「それにしても、お互いに運が良かったな」
「ああ、まったくだ」
キリトの言葉にラテンは素直な気持ちで答えた。
リリアとアリスの元へと行くまでにキリトからこのオブジェクトまで来た道のりを尋ねる。どうやら、アリスと二人で協力してここまで来たらしい。そしてそのアリスについてキリトから愚痴をさんざん聞かされた。
「……まあ、アリスもリリアも似てるんだな」
「え?もしかして、リリアもアリスみたいなのか?」
「いやいや、アリスなんて可愛いもんだろ。リリアなんて話の最後には『処刑します!』って必ず言うんだぜ?何なんだよあいつ。ドSかよ……」
「それは、どんまいだな……」
キリトは苦笑する。キリトから聞いた限りでは、アリスもなかなかの者だが素直な一面もあるためリリアよりはましだ。
あのお嬢様は口を開けば食って掛かる猛獣のようなものだ。
「早く上に行かないとな」
「ああ」
二人はそれからしばらく歩くと視界に二つの影が入ってくる。
「うーん。ここから見ると姉妹みたいだな」
「そうか?俺には双子に見えるけど」
ラテンとキリトはリリアとアリスから少し離れたところでしゃがみこんだ。静かにしていれば二人とも美少女だというのに、なぜこんなにも性格がひねくれているのか。それが整合騎士の性格なのだろうか。と疑い始めたくなる。
「いま、失礼なことを考えませんでしたか?」
「ん?ああ。静かにしてれば美少女なのになあ、と思っただけだよ」
「本当にあなたは私に何を求めているのですか?気持ち悪いですよ?」
「おまっ………はあ。すいませんでした」
これ以上反論したら十中八九、口げんかになるだろう。ヒートアップしたら斬り合いになりかねない。
どうにかラテンは自分を抑え込むと、これからどうするか意見を出し合うことにした。
「これからどうする?壁登りに関してはキリトとアリスの方法でやろうと思ってるけど、月が昇らないとできそうにもないな」
「ああ、とりあえずそれまで待つことにするか」
それから五分ほど無言の時間が続く。
なんか気まずくなってきたので、ラテンは何か話題がないかと考えていると、可愛らしい音が四人の耳に入ってきた。
ラテン、キリト、アリスの三人は音のした方向に顔を向ける。そこではリリアが顔を真っ赤にして、膝に顔を埋めていた。
その音の正体をラテンが知った瞬間、何かを思いついたようにニヤニヤしながらリリアの隣に歩いていく。
「あれあれ~?まさか、天下の整合騎士様はお腹が空いたんですか~?」
「………」
「そんなわけないですよねぇ?だってあなたは整g――――ちょっ!冗談ですよ、リリアお嬢様!今のはほんと冗談ですから、剣をしまってくださいませ!!」
「……言っておきますけど、整合騎士だからってお腹はすきます!ですが、一度や二度抜いたくらいでは死にはしません」
(なんて頑固な野郎だ)
ラテンは心の底でそう思った。
お腹が空いたならば素直にそう言えばいいだけの話なのだが、生憎このお嬢様は変なところで意地を張る。
ラテンは一つため息をつくと、自分のポケットに手を突っ込んだ。そして、掴んだものをリリアに手渡す。
「……これは?」
「饅頭だ。さっき、と言ってもやんちゃな二人組に出会う前だけど、その時にキリトのポケットから拝借したんだ」
「ああっ!。だから、二つしかなかったのかよ…」
「悪いな、キリト。まあ、貸し一つにしておいてくれ」
キリトはしぶしぶ了承する。
それにもかかわらず、リリアは饅頭を食べなかった。
「……あなたは……」
「ん?」
「……あなたは食べないのですか?これはあなたのものなんでしょう?それなのに、私に……」
「ああっ、もう!面倒くさい!いいからさっさと食え!」
「えっ?あっ―――――むぐっ!?」
ラテンはリリアの手を掴むと饅頭を無理やり口の中に押し込んだ。先ほど、キリトたちに出会う前に少し温めておいてから、食べれないということはないだろう。
それに、一度口に入れたからには選択肢は食べるか吐き捨てるかのどちらかしかなくなる。整合騎士ならばどちらが最善かは理解できるはずだ。まあ、ラテン手がリリアの口をふさいでいる以上、後者の選択肢は自動的に切り捨てられるのだが。
案の定、リリアは口をもごもごと動かした。ラテンはリリアが呑み込んだのを確認すると手を放す。
「一体何をするんですか!」
「そんなに怒るなって。おかげで、空腹は免れただろ?」
「……確かに食べ物をくださったことには感謝していますけど……それはそれ、これはこれです!あんな強要の仕方……」
