ですが、もう少しなんです。安定した更新……。
どうかもう少しの間お待ちしていただければ幸いです。
『あの女、結構強そうだったな』
「ん?……ああ、アズリカ女史のことね」
私物の武器の保有許可を貰い、再び寮の部屋へと足を運んでいるラテンとジャビ。その足取りは少しばかり軽かった。
「あの人は元ノーランガルス北帝国第一代表剣士らしいからな。今はどうかわからないけど、そんじょそこらの衛兵よりかは何倍も強いんじゃないか?」
『今のお前よりも強いかも』
「かもな」
頭に乗っているジャビにデコピンを一発食らわせると、自分の部屋が見えてきた。だが、その扉の前に誰かが立っている。キリトとユージオはすでに自室へ戻ったはずだ。なら、誰なのか。
ラテンは疑問に思いながら、自室の前まで歩を進める。近づいていくにつれてその人物の輪郭がはっきりと見えてきた。
「……アル先輩?」
「……体は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。この通りぴんぴんしています」
そう言ってラテンはいろいろなポーズをとり始めた。しかし、案の定アル先輩は表情一つ崩さない。むしろ険しく見えてくる。
「……どうしたんですか?わざわざ俺の部屋まで来て」
「……ああ。お前にお礼を言いたくてな」
「お礼?」
アル先輩にお礼を言われるようなことをした覚えはない。むしろ、困らせていることの方が多いような気がする。
「……ウォロとの試合のことだ」
「何かしましたっけ?」
リーバンテイン修剣士を呼び捨てで呼んでいるのは、おそらくアル先輩とゴルゴロッソ先輩くらいだ。まあ、それほど絆があるということなのかもしれないが。
「……お前は俺に勝利への執念を教えてくれた」
「………」
「……俺は自分の実力では敵わないと感じたら、潔く負けを認めていた。特にウォロとの試合でな」
「そうですか?アル先輩が手を抜いたところなんて見たことがないですけど」
「表面的にはな。だが、精神的に負けを認めていた。だが、それは間違いだとお前の試合を見て思った」
「………」
「……俺は戦う以前の問題だった。最後の最後まで自分を信じて戦う、それがお前に気付かされたことだ。だから、お礼を言いたい」
「……アル先輩なら、リーバンテイン修剣士に勝てますよ、きっと」
「……そうか」
「俺は信じています。アル先輩が勝つことを。なんだって、俺をここまで鍛えてくれた先輩ですから」
「……ありがとうな」
アル先輩は微笑をすると、そこから立ち去って行った。ラテンはその背中が見えなくなるまで見送る。その背中が見えなくなると、今まで黙っていたジャビが、ラテンのポケットから出てきて声を発した。
『あいつも強そうだ』
「ああ。少なくとも俺よりは強いかな」
『じゃあ、お前は誰より強いんだ?』
「さあな。でも、《整合騎士には負けるつもりはない》とだけ言っておく」
ラテンは扉を開け、自室へ入り込んだ。
三月の末―――。
アルセルド・バーステル三席上級修剣士は、最後の対戦となる卒業トーナメント準決勝で、ウォロ・リーバンテイン主席上級剣士を破り、決勝でソルティーナ・セルルト次席上級修剣士に惜しくも敗れたものの、北セントリア修剣学院を第二位の成績で卒業した。
そしてその二週間後に帝立闘技場で開催された《帝国剣武大会》に出場したものの、三回戦でノーランガルス騎士団代表とあたり、激闘の末に惜しくも敗退した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
部屋いっぱいにブーツの踵が鳴らした音が響き渡ると、すぐさまきびきびとした声が聞こえてきた。
「ラテン上級修剣士、ご報告します!本日の掃除、終わりました!」
「……ねえ。ここにあった俺の下着、知らない?」
