにじませながら口を開いた。

 

「なんで、一言言ってくれなかったんですか……」

 

「そ、それは本当にすまないと…」

 

「約束のことじゃありません! なんでラテン先輩は何でもかんでも一人でやろうとするんですか……」

 

「………」

 

 約束のことではないとなると、残ることはただ一つしかない。カセドラルに行ったことだ。

 正確にはラテン一人ではなく、キリト、ユージオの三人だったのだが、カセドラルでの行動からラテン一人だったと言っても過言ではないだろう。しかし彼女がそのことについて怒っているのなら、改めて彼女に伝えずに行ったことは正解だったかもしれない。

 

「……私だって、一言言ってくれれば……!」

 

「……言わずに行ったのは正解だったかもな」

 

「え?」

 

 シャロンは目を丸くする。

 あの時にシャロンに伝えれば確実について来ようとしたはずだ。それを認めるということは、カセドラルで体験した地獄を彼女に見せることと同義。一歩間違っていたら、死んでいたかもしれないのだ。そんなところに大切な傍付きを連れていくほど馬鹿ではない。

 

「お前が来てたら……俺はたぶん一生後悔してたかもしれない」

 

「………」

 

「……まあ、それは今回にも共通するかもな。シャロンがこの場にいることは、俺としては嬉しいんだけど……。でも、できれば、修剣学院にいてほしかった」

 

「人界の危機だというのに、そんな所でのこのこ戦争が終わるのを待っている私ではないですよ」

 

「それもそうか」

 

 ラテンは苦笑する。彼女のことは、結構理解しているつもりだ。

 待つことができない。それが彼女の難点でもあり、彼女のいいところでもある。しかし、彼女が今回の戦争に来てほしくなかったのは、本当だ。

 

 人界対ダークテリトリー。おそらくこの戦争は今までの戦いの中で間違いなく一番大きなもの。そこに参加するということは、それ相応の覚悟をしなければならない。整合騎士の実力は本物だが、正直分が悪いだろう。

 整合騎士と言えど、所詮は一騎当千の兵。最高でも四万から五万の兵を倒すのが精一杯のはずだ。それに対して、ダークテリトリーの兵は予想では五万以上。下手したら十万に登るかもしれない。そんな相手に整合騎士を含めたたった三千人の兵が勝てる保証はどこにもない。

 もし人界軍に戦況を大きく動かす切り札があるとすれば……

 

「……くそっ」

 

 ラテンは吐き捨てるようにつぶやいた。その拳は固く握りしめられており、小さく震えている。

 

「先輩……」

 

 シャロンは立ち上がり、ラテンの右手をそっと自身の両手で包み込む。それを胸元まで寄せると、優しい声音でつぶやいた。

 

「先輩ならきっと大丈夫ですよ」

 

「………シャロン」

 

 ラテンはそっと顔を上げる。

 やはり彼女は少々毒舌だが、優しい一面がある。改めてそう感じた。しかし、ラテンの感動も次の言葉ですぐさま消し飛ぶ。

 

「……先輩は、バカで、アホで、すぐ約束を忘れたり破ったりする人ですが」

 

「なぬっ!? この状況で言うことかよ!?」

 

「ええ。だって本当のことじゃないですか」

 

「…………否定はするよ!? ちゃんとするからね!?」

 

 それを聞いたシャロンは笑いながら、ドアへと向かっていく。最後に笑っていたということは、許してもらえたということなのだろうか。

 そうだといいな、と思いながらラテンも見送ろうと一歩踏み出すと、シャロンが振り向いた。

 

「……どうした?」

 

 シャロンはまっすぐラテンの瞳を見つめながら、今までで見た最大級の笑顔で口を開く。

 

「先輩なら大丈夫ですよ」

 

「え? ……あ、ああ」

 

 ラテンの返事を聞いたシャロンは、ゆっくりとドアを開け、ラテンの部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 野営地に到着してからすでに五日が経過していた。それはもうすぐ開戦と言うことも意味する。

 リリアとは結局、初日以来、顔を合わせていないのだが、彼女は彼女なりに頑張っているはずだ。正直ラテンとしては、その隣に同じく剣士として立ちたかったのだが、今は補給係として自分のできる精一杯のことをするしかない。

 ラテンはジャビと共に、自分の配置へと行くため自室を出る。しかしドアを開けた時点で立ち止まった。

 

「……よう、リリア。まだ五日しかたってないのに、ずいぶんと久しぶりに感じるな」

 

「私としては、このまま会わなかった方がいいのですけどね」

 

「相変わらず素直じゃねぇな」

 