「なんだよ。『あーん』的なことをやってほしかったのか?」
「……もういいです。とりあえず、お礼を言っておきます。ありがとう」
普段からそうすればいいのに。という言葉を投げかけそうになるが、危うく止める。さすがのラテンも、このお嬢様の取り扱い方を理解してきた。
だが、昔からこういう性格なのだろうか。サインやリリアから聞いた話では、誰にでも優しかったらしいなのだが。もしかしたら、ラテンにだけこういう態度をとっているのか。どのみち、この性格では素直ではない妹のマリンと似たようなものだ。
言ったら口喧嘩になると頭でわかっていても、思わず口に出してしまう。
「まったく、素直じゃない所は妹のマリンに似てるのな。……あ、でも、お前がお姉さんだから、向こうがこっちと似てるのか。どっちにしても、姉妹は似てるもんだな」
そう言った瞬間。
今まで口喧嘩に発展しても手は出さなかったリリアが、猛烈なスピードでラテンの襟首を強く掴む。ラテンは驚きのあまり、リリアの顔を凝視するが、その表情は呆れも蔑みでもなかった。顔を蒼白に染め、口は小刻みに震えている。
「あなた、いま、何と言いました」
「えっ?お前は妹のマリンに似ていると……あ」
思わず口に出したのが、仇になった。
キリトの話では、整合騎士には整合騎士になる前の記憶がない。つまり、妹がいることなんて知らないのである。
ラテンは時期を考えてそのことをリリアに教えようと思ったのだが、それも後の祭りになってしまった。
ここまで言ってしまったのだから、誤魔化すことはできない。そうなると、ラテンにはここですべてを話すしか選択肢がなくなる。
(まあ、順序が先送りになっただけか)
ラテンは覚悟を決めて、リリアにすべてを話すことを決意した。
「リリア。お前には妹がいるんだ。俺の知っている限りのことをお前に話すよ」
「……もし、あなたが言っていることが嘘だと判断したら私はあなたをこの場で処刑します」
「……わかった。でも、その判断がお前の本当の思いから湧き出たものならな。なんでこんなことを言うかというと、お前には、お前以外の人間に与えられ、そう意識できない命令が存在するからだ」
「……私たち整合騎士の責務のことですか」
「そういうことだ」
リリアの目がすうっと細まる。その瞳には敵意が宿っていることが見て取れた。だが、ラテンはそれに構わず話を続ける。
「整合騎士は、公理教会最高司祭アドミニストレータによって、秩序と正義を維持するために召喚された……とお前たちは思っているはずだ。だけど、そう信じているのはセントラル・カセドラル内部の人間だけだ。人界に暮らす何万もの人たちはそんなことを、少しも思ってはいない」
「何を……言って――」
「お前も一度下界の王都の住民に訊いてみればいい。毎年開催される四大帝国統一武術大会の優勝者に与えられるものは何か。そいつは、ほぼ百%の確率でこう答えるはずだ。《教会の整合騎士に取り立てられる栄誉》だとな」
「そ、そんなこと……」
「リリア。お前は誰から生まれ、どこで育ったか覚えていないだろ?おそらく最初の記憶は、アドミニストレータがお前に向かって《天から使わされた神の騎士》って言われたところとかだろ」
「………はい」
ラテンの言葉を理解しているのか、リリアは唇をかみしめてそう答えた。
「……ですが、アドミニストレータ様は、ダークテリトリの邪悪な者どもを打ち滅ぼし、騎士の責務を全うしたら、ステイシア神によって封印されていた天界の記憶がすべて蘇ると……おしゃって……」
「確かにアドミニストレータが言ったことは、正しい。でも、封印したのはステイシア神ではなく、アドミニストレータ本人なんだ。それに封印されているのは天界の記憶ではなく、お前が人のことして生まれ育ったという記憶だ。お前以外の整合騎士も全員同じ。整合騎士最強と呼ばれている騎士団長様でもな」
「………」
「いいか?お前の話をするぞ」
リリアがラテンの言葉を受け入れてくれるか、そうでないかはわからない。だが、ラテンは決断したのだ。目の前にいる少女の失われた記憶の部分を話すことを。
リリアはラテンの襟首から手を放し、目の前で力が抜けたかのようにぺたんと座り込む。そして、ラテンの言葉を待つかのように俯いた。
そこまで確認したラテンは口を開く。