「はい。私が片づけました」
「そうか………って、ええええええええ!!?」
ラテンは一瞬で少女に顔を向け、その顔を凝視する。その少女は、灰色の初等練士制服に身を包み、ブラウンの長い髪をポニーテールでまとめていた。その顔には僅かながらに幼さが残っている。
この春に、はれて上級修剣士になったラテンには優秀な傍付きが任命される。初等練士成績上位十二人のうち、ラテンが選ぶことも可能だが、さすがにそれは憚られ、結局アズリカ女史頼んだ。それで、任命されたのが目の前にいる少女ということだ。
アズリカ女史から聞いた話では、学力も剣術も相当腕があるらしく、未来の上級修剣士候補だそうだ。確かに、努力家で曲がったことが嫌いだ。それは、この一ヶ月でよーく理解した。はっきり言って、頼りになる。だが、それも限度がある。いくら、傍付きとしての仕事だからって、先輩のprivateなterritoryまで世話をするなんて…。
未だにキョトンとしている少女に口を開く。
「……あのなあ。さすがに俺のプライベートまで世話をしなくたっていいぞ?さすがに自分でできることは自分でやるから。シャロンは簡単なことだけしてくれればいいよ」
「ぷらいべーと?なんですか、それ。…ちなみに私は気にしていませんよ。ラテン先輩の下着を見ることなんて」
「その『毎日見てるから』的な発言はやめてぇ!なんか、俺が変態みたいじゃん!?」
「いやあの、実際見てるんですけど……」
「………」
本人はそんな気はないのかもしれないが、ズカズカとラテンの心にヒビを作っていく。いや、もしかしたら心の底はSで埋め尽くされているのかもしれない。どのみち、このままではあと三ヶ月ほどで先輩後輩の関係が崩れることになりそうな気がする。考えただけでもぞっとしてしまう。
「相変わらず楽しそうだな、お前とシャロンは」
「なんだよ、アスベル。これのどこが楽しく見えるんだ?」
「いや、全体的にだよ」
そう言って笑うのはアスベル・デリュクート。上級修剣士四席だ。ノーランガルズは金髪や茶髪が多いのだろうか、少々長めの金髪にブラウンの瞳、たくましい肉体、まるでちょっと細めのプロレスラーのようだ。だが、そんな容姿とは裏腹に根はとても優しい。貴族出身では珍しく、家柄で差別をしない広い心の持ち主だ。
「お前がうらやましいぜ、まったく。リンクには的確な判断能力があるからな。どっかのズカズカポニーと交換してほしいぜ」
「あの~、なにか言いました?」
「え?……いや、あの…」
「なにか言いました?」
「あの、その……」
「な・に・か、言いました?」
「……いいえ、何も言ってません…」
表面的には笑っているように見えるがラテンには確かに見える。そこに隠された想像もしたくないことが。
そんなラテンとは裏腹に、アスベルは大きな声で笑っていた。その隣で立っているリンクも口元に手を添えて、肩を震わせている。
「お前……あとで覚えてろよ…」
「何のことだ?もう忘れちまったよ。それじゃあ、俺は部屋に戻るとするか」
「あっ!お前、逃げるなぁ!!」
笑いながら寝室に戻っていくアスベルをラテンは追いかけたが、肩を捕まえる前に無情にもドアが閉められてしまった。
仕方なく共有スペースの暖炉の前にあるソファーに座り込む。もちろんまだ、五月なので暖炉はついていない。
上級修剣士寮は円形をしている。三階建てで中央は吹き抜け、その周りで内廊下が輪を作り、十二人の修剣士が寝起きする部屋は南側外周に並ぶ。
一回には食堂や大浴場があり、生徒用の居室は二回に六部屋、三階に六部屋。二部屋ごとに一つの居間を共有する構造になっており、ラテンとアスベルの居室は三階にある。