 そのまま自室を出るとリリアと共に、歩き出す。

 おそらく彼女と会うのはこれが最後になるはずだ。補給係と言えど、最前線で戦うリリアと会う確率は少ない。会ってもせいぜい、守備軍の隊長クラスだろう。もし会うことがあるとすれば、それはラテンが記憶を取り戻す瞬間だ。彼女はそれを知った上でここに来たはずだ。

 

「で、守備軍はどんな戦略で勝つつもりなんだ?」

 

「峡谷で従深陣を敷き、敵軍の突撃をひたすら受け止め、削りきる。というものです」

 

「そうか。でもそれだと、大弓部隊や魔術師団相手に苦戦するんじゃないのか?」

 

「ええ。ですからその前に私たちが神聖力を根こそぎ消費することで、強力な術式を防ぎます」

 

「おいおい、まじかよ」

 

 確かにファナティオの作戦には一理ある。遠距離攻撃に対してはとてもすばらしい効力を発揮するだろう。しかし、神聖力は何も、攻撃にだけ消費するものではない。神聖力あ枯渇してしまえば、傷ついた者に治癒術を施すことができなくなる。数が圧倒的に少ない守備軍としては、大きな痛手になるだろう。

 リリアはラテンが何を懸念しているのか理解したのか、続けて口を開く。

 

「治癒に関しては心配はありません、と言いたいところです。ファナティオ様はそれを見越して、カセドラルの宝物庫から高級触媒と治療薬を運んできました。使用する術式を治癒術に限定すれば、二、三日はもつはずです」

 

「へぇ、それはご苦労なことだな。でも問題はもう一つあるぞ」

 

 確かに遠距離攻撃対策の弱点はそれで解決するだろう。しかし峡谷はいくらソルスやテラリアの恵みが薄いと言っても、届いていることは確かだ。つまり長い年月の間に膨大な神聖力が蓄積されている可能性がある。それを短時間で消費するには、アドミニストレータやカーディナル並の術者がいなければ無理だろう。そこをファナティオはどうするつもりなのか。

 ラテンがそれをリリアに聞く前に、リリアが口を開く。

 

「それに関しては、一人だけいます」

 

「一人? ベルクーリか? それともファナティオか?」

 

「いえ」

 

 彼女は一呼吸置く。

 膨大な神聖力を短時間で消費することができる人物。それが最強の整合騎士、ベルクーリ・シンセンス・ワンでも、副騎士長のファナティオ・シンセンス・ツーでもないのなら、ラテンの知っている中では一人しかいない。

 次にリリアの口から発せられた名前は、ラテンの予想通りのものだった。

 

「アリスです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく歩いた。

 最初はリリアがラテンを見送るはずだったのだが、ラテンとしては性に合わず、リリアを見送るため守備軍本体へと足を運んだのだ。

 しばらくは無言状態だったのだが、不思議とその状況を嫌とは感じなかった。おそらくリリアは、ラテンの言いたいことをすべてわかっている。それ以上に今は二人でいたいという気持ちが大きかったのかもしれない。

 守備軍の元まで辿り着くと、リリアは振り向く。

 

「今までありがとうございます」

 

「……何だよ。一生の別れみたいに…」

 

「いえ。私はあなたと出会って変わることができました。あなたに出会わなかったら、今もカセドラルで桜の木を見上げていたでしょう」

 

「それはそれで、似合うと思うけどな」

 

 ラテンの言葉にリリアがフッと笑う。彼女の笑顔はあまり見たことがないので、得をした気分なのだが、どうにも素直に喜べない。

 ラテンは思わず頭をかくと、リリアが口を開く。

 

「……また、会えたらいいですね」

 

「いきなり素直になるんだな、お前は」

 

「素直な私は変ですか」

 

「……いや、変じゃない。いいと思うぜ、俺はな」

 

 リリアは再び笑うと踵を返す。その背中は、華奢な少女とは思えないような、迫力が感じられる。黄金の髪が風に揺られるのを見て、ラテンは口を開いた。

 

「今度も……俺から会いに行くよ。そして、お前を守る」

 

「……ぜひ、お願いしますよ」

 

 リリアは振り返らなかったが、その言葉を聞いたラテンは踵を返し、まっすぐ歩いていった。

  

 

 

 

 

 

 

 




安定のめちゃくちゃですね(笑)

それに加え一か月ぶりの更新、本当に申し訳ありませんでしたm(_ _)m
しかし、神速の剣帝は完全に原作に追いついてしまったので、再び長い未更新が続くと思われます。早く原作を発売してほしいですね!
 

そして、とても遅くなりましたが、
㊗お気に入り四百件&UA80000!

皆様本当にありがとうございます!

さて今回は…………何もないです(泣)
なんかすいません。ですが、今は結構練習しているので新たなラテンが見れると思いますよ(笑)


失われた片翼、神の契約者、共々これからもよろしくお願いします!

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