「お前の本当の名前は、《リリア・アインシャルト》。北部の辺境に位置するサイリス村がお前の故郷だ。お前の妹、マリンの話だと八年前に連れていかれてその時の歳が十二歳。つまりお前は俺と同じ二十歳だ。何故整合騎士に連れていかれたのかは詳しくはわからないけど、たぶんお前には才能があったからだ。村始まって以来の天才、そしてどんなことをされても揺るがない正義感。それに加え、誰にでも優しく接する優しい心の持ち主。人の心を和やかにする無邪気な笑顔。村のみんなから愛され、信頼された。それに目を付けたアドミニストレータが整合騎士に命令して、お前は連れていかれて……」
そこでラテンは口を閉じた。
サインやマリンからリリアの話をそこまで詳しく教えてもらっただろうか……。
普通ならばそのはずだ。二年前にこの世界にやってきたラテンが、六年前のことなんて知るはずもない。それなのに、ラテンの脳裏には自分の元へ駆けよってくる幼い少女や、自分に向けられた無邪気な笑顔が鮮明に浮かび上がる。
きっとその光景を現実の記憶と混同してしまったのだろうと自分に言い聞かせ、ラテンは顔を上げたが、リリアは不自然に切ったラテンの言葉を気にする余裕はなかったようだ。その表情は蒼ざめていて、ほとんど声にならない声が、細かく流れる。
「リリア・アインシャルト……。私の、名前……?サイリス……妹……思い出せない、何も……」
「無理にして思い出そうとするな、意識を失うぞ」
「今更そんなことを言ったって……私は知りたいんです、すべてを。あなたの話を信じるか信じないかは……すべてを聞いたうえで決めます」
「……そうか。でも俺にだってお前の昔のことを全部知っているわけじゃない。知っていることをできる限り話すよ。お前のお父さんの名前はツヴァイ・アインシャルト。サイリス村の村長をしていた人だ。お母さんの名前はルミア・フレステイン。優しい人とだったそうだ。でも残念ながら、お前の両親はすでに亡くなっている。今はお前の祖父が村長をしているんだ。そして、さっき言った通りお前には一人の妹がいる。その名前はマリン・アインシャルト。今は、小さな宿でソコロフさんとアイシャさんの手伝いをしている。今のお前に似てちょっと素直じゃないけど、優しいやつだ」
知っていることをすべて話したラテンはリリアに顔を向けるが、何の反応を示さない。先ほどまでの表情が嘘みたいに消え去り、目の前に広がる空一面を見つめていた。
(失敗……かもな)
作戦が失敗に終わったならば、この場でリリアを気絶させてアドミニストレータの元へ急ぐしか方法はない。
ラテンは刀を握り、腰から鞘ごと引き抜こうとするがその動作もリリアが口にした瞬間停止する。
「マリン……」
「………」
「……思い出せません。顔も、声も、体も。でも、この名前を呼ぶのは初めてではありません。私の口が……心が、憶えている」
「……そうか」
「何度も呼びました。毎日、毎晩、どんな時も……マリン……マリン……」
リリアの瞳から次々と流れていく滴が星の光を受けて煌びやかに落ちていく。ラテンはその光景を見て驚愕した。対面してから弱みを見せなかったリリアが涙を流しているのだ。どんな性格でもリリアは女の子だと改めて感じてしまう。
「本当なのですね……私に、父が、母が………妹が、この夜空の下に……」
その声は次第に嗚咽へと変わっていく。
無意識にラテンはリリアに手を伸ばすが、その手をリリアは手の甲で強く払った。
「見ないでください!」
濡れた声でそう叫んだリリアは、右手でラテンの胸を衝き、左手で目元を何度もぬぐった。だが、涙はいっこうに止まらず、とうとうリリアは顔を両ひざに埋め、激しく肩を震わせた。
「……リリア」
目の前の少女を必ず故郷に連れて行かなければならない。
改めて強く決心する。どんなことが起きようとも、マリンの元へ連れていく。例えそれでラテンが死ぬことになっても。
激しい嗚咽が徐々にその音量を落とし、密やかなすすり泣きに変わるまでに、随分と長い時間を要した。その間ラテンは目の前に広がる空を見つめながら、これからのことを考えていた。
それを頭の中で整理していると膝を抱えて俯いたままリリアが口を開いた。
「あなたの話を聞いて、アドミニストレータ様が私たちを深く欺いておられることは理解できました」
「そうか、助かるよ」
「ですが、アドミニストレータ様が私たちに与えてくださった第一使命は、ダークテリトリーからの侵略に対する防衛ということも事実です。現に十数名の騎士たちが今も果ての山脈で戦っています」
「………」