部屋は一年最後の総合試験の順位で自動的にきまり、一位が三階で最も東の三〇一号室、二位が三〇二号室……と割り当てられて、十二位が二〇六号室となる。ラテンの部屋が三〇三号室、アスベルの部屋が三〇四号室なのはつまり、百二十人の初等練士の中でラテンが三番目、アスベルが四番目の成績を修めたということになる。ちなみに主席はライオス、次席はウンベールだ。あの二人は正確に難があるが、ハイ・ノルキア流の英才教育を受けていたこともあって、ほかの貴族よりも剣術は頭一つ抜いている。
半年ほど前まではいつものように嫌味を言われていたが、それもリーバンテイン修剣士との立ち合いに引き分けてからは嘘みたいに消え去った。その代りに、キリトとユージオに対する嫌味が倍増したわけだが、それも最近ではなくなっているらしい。
大きなため息をついたラテンの隣にシャロンがドカッと座り込む。まあ、ソファーに座っているにもかかわらず姿勢は綺麗だが。
そんな彼女がこのような逸礼行為すれすれ、いや、完全にアウトなことをやっているのはラテンが原因だ。そう。それは一か月前の日から始まった。
最初は遠慮がちの彼女で、言葉遣いもこれでもかというほど丁寧だった。だが、そんな彼女の態度に耐えられなくて(もしかしたら上級剣士になって浮かれていたのかもしれないが)こんなことを言ってしまったのだ。
――――そんな態度じゃなくていいよ。先生がいる場合は別だけど、それ以外は自然に接してくれ。
それが、始まりだ。
その次の日からは、今のように自然な態度をとりはじめ、丁寧なところは丁寧なのだが、さすがは貴族出身といったところか。ズカズカとラテンの心を削っていった。
だが、それを止めさせるにも一度言ってしまったことだし、何より自然な態度を取られる方がこちらとしては接しやすいため、言い出すことはできず一ヶ月が経ってしまったのだ。まあ、もう気にしてはいないが。少なくとも態度に関しては…。
「そういえば、ラテン先輩。さっきまでどこに行っていたんですか?」
「ああ。さっきはキリトと一緒に蜂蜜パイを買いに行ってたんだ。ああ、そうそう。はい、これ」
「これは?」
「蜂蜜パイだ。部屋でみんなと一緒に食べていいぜ。俺は二つ食ったからな」
「本当ですか!ありがとうございます、ラテン先輩!」
そう言ってシャロンは一礼すると、そそくさに部屋から出て行ってしまった。扉が閉まると同時に、胸ポケットからジャビが出てくる。
『相変わらず元気な奴だな』
「まあ、それがシャロンのいいところだからな」
『まあ、まさか二つ下の十七歳の少女が傍付きになるなんて思ってもいなかったろ?』
「ああ。おまけに四等爵家だもんな。まったく、末恐ろしいぜ」
そう言ってラテンは立ち上がる。その頭の上にジャビが乗っかった。
(あと一年で、リリアに会えるかもしれない。待ってろよ、マリン)
ラテンは自室へと歩を進めた。
うーん。相変わらず無理やり感ありますね。
ちなみに、地味に五十話目でした(笑)
それはさておき、実はラテンの傍付きを男にするか女にするか迷っていました。それで、適当に作ったあみだくじで選んだところ、女に決定しました。この後の作中にも出すつもりです。
アスベルは……どうでしょうね(笑)出てくるかわかりませんが、できれば出したいと思っています。
そして、重大なことを忘れていました。それはラテンの服の色です。デザインは共通らしいので、色だけですね。SAOといいALOといいまさかの、服の色をお伝えしていませんでした。そこは、皆様のご想像にお任せします。(僕は赤色のつもりでした)
上級修剣士となったラテンの服の色は……。
エンジ色です!
というのはうそで、白にしようかなと思っています。
純白っていいですよね。汚れが付きやすいですけど(笑)
まだ、不定期更新になりそうですが、この週末で(もう週末ですが)立て直したいと思っています。
これからもよろしくお願いします!