ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第十四話 休日

 

 やさしい日の光がラテンの顔を包み込んでいく。ほどよい光によって瞼が自然に開き、意識が覚醒していく。

 

「……んー。よく寝たな」

 

 大きく伸びをひとつして、ベットから降りる。掛け布団にはジャビがまだ潜り込んでいた。それを一瞥すると、自室のドアから共有スペースへ足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、アスベルとリンクじゃん。朝っぱらから何してんだ?」

 

「おはようございます、ラテン先輩。実はこれから森の探索に行こうとアスベル先輩が仰りまして、その準備をしているんです」

 

「森の探索?…おい、アスベル。学院敷地内の森のことだよな?お前なら何回か行ったことがあるんじゃないか?」

 

「ああ、まあな。森のはずれに湖があったろ?そこにリンクを連れていくんだ」

 

「へ~、あそこにか。ご苦労なこったな」

 

「ありがとうよ。休息日なんだから、たまにはお前もシャロンをどっかに連れてってやれよ?」

 

「まあ、気が向いたらな」

 

 アスベルとリンクが部屋から出ていく。それと入れ替わるようにして、ポニーテールの女性が部屋に入り込んできた。

 

「おはようございます、ラテン先輩!」

 

「あれ?今日はやけに早いな。まだ八時だぞ?」

 

「……え?もしかしてラテン先輩、約束を忘れたんですか?」

 

「約束って何?」

 

「……あなたよくそれで上級修剣士になれましたね……」

 

 シャロンの言葉にラテンは首を傾げる。シャロンと何か約束をしただろうか?記憶を呼び起こそうとするが、残念ながら頭に浮かんでこない。

 真剣に思い出そうとしているラテンにしびれを切らしたのか、少々呆れが混じった声でシャロンが口を開く。

 

「……ラテン先輩。今日は《サードレ金細工店》に行くって約束したじゃないですか!」

 

「……ああ!そういえば、そうだったな」

 

 それは昨日のことだ。

 いつも通り傍付きの仕事をこなしたシャロンにラテンが休息日にどこかに連れてってやろうかと提案した。それで、彼女が私物の剣を作りたいと言ったので、《サードレ金細工店》連れていくことを約束していたのだ。

 

「完全に忘れていましたよね?」

 

「悪かったって。昨日は軽いノリで誘ったつもりだったんだよ。シャロンが俺と行くとはさすがに思ってなかったからさ。……そういえば昨日サードレ金細工店を知ってる友達がいるって言ってたよな?何なら、俺とじゃなくてその子と行ったほうが……」

 

「………」

 

「……はい、行きます。いや、行かせていただきます。だから無言で部屋の片づけをしようとしないでください……」

 

 シャロンが無表情でラテンの部屋に入り、掃除をしようとしたのでラテンが慌てて止める。さすがに休息日まで、傍付きに部屋を掃除させるわけにはいかない。シャロンは機嫌を取り戻してくれたのか共有スペースのソファーに座り込む。

 

「……もしかして、寝間着姿で街を歩くんですか?」

 

「あっ、ちょ、ちょっと待ってろ。すぐに着替えるから」

 

 ラテンは自室に戻り急いで服を着替えはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ザッカリアの街は相変わらず賑やかだ。

 人口はそこまで多くないはずなのだが、見渡す限り人の多さは東京と同じような感じがする。

 その中を歩いているのは純白の制服に身を包んだラテンと初等練士の服装をしたシャロンだ。制服のデザインのせいか、周りよりひときわ目立っている。

 

「シャロンってどんな武器を作りたいんだ?」

 

「私はレイピアですかね。昔から習っていますし、使いやすいですから」

 

「レイピア、ねぇ」

 

 レイピア使いといったら、バーサークヒーラーことアスナが頭の中に浮かび上がってくる。アスナの突きの速さは目で追うのがやっとなほどの速さである。まあ、それもあのデスゲームを経験していたからなのだが。