「あなたは私の故郷が北方の辺境の地にあると言いました。つまり、ダークテリトリーからの侵略が始まったら、真っ先に蹂躙されてしまう地域です。もし、あなたたちがすべての整合騎士を倒し、アドミニストレータ様に刃をかけたとして、いったい誰が闇の軍勢を撃退するんですか。まさか、あなたたちだけで迎え撃つとでも?」
「……確かに、そうなるかもしれないな。でも逆に訊くけど、お前は整合騎士団が万全の態勢で迎え撃てば、闇の軍勢を一掃できると思っているのか?」
「それは……」
「たった三十人そこらで、何万もの闇の軍勢を対処しきれるなんて到底思えない。闇の軍勢にだって、整合騎士並の…もしかしたらそれ以上の実力を持ったやつだっている可能性があるんだぜ?いざ戦うとなると、敗北するのはどっちか誰にだって理解できるだろ」
リリアはラテンの言葉にしばらくの沈黙を経て、再び口を開く。
「……それは、騎士長ベルクーリ閣下も、胸の裡には同様の懸念を持っているようでした。それは私自身も同じです。ですが、私たち整合騎士以外に戦力と呼べるものがないこともまた事実。結局は私たちがいなければ、抗うことさえできなくなります」
「ああ。でも、闇の軍勢から自分の街を家族を守りたいっている人だっているだろ?そう思っている貴族や一般民にここのある無数の武具を分け与えて、お前たち整合騎士から本物の剣技や神聖術を学ばせれば、闇の軍勢の侵略を防ぐことも夢じゃない。だけど、今のアドミニストレータの絶対支配ではそんなことが不可能なんだ。だから、早急にアドミニストレータを打ち破って、残されたわずかな時間を使って防衛力を築き上げるしかないんだ」
「………」
リリアは再び俯く。
おそらく、公理教会への絶対的忠誠と捕縛した侵入者の言葉を天秤にかけているのだろう。それもそうだ。もし、リリアがラテンの言葉に賛同すれば、公理教会に刃向かうことになる。それは彼女にとっては人生最大の選択であり、どっちの転ぶかは彼女次第だ。悩んだ結果、再び公理教会……アドミニストレータに忠誠を誓うのならば仕方がない。そうなったら、ラテンは再び彼女と本気で剣を交えることになるだろう。
やがて―――。
短い言葉が、ぽつりとつぶやかれた。
「……会えますか」
「………」
「もしあなたに協力して、封印されていた記憶を取り戻せたら、私はマリンに会えますか」
ラテンは少しの間沈黙する。
会える。その言葉は嘘のようで嘘ではない。
しかし、それを告げていいかラテンは迷っていた。だが、ここまできて逃げる、と言う選択肢はラテンの頭の中には残っていないかった。
「……会うことはできる。飛龍を使えばすぐにな。だけど……」
「……だけど?」
「マリンと再会するのはリリアであってリリアでない。記憶を取り戻した瞬間、お前の……整合騎士リリア・シンセンス・サーティワンとしての人格は消滅して、リリア・アインシャルトへと戻る。お前が整合騎士として生きてきた記憶はそれと共に消え去り、その体を本来の人格へと明け渡す。簡単だが残酷な言い方をすると、今のリリアはアドミニストレータが作り出した《仮のリリア》なんだ」
「……そうですか。この体は借りているものなんですね……」
その声はとても弱々しく、風が吹けば消えてしまいそうな、そんな声だった。おそらくリリアは今、複雑な心境を持っているだろう。今まで自分だと思っていた体が本当は他人のようなもの。そう言われれば誰だって動揺や何らかを考えてしまうだろう。人によっては精神が崩壊してしまうかもしれない。
「……借りたものはしっかり返さないといけませんね。それが、サイリス村の人々……マリンが望んでいることなら」
「………リリア……」
「……一つだけ頼みごとがあるのですが、聞いていただけませんか?」
「俺ができる範囲でなら何でも」
「私が……仮のリリアとしての人格が失われる前に、私をサイリス村へ連れて行ってくれませんか。一目だけでいいんです。妹の、マリンの姿を見せてほしいです」
ラテンに向けられた顔は今までのような、呆れや蔑みが混じった表情ではなく、正真正銘の女の子の笑顔だった。その笑顔はとても美しく、まるで一輪の花が咲いたようだ。それは、何重もの花弁を持った八重桜の花がようやく咲いたかのように……。
ラテンはリリアの顔を真正面から見据えると、口を開いた。
「わかった……約束する」
「……絶対ですよ」
「ああ。絶対だ」
ラテンは深くうなずくと、リリアはそれに答えるようにこくりと頷いた。そして一つ深呼吸すると、いつものように凛とした表情になった。