 

「何か思い当たることなんてあるんですか?」

 

「いや。……シャロンってレイピアばっか使ってたんだろ?」

 

「はい、そうですけど…」

 

「それでよく上位十二人に入ったな。実戦とかすべて片手剣しか使えないってのに」

 

「ああ。そういえば言ってませんでしたね。私の家に伝わる《シュネル流》は元は片手剣専用の流派なんです。だけど、より速さを追求した結果レイピアの方がいいということになって今の剣術になったんです。でも基本の型のほとんどが片手剣に似てるから、そこまで苦にはならないです」

 

「そ、そうか。まあ、簡単に言うとお前には《才能がある》ってことだな、うん」

 

 と、ラテンが勝手に解釈する。シャロンはこれ以上難しい話をしても今がないと思い込んだのか「そういうことにしておいてください」とだけ言って、どんどん前に進んで行った。今回はラテンが誘導しなければならないので、慌ててその背中についていく。

 

「今回は俺がガイドしないといけないんだから、勝手にどんどん行くなよ」

 

「がいどってなんですか?」

 

「えっと、案内するって意味だよ」

 

「そんな言葉があるんですね。知りませんでした」

 

「まあ、お前は知らないほうが普通だからな」

 

 しばらく歩いていると、《サードレ金細工店》の看板が見えてくる。ここへ来るのも約二ヵ月ぶりだ。サードレのおっさんにラテンの刀を見せたらどんな反応をするのか楽しみだったが、生憎ジャビは寮へ置いてきた。持ってきているのは、多少お金が入った財布だけだ。

 

(どんだけ高いのか、わからないからな)

 

「シャロン、ここだ。《サードレ金細工店》。自称ナンバーワンとか言ってるけど、腕は一流だ」

 

「へ~。思ってたのよりもごついですね。金細工なんて言うから、もっと晴れやかな場所だと思ってました」

 

「それ、おっさんの前で言うなよ?ぼったくられる可能性があるからな」

 

「何かよくわかんないですけど、言いませんよ。さすがにラテン先輩と友達以外は相手を敬いますから」

 

「なんか悲しくなってきた……。まあ、いいや。入ろうぜ?」

 

「はい」

 

 ラテンとシャロンはサードレ金細工店に入り込んだ。ドアを開けるとカランカランとベルが店内に鳴り響く。その数秒後に店の奥から久しぶりに見たここの店主が現れた。

 

「久しぶり、サードレのおっさん」

 

「なんじゃ、その制服の色は。……まさか、お前上級修剣士にでもなったのか?」

 

「ご名答。まあ、これもおっさんのおかげとでも言っておくぜ」

 

「へっ。心がこもってないぞ?」

 

 ラテンは「冗談ですよ」と言って、シャロンに視線を向ける。初めて入った店なら普通は少々緊張するものだと思うのだが、そんな素振りは見られない。それどころか店内に置いてある剣や盾を間近で眺めていた。

 

「おーい、シャロン。……えっと、今日はこいつの剣を作ってほしくて来たんで、頼みます」

 

「よろしくお願いします」

 

「ふむ……ラテンの傍付きか。……で、どんな剣がほしい?」

 

「レイピアを作ってもらいたいんですけど…」

 

「レイピアか……これは何かの縁かもしれんな」

 

 一人でぶつぶつ言い始めるサードレを見て、ラテンとシャロンは顔を見合わせる。まあ、少なくとも「何かの縁」と言っているということは、悪いことではなさそうだ。

 

「……おっさん?どうしたんだ急に」

 

「実は一昨日水晶の原石をある商人からもらったんじゃ。これが加工するのにちょうどいい大きさでな。でも、片手剣を作るなら少々幅が足りなくて迷ってたんだが、レイピアなら作れそうじゃ」

 

「水晶の原石?それって珍しいものなのか?」

 

「あたりまえだ。上級修剣士だってのにそんなこともわかんないのか。水晶の原石は大変貴重で、普段は一等爵家から三等爵家しか購入していない代物じゃ。そんなものを武器の加工だけに使うなんてもったいねえ気がするが、わしは細工師じゃからな。剣を作るのが仕事じゃ」

 

「よかったなシャロン」

 

「はい。……でも、とても貴重なものなんですよね?研ぎ代は……?」

 

「確かに……」

 

 一等爵家から三等爵家しか買えない大変貴重なもの。それから武器を作るとなると、どんな値段になるか想像もつかない。もしかしたら、ラテンの全財産を持ってきても足りない可能性がある。

 

「……今回はタダでもらったやつじゃからな。研ぎ代はそこまで高くせん」

 

 ラテンとシャロンは、ホッと安堵する。だが、その安堵もつかの間サードレのおっさんが口を開く。

 

「じゃが、おそらくこの水晶で作る剣はとんでもないものになるかもしれぬ。キリトの剣とまではいかないが、それに近しいモノができるとわしは考えておる。つまり何が言いたいかというと、黒煉岩の砥石を三つ以上使うかもしれぬということじゃ。……今回はしっかり払ってもらうぞ?」

 

「前回は俺関係ねえじゃん……」

 

 ついつい文句を言ってしまったが、そんなことを言ってもこのおっさんは考え直してくれないだろう。

 

「……それで、いつごろできそうですか?レイピアの方は」

 

「そうじゃな少なくとも半年以上はかかりそうじゃ」

 

「まあ、そんなとこか。…んじゃあ頼むよおっさん。最高のものを作ってくれよ?」

 

「わしに任せておけ」

 

「お願いします」

 

 ラテンとシャロンは頭を下げると、扉の前まで歩を進める。サードレのおっさんは「忙しくなるぞォ」とつぶやきながら奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「どんなものができるか楽しみです」

 

「サードレのおっさんが作るんだ。きっと期待以上のものが手に入るさ」

 

 先ほどと変わらず、街道は人であふれかえっている。そんな中、ニコニコしながら歩いているシャロンがふと何かを思いついたかのようにラテンの方へ顔を向ける。

 

「そういえばラテン先輩って、私物の剣を持ってるんですか?部屋を掃除中何度も見渡しているんですけど、見かけたことがないです」

 

「あ、ああ。そういえばシャロンにはまだ言ってなかったな。まあ、口で説明するのもなんだし寮に着いたら見せてやるよ」

 

 しばらく歩き食材市場が近づいてくると甘い匂いが鼻腔に飛び込んでくる。もちろんその正体は蜂蜜パイから漂うものだ。さきほど、十時の鐘が鳴ったばかりなので新しく焼きあがったものが並んでいるはずだ。

 

「……なあ、シャロン。蜂蜜パイを食べないか?」

 

「ラテン先輩とキリト先輩って本当に蜂蜜パイが好きなんですね」

 

「まあ、俺はキリトの影響で好きになったって言ったほうが正しいかもな」

 

 二人は進路を左斜め前方へ変更し、店先のお持ち帰りコーナーの元へ駆け出していく。何せ、ラテンは朝食を食べていないのだ。先ほどから、おなかと背中がこんにちわをしそうな勢いだ。。

 

「ちょ、先輩!待ってくださいよ!」

 

「待てるかっ。俺はまだこんにちわをさせるわけにはいかねえんだよ!」

 

「意味わからないです!」

 

 走るラテンと、追いかけるシャロン。それは、はたから見れば先輩と後輩の立場が逆転しているようにも感じられた。

 

 

 

 




休息日のお話でした。

なんか水晶が貴重という勝手な設定にしましたが、大目に見てくださいm(_ _)m
ちなみにシャロンが使う《シュネル流》のシュネルはドイツ語で<速い>という意味です。皆さんにとってはどうでもいいですね(笑)

これからもよろしくお願いします!


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