「……人界と、そこに暮らす人々を守るため、私、リリア・シンセシス・サーティワンは、たった今より整合騎士の使命を捨て―――――ッ!!」
「リリア?……リリア!!どうしたんだ!?」
リリアは毅然たる宣言の途中で、体をのけぞらせ右目を右手で抑え込んだ。その表情から、かなりの激痛だと理解できる。
「くっ!―――リリア、何も考えるな!」
ラテンはリリアに近づき、右手で体を押さえた。左手でリリアの右目に添えられている手をゆっくりと外す。
「……なんなんだよ、これは!」
薄い蒼色の瞳には、ちかちかと赤い光が点滅していた。それを間近から覗き込むと、奇妙な記号の羅列が並んでいる。
〖TRELA METSYS〗
それが何を意味しているのかは直ぐには理解できなかったのだが、おそらく鏡文字だ。今のリリアにはこの文字が反転したものが見えているはずだ。つまり、
〖SYSTEM ALERT〗
システム・アラート。その意味ならラテンにも理解できる。PCを使っている人なら、多少は経験しているだろう。不愉快な警告のくせに、ポーンというなかなか印象的な音を出すものだ。
それはこの世界の住人にとっては関係のない単語のはず。そしてそれは、警告を意味するもの。つまり、公理教会に刃向かうことへの《警告》なのだ。このままにしておけば、何が起きるかわからない。
「右目が、焼けるように痛いです……!それに……文字が……!」
「リリア!何も考えるな!」
ラテンは両手でリリアの顔を挟み込む。
「お前に起きてる現象は、たぶん公理教会に逆らうと発動する障壁みたいなものだ。そのままにしてたら、右目が吹き飛ぶかもしれない!」
頭に浮かんだことをとっさに口にしてみたのだが、この場合ではむしろ逆効果かもしれない。どんな人間だって、考えるなと言われて思考を停止させるような器用な真似などできるはずもない。
リリアはラテンの言葉を聞いて、強く目を閉じる。しかし、閉じたところで彼女の右目には赤い文字列が浮かんでいるだろう。リリアの両手は宙をさまよい、ラテンの両肩に触れると強く掴んだ。その力の強さから、ラテンでさえも経験したことのないような苦痛がリリアに襲っているのだと理解できる。
ラテンはリリアの後頭部に右手を回し、自分の胸へ引き寄せた。断続的に小さな悲鳴がラテンの耳に響いてくる。
「……ひどい…です」
「リリア?」
「…記憶、だけでなく……意識すら……誰かに、操られる…なんて……」
「これは、アドミニストレータの仕業じゃないと思う。……たぶん、お前らにとって《神》という存在が引き起こしているのかもしれない」
頭の中で浮かんだ推測をリリアに投げかける。だが、今のリリアには理解不能だろう。それでも、痛みを緩和、もしくはこの現象の停止ができればと口を開いたのだ。
「私たちは神のために戦い続けたのに、何故このような仕打ち……このような強要をするんですか。私にだって、意志はあります!例え造られた存在だとしても、私にだって本当の思いがあります!私は、この世界を……この世界で暮らす人々を守りたい……!」
ラテンは真下に視線を向けるとリリアの瞳のあたりから、赤い強烈な光が発生していることに気付いた。
「リリア……!」
「ラテン……私を、しっかり……」
「…………ああ」
もうラテンにはリリアを止めるすべがない。となると、できるだけ彼女のサポートをするしか道はない。
ラテンはリリアを力いっぱい抱きしめると、リリアがこれでもかと言うほどの大きな声で叫んだ。
「アドミニストレータ並びに神よ!!私は、私の思いを叶えるために……あなたたちと戦います!!」
そう叫び終わった瞬間、ラテンの胸の辺りが物凄い速さで濡れ、それが広がり、白い服を赤く染め上げた。
そして次第に両肩を襲っていた力が徐々に抜けていく。それが完全になくなるころには、リリアは意識を失っていた。
投稿が遅れて申し訳ありませんでした!m(_ _)m
実は、ソードアート・オンライン ロストソングを先日購入しまして、やりこんでたんです。本当にすいません。m(_ _)m
今回は今までで一番長くて、二本に切ればよかったと思っていましたが、話の内容的に切るのは不自然だったので、このような長さにさせていただきました。
ちなみに、途中から、ラテンとリリア二人だけの世界でしたが、少し離れた位置でキリトとアリスも同じ状況に合っていると思っていただければ結構です。
これからもこの作品をよろしくお願いします!